買い物山脈
ライター後藤弘茂がIngressにはまったワケ(中)
(2015/2/26 06:00)
TV画面を捨て街に出よう(笑)
これまで、長い間、ゴトウにとってゲームは画面の前に座ってプレイするものだった。ゲームをプレイしていると、体力が落ちて行く、時間をムダにしている、という罪悪感があった。ところが、スマートフォンの位置情報ゲーム「Ingress」を始めてからは、そうした罪悪感がなくなった。Ingressでは、ともかく、歩いて体を使う。だから、Ingressをしていると健康になる、体にいいことに時間を使っている、そうした充実感がある。これは、初めての経験だ。
また、スマートフォンゲームにはまるのも新鮮な体験だ。これまでもスマートフォンゲームはいろいろプレイしたが、コンソールゲームのようにのめり込めるものはなかった。それがIngressで一変。今は、Ingressのおかげでコンソールゲームを一切しなくなってしまったので、結果としてゴトウのゲームプラットフォームは、完全にゲーム機からスマートデバイスに移行してしまった。PlayStation 4(PS4)もXbox Oneも閑古鳥が鳴いてる状態になってしまった。
これだけ長期間同じゲームというのも初めての経験だ。もともと、MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Gam:大規模多人数同時参加型オンラインRPG)にはまらなかった人だったので、ゲームを長期継続プレイすることがなかった。それがIngressでは、4カ月半以上プレイして、まだ終わる地点が見えない。人生で最もはまったゲームになりつつある。
それ以上に、生活を一変させてしまったという点で、Ingressの破壊力がすごい。ゲームと生活の区別がつかなくなった。そして、「リアル課金」(Ingressに必要なものを現実世界で買うことをこう呼ぶ)度合いもなかなかのものだ。無料プレイのIngressのために、かなりの金額を現実世界でつぎ込んでいる。最大の買い物は自転車だ。
Ingressのために自転車を購入
Ingressのために自転車を買った。自分用の自転車を買うのは38年ぶりのことだ。実際には自分で選んで、「これ、誕生日のプレゼントね」と、奥さんに強制的にプレゼントさせたのだが(笑)。
色んなところに故障を抱えるゴトウには、自転車の要求仕様があった。まず、アルミフレームの軽量ボディであること、腰に負担がかかりにくい乗車姿勢にできること、折りたたみができること。
重いモノを持つと、腰をぎっくりやってしまう可能性があるので重量は特に大切だ。重要だけを見れば、ロードバイクが軽いのだが、軽量でもロードバイクの前傾姿勢は腰がやばそうでパス。自転車をクルマに積んで移動することを考えているので、折りたたみは必須。あと、変速ギアは必須だと考えていたし、ホイールは20インチは欲しいと考えていた。この条件で探した。
折りたたみ軽量自転車は、各メーカーラインナップは限られているものの、ピンからキリまである。Amazonでも、結構ヒットする。しかし、自転車の善し悪しなんて分からないので困ってしまった。自転車もののマンガ(南鎌倉高校女子自転車部)を読んだりしたのだが、ゴトウのニーズにはあまり参考にならなかった。
結局選んだのは、通販ではなく、サイクルベースアサヒの店舗で売っている「アルブレイズ-F」。重量は13kgと、最軽量の折りたたみ自転車よりちょっとだけ重い。でも、あまりによく分からない買い物なので、すぐに対応してもらえそうな店舗で買う方を選んだ。34,980円のリアル課金だ。
結果としては上々で、犬グレス(Inugress)以外は、自転車でIngress(チャリングレス)している。Ingressは国や地域によって移動手段がさまざまだ。日本の都市郊外でのIngressは、自転車と、クルマ、それに徒歩が混在する。ゴトウはその混合型なのだが、やはり日本の場合は自転車が便利だ。
スマートフォン用のアームベルトをIngress用に改造
Ingressを始めてから、スマートフォンを手に持っているのはどうも危ないと思い、スマートフォン用のアームベルトの導入を考えた。試しにAmazonで1つ買って試してみたのだが、どうもうまくない。アームベルトでは、スマートフォンのディスプレイ表面をビニールがカバーしているのだが、これがIngressで邪魔になる。
Ingressゲームでは、「グリフハック」と呼ぶミニゲームがある。入手するアイテム数を増やすためにはグリフハックをすることが必須なのだが、アームベルトのビニールカバー越しだと、グリフを描くことに失敗してしまう。通常の操作はビニール越しで大丈夫だが、グリフだけはムリだ。
これは重大な問題だった。なぜなら、グリフハックで、入手できるアイテムの数が倍増するからだ。ゴトウは、ハックして得たアイテムのドロップレート(アイテム入手率)の統計を取っている。最近の統計だと、グリフハックをした場合のドロップ率は最高で600%台(ゴトウのグリフ成功率の場合)。つまり1ハックに対して、平均で6個以上のアイテムが入手できており、グリフをしない場合と比べると最高で倍となる。実際には、調子が悪い時はドロップ率はそれより落ちるが、それでもかなり高率だ。
最高時の600%台の内訳はXMPバースターとレゾネータが200%台(味方ポータルだとレゾの比率がかなり高くなる)。補給アイテムのパワーキューブが30%程度。それ以外のレアなアイテムのドロップレートはサンプル数が少ないため安定しないが、非常に低い。実際にはアイテムの率はかなり変化するので、これは目安に過ぎないが、バースターやレアアイテムをより多く入手するためには、グリフは欠かせないことは間違いない。
そこで、グリフハックをしやすいようにアームベルトを改造することにした。話は簡単で、アームベルトのカバーにグリフハックができる穴を開ける。グリフハック面だけは、指で直接触れるようにするわけだ。グリフハックをして、その画面をキャプチャ。スクリーンショットを表示させて、アームベルトのカバーをグリフエリアの分だけ切り取った。
このように、現状では、ゴトウのウェアラブルコンピュータは、アームベルトに装着したスマートフォンだ。「えっ、Android Wearのスマートウォッチは使わないの?」と思うかも知れない。スマートウォッチを使わない理由は2つある。1つは、スマートウォッチ自体が、まだ専用シリコンがなく、あるべき姿の製品ではないこと。もう1つは、今のIngressではスマートウォッチが使いものにならないこと。
現状では、Android WearウォッチはIngressの通知程度にしか使えない。プレイするにはスマートフォンを出さなくてはならない。それなら、スマートフォンを最初から腕につけていた方が、はるかに応答性が高い。例えば、自分のポータルに対する攻撃通知を受けた場合に、スマートフォンで通知を受ければすぐに対応できる。Ingressでは、わずかな時間差が命取りになりかねないので、Android Wearは実戦では使えない。
もっとも、Ingressは、本来的にはモバイルではなく、ウェアラブル向けのアプリだと思う。例えば、VRメガネで現実世界にポータルがオーバーラップされて表示されるのが本来あるべき姿だ。しかし、現状のウェアラブルでは、現在の仕様のIngressは負荷が高く消費電力を食いすぎる。デバイス側の進歩かサービス側の最適化を待つ必要がある。
アームベルトに合わせたモバイルバッテリを導入
アームベルトを導入したことで、モバイルバッテリも要求仕様も必然的に変わって来た。アームベルトに、スマートフォンと一緒に装着できる薄型で軽量なバッテリが必要となった。ゴトウはこれまで、モバイルバッテリをほとんど使っていなかった。それは、常にPCを持ち歩いていたため、PCから充電していたからだ。
しかし、Ingressではスマートフォンを連続で高負荷稼働させなければならない。そこで、薄型軽量バッテリを導入した。買ったのはAFENDOの「SMART POWER BANK」。100g程度で4,000mAh程度、123×59mmで薄さが8mmと、ほぼ探していたスペックだったので必然的にこの製品になった。実際に使ってみると、ぴったりとスマートフォンと一緒にアームベルトに収まった。容量は少ないが、ゴトウはどうせIngress稼働時間が短いので、これでぴったりだ。
もう1つの問題は、防寒用の手袋。冬に自転車に乗ってIngress活動をしていると、手がかじかんでしょうがない。そこで手袋を導入したのだが、通常のスマートフォン用の手袋だと、たまにグリフで失敗する時がある。そこで、万全を期してこちらも新しい手袋を導入することにした。
いろいろ試した結果、使いやすかったのは指先が出るタイプ。カバーで指先を覆うこともできるし、出すこともできるというタイプ。これとアームベルトの組み合わせで、Ingressがずっと快適になった。
エージェントはレベルで階層化されている
Ingressのプレーヤーは「エージェント」と呼ばれる。日本のIngressコミュニティではAGと略す。エージェントにはレベルがある。レベル1から始まって現在の最高レベルは16。「A8」と呼ばれるレベル8が一区切りで、A8になると、最強の武器が使えるようになる。
アイテムにもレベルが設定されており、エージェントは自分のレベルまでのアイテムしか使うことができない。しかし、アイテムのレベルは8が上限なので、A8のエージェントになれば最高レベルのアイテムを使うことができるようになる。武器なら、レベル8のXMPバースター「X8」が使えるようになる。ポータルを守るために使うレゾネータも同様で、A8になるとレベル8のレゾネータ「R8」を使えるようになる。
Ingressは、A8に上がるまでは、ひたすらレベル上げのための経験値(AP:アクションポイント)稼ぎのゲームだ。ところが、A8に上がると途端にゲーム性が変わり、Ingress第2段階と言うべきステージに入る。さまざまなゲームプレイのスタイルへと広がるようになる。そのため、A8になって、ようやくエージェントとして1人前という雰囲気がある。言ってみればA8までがIngressの長いチュートリアルだ。
早い人だとA8まで2週間から1カ月で到達するが、ゴトウの場合、ゆっくりやっていたので2カ月くらいかかった。それも、経験値が2倍になるキャンペーン期間を挟んでだ。10月初めにインストールして、本格的に始めたのが10月後半で、現在ようやくレベル10(A10)。全体に、ゴトウはかなりペースが遅い方だと思う。
A8を越えたとは言え、A10というレベルはIngressの世界では、まだまだビギナーだ。いわゆる“Ingressガチ勢”のエージェント達の足元にも及ばない。上には、A14やA15、さらには頂点に立つA16のエージェント達がいる。レベルアップは指数関数的に難しくなるので、彼らの高みを見上げるとクラクラする。A10のゴトウが書いているこの記事は、ようやく全体像が見えて来た程度の初心者エージェントの視点だ。
ちなみに、超早いエージェントは、ゴトウと同じくらいの期間があればレベル14(15という人までいる)にまで駆け上がっている。実際、あるファーム(P8ポータルの密集地)の某有名エージェントは、ゴトウより後に始めて、今やレベル14で、活発な活動振りで東京中に名前が知れ渡っている。
ゴトウが遅いのは、体力的な問題が第1の原因だ。稼働時間が短い上に、体調が悪い日はIngressをお休みするので進まない。加えて、レベルアップが容易な都会に住んだり勤務していないという事情も絡んでいる。ポータルが回りに多数あればあるほど、レベルアップがより容易になるからだ。また、レベル10になってからは家族のレベルアップの補助に集中していて、自分のレベルアップのための努力は休止していることも影響している。
始めるのは簡単だが、進めるのが難しいIngress
Ingressを始めること自体は簡単で、AndroidかiOSでイングレスのアプリをダウンロードするだけ。無料だし、ゲーム内課金もない。その意味では入る時のハードルが低い。
しかし、それ以外の部分ではハードルが高い。日本語化が進んでいるとは言え、まだメニューや解説では英語が多い。日本のゲームにあるような派手なグラフィックスもない。スタイリッシュと言えば聞こえは良いが、無機質なゲームUIで、日本のカラフルなゲームに慣れていると、かなり見かけの取っつきが悪い。ぱっと見た目は、8bitとは言わないが16bit時代のゲームに戻ったような雰囲気だ。
多くの人にとって馴染みの薄い位置ゲーという性格から、ゲームシステムを理解するのに時間がかかる。助けてくれる先輩プレーヤーがいれば簡単なのだが、独力でやろうとすると、結構大変だ。チュートリアルもあるにはあるが、これも簡素。“イングレスたん”が登場して、楽しくプレイを教えてくれるというノリではない。最大の問題は、画面をぱっと見ただけでは、何をやればいいのかわからないこと。Ingressの導入部分には、明らかに改善の余地があり、ゲーム開発に不慣れな感じを受ける。ユーザーがはまり込むためのしきいがかなり高いゲームだ。
そんなこんなで、Ingressというゲームは、ダウンロードして始めてみるものの、わけが分からず止めてしまう人が非常に多い。また、一定レベルに行って、そこで止めてしまうプレーヤーも少なくない。回りを見渡しても屍累々で、Ingressははまって続けている人の方が少ない。ゲームが中毒性を発揮する範囲が、非常に限定されているゲームだ。
大まかに言えば、最初が「レベル2の壁」で、ここまででワケがわからないと放り投げる人が多い。次が「レベル5の壁」で「Ingressって現実世界を使ったパズルゲームね」と納得して、それ以上の興味を失ってしまう。レベル6以上になると、「Ingressって実は対人戦略ゲームだったのね」と本質が見えるようになる。それでも、1段階目のゴールのレベル8に達した段階で目的を見失う「レベル8の壁」がある。次が「レベル10前後の壁」で、レベル8以降にメダル(ゲーム項目毎の実績)集めなどの楽しみを見つけるのだが、ソロプレイで終わりのないゲームに飽きてしまう。その先へと続くプレーヤーの数は、かなり限られている雰囲気だ。
ゴトウも、親友のライターN川(ヘビーゲーマー)をIngressに巻き込んでみたのだが、どうも、今一つ乗り切れない。会う度にIngress進展状況をチェックするのだが、レベル2からなかなか進まなかった(笑)。最近、ようやくA5目前になったが、2つ目の壁を越えて、A8まで到達するかどうかは怪しい。
Ingressがどのタイプの人のツボにはまるのかは、どうにも不可解だ。一貫性が感じられない。今までゲームをしていなかった人々も大量に取りこんでいる。じゃあ、従来のゲーマーはIngressに馴染まないのかというと、そういうわけでもない。ゴトウの家庭では、生粋のゲーマーの次男とか元ゲーマーの長男は、すんなりIngressに馴染んだ。
ゴトウの家は全員がエージェント
ちなみに、ウチは家族全員がIngressエージェントだ。全員が同じゲームというのは、Ingressが始めてだ。現在は、次男と奥さんがA8(エージェントレベル8)で、長女がA7(エージェントレベル7)。3人は、ゴトウが「エンライテンドにしなよ」と言ったら、素直に従ってくれた(強制したという説も(笑))。
問題は長男で、彼は「フフフ、Ingress始めたんだ。でも、オレは主義としてレジスタンス側だから」と言って、敵方レジスタンスに回ってしまった(笑)。Ingressに関しては、家族の中で、敵味方に分かれるという状況になっている。だから、家の中でもエンライテンド陣営の作戦行動の話題は長男の前ではできない。Ingressに関してはちょっと家庭が緊迫した雰囲気(笑)になっている。
長男はあっと言う間にA8になったが、大学の近くなどで活動しているので、地元でゴトウとはぶつからない。悪知恵の働く長女は「お兄ちゃんが、家の近くの(エンライテンド)ポータルを獲って、それを私たちが取り戻すのを繰り返せば、家族だけでどんどんレベルアップできるじゃん」と言うが、長男はそんな要請を聞くような性格じゃあない。そもそも、Ingressの場合は、他のプレーヤーがリアルワールドで目撃しているかもしれない。だから、八百長をやるのは難しい。
ちなみに、長男の大学はエンライテンドの巨大ファーム(P8ポータルの密集地)のすぐ隣。ファームが焼かれた時に、ふとマップを見ていたら、長男のエージェント名がレジスタンスに獲られたポータルにあった(笑)。知り合いにファームの維持をしているメンバーがいたので、なんとなく、すみませんねえ、と言ってしまった。
次男は「Call of Duty」(CoD』とか大好きなヘビーFPSゲーマーだが、Ingressでも、戦術的な部分ではゲーマーの経験が活かせている。例えば、次男は「戦力の逐次投入は愚行だ。攻撃では戦力を出し惜しみせず。局所的に優勢な戦力で圧倒!」とブツブツ言いながら、ゴトウと一緒に、反撃を封じるペースでダダダと猛攻する。元々ゲーマーでミリタリーヲタクだけに、ゲームの勘どころが分かっている。しつこくリチャージされるレゾネータ(レゾ)には、ムダ弾を撃たずにレゾ直上まで歩いて行ってX7連打(R8は理論上はレゾ直上でX7の3連打以上でリチャージ不能で破壊可能)で止めを刺す。頼もしい戦力だ。
奥さんは、ゴトウが戸外派に変わり、どんどん体重が減るのを見て、Ingressに参戦。ダイエット効果を狙って、それなりに毎日出るようになった。ゲーム慣れしてないが、A8にレベルが上がってからは通常のポータルなら簡単に落とせるので充分な戦力になっている。
奥さんは、ゴトウの別働隊で、ゴトウが「こことここのポータルを落として、“87661111(挿すレゾネータの種類と数)”でデプロイして、あとでオレが“8766”を挿しに行くから。それぞれコモンシールドだけ入れて、リンクとCFはまかせた」とリモートで指示を出す。すると、奥さんが地図上を移動して作戦を遂行してくれる。この間は、ゴトウが不在の時に、リモートで指示してワンコ合戦(直接ポータル前で攻撃と応戦をすること)までやってもらった。奥さんに代理ワンコをやらせたエージェントは、きっとゴトウが初めてじゃないかと思う(笑)。
身が2つになったようで便利なのだが、奥さんは「なんか『87 Clockers』のハナの気分。『窒素持ってこい』ってのと何も変わらないわ」、「Ingressやりながら、2人で散歩しよう、とか言っていて、結局、自分は自転車でさーっと行っちゃって。これじゃIngressウイドウだわ」とブツブツ文句を言う。
彼女の武器は年齢! 彼女は1人の時に、相手側のエージェントとポータルで鉢合わせした。彼女が会釈をしたら、相手エージェントも会釈を返して、困ったようにもじもじして、くるっと立ち去って行ったそうだ。通常ならワンコになるのだが、奥さんがいい歳のおばさんなので、若い相手エージェントがひるんでしまったらしい(笑)。
エージェントレベル8になっても上には上がいる
A8からがIngressの本当のプレーヤーだが、真剣にIngressしているエージェントから見ると、A8になったばかりはまだ新米。そこからの活動で、どの程度のガチ度かが試されることになる。A8以上のレベルになるには、メダルと呼ばれる実績を集める必要があり、これがまた大変。それを突破してA10を越え、A11やA12といったレベルになってようやく本当のエージェントという感がある。
面白いのは、A8以上のレベルは、ゲーム上の強さにはほとんど直結しないこと。武器はレベル8以上はないので、A8以上なら基本は同じ強さの武器で戦うことになる。レベルが上がるとヒットポイントに当たるXMの保持量などが若干増えるが、逆を言えばその程度しかうま味がない。
それでも、レベルが高いエージェントは尊敬されるし、実際に彼らは強い。それは、ゲームプレイスタイルと経験が違うからだ。
A8以上のエージェントになると、ゲームスタイルが大きく2タイプに分かれる。1つのタイプは、地元で大人しくプレイしたり、色んな土地を訪れるプレイに楽しみを見いだしていて、それほど戦闘的ではない草食系のタイプ。もう1つのタイプは、強力な武器を補充して、相手陣営のポータルをガンガン食う肉食系のタイプ。この両者では、歩兵師団と機甲師団くらい攻撃力が違う。
A8以上のエージェントの主力武器はXMP Burster(XMPバースター)のレベル8で「X8」と呼ばれる。X5からX7までは、1段階毎に武器の強さ(直上攻撃力)は20~25%程度にしか上がらないが、X7とX8では50%も威力が違うという解析結果がある。つまり、X8は飛び抜けて強い武器で、そのためにA8以上のエージェントは強い。
X8はレベル8のポータル「P8」でなければ効率的に入手できない。レベル8のポータルは、A8以上のエージェントが8人いないと作ることができないので数が少ない。P8ポータルが集中する場所を「ファーム」と言い、青と緑それぞれ各地にファームを持っている。ファームは、地元のエージェントによる組織的な防衛が行なわれている。
ファームは、そこに行けばレベル8アイテムが入手できるという評判を作り、客エージェントが集まるようにし、集まった客エージェントがレゾを挿すことでファームの維持・回復がしやすくなるという好循環システムを作る。それが崩されるとファームが滅ぶので、ファームの維持は難しく大変な作業だ。実際には、今首都圏では双方のファームつぶし合いが起きている。ゴトウが今いるサンフランシスコ南のベイエリアも同様で、ファームが壮絶なつぶし合いに遭っている。
火力が違う武闘派のエージェント
武闘派エージェントになると、ファームに頻繁に行って武器を補充するようになる。個々のエージェントが持てるアイテム数は2,000までなので、火力を維持するためには、頻繁にファームに通う必要がある。戦闘ゲームとしてのIngressの本質は、兵站にある。
武闘派はレベル8ポータル集中地で、X8を数100発も集める。X8を蓄えた“機甲師団エージェント”は、火力にモノを言わせて強攻できるので強い。1機甲師団で、相手陣営のP8ポータルが並ぶ拠点の街を1つ焼け野原にできたりする。実際には、火力だけでなく、いかに戦うかのテクニックもすごくて、参考になる。
Google+のコミュニティにいると、武闘派エージェントたちの武勇伝が聞こえてくる(実際には読むわけだが)。温泉旅行に行ったはずが温泉地の敵ファームを壊滅させたり、夜7時から朝7時まで12時間戦い抜いたり、みんな本当にすごい。とてもじゃないが、ゴトウにはマネができないと思う。
守る方は、自分のポータルにXMを遠隔地からリチャージすることで、攻撃に対抗はできる。しかし、機甲師団エージェントが強火力で攻めた場合は、非常にレアなAXAシールドがないと、1対1ではほぼ守り切れない。防衛できなければ、弾(XMP)や回復アイテム(PC)をより多く使わせてアイテムを枯渇させ、引き上げさせるという防御方法となる。
一方、X8の数が少ない“歩兵師団エージェント”は、火力が限られるので、どうしても攻め手が甘くなる。堅いポータルを連続して落とすことも難しく、リチャージ反撃にも弱い。だから、必然的に活動も大人しくなり草食系となる。
ただし、イベントがある時は別だ。12月に行なわれたIngressのイベント「Darsana」の前後には、戦いに備えて、普段は大人しいエージェントまで、X8を数百本も蓄えていた。そして、Darsanaが終わった後も、X8を何百本と使い残し、戦意満々で暴れたがっているエージェントがちまたに溢れた。ミリタリーマニアの次男は、そうしたエージェントを“Darsana帰還兵”と呼んでいた(笑)。
このように、イベントによってエージェントが変化する上に、武闘派と穏健派の中間タイプも多いので、単純に分類はできない。ゴトウ自身はというと、ファームに立ち寄る機会があればアイテムを貯めるが、積極的に通ったりはしない中間派だ。
ファームに定期的に行くのは、時間も労力もかかるので、Ingress廃人度を測る尺度になる。Ingressにどれだけ時間と手間を投入しているかが、エージェントの強さにある程度反映される。もちろん、運良くファームの近くに勤務してたり住んでいるなら別だが。ちなみに、この記事を掲載しているインプレスは少し前までエンライテンドのファームの端という好立地だった。社員に武闘派がいるかどうかは、直接問い合わせて欲しい(笑)。
武器にはこのほか局地的な破壊の「Ultra Strike(ウルトラストライク)」や、敵ポータルを自陣営に反転させてしまう極悪兵器「Jarvis Virus(ジャービスヴァイラス)/ADA Refactor(ADAリファクター)」がある。Jarvis/ADAは、かなりの数(800回?)ハックしないと出てこない低確率アイテムなので貴重だ。
フラッシュファームは夜中のUFO降臨会
ファームが近場にない場合は、時折、自陣営の仲間で集まって「フラッシュファーム(FF)」という集会を行なう。A8以上のエージェントが8人以上集まって、レベル8のポータルを即席で作る(8人を切る場合はレベル7のFFとなる)。そこにハックできる回数を増やすマルチハックなどを入れて、集中的に高レベルアイテムを集める会だ。正確には、FFには色々な方式があるのだが、ここでは効率重視の固定式について触れよう。
レベル7以上になると、高レベルなアイテムの入手が難しくなるため、近場で集中的に高レベルアイテムが入手できるFFは非常にありがたい。ただし、このFFには難点がある。それは、ハタから見ると、限りなく怪しいことだ(笑)。
FFはポータルが極めて集中している場所で行なわれる。都会の場合は場所の選択があるし、夜中の人口も多いのでそれほど怪しげではない。しかし、郊外だと場所が非常に限られ、夜間の人も少ないので怪しい。FFを行なう場所は極秘事項のため、写真をお見せできないのが残念(実際にはFFした跡は歴然なので相手陣営に分かってしまう)だが、夜間ならかなり寂しい場所だ。相手陣営に知られたら、妨害されてしまうので、FFを始める時は、極秘に目立たないように(ひそかに集まり、無言で)行動する。
例えば、夜中の真っ暗な公園、十数人の男女が、闇の中からすっと現れる。互いに、一言もしゃべらずに、目配せしながら公園の一角に集まる。周囲をきょろきょろうかがう人もいる。そして、何か、ひそひそ話していたかと思うと、皆それぞれに、うつむいてスマートフォンを一心不乱に操作し始める。
40分くらいすると、フーっとため息をついて、スマートフォンから顔を上げ始める。そして、集まって輪になり、小声で何かを唱え始める。実は、自己紹介をしているだけなのだけど、もうハタから見れば怪しさ満点だ。
きっと翌朝には「ねえ、奥さん見ました。夕べ、○○公園に変な人達が集まって。輪になって、ブツブツ言ってて。『ベントラベントラ』とか聞こえましたわ。きっと、UFOを呼んでいたのよ」とか言われているに違いない(笑)。
簡単なコミュニケーション機能を備えるIngressシステム
Ingressのゲームシステムには、簡単なコミュニケーション機能があり「COMM」というシステムで、エージェント同士が会話できる。COMMでは自陣営だけで話すこともできるが、敵陣営が偽装アカウントを作って覗いたら筒抜けになってしまう。そこで、エージェント達は、地域毎にGoogleのチャットアプリ「ハングアウト(HO)」のグループ機能を使って、内緒の会話をしている。
両陣営の地域ハングアウトには、エージェントとしてある程度活発に活動していると、COMMや現実世界で会った時に誘われたりする。と言っても、ポンポンと肩を叩かれ「いい戦い方をしてるね。どう、ウチ(HO)に入らない?」と勧誘されるわけではない。ゴトウの経験だと、おずおずといった感じで「もし、他のプレーヤーと、話をしたりする気があればどうです」みたいに誘われた。
HOに入ると他のエージェントと横の繋がりができる。情報の交換はもちろん、何人ものエージェントで行なう集団作戦やFF、地元のファームの防衛計画なども、ここで話し合われる。なんて言うと、HOが怪しい作戦会議に見えるかも知れない。でも、少なくともゴトウのいるHOでは「ゴトウ上等兵、X8を300発持って、隣町に進発せよ!」みたいなことは全然ない(笑)。のんびりした井戸端会議がほとんどで、Ingressに関係ない「どこのカレーがおいしい」とか「どこ神社のネコがかわいい」みたいな話題の方が多い。
もっとも、これはエンライテンドの話で、レジスタンス側にはヘッドクォーターがあって謎の総統がいて、幹部(地獄大使とか死神博士か?)がいて、HOで指令が下り、「イーッ」と返答するらしいとか、こちらではウワサしている(笑)。でも、本当は、向こうのHOも同じようなものかも知れない。HOとは別に、Google+には、地域毎あるいは目的毎の陣営別の限定コミュニティがあり、そこでも情報が交換される。
のんびりしたHOとはいえ、やはり、自分達の陣営を守るための話題が出る。コミュニケーション版Ingressは、本気の集団戦争ごっこなので、当然、自分の陣営の機密情報が漏れるのはまずい。そこで、HOや限定コミュは、加入にあたって審査やメンバーの合意が必要だったりする。COMMで地元のHOに入りたいと呼びかけるエージェントもいるが、その中には、相手陣営の情報を探るスパイがまぎれてる可能性があるので、慎重にする必要がある。
ちなみに、その話をウチでしたら、長女がすかさず「だったら、ニセのHOを作って、そこに怪しいエージェントを誘導しちゃえばいいじゃん。みんなが普通に交流しているように見せかけて、ニセの焼き討ち情報とかを流せば、敵を操れるわよ」と言う。いや、この悪智恵の働き方は、本当に素晴らしい(笑)。次男は実戦指揮官タイプだが、長女は諜報参謀タイプだ。
Ingress社会独特の用語
IngressはA8に達してからが第2段階だと書いた。実際には、Ingressプレイには、他のエージェントとコミュニケーションを持ってからの第3段階がある。この時点で、Ingressはリアルソーシャルゲーム化し、再び、ゲーム性が大きく変わる。集団戦の戦争ごっこ的な色彩が強くなる。
ただし、Ingressというゲーム自体は、他のエージェントとつるまずに、ソロでプレイし続けることができる。それはそれで楽しいゲームで、実際にそうしているエージェントも多い。レベルアップにはパーティを組むことが必須といった社会性が強制されるゲームではない。緩くて自由度の高いソーシャル性が、Ingressの魅力で、コミュニケーションが苦手でも楽しめる。ゴトウ自身が、これだけコミュニケーションが苦手なのに楽しめているのだから、間違いはない。
コミュニティがあれば、文化が形成される。日本のIngressには独特の用語も多く、かなり困惑する。最初に戸惑ったのは「ワンコ」。これは、ポータルに攻撃側と防御側が現実に居合わせて、攻撃側がレゾやシールドを消し飛ばすのと、防御側が補充するのを繰り返すことだ。まるで、ワンコそばのような、食っては足しを繰り返すことを言う。言われればその通りなのだが、最初に聞いた時は、何を言ってんのか、ワケが分からなかった。
Ingressでは、現実世界で他のエージェントに会うことを「リアキャプ」と呼ぶ。これは、ポータルを手に入れる「キャプチャ」をリアル世界に転用した用語だ。レジスタンス側は、エンライテンドがCFを張って緑にすることを「カビが生える」といい、エンライテンド側は青のCFに覆われることを「水没」という。それぞれの陣営で用語が異なる。エンライテンドでは、青のCFをつぶすことを「水抜き」といい、緑のCFで覆うことを「緑化」と呼ぶ。あとIngressに便利なモノを買ったり、Ingressのために旅行したりすることを「リアル課金」と呼ぶ。Ingressだと、こうした特殊用語に慣れる必要がある。
Ingressでクリティカルな用語は「焼く」で、相手陣営のポータルを攻撃して白ポータルにすることをこう呼ぶ。良識派のうちの奥さんは、「放火事件とか近所であったら、真っ先に疑われちゃうでしょ。だから、“焼く”は絶対に使わないように」と言う。こないだも、うっかり「そこ焼いちゃって」と言ったら、エライ剣幕で怒られた。本当に、ごもっともだ。