後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Westmere系CPUのラッシュとなるIntelの2010年ロードマップ



●デュアルコアへのNehalemアーキテクチャ投入

 Intelは、いよいよNehalemアーキテクチャのフルラインナップを揃えようとしている。Nehalem系でデュアルコアの「Clarkdale(クラークデール)/Arrandale(アランデール)」を投入するからだ。バリューデスクトップCPUや低電圧版モバイルCPUまでをカバーするClarkdale/Arrandaleによって、ようやくCore Microarchitecture(Core MA)系CPUの大半をNehalemで置き換えることが可能になる。

 こうした状況にある2010年のIntelのロードマップを整理してみた。もっとも、Intelは近いうちにロードマップをアップデートすると見られる。そのため、このロードマップはあくまで暫定的なものでしかない。しかし、劇的なロードマップ変更は予想されていないため、2010年のおおまかな流れは掴めるはずだ。

デスクトップCPUのロードマップ

 デスクトップでは、現在のところ、夏からほとんど変更がない。32nmの拡張Nehalemアーキテクチャである「Westmere(ウエストミア)」系が2010年に登場する。Westmere系で最初に登場するのはデュアルコアのClarkdale。Clarkdaleは、Core i5ブランドのメインストリームCPUから、エッセンシャル市場をカバーするCore i3ブランド、さらにバリュー市場をカバーするPentiumブランドまでの広いレンジで投入される。クアッドコアの「Lynnfield(リンフィールド)」はCore i7とCore i5の2ブランドにまたがっているが、Clarkdaleは3ブランドにまたがる。価格レンジでは80ドル台から200ドル台後半までとなる。

 DIY市場ではクアッドコアが中心のように見えるが、CPU全体ではまだデュアルコアCPUが個数では圧倒的だ。下のスライドはIntelが2009年5月に行なった「Investor Meeting 2009」のものだ。CPUコア数別の出荷の予想個数を、IntelのPC向けCPU製品全体で概観している。これを見ると、クアッドコアCPUの比率は、2009年第4四半期でも10%に達しない。ほとんどは、まだデュアルコアCPUに留まる。そのため、Clarkdaleへの移行は、Intelにとっては数量的には最も重要な移行となる。

CPUの出荷比率
デスクトップCPUの仕様比較

●企業向けとコンシューマ向けの2系列のClarkdale

 ロードマップ上の新要素として1点だけ注意が必要なのは、Core i5-661の存在だ。末尾に1がつくことでわかる通り、これは機能が異なるイレギュラーな製品だ。同価格で同周波数のCore i5-660との最大の違いは、GPUコアの動作周波数だ。下のブランドと機能の対比図を見るとわかる通り、通常のCore i5 6x0系はGPUコアの動作周波数が733MHzなのに、Core i5-661だけは900MHzとアップしている。その一方で、Core i5 6x0系はvProなどをサポートしているのに、Core i5-661だけはvProがない。同じClarkdaleのCore i5ブランドでも、企業向けとコンシューマ向けという位置づけで差別化が図られている。これは、IntelがNehalem系デュアルコアを顧客に説明した段階から示唆していた方針だ。

デスクトップCPUの仕様比較

 Clarkdale全体で見ると、ブランドとプロセッサー・ナンバーに応じて、CPUの機能が削られていることがよくわかる。Core i5のうち、6x0系が企業向けフル機能版で、Core i5-661がコンシューマ向けの高グラフィックス性能版。ターボやvProといった付加価値の機能が無効された機能限定版が「Core i3」。さらにNehalemならではの機能が全て無効されたものが「Pentium」となる。これを見てわかるとおり、現在、Intel CPUのネーミングの法則は、CPUの機能ベースに変わっている。CPUのコア数に応じたネーミングではない。

ブランドネーミングの変化

 下の価格階層の図を見ると、ClarkdaleのブランドマップはCore MAのデュアルコアWolfdaleと重なることがわかる。つまり、IntelはCPUの階層構造を変えないように注意しながら、Core MAからNehalemへの移行を図ろうとしている。ただし、Nehalemでは2チップソリューションとなるので、プラットフォームとしては大きな変動となる。GMCH(Graphics Memory Controller Hub)がCPU統合された分、チップセットの価格は、従来のICH分程度に安くなってよさそうだが、そうはならない。Intelはチップセット価格はほぼ据え置いて、CPUとのセットでの価格は同水準を維持しようとしている。

Core iシリーズの価格階層

 半導体的に見るとClarkdale/Arrandaleは、単にCPUダイとGMCHダイを1パッケージに封止したMCM(Multi-Chip Module)製品に過ぎない。2つのダイの間はQuickPath Interconnect(QPI)で結ばれている。あるIntel関係者は「なんちゃってGPU統合だ」と語っていた。本当にGPUがCPUのダイに統合されるのは、2011年のSandy Bridge(サンディブリッジ)からとなる。

ClarkdaleとArrandaleのダイ写真
Sandy BridgeではGPUがダイに統合される
ClarkdaleとArrandaleのアーキテクチャ

●Arrandaleのラインナップが拡張されたノートPC CPU

 ノートPC向けCPUのロードマップも、大まかには2009年夏の通りだ。デスクトップ同様に2010年には32nmプロセスのWestmereベースのデュアルコア「Arrandale」が一気に投入される。ただし、若干の変更や追加が、夏以降にロードマップになされている。ポイントの1つは、バリューセグメントへのArrandaleの投入だ。

 2010年第2四半期には、Celeronブランドになると見られるバリューCPUとしてArrandaleが予定されている。モバイルでは、以前の図式では、パフォーマンスCPUがNehalemアーキテクチャに移っても、バリューCPUはCore MAに留まる予定だった。

 もう1つのポイントは、ULV(超低電圧)と呼ばれていたウルトラシン(超薄型:Ultra Thin)市場向けCPUで、Arrandaleのラインナップが拡張されたことだ。シングルコアのULV版のPenrynを置き換える形で、Core i5ブランドの超薄型版Arrandaleが投入される。また、CULV市場向けと再定義されたULV版CeleronにもArrandaleの投入が検討されている。

 Atom系はPineview(パインビュー)-Mが2つのSKUで投入される。違いは動作周波数とTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)で、N450が1.66GHzと従来と同レベルの動作周波数で5.5W、上位のN470が1.83GHzで6.5W。

モバイル向けのロードマップ
モバイル向けCPUの比較

●モバイルでもブランドが増えて差別化が進む

 ノートPC向けCPUでも、Nehalemアーキテクチャが下へと伸びたことで、同じArrandaleでもブランドが増え、その差別化も複雑になった。下がノートPC向けCPUでの、Nehalem系のブランドと機能のチャートだ。デスクトップと異なり、TDPが異なるバージョンが同じブランド名で平行している点がややこしいが、差別化のポイント自体は単純だ。

 明瞭なのはCore i系とCeleron系の差別化で、Hyper-ThreadingやTurbo BoostといったNehalemならではの機能やvProのサポートなど、付帯的な機能のほとんどが無効とされている。しかし、GPUコアの周波数などは上位の同じTDP帯のCore i5/i7とほぼ同じレベルだ。コンシューマ向けという性格付けが明確に行なわれている。Core i5系はCore i7系のL3キャッシュ減量版で、他の機能はフルに搭載する。

モバイル向けCPUの機能とブランド

 ブランドと価格の関係で並べ替えた下の図を見ると、ブランディングの図式がよりすっきりと見えてくる。価格帯でブランドは明瞭に分かれている。ノートPCではデュアルコアのCore i7とCore i5の差別化が明瞭ではない分、ブランドが価格を表すという要素が強い。価格階層で見ると、Pineview系のAtomがデスクトップ同様に価格帯を上げていることが目立つ。CULV系のCPUとの価格連続性が強くなっている。

ノートPC向けCore iシリーズの価格階層

●GPUコアもターボブーストするArrandale

 TDPを見るとNehalem系デュアルコアは前世代のCore MA系を引き継いでいるように見える。ただし、これは、GMCHの分のTDPをCPUのTDPに組み込んでカウントしているためだ。Nehalemでは、ノースブリッジ(MCH/GMCH)をCPU側に取り込んだため、CPU単体でのTDPを比べることができない。位置づけとしては、35W TDPのパワーオプティマイズド版Arrandaleは、25W TDPのパワーオプティマイズド版Penrynに相当するとIntelは顧客に説明して来た。この法則は、下の図のように2010年のノートPC CPU全般に当てはまる。

モバイル向けCPUのTDP
AuburndaleのTDP関係

 Arrandaleで興味深いことは、CPUコアだけでなく、GPUコアの動作周波数もターボブーストすることだ。例えば、パワーオプティマイズド版Arrandaleでは、GPUコアのベース動作周波数は500MHzだが、最高766MHzにブーストできる。これはモバイル版Arrandale全般に共通している。CPU側のTurbo Boostが無効されているCeleronブランドのArrandaleも含めてだ。

 ArrandaleのGPUコアブーストは、Intelが内部で「Package Turbo(パッケージターボ)」と呼んでいた手法を使う。2ダイを1パッケージに封止したAuburndaleのTDPは、それぞれのダイの合計のTDPとなっている。そのため、片方のダイの実際の電力消費が小さければ、もう片方のダイのTDPを上げることができる。TDPの余裕分、動作周波数を上げてパフォーマンスをアップできる。もちろん、制約は他にもあるため、簡単には行かない。例えば、それぞれのダイ上のホットスポットの温度を示すジャンクション部分の温度「Tj(junction)」が一定枠まで上がると、それ以上に上げることはできない。

CPUとGPUのクロックブーストの関係