キーボード付Android端末「LifeTouch NOTE」の可能性



 Mobile World Congressの開催もあり、スマートフォン関連のニュースが非常に多かった。そうした中、NECはInternational CESでも披露していたAndroid搭載のクラムシェル型のキーボード付き端末「LifeTouch NOTE」を正式発表した。タッチパネルを用いたタイプではなく、あえてキーボード付きで勝負することで、NECならではの特徴を出そうとした。

LifeTouch NOTE

 以前に東芝が発売したdynabook AZとは異なり、Googleによる認証を取り付けてAndroidマーケットからのアプリケーションダウンロードにも対応している。このことからも解るとおり、Andorid端末として必要な条件は一通り揃えており、Gセンサーやカメラ、GPUなどを備え、画面回転もサポートする。

 端末の細かなスペックに関しては別記事を参照していただきたいが、ここでは1カ月ほどの間、試作機を使って感じた事をまとめておきたい。

 結論から言えば、LifeTouch NOTEには現時点において100%賛成できない面もある。紹介された時の第一印象はとても良いものだった。

 即時ONにすることが可能で、待機時間も長い。携帯電話と同じような感覚で使えるPCと思えば価値は小さくないと思ったからだ。出先での軽い処理ならば、パフォーマンス面でも問題はない。

 しかし、商品としての完成度はこれから上げていかねばならない段階だ。本来、タッチパネル型のユーザーインターフェイスを前提に開発されているAndroidをキーボード付きコンピュータで使うと、ユーザーインターフェイスが微妙にマッチしないと感じる事がある。

 しかし、一方で大きな可能性もある。キーボード付きAndoridという分野を自分たちで切り開くだけのシカケを入れる事ができれば、弱点は克服できるかもしれない。この製品が誰からも愛されるような製品に育っていけるかどうかは、NEC自身の覚悟と取り組み次第だ。キーボード派たちの支持を取り付ける事ができれば、大化けする可能性はありそうだ。

●さすがの手慣れたノート型筐体の作りだが……

 第一印象は悪くない。手慣れた印象だ。ネットブック的な、低価格ではあるけれど、品質感もそれなりに伴わせた作りは、高価な素材を使ったり、限界まで構成物の肉厚を落とすなどしていない分、安心感のある作りだ。言い換えれば、攻めればもっと軽量な製品が作れると思うが、そこはコストとの兼ね合いもある。

 最終試作の一段前の段階に取材させていただいた時も、まずは手にしてもらえる低価格を実現しなければ、製品のコンセプトも理解されない。だからこそ、低価格化にもこだわったという話をしていた。LifeTouch NOTEのWi-Fiモデルは約4万円。

 クラムシェル型はヒンジなどのメカ部分が存在し、キーボードのコストもあるため、画面が少々小さくともタブレット型よりは高コストになりがちだが、そこは上手に抑え込んである。その代わりACアダプタは消費電力の小ささの割にはサイズが大きい、といった面もあるのだが、そこはある程度許容する必要があろう。

 筆者はブラウンをテスト機として貸し出していただいたが、マット系の仕上げは落ち着いたもので、質感が高いとは言わないが、決して安い感じではない。パーソナルに使う道具として、十分なものだと思う。

 パフォーマンス面もNVIDIA Tegra 250を用いたプラットフォームは、Android 2.2に対して十分に高い性能を示している。ただ、いくつかについては、やや気になる部分もある。まずは本機が気になっている読者が、店頭で商品を確認する際に、ここはチェックしておくべきという部分を挙げておこう。

似たような大きさのVAIO Pと並べてみた。意外に横幅は近い事がわかるPCの内蔵カメラはビデオチャット用に内側に付いていることが多いが、本機は外側。SNSへの投稿などコミュニケーションツールとしての利用前提ならば、こちらの方が使いやすい

・キーボード

 LifeTouch NOTEを気にしている読者の中には、その背景にモバイルギアというWindows CEのHandheld PC版を搭載したマシンを思い浮かべる人も多いと思う。モバイルギアも最終モデル後、かなりの時間が経過しているが、いまだに人気なのは小さいながらも実用的なキーボードを積んでいたからだ。当然、本気で期待されるのもキーボードだと思う。

 やや変則的な「ろ」キーの位置は、かな打ちユーザーには違和感を感じるだろうが、個人的にはむしろ、Enterキーが小さい事の方が気になった。とはいえ、これも致命的なものではない。欲しいと思っている方に、ぜひともチェックしておいて欲しいのは、キーボードそのものの打ち心地だ。こればかりは縦横のピッチやストロークといったスペックだけでは推し量れない。

 結論から言えば、キーを指先で真上からキッチリ押し下げる事を意識しなければ、タイプミスが頻発してしまった。これは縦方向のキーピッチ(キーの配置間隔)が横方向に比べ狭いという事も一因だが、慣れればなんとかなる。問題はキーの左右がほぼ垂直に切り立っており、キー間のギャップも少なめな事だ。

縦方向のピッチが0.5mmほど小さいが、実はキーサイズそのものはVAIO Pとあまり変わらない。横ピッチは17mm程度ある。ただ実際の打ち心地はかなり違った理由の1つは切り立ったキー側面の形状と隙間の小ささだろう。なお右奥のHOME、検索、戻るキーがAndroidの操作に予約されている

 このため、少しでも横キーに干渉すると、たちまちミスタッチに繋がってしまう。キートップの厚みが薄いのに対し、ストロークを可能な限り長く取ろうとしたため、隣のキーと干渉しやすい。ただし、あらかじめ気をつけながらタイプすればあまり問題はないので、もう少し使い込めば使いこなせるようになるかもしれない。

 タッチパネルで使う事を前提に設計されたAndroid 2.2でキーボードを使おうと言うのだから、キーボードにもう少しコストをかけても良かったのでは? というのが正直な感想だ。慣れてくると机の上でタイプする速度はどんどん上がってくるが、膝の上でのタイプには慣れることができなかった。

 キーボードの操作性は、クラムシェル型端末を選ぶのか、それともタブレット型(スマートフォンを含む)を選ぶかの大きな分かれ道になるだけに、イメージだけでなく実際の使いやすさをよく確認する事を勧めたい。

・タッチパネル

 静電容量検出式ではなく、感圧式を採用している。これもコストを重視したためと聞いており、マルチタッチは利用できない。比較的軽い操作感で利用できるので、感圧式という方式から受けるほどの使いにくさは感じないのだが、指先での操作では細かな部分のポイントは難しく、一部、Andoroidアプリケーションとの操作性の不整合も感じる。

 一般的なタブレット型端末と同じ感覚で使おうとすると、小さなボタンやアイコンをクリックしようとしても、思うようにポイントできず、スタイラスや爪先などでポイントしなければならない。

 例えば現状のAndoridは、Tabキーで入力フィールドを移動するという、IBM3270端末以来の伝統的な操作スキームを受け付けない。このためタッチパネルでポイントするのだが、指の腹でタッチしただけでは、きちんと認識しない事も多く人差し指の爪でポイントせざるを得なかった。

 とはいえ、これも慣れによってカバーできる範疇だろう。

 問題はアプリケーションの中には、スクロールをフリック操作で行なう事が当たり前になっているものがある事。もちろん、カーソルキーでスクロールさせられる場合が大半なものの、中には一部キーボード操作がアプリケーションの動きに反映されない。ところが感圧式の場合、フリック操作がやややりづらい。これは、例えばHootSuiteクライアントのようなページをフリックで切り替えるアプリケーションの時に、やや扱いづらい(スタイラスでフリックすれば問題なく動くのだが)。

 また、Andoridのメニュー、検索、ホーム、戻るといったハードウェアキーとの組み合わせ操作は、奥の画面のタッチと手前のキーとの往復を強いられるため、慣れればどうということはないものの、やや煩雑で統合度に欠ける印象を持った。

・アプリケーションとの相性

 独自に開発されたライフノートや、バンドルされるTwitterクライアントの「ついっぷる」などは、きちんとワイド画面のユーザーインターフェイスに対応しているが、一部のAndroidアプリケーションは縦型画面を基本にしている。

 代表的なところではFacebookの公式Andoridクライアントは、なぜかホーム画面だけが縦方向のみの対応。他、入力画面やウォールの表示などは横画面にも対応しているが、ホーム画面に戻る度に縦型に切り替わってしまう。

 縦横画面の使い分けに関しては、現状のAndroid 2.2がスマートフォンのみを対象にしてユーザーインターフェイスを構築しているため、縦画面が基本になってしまっているのだ。今後、タブレット型端末への対応を主眼としたリリースのAndroid 3.0(Honeycomb)がリリースされれば、アプリケーション側の対応も変わってくるだろうが、現在は過渡期にある。

 これはランチャー(Androidにおけるビジュアルシェルのようなもの)の使い勝手の面でも同じで、クラムシェル型のキーボード操作を前提としていないユーザーインターフェイスデザインだ。

 冒頭でNEC自身の覚悟との決め方と書いたのはこの部分で、本気でクラムシェル型で勝負をかけたいのであれば、キーボードでこそ使いやすいユーザーインターフェイスのランチャープログラムを含め、ユーザーにキーボード付きを購入して良かったと思わせるだけのシカケを入れていかなければならないだろう。

 アプリケーションの互換性という面では、たとえばライフノートやついっぷるは、キーボード操作で快適に使える配慮がされているが、これもまだ統一感がない。ついっぷるの場合だと、タブキーでタイムラインや操作パネルを行き来しながら、カーソルキーでフォーカス位置を合わせ、Enterを押すと機能を呼び出せる。ところが、ページアップ/ダウンキーでタイムラインをスクロールさせることができない(ライフノートではスクロールできる)。

 このように細かな使い勝手に関連する部分を成熟させるには時間がかかる。すべてのアプリケーションをバンドルだけでは対応できないのは明白で、キー操作を別の何かの操作に変換するなど、何らかのアイディアを捻り出す必要があるように思う。

 ソフトウェアは短時間に熟成できるものではないから、フィードバックを拾いながら、徐々に改善していく必要がある。現時点でGoogleはキーボード付きAndorid端末向けユーザーインターフェイスの実装を表明していないから、本気でやるなら自分たちから率先してキーボード操作への最適化を行なわなければならない。

●ソフト次第で大きく発展の可能性も、キーボード派の期待は大きい

 と、ここまでやや辛口のコメントに見えただろうが、そもそも好きになれない製品ならば、コラムで取り上げることもしていない。現時点でAndroidをキーボード付き端末に実装し、使いやすい流麗なユーザーインターフェイスと機能に身を包ませろといっても、それはとても難しい。しかし、ソフトウェア開発で改善できる側面も多数ある。だからこそ、期待したいと思う。

 情報端末といっても、その使い方は人それぞれだ。皆、職業も役割も違う中で、スマートフォン1台あれば仕事が済む人もいれば、タブレットが最適という人もいるだろう。私自身はキーボード付きデバイスがなければ、とても仕事にならないため、iPadはもっぱらリビングルーム用情報端末で、スマートフォンとモバイルPCが出先での仕事道具になっている。

 しかし、フル機能のノートPCは不要で、キーボードによる文字タイプさえできれば、コンピュータそのものはスマートフォンレベルのパフォーマンスで構わないという人もいるだろう。中にはタブレット型の方が、中途半端に小さいキーボードを載せたコンピュータより使いやすいという意見はあると思う。が、それもケースバイケースだ。

 散々注文を付けた本機のキーボードだが、調子に乗ってくれば、タブレット型端末より素早い文字入力を行なえている。だが、これで長文を入力しようと思うと、やはりストレスを感じざるを得ない。このあたりのバランスを、もう少し詰めれば、たとえAndroidと多少操作の整合性が合わなくとも、頑張って使ってみようと思う人が増えると思う。

 そしてもう1つ、惜しいと思うのがライフノート。NECオリジナルのメモアプリケーションで、1つの長い巻物のように、区切りを入れながらメモをつなげていく感覚でテキストを記録していくツールだ。文章を入力した位置情報を記録しておくこともできる。

 ところが、このツールはブログやSNS(といってもmixiなのでほぼブログと同様)などに特定のメモを投稿する機能は持っているが、ライフノートそのものを同期させる事はできない。例えばライフノートの内容をGoogleドキュメントに放り込み、それを他のAndroid端末からも参照したり、Webブラウザ経由での閲覧性を持たせるなどの工夫があると便利だと思うが、ライフノートはあくまでも単体のアプリケーションで、そこからネットワークサービスへとポストする形だ。

 巻物のように、次々に今あることを記録していくというコンセプトは面白いので、内蔵カメラやボイスメモなどを絡めながら、時間軸と位置情報を管理し、自分の行動ログを取っていくようにメモを作り、それをネットワーク上のサービスと同期できると使い方の幅が拡がるのではないだろうか。

 スマートフォンやスマートフォン的デバイスの人気が高まってきた背景には、クラウドを活用した低コストのネットワークサービスの充実がある。それらサービスを、キーボード付き端末でどのように活かすかという視点がより多く加わってくると、状況によってはノートPCよりもノート型Android端末の方が良いという人も増えてくると思う。

 こうしたコンパクトなモバイルデバイスは、いかに利用手順を先回りして、使いやすくシンプルにシナリオを完遂させるかが肝要だ。組み合わせるソフトウェアで商品の魅力を高めることができる。キーボード派の期待に答える商品に育つことを期待したい。

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(2011年 2月 22日)

[Text by本田 雅一]