我々が好きなキットメーカーはいくつかあります。なかでも米サンフランシスコのEvil Mad Scienceは特別です。LEDを使ったユニークな作品をいくつも販売しており、すべてがオープンソースのハードウエアとして提供されています。活用するのが少し難しいキットもあって、すべての人にお勧めすることはできませんが、作り上げたときの喜びが大きいキットばかりであることは保証します。
今回はまず、我々のお気に入りをいくつかご紹介してから、EMSのLED製品の中で最も活用の幅が広いと思われるマトリクスLEDのキット“Peggy2 LE”を作ってみます。
Evil Mad Scienceの時計キット“Bulbdial Clock”。円形に配置されたLEDが作り出す影が3本の針を表現するアナログ風味のクロックです。3枚のプリント基板と2枚のアクリル板で構成されています |
文字盤を拡大したところ。3層に配置された3色のLEDが長さの違う影を作り出し、アナログ時計の秒針、分針、時針を表示します。LEDのハンダ付けと角度の調整にいくらかコツが必要です。難易度はさほど高くないのですが、部品数の割に製作時間がかかるキットです |
【動画】動作中の動画です。30個のLEDをうまく使って、秒針の60ステップの動きを表現しています |
電源(ACアダプタ)を抜いた状態でも時刻を保持するバッテリバックアップ付きのリアルタイムクロック(RTC)モジュールを搭載しています。ソフトウエアはあらかじめ書き込まれていますが、Arduinoの開発環境を使って、自分で作成することも可能です |
こちらは以前にも紹介したフルカラーマトリクスLEDキットの“Meggy Jr RGB”。64個のフルカラーLEDで美しい光を放ちます。携帯ゲーム機風のアクリルケースはレーザーカッターで製作されたもの。専用のケースが用意されているキットが多いのもEMSの特徴です |
卵やピンポン球などの球体に絵を描くペンプロッタ“Egg-Bot”。このキットはリリース直後から品薄状態が続いていて、我々はまだ入手できていないのですが、次に作るのはコレ、と決めています |
さて、ここからはPeggy2 LEの製作レポートです。
Peggyシリーズは、現在“Peggy2”と“Peggy2 LE”の2種類があります。どちらも625個(25×25)のLEDでマトリクスを構成し、そこに自由なユーザーが作成したパターンを表示するディスプレイ装置です。
Peggy2は直径10mmのLEDを前提にしていて、基板サイズは28×38cmとかなりの大きさです。一方、Peggy2 LEは5mmのLEDを使い、基板サイズは15×24cm。我々は両方を製作したことがありますが、入手性の良い5mmLEDを使うコンパクトなPeggy2 LEのほうが応用範囲は広いと思います。とにかく大きなディスプレイが欲しいという場合はPeggy2がいいでしょう。10mmのLEDはEMSからキットと一緒に購入することをお勧めします。
Peggyの構造はドライバ回路とLEDのマトリクスに分けることができます。
ドライバ回路はArduinoと互換性があるマイコン、2つのドライバIC、25個のドライブ用トランジスタとそれをコントロールする2つのIC(シフトレジスタ)などから成っていて、部品の種類が多いため、説明書をよく読みながら作る必要があります。英語ですが、わかりやすい説明書なので、指示どおり進めていけば問題ないはずです。
マトリクス側は単純で、ひたすらLEDを取り付けていくだけです。とはいっても、625個を自分の手でハンダ付けするのはかなり骨の折れる作業なのは確か。凹凸や光軸の傾きのないキレイなマトリクスを作ろうとするとかなり時間がかかります。単純作業を楽しむココロの余裕が大事ですね。
PeggyはArduino互換機と捉えることもできます。プログラムはArduinoの開発環境を使って作成します。PCと接続するときに使うUSBインターフェイスもArduino用として出回っているものが使えます。我々は国内でも入手しやすいSparkfunのFTDI Basic 5Vタイプを使用しました |
Peggy2 LEの電源部。5VのACアダプタを接続します。右下にタクトスイッチ用のパターンが見えますね。ここに「十字キー」を作って、ゲーム機とすることも可能です(部品は付属しません) |
必要な工具はわずか。基本的にはハンダ付けの道具とニッパがあれば大丈夫です。もう1つ加えるとしたら、基板をひっくり返すときに部品を仮留めする道具が役立ちます。写真では反作用ピンセットを紹介していますが、マスキングテープでもいいでしょう |
あると便利な道具を2点あげておきます。上はリード部品のフォーミング(足曲げ)を補助するサンハヤトの「リードベンダーRB-5」。LEDだけでなく、ドライバ回路側も目に入るので、仕上がりには気を使いたいところ。ドライバ回路の抵抗器やトランジスタを美しく取り付けたいときに助かります。下はICのピンの角度を簡単に補正できるサンハヤトの「ピンそろった」。キットに含まれるICソケットはあまり使いやすいものではなく、28ピンのICを5つも取り付けるのはちょっと面倒。ピンそろったがあると、作業がはかどります |
ハンダ付けはドライバ回路側から始めます。あらかじめ全LEDが点灯するプログラムが書き込まれているので、ドライバ回路ができあがると、LEDのテストが可能になります。マトリクス側のハンダ付けはLEDを1列ずつ実際に点灯させながら着実に進めていきましょう。
次の動画は我々のおよそ5時間に及ぶ作業の記録です。早回しで4分間に縮めてあります。
【動画】我々の場合、最初の抵抗器をハンダ付けし始めてから最後のLEDを付け終えるまで、5時間強が必要でした。ハンダ付けを存分に満喫しました |
Peggyを作るとLEDのリードの切れ端が1,250本発生します。良いニッパが欲しくなることでしょう |
ここで製作のポイントをいくつかあげておきます。
・良いLEDを選ぼう
LEDを緻密に並べてみると、バラツキが目立ちます。今回使用したLEDがそうでした。明るさの違いだけでなく、光軸のズレや気泡状のムラがあるLEDがかなりの数含まれていて、気になりました。いいLEDを使えば仕上がりもキレイです。まずいくつかサンプルを取り寄せて品質を確かめてから、必要数(650個程度)を揃えるようにするといいかもしれません。
・LEDをまっすぐハンダ付けするコツ
LEDの足は1本ずつ付けましょう。1度に両方の足をハンダ付けしてしまうと修正が効きません。片足だけ付けたら、基板の表からLEDの状態をチェックします。浮いたり傾いていたら、LEDの頭を指で押さえながらハンダ付けした部分にコテを当てて、ハンダを溶かします。そうすると、指に押されてLEDが正しい位置に納まるでしょう。我々は1列分のLEDの片足だけをハンダ付けして、傾きチェックをしてから、もう一方の足を付ける、という手順で進めました。
・ICソケットの接触不良に注意
武蔵野電波ではこれまでに4個のPeggyを製造しました。そのうちの2個でICソケットの接触不良がありました。症状は、一部あるいは全部のLEDが暗くなる、というものです。「ICをソケットにギュッと押し込む」という対処方法で解決しましたが、かなり不安になるトラブルでした。次に作るときは、丸ピンタイプの少し高価なソケットを試す予定です。
完成したPeggy2 LE。達成感の得られるキットです。ハンダ付けの次はプログラミングです |
アイコンや文字を使ったメッセージを表示するのがPeggyのベーシックな使い方。プログラム次第で簡単なアニメーションやインタラクティブなインターフェイスも実現可能です。この写真のサンプルプログラムを武蔵野電波サイトで公開しています。ごく短い、シンプルなコードです |
Peggy用のグラフィックエディタを作った有志がいて、Webで公開されています。“Peggy Planner”を使うと、複数色のLEDを使ったデザインも簡単にできます。作成したパターンはテキストデータとしてコピーできるので、メールで交換したりプログラムに取り込むこともできます(プログラム用にテキストを処理する手間は必要です)。このハートのパターンは5色のLEDを使う前提で力石咲さんによりデザインされたものです |
Peggyは色とりどりのペグを並べることでメッセージを表示する「ペグボード」がその名の由来です。LEDの色をいくつか用意してレイアウトする使い方をEMSは提案していますが、LEDは白色に統一しておいて、カラーの拡散キャップでカラフルなボードを作る方法もありそうです。見栄えはちょっと落ちますが、やり直しできる点がメリットです |
Peggy用のサンプルプログラムは下記のページで公開されています。
□Programming Peggy 2.0http://www.evilmadscientist.com/article.php/programpeggy2
前述のとおり、PeggyはArduino互換機としてプログラムすることができ、専用のライブラリも用意されています。汎用のマトリクスLEDとして自由度の高い活用が可能です。
プログラミングはハードルが高い、と感じる人はサンプルをダウンロードして実行してみましょう(Arduino IDEでプログラムを書き込む作業は必要です)。我々のオススメはライフゲームです。Peggyのキラーアプリはこのライフゲームではないか、と我々は考えています。
【動画】Peggy版ライフゲーム(Conway's Game of Life)の動画です。宇宙の神秘がLEDの輝きとなって現れます。peggy_life.pdeをダウンロードして、Arduino IDEで書き込むだけで実行できました |