エレコム「TK-TCT005BK」
~Windows XP/Vistaでマルチタッチを使う



品名エレコム「TK-TCT005BK」
購入価格2,689円
購入時期
10月15日
使用期間
約2週間

「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです。

●Windows XP/Vistaでもマルチタッチを使いたい

 Windows 7が発売されてから2週間あまりが経過した。従来のVistaから進化したさまざまな新機能の中でも、OS標準のマルチタッチ機能「Windowsタッチ」は、各種イベントで取り上げられる機会が多いようだ。量販店店頭でも、客がマルチタッチ対応ディスプレイを触ってゲームに興じている光景はよく目にした。

 筆者は現在、別の連載でWindowタッチ対応製品のレビューを行なっているが、いくつもの製品を試用するにつれ(まだまだ改善の余地はあるものの)マルチタッチというインターフェイスのメリットは大きいと感じる。以前までは、画面が小さくフルキーボードも持たないiPhoneではいざ知らず、Windows PCではこうしたインターフェイスは不要ではないかと思っていたが、実際に使ってみるとさまざまな可能性を感じる。今後Windowsタッチの認知度が上がり、対応ハードウェアやアプリケーションが増えてくれば、ユーザからの注目度はさらに増すことだろう。

 もっとも現時点では、Windows 7ユーザであっても、対応ハードウェアを持っていないためにWindowsタッチ自体使ったことがないというユーザが大多数だと思われる。またこれとは別に、OSをWindows 7に入れ替えるほどのコストはかけたくないが、とりあえずマルチタッチのメリット・デメリットだけでも体感しておきたいというWindows XP/Vistaユーザもいるに違いない。

 こうした場合、一般的なマルチタッチを体験するだけであれば、サードパーティから発売されているマルチタッチ対応の入力機器を導入するというのが手軽な方法だ。独自ユーティリティで動作するため、Windows 7標準のマルチタッチ機能「Windowsタッチ」とは操作方法や操作感がやや異なるが、マルチタッチという新しいインターフェイスの操作方法を体感するにはぴったりだ。

●挙動のなめらかさには欠けるが、3本指ジェスチャ対応など機能は豊富

 そんなマルチタッチ対応の入力機器の例として今回紹介するのは、Windows 7をはじめWindows XP/Vistaに対応したタッチパッド、エレコムの「TK-TCT005BK」である。接続方式はUSB。メーカーサイトや製品パッケージに明記されていないが、センサーは静電容量方式だと思われる。Amazonでの購入価格は2,689円だった。

製品パッケージ。営業的な理由か、パッケージおよびメーカーサイトでは「タッチパッド機能付きテンキー」という名称でテンキーに分類されている製品本体。パッド面に文字がシルク印字されている。指での操作にのみ対応し、ペンなどには反応しない
ノートPCのタッチパッドをそのまま独立させたかのようなサイズと形状。手前の2ボタンはタクトスイッチでやや硬い裏面はゴム足が付属。それほど摩擦係数が高くないので、指を滑らせた際に本体ごと動いてしまうこともしばしば。角度を変える機能はない

 本製品は、ノートPCに装備されているタッチパッドをそのまま独立させたような形状をしている。過去にもこうした形状の製品は他メーカーから発売されていたが、本製品がそれらと異なる点は主に2つある。1つはマルチタッチに対応すること、もう1つはモードを切り替えることでテンキーとしても使えることだ。順に見ていこう。なお、試用はWindows 7 Enterpriseの評価版と、Windows XP Professional(SP3)にて行なっている。

 まずはマルチタッチ対応。2本以上の指を使ってのタップ、スワイプ(フリック)、ズームや回転といった操作をサポートしている。Windows 7はもちろん、XPやVistaでも利用できるのが特徴だ。実際に本製品を使ってみると、Windows 7標準のWindowsタッチよりもよくできていると感じられる点も少なくない。

 例えばズームイン・アウトの機能。2本指を開くと拡大、閉じると縮小するという挙動はWindowsタッチと変わらないが、本製品は操作時に虫めがね型のアイコンが表示される(Windows 7のみ)。画像処理ソフトでズームツールの選択中はポインタが虫めがねの形状に変化する、あれと同じだ。Windowsタッチでも一部操作でアイコンが表示されるが、ズーム操作では表示されず、ズームのつもりが回転してしまうことがまれにある。Windowsタッチにもこのくらいの分かりやすさがあってよいと思う。

 また、本製品の独自機能として拡大鏡がある。拡大鏡という機能そのものはWindowsのユーザー補助機能の1つとして装備されているほか、マイクロソフト製のマウスのユーティリティなどにも付属しているが、タッチパッドから呼び出して使えるというのは新しい。このほか、3本指のジェスチャでマイコンピュータを呼び出したり、ウィンドウを切り替える独自機能もある。カスタマイズ性はそれほど高くはないが、機能そのものは豊富だ。

ズーム操作を行なおうとすると、虫めがね型のアイコンが表示されるので、自分のジェスチャがズーム操作であると判定されたことがすぐ分かる拡大鏡機能。画面の一部を部分的に大きく表示する場合に便利。高解像度環境で便利に使える

 もっとも、この拡大鏡機能や3本指ジェスチャについては、直感的に使えるWindowsタッチに比べて覚えにくいのも事実だ。Windowsタッチは、ジェスチャの1つ1つが単純で、複雑なコンビネーションを必要としていないため、誰かが操作しているのを見てすぐに真似をすることができる。その点、本製品は多機能である反面、ジェスチャの組み合わせが複雑だったり、さらに3本指でのジェスチャがあったりと、説明書で操作方法を知った上で操作しつつ覚えなくてはいけない。

 もちろん、すべての操作を学ばなければ本製品が使えないというわけではないが、慣れるまでのハードルが(あくまでWindowsタッチと比較してだが)やや高いことは、導入前に知っておいたほうがよさそうだ。逆に言うと、これらをきちんと習得さえすれば、かなり便利に利用できるはずだ。

3本指での操作。多機能である反面、覚えるのに時間がかかるパッド面はそれほど広いわけではなく、周囲との段差もあることから、指の間隔を必要とする操作はかなり窮屈

 なお、面積の違いからして当然だが、ズームや回転のように指の間隔を必要とするジェスチャについては、タッチ対応のディスプレイなどと比べると明らかに操作が難しい。また回転機能については、2本指の間隔がちょっとでも広がるとズームと認識されてしまうため、うまく回転させるのが難しい。全般的に、あいまいな操作に対する判定は、Windowsタッチのほうがよくチューニングされていると感じる。

 また、ズームのなめらかさについても、Windows 7のアプリケーションのほうが格段に上だ。これはユーティリティの出来云々ではなく、XPではそもそもズーム操作を想定していないアプリケーションを倍率変更で擬似的にズームに見せているのに対し、Windows 7標準のアプリケーション、例えば「Windows フォト ビューアー」はあらかじめズーム操作を見越して設計されているからではないかと推測される。

マウスのプロパティに表示される「Smart-Pad」から動作に関する設定が行なえる設定ユーティリティの内容は>ダイヤテック社の製品とほぼ同一タップの設定。2本指や3本指でタップした場合の挙動をプルダウンメニューから選択できる。下段の「キー入力中は無効になる」の項目はWindows 7では表示されない
スクロールの設定。速度は調整できるが、方向を入れ替えることはできないズームの設定。Windows 7では下段の「感度」が表示されない回転の設定。こちらもWindows 7では下段の「感度」が表示されない
虫めがねの設定。Windows 7では設定可能項目は「倍率」のみで他の2項目は表示されないページスワイプ設定。いわゆるフリックに相当する。Windowsタッチでは1本指だが、本製品では3本指3本指を上下に動かすことで、マイコンピュータを開いたり、ウィンドウを切り替えることができる。任意キーの割り当ては行なえず、ON/OFFのみ
3種類のマルチタッチによるズーム操作の比較。一番上はWindows 7環境下におけるWindowsタッチ、真ん中はWindows 7環境下での本製品によるマルチタッチ、下はWindows XP環境下での本製品によるマルチタッチ。Windowsタッチがもっともなめらかだが、Windows 7環境下で本製品を使った場合は虫めがねマークが表示されるなど分かりやすい。Windows XP環境下ではズームイン・アウトともになめらかさに欠ける

●モードを切り替えてテンキーとしても利用可能。ただし評価は分かれそう

 次に、本製品のもう1つの特徴であるテンキー機能についても見ていこう。本製品は本体左上のNumキーを押すことによって、タッチパッドモードとテンキーモードを切り替えることができる。タッチパッド機能を使用しない場合は、本製品をテンキーとして利用できるというわけだ。キーはパッド面に印字されており、タッチすることによってその文字が入力されるという方式だ。

 テンキーの配置は、0~9までの並びは標準であるが、それ以外のキー配置はやや変則的。詳しくは以下の比較写真をご覧いただければと思うが、フルキーボードのテンキー配置とは四則演算記号の位置などが異なるため、多少の慣れが必要となる。ちなみに本体手前の2つのキーは、それぞれTabとBackSpaceとして利用できる。

タッチパッドとテンキーは左上のNumキーで切り替える。キー配置は、一般的なキーボードのテンキーと比べるとやや独特でクセがある

 もっとも、このテンキーモードについては、キーを押下する感触がないことになじめるかどうか、この一点によって評価が大きく変わってくるだろう。ストロークがないこともそうだが、キーとキーの境目を指先で感じながらタッチタイプできないというのは、人によってはかなりのストレスを感じるはずだ。筆者もしばらくテンキーとして使ってみたが、結局なじむことができなかった。

 とはいえ、テンキー機能を目当てに本製品を購入するユーザはあまりいないと思われるので、付加機能として捉えれば、それほど悪くはないと思う。本体サイズが通常のテンキーよりも小さいので、使い勝手よりも携帯性が優先される出張時などにも活躍してくれるだろう。

●利用する機能やシチュエーションによって利用スタイルが変わる製品

 次に、本製品にとってベストな設置ポジションや利用スタイルについて考察してみよう。

 本製品は、ゴム足が付属していることから分かるように、手持ちではなく据え置きで使うことを前提とした設計になっている。キーボードを打鍵しているポジションからなるべく手を移動させずに操作する場合、本製品はキーボードの手前に置くのがベストポジションだが、本製品はケーブルが本体上部から出ているため、キーボードにぴったりくっつけて置くことができない。キーボード手前にぴったり置ければノートPCと近いレイアウトが実現できるだけに、少々もったいない。

 そのため、基本的にはキーボードの左右どちらかに置くのがベストポジションということになる。マルチタッチを行なう場合は、手が空いている左側のほうが使いやすいのだが、いかんせんテンキー利用では右側が標準になると思われるので、悩ましいところだ。結論としては、テンキーを利用する場合は右側、テンキー機能を利用しない間は左手用デバイスとしてキーボードの左側に置くといった具合に、利用目的によって変えるのがお勧めだ。自分にとってベストな位置を見つけてほしい。

ケーブルが本体上部から出ているので、キーボードの手前にぴったりつけて置くことができないテンキーとして使わないのであれば、左手用の補助入力デバイスとしてキーボード左側に置くのが便利

 むしろ判断がつきにくいのは、本製品はノートPC向けなのか、それともデスクトップ向けなのか、ということだ。ノートPCの場合、タッチパッド自体は多くのノートPCに標準装備されており、マルチタッチができるというプラスアルファのみがメリットとなる。通常のポインタの移動だけであれば本体のタッチパッドだけで十分だ。逆にテンキー機能はノートPC向きと言える。

 ではデスクトップ環境ではどうだろうか。こちらであればマルチタッチを含むタッチパッド操作の恩恵をフルに受けられるが、テンキー機能はフルキーボード側と重複してしまう。また前述のようにキーボード手前に置くのは難しいという問題もある。少々どっちつかずな感は否めない。

 以上のように、タッチパッド機能とテンキー機能、両者をフルに使おうとすると、PCが持っている既存の機能となにかしらバッティングしてしまう。あまり欲張らず、使いたい機能を割り切って使うのがよいかもしれない。

 もともとWindows環境でマルチタッチを使う場合、ある程度「緩い」操作であることが前提となる。現在のWindowsの各種ボタンやコントロールのサイズはマルチタッチで操作するには小さすぎるため、緩い操作にならざるを得ないわけだ。その一方、テンキーというのは入力ミスが許されない「堅い」機能であり、この2つの機能が同居している本製品は、使う機能によって利用スタイルを変えるのがベターと言えそうだ。

●コストパフォーマンスは高いが、Windowsタッチ対応でない点は注意

 Windows XP/Vista環境でマルチタッチを体験できるデバイスとしては、機能も豊富でコストパフォーマンスも高い本製品だが、1つ気をつけたいのは、本製品のマルチタッチ機能は本製品固有のものであって、Windows 7標準の機能であるWindowsタッチとは操作方法や挙動が一部異なるということだ。

 具体的に挙げると、Windowsタッチの機能の1つであるソフトキーボードや手書きキーボードが利用できないのはもちろん、上下スクロールで使う指の本数が2本指(Windowsタッチでは1本指)といった、基本的なジェスチャのレベルで操作方法が異なる場合もある。またスクロールについては、Windowsタッチでは画面をなぞると指先に画面がくっつく形でスクロールが行なわれるが、本製品ではそれとは逆に、指を上になぞると下に、下になぞると上にスクロールする。この挙動はデフォルトのまま変更できない。

 この製品のみを使い続けるのならそれほど違和感は感じないだろうが、自宅にある2台のPCのうち一方で本製品、もう一方でWindowsタッチを使う場合、感覚的に切り替えができずに戸惑うことになる。車で言うとアクセルとブレーキのペダルが左右逆に付いているようなものだ。一方を長く使えば使うほど、感覚的に切り替えが難しくなる。

 従って、マルチタッチを体験したいユーザにはおすすめできるが、Windowsタッチ標準の操作方法を習得するのであれば、Windowsタッチ準拠を謳った入力機器を購入することをおすすめする。もっとも、本稿執筆時点ではWindowsタッチに対応した単体のタッチパッド製品は存在しないだけに、Windows 7環境へ導入した際はWindowsタッチ準拠のジェスチャに切り替えられるといった機能追加をメーカーには期待したいところだ。

(2009年 11月 4日)

[Text by 山口 真弘]