Kinectがゴトウ家にもたらした大きな変化とは



品名 Xbox 360 Kinect センサー
購入価格 12,108円
品名 Kinect アニマルズ(通常版)
購入価格 4,682円
品名 ユアシェイプ
購入価格 4,953円

「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです。

●Kinectを入れたら犬が来てしまう?

 今回の買い物山脈は「犬」だ。いや、実際には「Kinect」なのだが、Kinectのために犬を飼うことになりかねない状況にある。

 Kinectは知っての通り、Xbox 360の新ユーザーインターフェイスキットで、ジェスチャと音声コマンドでの入力を可能にする。Kinectは、Amazonで予約が始まった時に予約しておいたので、発売と同時にウチに届いた。周りのライターから「そんなの予約するのはアナタだけ」とさんざん言われたが、初期の生産個数が少ないから品切れが怖くて予約しておいたのだ。

 それから約1カ月、Kinectのおかげで、ウチには予想もしなかったさまざまな変化が起きた。最も驚きだったのは、長女がコンピュータと向かい合う姿勢が変わったこと。副次的には、ウチのリビングルームのレイアウトがまったく変わってしまった。そして、極めつけは、長女がペット欲しい病にとりつかれてしまったこと。

 Kinectはすんなり家に居着いたわけではなかった。Kinectが着く直前、ゴトウは、運悪く腰をギックリやってしまった。腰は弱点で、平均で1年に1回くらいはやってしまうのだけど、今回は、実にまずいタイミングだった。ギックリの後は、しばらく、腰をかばって生活しなければならない。当然、激しい運動はできないのに、そこへKinectがやって来た。

 なので、ベッドに寝ながら「まいった、しばらく開けないでおこう」と思っていたら、そうは行かなかった。気がついたら、小学校高学年の長女がさっさとKinectを開けてしまったからだ(パッケージの写真がないのはそのためだ)。Kinectを心待ちにしていた長女は、「どうやってつけるの。ねえ、すぐにつけて」とうるさい。しょうがないから、家族の力を借りて設置することにした。ところが、やり始めたら、これが大変だった。

●Kinectの設置で大いに悩む

 ウチのリビングはメインのTVが37型で、サブが32型と26型、24型。PlayStation 3(PS3)は、映像コンテンツのためのAVセンターなので、中央の37型に接続されている。Xbox 360はゲームにしか使っていないので、競合を避けるために隣の26型に接続されている。家族が5人と多いので、その2つを同時並列に使う確率が高いからだ。

 ところが、37型と26型はどちらも、リビングの中心となっているコタツの前にある。だから、その前面に、Kinectをプレイできるだけのフィールドを確保することが難しい。コタツとフロアソファで安楽に映像コンテンツを観たり、普通のゲームをする生活を守りたいので、Kinectは37型と26型のどちらにも接続することができない。

 まあ、それは初めからわかっていたので、Kinectが来たら、リビングの隅にある32型に接続しようと考えていた。32型TVには、Wiiと米国版Xbox 360、それから旧式ゲーム機やPCが接続されている。そちらに、日本版Xbox 360を移動して設置し直し、Kinectも設置することにした。

 しかし、単純に32型TVにKinectを設置しても、うまく行かないことに、すぐ気がついた。32型TVの位置がまずい。低すぎるし、近すぎる。ウチは家の中に、足のついた椅子が1つしかない。あとは座椅子とフロアソファ、ローテーブルとコタツと、徹底した座り生活の家だ。なので、TVの設置位置もみな低く、30〜50cmくらい。すると、Kinectを使おうとするとTVの位置が低くてうまく行かない。

 Kinectを使おうとすると、立った時の目線位置にTVがないと、うまくない。できないわけではないけど、感覚的にフィットしない。対話的な雰囲気にするには、目線位置が同じ程度でないとしっくり来ない。ウチの場合は、小学校高学年の下の2人のこどもたちがメインのKinectプレーヤーになるので、TVの上辺が140cm以上になるように上げる必要がある。それから奥行き、長方形のリビングの、長い辺が使えるからOKかと思ったら、Kinectのためのフィールドが全然足りない。というわけで、TVをさらに遠くさらに高い位置へと移す必要があった。

 悩んだ末に、出窓の部分にTVを置くことにした。これで、TVは30cmほど後ろへ下がり、高さも40cmほど上がった。次はKinectセンサーの設置。センサーが、意外と大きい上に、じつは微妙に動く。なので、TVの上に設置すると、落ちそうでアブナイ。しかも、32型には、Wiiのセンサーバーもついている。そこで、Kinectセンサーは、TVの足元に設置することにした。

ウチにとっては設置条件が厳しかった

●リビングの大改装が必要に

 ここまでの段階で、すでに大仕事。窓の回りを一掃して整理したり、TVを移動させたり。もちろん力仕事ができる状況にはないので、高校生の長男と奥さんに作業をしてもらった。当然2人にはぶつぶつ文句を言われてしまった。

 リビングを改装して、Xbox 360とKinectを32型に接続して、これでOKかと思いきや、そうは行かなかった。Kinectプレイをするためのフィールドが、まだ足りない。

 Kinectをセットアップすると、画面に表示されるガイドに従って、プレーヤーがプレイ位置を確認する。画面の指示通りの位置に立とうと、子どもがどんどん後ろへ下がって来る。慌ててコタツやフロアソファを下げる。プレーヤーが2人だと、さらに広いフィールドが必要で、もっと下がれと指示される。左右の幅も同様だ。

 仕方がないので、家具を動かしてどんどんフィールドを広げる。Kinectセンサーから2.5mほどの距離までコタツを下げて、ようやくなんとかなった。この時点で、12畳のリビングの半分近くまでがKinectに浸食されてしまった。

 ところが、実際に子ども達がゲームをし始めると、それでも甘かった。例えば、子どもが思い切りボールを蹴ろうとすると、足が後ろへスイングするので、コタツにぶつかり「痛い」と悲鳴を上げる。手を振り回すと、棚に当たる。危険のない範囲へと家具をどけて行くと、Kinectフィールドはさらに広がった。

 なんだかんだでコタツを80cmも移動させることになり、結局、3m程度のフィールドを空けることになってしまった。それでも、設置できたのでOKだったのだが、部屋の西側にKinectフィールドを設けたこの決断は、後で、より大きな「匍匐前進」問題を引き起こすことになる。

●Kinectがウチにもたらしたもの

 大騒ぎの末に導入したKinectは、かなり興味深い変化をウチにもたらした。まず、ウチで最年少のコンピュータユーザーである長女が、マシンと向かい合った時の行動パターンが変わった。

 彼女は、まずXbox 360の前に行き、電源ボタンを押してマシンを立ち上げ、その後は、マシンの前にじっと立つ。何をしているのかと聞くと、マシンが自分の姿を認識して、自動的に彼女のアカウントにログインしてくれるのを待っているのだという。ログインされると、手を振って、ジェスチャを認識させ、それからKinectでメニューの操作を始める。これが、彼女の場合、デフォルトのXbox 360起動シーケンスとなっている。当然のことながら、Xbox 360のコントローラには手を触れもしない。

 つまり、長女は、マシンが知覚を持っているのが当然で、自分を認識してくれるのが当たり前と思っている。ユーザーインターフェイスの変化で、人間とマシンの間のインタラクトに変化が起きたのがわかる。大げさに言えば、マシン側の認識を当然と思う世代が産まれるところを見たわけだ。

まずXbox 360の前に立ちKinectが自分を認識するのを待つ長女。Xbox 360を起動したあともKinectのメニューの中でしか使わない

 こういうのは、頭ではわかっていても、実際に自分の家で目の当たりにすると、それなりに衝撃だ。ユーザー行動としては、家族の他のメンバーとは完全に違う。例えば、次男はコントローラを手にとって、そいつでXbox 360を起動して、さっさとログインする。ダッシュボード、つまりOSのユーザーインターフェイスのメニューはコントローラで動かす。ところが、長女は、Kinectの中に入って操作し、Kinectの中のメニューしか使わない。長女はKinectの音声コマンドも好きで、最近は声でも指示したがる。

 Kinectの場合、「エックスボックス」と呼ぶと、その画面で音声で指示できるメニューが現れる。例えば、「エックスボックス ディスクをプレイ」と言えば、ゲームなどがディスクから起動される。これも、スタートレック的(あるいは2001年宇宙の旅的)で、クールなもの好きの長女のお気に入りだ。

●Kinect境界線とiPad境界線ができた

 というわけで、Kinectはまず、ウチではユーザーとコンピュータの関係に、根本的な変化の兆しを見せた。これは、今のところWiiでもPlayStation Moveでも起こらなかった変化だ。重要な点は、長女が、マシンの側がそれなりの認識力を持つと考えている点だ。マシンを擬人的に考え始める第一歩が始まるところに見える。

 逆を言えば、コンピュータ側にとってみれば、これまで暗闇で無音の世界だったのが、光と音の世界になったわけだ。もちろん、実際には見たり聞いたりしているモノを、マシンが本当に理解(comprehension)するのは、また遠い道のりだ。しかし、初歩的な段階でも、使う人間の側に変化をもたらすところが面白い。そして、それが世代や、ユーザーの“馴れ”、によって異なる点も面白い。

 すでに触れたように、次男は決して長女のようには行動しない。小学校高学年の次男はFPS(ファーストパースンシューティング)で育ったハードコアゲーマ世代。空戦ゲームもビッグファンで、ミサイルを使わないで機銃で倒すのが好き(超低空でクラスタ爆弾をばらまくのも好き)。コントローラの熟達者なので、Kinectが使いやすいとは決して考えない。できる限り、慣れたコントローラで操作しようとする。

 この点で、できる限りKinectしたがる長女とは明確に違う。この切れ目を、ゴトウは、「Kinect境界線」と呼んでいる。次男と下の長女は、1歳しか離れていないから、境界を作っているのは年齢ではなく、馴れだ。

 面白いのは、これが今年(2010年)2回目の、ユーザーインターフェイスの変革によるユーザーの境界線の登場である点だ。1度目は春のiPadで、家の中にiPad境界線ができた。長女と次男は、iPadが来てからは、コンピュータというとiPadを使うようになった。どちらも、自分のPCがあり、キーボードとマウスは、それなりに使えるのだけど、iPadの方がいいという。タッチや、Googleの音声認識とか、そういう新しいナチュラルユーザーインターフェイスの組み合わせでないと、使いにくいという感覚だ。なので、今は、1台しかないiPadの奪い合いで、ケンカの毎日となっている。

 ところが高校生の長男は、iPadは便利とは思えない、マウスとキーボードの方がずっと便利といって、iPadはあまり使わない。PCに向かっている状態しか見たことがないような長男だから当然かも知れない。とまれ、長男と次男の間に、「iPad境界線」がある。

 ぼくはというと、KinectもiPadも好きだけど、UIとして使うと、時にイライラしてしまう。例えば、Kinectで手をなかなか認識してくれなかったりする時だ。長女は、「そういう時はこうするの」とコツを伝授してくれる。完全に、そっちの世界の住人だ。

世代とユーザーインターフェイスの壁

●Kinect アニマルズはとりあえずヒット

 とはいえ、現状のKinectは、かなり中途半端で、本当の変化をもたらすまでには至っていない。そもそも、OSのUIとして使えるはずだったのが、完全にはそうなっていない。Kinectで操作していると、お馴染みのボタンマークが出てきてコントローラが必要になったり、音声コマンドが効かない部分があったり。Kinectで完遂できない。じゃあKinectゲームはどうかというと、最初のフェイズでは、ウチのKinectブームは長続きしなかった。

 ゴトウ自身は体が激しい運動ができない状況で、もとよりプレイできない。かつてはゴリゴリのゲーマだった高校生の長男は、今はゲームを卒業してゲーム機にはほぼ触らない。奥さんは、キラーコンテンツ(もちろんフィットネス)が来るまでは、プレイする気配がない。

 なので、長女と次男がプレイするのだが、なにせアプリケーションがないので、長続きしない。ローンチタイトルでどれを買うか、デモ映像を見せながら聞いたのだけど、子どもたちはどれもやりたくないと言う。それぞれお目当てがある。

 Kinectと騒いでいた長女は、期待の「Kinect アニマルズ」が出るまでは待ちの態勢に入った。動物大好きな彼女は、E3での発表以来、ネコゲームのKinect アニマルズをやりたくて仕方がない。だから、ローンチから発売が3週間近くずれると聞いた時の落胆はなかった。

 次男はFPSで育ったハードコアゲーマ世代なので、心はもっとハードな「重鉄騎」に飛んでいる。次男にとっては、戦うのでなければ、ゲームではないらしい。重鉄騎の発表以来、Kinectでロボットを動かしたくてしょうがない。ちなみに、Kinectジャンボーグエースもできるという気がする。

 そんなこんなで、静かな状態が2週間続き、迎えたKinect アニマルズの発売日(12月9日)。その日、ゴトウは外出していて、戻ってみると、もう長女はAmazonから届いたパッケージを開けてプレイしていた。このゲームは、単にネコと遊ぶだけの他愛のないもの。でも、長女は、毛がふさふさしたほ乳類が大好きなので、ウケまくっていた。長女は、奥さん用に買ったフィットネスソフトの「ユアシェイプ」までプレイしていた。

 面白かったのは、次男までつられてKinect アニマルズで遊び始めたこと。長女が外出していた土曜日は、1人でずっとKinect アニマルズをやっていた。リビングの真下にある仕事部屋にいると、上から絶え間なくドンドンと次男が跳ねる音が聞こえて来る。夕方くらいに静かになったので、覗いてみると、汗だくになった次男が、床にへたりこんでいる。もうヘトヘトで動けないと言う。翌日は、筋肉痛で体が痛いと言っていた。

コアゲーマーの次男が意外とKinectで遊んだ。ちなみに、クロネコの名前は「パンツァー」だ(笑)
Kinectアニマルズでネコと遊ぶ長女
奥さんがやるはずだったフィットネスも、長女がプレイしている

●Kinectでリアルな犬が飼いたくなった長女

 しかし、Kinectで本格的に遊び始めると、再び家庭不和が発生した。ウチの場合の問題は、Kinectフィールドがキッチンの前にあること。当然のことながら誰かがキッチンに出入りしようとすると、Kinectフィールドの前を横切る(特に奥さん)ことになる。しょうがないから、ポーズしようとする(左手を下に下げる)のだが、ジェスチャをきちんと認識してくれるとは限らない。すると、前を横切られて、認識が途切れてしまう場合がある。

 そこで、ゴトウはKinectフィールドの前は「匍匐前進で通れ」と言ってみた。これが、猛反撃を喰らい、「主婦に匍匐前進を要求するようなゲーム機は絶対に受け容れられない」と宣言されてしまった。まあ、普通の家では、奥さんの抵抗を受けること必至だと思っていいかも知れない。

Kinectフィールド前では「匍匐前進」する

 さて、Kinect アニマルズで長女のKinect熱が高まったかというと、実はこれが全く逆の結果になった。なぜかというと、長女が、本物の動物を欲しくなってしまったからだ。

 もともと、長女は動物好きで、前々からペットを飼いたいと言っていた。しかし、こっちは、カネも手間もかかるから、なかなかウンと言えない。そうした膠着状態に、Kinect アニマルズがやってきて、ネコと遊んだり、撫でたり、かわいいがっているうちに、長女のペット願望の火に油が注がれてしまった。

 その結果、親に対する「ペット飼いたい攻勢」(娘が飼いたいのはネコでなくイヌ)がますます激しくなり、iPadでブリーダのサイトを調べたり、犬を飼うのに必要なことを調べたり、毎日なにかと忙しい。Kinectで遊べるからいいじゃんと言っても、Kinectもいいけど、やっぱり本物のペットがいいと返ってくる。

 結局、ここで明瞭になったのは、インタラクティブ性のKinectですら、リアルの代替とはならないこと。当たり前と言えばそうなのだが、不意を突かれると、かなり驚きだった。Kinectだと、直観的な分だけリアルなので、逆にリアルを求めたくなる。今回発生したのは、こういうケースで、コンピュータ側の人間としては、考えさせられる。これは、マシンとヒトの関わりという点では、健全とも言えるし、コンピュータの限界とも言えるかも知れない。

●Kinectハッキングが次の展開

 Kinectが来たら、試してみたかったことがあった。Kinectチャフ、Kinectフレア、Kinectステルスだ。赤外線なのだから、まず、赤外線を反射する小片をばらまけばチャフになるはずだし、Kinectフレアは波長が合う赤外線を放射する機器がフレアになるだろう、赤外線吸収素材ならステルスができる。マシン側に知覚ができるなら、Kinect センサーをだます、ステルスミッションが面白いはずだと考えたからだ。

 しかし、体が動かせないうちに時間がたってしまい、その間に、Kinectは空前のハッキング盛り上がりになってしまった。多くの研究者やプログラマが、わずか1万円台で手に入る3Dセンサーを待ち受けていたのだから、この結果は当然と言えば当然かもしれない。Kinectは、この調子だと、Xbox 360を離れたところで、フェノミナ的なブームになりそうで、コンピュータ的には、そちらの方が面白い展開になるかも知れない。

 そして、間違いなく、Kinectを仕掛けた人たちは、それを予期(期待)していたと思う。こうした盛り上がりは、Microsoft本体の別な部門の関心も、Kinectに向けさせる力にもなる。もっとも、Kinectを安く出し続けるには、まずKinectをXbox 360プラットフォームに浸透させる必要がある。ウチでのKinect熱を見る限り、ローンチからこれまでのタイトルの物量はきびしい。定着させられるだけの量がない。次男も、すぐに普通のゲームに戻ってしまった。

(2010年 12月 27日)

[Text by 後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)]