買い物山脈
ライター後藤弘茂がIngressにはまったワケ(下)
(2015/3/3 06:00)
北京の白ポータルの原野に
目の前に広がるのは“白ポータルの原野”。Ingressエージェント(Ingressのプレイヤーのこと)が夢に見る光景が広がっている。ここはどこかというと、北京。そう、あの中国の北京だ。中国は、Ingressの天国のような場所だ。なぜなら、エージェント数が異常に少なく、ポータルが取り放題だからだ。
Googleのサービス全てが規制されている中国では、インターネットに接続してもIngressができない。そのため、まずはGoogleをブロックしている中国の「グレートファイアウォール」を突破するのが、中国でのIngressプレイの最初の作業となる。それには、VPNが必要となる。スマートフォンをVPNで繋げばいいわけだが、VPN接続自体にも制限が加えられているようで、簡単ではない。
北京に着いて、まずVPNサーバーに「PPTP」で通すが、失敗したり、通っても低速で使い物にならなかったりと、うまく行かない。もちろん、日本以外の国のサーバーも試すが、どうもうまくない。そこで、次に「L2TP」で試す。今度はうまく行って、これでIngressもプレイできると思ったら、途中で不安定になり繋がらなくなる。サーバーを変えれば通ったりするのだが面倒だ。
そこで、最後の手段で「OpenVPN」で繋ぐことにした。しかし、AndroidでOpenVPNは繋いだことがなかったので、端末にクライアントが入っていない。クライアントはGoogle Playから落とさなければならない。これは困った。そこで、L2TPで繋げて、安定している時にOpenVPNアプリをダウンロードして、OpenVPNで繋いだ。結果は上々で、とりあえずは安定してVPNできるようになった。これでようやくIngressをできる環境は整った。
Ingressが無事立ち上がるようになったところで、スキャナで回りを見てみると、ホテルのまわりには白ポータルが点在している。これがウワサの“中国の白ポータル原野”かと思って、Intel Mapでもう少し広域を見ると、そういうわけでもない。ホテルの1ブロック北にはエンライテンドのレベル7ポータルがいくつかある。どうも、白ポータルの海の中に、緑と青それぞれの領域が点在している雰囲気だ。エージェント人数が極端に少ないのでこうした状態なのかと推測する。
Ingress北京ツアーを組んだらウケそう
朝、40分くらい時間が空いたので、速攻で駆け回ってホテルの回りの白ポータルを獲ってきた。まだまだおいしそうな白ポータル野は続いているのだが、残念ながら時間切れだ。ディナーに移動する際も、タクシーは白ポータル野原を走る。これなら、UPC(新ポータルキャプチャ)は入れ食い状態だ。
その後、北京のポータルはどうなったかというと、ほとんどは3週間後の今も健在。攻撃があったかなと思って、攻撃者のプロファイルを見たら日本人だったり(笑)。現地人エージェントの数は、かなり少ないようだ。
Ingressでは、ポータルを長期間保持することで得られるガーディアンメダルが重要だ。街中でこれだけ攻撃されないのなら、場所さえ選べばポータルはかなり長期間保持できるだろう。ガーディアンは最長では150日ポータルを保持しなければならないのだが、それも可能そうだ。
それなら、エージェントを集めて北京Ingressツアーを組むのもアリなんじゃないかと思ってしまった。キャッチフレーズは「白ポータルの原野、ガーディアン狙いポータル取り放題」ってあたりで(笑)。もっとも、次も同じ方法でVPNで抜けられるかどうか分からないから、保証できないのが難点だが。
ポータルは、現状では毎日15%ずつxmが減衰する。しかし、北京は日本からは2,000kmちょっとなので、レベル9以上のエージェントならxmをリチャージで補充することができる(レベル8まではリチャージ可能距離が2,000kmなので届かない)。もっとも、ゴトウ自身は、米国に出張の間は北京のポータルのリチャージはできない。ちなみに、北京に行ったのはARMの関連の仕事だが、ARMデバイスでIngressして記事にしているのだから、ARMとしても悪くないはずだ。
Ingressを産み出したNianticを訪問
では、ゴトウは現在はどこにいるかというと、カンファレンスでサンフランシスコだ。そして、サンフランシスコと言えば、Ingressの産まれた場所。Ingressを開発するGoogleの内部スタートアップNiantic Labsのオフィスがある。そこで、ちゃっかりとNianticに遊びに行かせてもらった。
取材ではないので、オフィスの様子や会話の内容などはレポートできないが、Nianticの入っているGoogleのサンフランシスコオフィス(南のマウンテンビューにもオフィスがある)の周囲の環境は最高だ。海沿いに建っているので、目の前がオークランドに続くベイブリッジで、サンフランシスコ湾の入り口が一望できる。
すぐそこには、フェリーターミナルやおしゃれなショッピングセンターの集まるエンバーカデロがある。巨大な矢がある場所と言えば、サンフランシスコに旅行したことがある人なら、分かるかも知れない。このあたりは、ゴトウもたまに食事に来るが、まさかこんな好立地にGoogleオフィスがあるとは思っていなかった。日本のオフィスや、同じ米国でもハード屋のオフィスと比べると雲泥の差の快適度だ。
Niantic Labsの日本人スタッフの川島優志氏としばらく話をして、現地在住のエンジニアに共通の知人(これも相当変な人物)がいることも判明。その後は、記念にNianticの入っているビルのポータル(その時点では緑)をハック、レゾネータを挿した。もっとも、海の近くはレジスタンスが強い(青だから)ので、レゾは1日と保たなかったが(笑)。
ぬるいサンフランシスコのIngress事情
サンフランシスコでは、北京とは打って変わって、Ingressは活発に行なわれている。ダウンタウンは、全体的に見るとエンライテンド優勢だが、ダウンタウン中心は、都心同様に取り合いが続く“プロレス会場”状態。ちょっと離れると、比較的安定したエリアが増え、レジスタンスエリアもそれなりにある。現地のIngressイベント「shonin」が終わった直後にサンフランシスコに来たので、最初は、街中のポータルが荒廃していた。しかし、平日に徐々に緑のポータルのレベルがアップし、P8(レベル8ポータル)もあちらこちらにできるようになった。
サンフランシスコではIngressは活発とは言え、日本とはかなり様相が違う。日本だと、レベル8とその下のレベルのエージェントもたくさんいて、始終攻撃をしてくる。ところが、サンフランシスコだと攻撃してくるエージェントの多くがA10以上の2桁台エージェント。また、東京中心部のように、そこら中にエージェントがいる雰囲気でもなく、攻撃の気配が少ない。ポータルも、大半はMODで守られず、リチャージ防衛もされない。ミッションもあるが、東京と比べるとかなり少ない。拍子抜けするような“ぬるさ”だ。
こうした様相は、新規参入のアクティブな時期のエージェントの比率が低く、ポータルに対してアクティブエージェントが相対的に少ないエリアであることを示唆している。統計的な数字があるわけではなく、少ないサンプリングからの推測だが、米国の知人も「Ingressは下火というわけではないけど、ブームでもない」と言っていた。
カンファレンス中はIngressだけに割く時間も体力もないので、策を練った。サンフランシスコは宿が高騰しているので、ゴトウは郊外の安モーテルからクルマで通っている。そこで、駐車場を毎回変えて、駐車場から会場までを制圧することにした。通勤ラッシュを避け、駐車場が安くなる割引時間(アーリーバードタイム)を狙うので、どうせ朝は早く着く。その時間差を使う。
ぬるいサンフランシスコだとポータルも食いやすく、UPCが伸びる。もっとも、ダウンタウン周辺は2対1くらいの割合で緑ポータルなので、レジスタンスのエージェントの方がUPCでは有利だろう。ところが、会場回りのポータルを固めようとしたら、レジスタンスのエージェントにあっと言うまに逆襲された。しかも、エージェントプロファイルを見たら日本人。しかも、レベル16(Ingressの最高レベル)! さらに、行動時間からして、おそらく同じ学会に出ている! 日本人がこうやって海外でガンガンプレイしているのを見ると、青か緑かというのは関係なく、嬉しくなってしまう。
米国で初リアキャプ
週末は、できるだけ情報収集するので、スタンフォード大学の門前のパロアルトで知人と食事することに。Intel Map(Ingressのポータル情報のサービス)をチェックすると、嬉しいことにその周辺は青い(笑)。レジスタンスの柔いポータルが80個ほどある。やったと思って、待ち合わせの1時間前に行き、片端からキャプチャを始める。シールドがないか、あっても普通のシールドなので、簡単にキャプチャできる。もし、あなたが、肌寒いユニバーシティアベニュを、黙々と進むアジア人を見かけていたとしたら、それがゴトウです。
そのうち、さっき獲ったはずのポータルがまた青くなっているのを発見。やり残しかなと、X8(レベル8のXMPバースター武器)で吹き飛ばす。すると、ポータルの前で、スマートフォンを手に呆然としている人がいる。もしやと思って話しかけてみると、やはり今焼いたポータルのレジスタンスエージェントだった。Ingressでは、こうした直接のコンタクトを「リアキャプ」と呼ぶ。
エージェント個人を現実世界で特定できる情報は流さないのがIngressのルールなので、容姿や職業などの描写はしないがA6(エージェントレベル6)だった。「ポータルが緑になったので、何が起きたんだと思った。そうか、あなただったんだ」と悔しそうに言う。握手しようとすると、拳を出してくる。スポーツ対戦で、相手をリスペクトして拳をぶつけ合う挨拶(hand bumpとかdapと言う)だ。そうか、Ingressって対戦スポーツだったんだと、新鮮な驚き。
そのエージェントによると、周囲でもIngressをプレイしている人は少ないという。日本のようにブームでいろいろメディアで取り上げられている雰囲気でもないと。他のエージェントに会ったこともなく、初めて会ったのが日本からの旅行エージェントなので驚いたと言っていた。
GDCで異常にアクティブなエージェントたちが流入
さきほどぬるいと書いたサンフランシスコだが、状況が一変し始めた。今週のGDC(Game Developers Conference)が近付く連れて、サンフランシスコにどんどんゲーム開発者エージェントが流入。彼らはメチャクチャにアクティブで、サンフランシスコ中心部は、大乱闘状態に。
地元のエージェントがCOMM(Ingressアプリ内のコミュニケーションシステム)で「GDCはいつ終わって、この迷惑な連中はいつ帰ってくれるんだ」と嘆くありさまに(笑)。ゴトウが確保していたポータルなんて、あっと言う間に消し飛んでしまった。GDCに来たエージェントは、きっとサンフランシスコはIngressが猛烈に活発だと思うだろう。
サンフランシスコでIngressをしてつくづく思ったのは、米国の大都会の問題は、Ingressが危ない点。安全な地域だけを選んでいればいいが、ちょっと治安が怪しい場所では、スマートフォンを覗き込んで止まるのは危険だ。特に、まずいのは、サンフランシスコダウンタウンのミッションの一部が、やや危ない地域に誘導すること。「あ、ここは数年前に大学院生がタコ殴りされてiPhoneを奪われた場所だ」と警戒しながら進んで行く。
こういう時に、ゴトウのスマートフォン用アームベルトが役に立つ。一見、スマートフォンを持っていないように見えるからだ。目立たないように、さっと腕を上げて、アームベルトのスマートフォンを操作する。
でも、止まっていると、小銭たかりに話しかけられたり、酔っ払いに絡まれそうになったりする。あまり深入りすると、「テックライター後藤弘茂、サンフランシスコで襲われ死亡。Ingressの最中に……」という業界お笑いニュースになってしまうので、ほどほどにして切り上げた。安全を考えると、大都市ではIngressの浸透は難しい点があるが、ゲームデベロッパのエージェント達は危ない地域も構わず進出しているので、ケースバイケースではある。
Ingressのためにキュウリ水を飲む
ちなみに、北京にはWi-Fiルーターをレンタルして行ったが、米国は現地で買ったWi-Fiルーターを使っている。AT&TとVirgin Mobileのプリペイドルーターで、この手のルーターは、電器店チェーンのBestBuyなどで普通に買える。米国に来る時だけサービスをオンにする。1カ月で20~25ドル程度で、使わない時は課金されないので、年に2週間以上米国にいるなら、レンタルよりもお買い得だ。
支払いは日本のクレジットカードでできるサービスが増えて来たし、再チャージカードも売っている。ゴトウは、2台を有効にして、片方に何かあった場合でも通信が確保できるようにしている。Ingressは、結構データ量を食うので、2台使って、通信量の上限がちょうどいい程度だ。
サンフランシスコ周辺では、Ingressのアイテムがもらえるパスコードがついているドリンク「hint water」を売っている。ところが、これがなかなか見つからない。メーカーのサイトを見て販売店を訪ねても売っておらず、5軒目でようやくゲットした。
開けてみると、確かにフタの内側にパスコードが刻印されている。それをIngressアプリに入力すると、おっ、レベル8アイテム。飲み物にアイテムがついてくるなら、一石二鳥でこれはいいっと思ったのだが……、問題はその中身。ブラックベリー水やオレンジ水はともかく、マンゴ&グレープフルーツ水とストロベリー&キウイ水あたりもまだいいとして、えっ、きゅうり水? いや、なかなか、微妙な味わいで、すごいです。
この、ゴトウはエンライテンドのピンを大量に注文してあって、友達の家に届けてもらっていたので、それもピックアップ。日本でも買えるけど、米国で買った方がはるかに安い。
ExcelでIngressプレイを管理
Ingressを始めて4カ月半ほど。ゴトウは自分のIngressプレイを新しいステージに押し上げようとしている。これまでは、地元密着でプレイして来たが、今後は、もっと広いところに出て行こうとしている。その手始めが、北京やサンフランシスコだ。
広いエリアに出ようとしている理由の1は、Ingressのメダルとレベルアップのためだ。Ingressでは、エージェントレベルを8(A8)から上げるには実績メダルというのを稼ぐ必要がある。さまざまな実績項目毎に、一定の数値に達するとメダルが獲得できる仕組みだ。これがなかなか大変だ。
例えば、ポータルを1万カ所訪れたらプラチナメダルとか、2,500km歩いたらオニキス(黒)メダルとか。一体、どうすれば2,500km歩けるのか(でも知り合いは2,500kmに到達)。高レベルメダルになると、それって、人間に可能なの、みたいな実績が必要となる。A8以上のレベルに上がるためには、このメダルを規定数獲得しなければならないのだが、ともかく難しい。そこで、メダルのための実績管理とシミュレーションをExcelでやることにした。
ゴトウは何でも表計算ソフトで管理するのが大好きなExcel野郎(もともとは、マルチプラン野郎)だ。ゲームも大抵の場合はExcelで管理している。今回のIngressでも、まず、経験値の蓄積予測やアイテムのドロップレイトの記録表、インベントリ管理表などを作った。A8になってからは、メダルのシミュレータも作った。下は現在のメダルシミュレータだ。
ゴトウがこういうチャートを作ると、すぐに「ネタ作りのためにやってるんですよね?」と言われるが、そうじゃあない。仕事でもプライベートでも、全て表を作ってシミュレートし、チャートを作って視覚化するのが基本だ。実は、同じ地元ハングアウト(HO:Googleのチャットシステム)のプログラマのエージェントが、もっとスマートなものをWebサービスで作っているのだが、やはり自分で好き勝手にカスタマイズしたいので、自作した。
ゴトウのシミュレータでは、各項目毎に、自分の目標とする数値と、実際のプレイ実績から割り出した数値の両方でのシミュレーション結果が出るようにしてある。これで、目標と実績のズレが分かるようになっている。どのメダルがいつ頃取れるかも、およその見当が分かる。現在の最終ゴールであるレベル16(A16)は、今のペースを維持して61週間後(!)だ。
いずれにせよ、このメダルチャートを見ると、どのメダルが狙い目なのか、一目瞭然だ。そして、メダルのシミュレーションが示すのは、地元から出て行くことだ。
メダルの目標をレベル13以上で必要となるプラチナムに設定すると、既にメダルが取れているリチャージャー(リチャージ量)とメダルの目処が立っているトレッカー(歩行距離)以外は、エクスプローラ(新しいポータル訪問)がプラチナムに近いことが分かる。つまり、広い場所で新しいポータルを次々と訪れることで、プラチナムメダルをゲットできる。また、新しいポータルをキャプチャするパイオニアや、コントロールフィールド(ポータル同士を結んだ3角形)を作るマインドコントローラもプラチナムがある程度見えている。ミッションをクリアするスペックオプスは、ゴールドとプラチナムの間が2倍でしかないので比較的容易だ。
こうして見ると、今後メダルが必要な項目のほとんどは、新しいエリアに出て行かないと獲得できないことがわかる。Ingressプレイを転換すべき時が来たことを示している。
精神衛生に悪いガーディアンメダル狙い
自分のポータルを守ることで得られるガーディアンも重要なメダル項目だ。ゴトウも、最初の頃は積極的に狙っていた。ポータルへのアクセスの難しさ項目を数値化して、アクセス難度を推定して分類。難度の高いポータルをキャプチャすることにした。その上で、各ポータルをキャプチャした日付を入力、現在、保持して何日目で、各メダルに到達するのはいつになるかを自動算出できるようにした。下が当時のGuardian管理シートだ。
しかし、ガーディアンでポータルを守り始めると、これが精神衛生上、非常に悪いことに気が付いた。自分のポータルへの攻撃を心配するあまり、フロやトイレにまでスマートフォンを持ち込んで警戒するのは、どう考えてもストレスだ。そこで、ガーディアン狙いは、2週間ほどで一切止めてしまった。
ちょうどその頃、Ingressのゲームシステムが拡張されてメダルが増えて、ガーディアンを狙う必要がなくなった。今は、ガーディアンは積極的には狙っておらず、そのおかげで心が軽くなった。
なんて、書いた矢先、突然ガーディアンのゴールドメダルが取れてしまった。北京ポータルがまだ活きていたからだ。おかげで、エージェントレベルが1つアップしてA11に。積極的に、狙わなくなると獲れるという、よくあるパターンだ。
エージェントレベル11は狙わずに獲れたが、レベル12以降は狙って行こうと思っている。APは貯まっているから、まずはゴールドメダル。メダル管理の結果、今後狙うのは、エクスプローラとスペックオプス、パイオニアとなった。この3つは、いずれも地元に固着していると稼ぐことができない。他の場所へ、積極的に出て行かないと取れないメダルだ。
ヘキサゴンマイナスワンの絶対防衛圏戦略
ゴトウは、自分で節目と考えていたA10になってからは、自分自身のレベルアップより、家族のAP(経験値)稼ぎとレベルアップの方を優先にした。そのため、家族にAPを稼がせやすい近場でのプレイに集中した。それが、地元に密着していた理由の1つだった。
具体的には、エクササイズで出歩く範囲を“絶対防衛圏”として、その内側のポータルは獲られたら取り返すことにした。この防衛範囲を、ウチでは「ヘキサゴンマイナス1防衛圏」と呼んでいる。地図上で防衛圏の形が、一辺が500mの正六角形の、1頂点が欠けた形になるからだ。Ingressをしながら回ってちょうど1時間半~2時間となるので、体力作りのエクササイズにちょうどいい。家族も動ける範囲だ。
ちなみに、ゴトウが防衛圏を作ったのは、レジスタンスの圧倒支配エリアのど真ん中。回りはぐるり青(レジスタンス)なので、毎日、相手陣営エージェントにヘキサゴン-1防衛圏に攻め込まれる。でも、こちらの目的は、エクササイズのための巡回とAP稼ぎなので、攻めてくれるのは、動く動機にもなるしAPを稼ぐ機会でもあるので好都合だ。ヘキサゴン-1防衛圏の内部だけで20個以上のポータルがあり、ポータル同士を結ぶリンクは40以上、CFは30以上になる。この数のポータルを全部敵から奪還してレゾネータを挿してリンクを結びCFを作ると、破壊によって稼ぐAPを除いても稼げるAPは10万ほどになる。ある程度家族に分けることができるので、いい稼ぎ場所だ。
ところが、ゴトウが偶然出会った地元レジスタンスのA15エージェントに「攻められると家族のAP稼ぎができていい」とうっかり漏らしたら、その日の午後からピタリと攻撃が止んだ。それから10日ほど、ほとんど攻撃なし(笑)。地元のレジスタンスのすごい統率力に恐れ入ってしまった。地元のエンライテンドは、みんな気ままなので、そんな統率力はない。
それでも、ゴトウの地域のポータルがレベル8に育ったら、再びポータル密集地を焼かれてしまった。せっかく育つとやられるのだから、たまったものではない。そこで試しに、レジスタンスの拠点の隣町のレベル8ポータルを20個ほど焼き払い、ゴトウのエリアのポータルが焼かれたら焼き返すと宣言してみた(向こうにしたら、いい迷惑だ)。すると、当たり前の猛反撃で、ゴトウのポータルは全滅して家の近くは真っ青に(笑)。
もっとも、それで困るかというと、ゲームのシステム上、全然困らない。それから2週間の連日の猛攻撃で、止まっていた家族のAP稼ぎが急進展。目の前のポータル密集地が1日に4~5回も執拗に焼かれるのだから、APが冗談のように貯まる。結果、2週間ちょっとの期間に、家族全員が2レベルも上がり、奥さんと次男はA8に、娘もA7になった。
これで、ゴトウの家は、A8以上のエージェントが3人になった。A8+が3人という数字は、Ingressエージェントならピンと来る。レベル7のポータル(P7)を作り出せる最低限の人数だからだ。これは、プレイヤー密度の低い郊外では非常に有利だ。さらに、近くのA8エージェント数も増えて来たので、比較的短期間にP8ポータルになるようになり、補給には困らなくなった。これで、家族のレベルアップも一段落した。
修行僧と三角が見えるエージェント
Ingressにはさまざまな楽しみ方がある。ヘキサゴンマイナス1防衛圏の巡回は、健康作りを楽しく行なうには最適だ。実は、このやり方は、ゴトウの地元のレジスタンスのエージェントから学んだ。その人物は、巡回を続けて劇的なダイエットを実現しており、ストイックに自分のエリアを巡る修行僧のような姿に感銘を受けて、ゴトウも真似をした。彼は実際に会ってもいい人で、プレイも非常に巧みで、ゴトウにとっては一番のIngress師匠だ。
郊外型のIngressではクルマで楽しむエージェントも多い。ゴトウの地元では、巨大CFをひたすら作り続けているレジスタンスのエージェントがいる。Intel Mapを見ていると「三角が見える」(笑)のだそうで、1辺が10kmを越える大きな三角を毎日作る。ゴトウは、このエージェントのプレイを見てやり方を学び、自分でも1度大型CFを作ってみた。レジスタンスの拠点の街を2つ囲うCFを(笑)。これはこれで面白かったが、ゴトウの目的は自分の健康促進なので、プレイスタイルが合わない。だから、それ以来、大型CF作りはお休みしている。ちなみに、彼にも実際に会ったら、やたらと気が合ってしまった。
ゴトウが地元密着型でIngressをプレイしてきたのは、家庭の事情のため、地元に密着せざるを得なかったからだ。しかし、今春からは状況が変わり、プライベートでも地元にこだわる必然性がなくなる。ゴトウ自身のメダルとレベルのためもあり、次のフェイズは、より広いところに出つつある。
地元に密着してよかったことは、地元のハングアウトで、新しい人間関係ができたことだ。実は、これがゴトウにとっては驚きのポイントだった。Ingress仲間というのは、非常に不思議な感覚で、まるで戦友のような(なんて大げさな(笑))、異常な親密感が産まれる。
MMORPGのようなゲーム世界だと、バーチャルとリアルの境がはっきりしている。ところが、Ingressだと、バーチャルとリアルの境がなく、実際に、仲間同士で会うことも多い。そして、共同で苦しい抵抗戦をしたりすると、本気で絆を感じ始める。「みんなで自分達のエリアを守るぞ、おー!」みたいな、青臭い連帯感が本気で生まれる。スポーツならそんなの当たり前じゃんと言われそうだが、ゴトウにとっては、これが忘れていた感情で非常に新鮮だった。
そういった意味では、Ingressはゴトウにとって社会性の変革にもなっている。長年、狭い業界の中だけで暮らしてきたのが、新しい社会に融け込む。およそ社交的ではなかったのが、ゲームのために社交的になる。自分にとって、ポジティブな社会体験だと思っている。
Ingressの人間関係で面白いのは、“古老の口伝”の世界が復活していること。意外なことに、Ingressの場合は、ゲームプレイ上のノウハウがあまり表のWebに蓄積されていない。なぜかというと、陣営毎に機密な情報があるので、ノウハウの多くが、不特定多数の人の目に触れない限定された場所にしか記されないからだ。そのためノウハウは、長期間プレイしている古株エージェントから直に教わる場合が多い。なんか、古老の教えを請うみたいな、原始的な口伝の世界に逆戻りの気分で、面白い。
仕事関係の人間とも、Ingressで新しい関係ができるのが面白い。ただし、会社勤めの人は、自分の会社のコーポレートカラーを選ぶ傾向があるようで、Ingressだと、所属企業によって敵味方になる(笑)。例えば、AMDの人はエンライテンドが多く、Intelとソニーの人はレジスタンスが多い、……ような気がする。NVIDIAのエージェントは、まだ知り合いがいないが、おそらくエンライテンドだと思う。なんか、Intelとソニーの人に嫌われてしまいそうだ。
Ingressのダークサイドであるヘイト問題
Ingressの最大の難点は、プレイヤーの間に「憎しみ(ヘイト)」が産まれかねないこと。疑似戦争のようなゲームがリアルワールドを巻き込んで繰り広げられる。そして、レジスタンス(青)とエンライテンド(緑)の両陣営が、いろんな意味で分断されている。互いに自陣営だけのGoogle+のコミュ、ハングアウトで交流し、顔を合わせと交流する。自陣営は密に、相手陣営とは疎遠に、情報的に分断されているため、2陣営の間にヘイトが膨らみかねない。
顔の見えない敵陣営エージェントが、自分の大切なポータルを焼いて行く。特定の相手がものすごく憎らしくなるのは人情(笑)。熱くなるエージェントも少なくない。だから、Ingressの世界では、現実世界で相手側のエージェントから嫌がらせをされた的な事件の報告もあったりする。実際には、単なる誤解だったりもするわけだが、情報が断絶されているから、悪意に取ってしまったりする。
ゲームとして見た場合、そこまでプレイヤーを熱中させるという点で、Ingressは素晴らしいできだ。プレイヤーが現実世界とゲームに完全に境目がなくなり、敵プレイヤーを本気で憎むようになりかねないから、現実侵蝕ゲームとしてのデキは秀抜だ。しかし、現実世界を巻き込んで憎しみが発生すると、リアルに怖いと感じる人も出てくる。
こうした事情はIngressの負の部分で、実にドロドロしている。もっと緊張を和らげるような仕組みが、システム的にあった方がいいと思ってしまう。そもそも、2陣営で対立というゲーム上の構図が、この問題の根底にある。3または4陣営で争うゲームなら、ここまで対立しないだろう。また、システム的に互いのコミュニケートがもっと取りやいなら違ってくる。
しかし、こうした問題は、双方の陣営がコミュニケーションを密にすることで解決が可能で、プレイヤー同士が陣営を越えた努力で解決しようとしている場合も多い。また、プレイヤー数が増えてくると、希釈されて行く可能性も高い。
ここまで、Ingressについて3本連続で語ってきた。1本目の「上」は、Ingressを全く知らない人向け、2本目の「中」は、Ingressを知っているけれど深みを知らない人向けだった。3本目の「下」であるこの記事は、Ingressにはまっている人もカバーする構成になっていて、上中とは毛色が異なり、あまり笑いを取る記事になっていない。
これで一応、準ビギナーであるA11のゴトウの目から見える範囲のIngressの姿は描くことができたと思う。あとは、はまって下さいとしか言いようがない(笑)。