後藤弘茂のWeekly海外ニュース

IDFで登場した「Bay Trail」に見えるIntelの戦略変更

Bay TrailがIDFで登場

 Intelの新CPU戦略の柱となる「Bay Trail(ベイトレイル)」が登場した。Bay Trailの特徴は、言うまでもなく、IntelのスモールコアであるLPIA(Low Power IA)系の「Silvermont(シルバモント)」コアベースの22nm SoC(System on a Chip)であることだ。

 Intel Developer Forum(IDF)に合わせて公開されたBay Trailのダイ(半導体本体)は下のようになっている。右下に、Silvermontの2コアモジュールが2つあり、合計4コアのCPUが、システムエージェントを挟んで配置されている。CPUコアモジュールの部分には、他のダイ写真からのより鮮明なコア写真を貼り付けてある。クロスバスイッチは、2つのCPUモジュールの間だと見られる。

Bay Trailのダイ(PDF版はこちら)

 上側にあるのはGPUコアで、4EU(execution unit)の構成。各EUは、4-wayの浮動小数点積和算(FMAD)ユニットを備えるほか、別スレッドの命令で並列に動作できる4-wayの浮動小数点積和算ユニットを備える。それぞれが8FMADで、合計32FMADの演算ユニットを持つ。さらに左下側にはカメラ用のイメージプロセッシングユニットやディスプレイコントローラ、セキュリティエンジンなどを備える。右エッジは合計128-bitのDRAMインターフェイスでLPDDR3とDDR3系をサポートする。上下エッジにはI/Oパッドがあり、左側は各種I/Oユニット群で占められている。これは、Bay Trailがサウスブリッジチップ機能を同一ダイ(半導体本体)に取り込んでいるためだ。

Bay Trail SoCのブロックダイヤグラム

 ダイサイズ(半導体本体の面積)は、IDFでウェハが公開されたことで約105〜107平方mmであることが明らかになった。これは、先週発表された、サーバー向けのSilvermont 8コアの「Avoton」とほぼ同じだ。これを見ると、Avotonで4個のCPUコアが占めているのと同じ程度の面積をBay TrailではGPUコアが占めていることが分かる。

Bay TrailとAvotonのダイ(PDF版はこちら)

ブランディングを変更するIntel

 Intelは、Bay Trailからスモールコアを同社のメインストリーム向け製品として強くプッシュする。これまでのAtom系スモールコア製品については、IntelはPC市場のメインストリーム向けには推進して来なかった。PC市場はビッグコアのBridge(ブリッジ)系やHaswell(ハズウェル)で、スモールコアはメインターゲットはモバイル市場で、PC市場では日陰者扱いだった。

 IntelはブランドもPC向けCPUとは別のAtomブランドとし、Atom搭載製品をNetbookとカテゴライズして、ビッグコアとスモールコアは違う製品系列だと明確にした。こうした対応はAMDも全く同じで、スモールコアの「Bobcat(ボブキャット)」を投入する時に、EシリーズAPU(Accelerated Processing Unit)としてビッグコアとブランドを切り分けた。

 Intelがビッグコアとスモールコアを切り分けていた理由は明白で、自社製品のカニバライゼーション(共食い)を恐れていたからだ。IntelがスモールコアのAtomを出した時、コンピュータ業界ではIntel製品でのカニバライゼーションが起きると見ていた。利幅の大きいビッグコアのCPUで占めている市場が、低価格なスモールコアCPUが食ってしまう予測した。投資家は、PC市場でスモールコアの占める割合が増えることで、Intelの利益が減ることを懸念した。AMDも同様の懸念を持ったと見られる。

 だが、Intelは、Bay Trailから従来ビッグコアに付けていたCeleronとPentiumのブランドでPCカテゴリではスモールコアを売る。AMDもある程度同様でブランディングを変更している。スモールコア製品をこれまでより少し上の価格帯まで引き上げ、スモールコアを適用する製品分野を広げようとしている。ちなみに、Intelはタブレットやデタッチャブルタブレットについては、AtomブランドでBay Trail-Tを売る。

Intel、AMDのビッグコア/スモールコアのブランド変化
2013年後半から2014年前半にかけてのモバイル製品
2013年以降のデスクトップ製品
Bay Trail-Tベースのタブレット「Transformer Book T100」を紹介するASUSのJerry Shen氏(CEO, ASUS)。右はIntelのDr. Hermann Eul氏(Vice President, General Manager, Mobile and Communications Group, Intel)

ダイサイズから分かるIntelの戦略の変化

 この変化の理由は、Bay Trailのダイサイズを見れば一目瞭然だ。下はIntel CPUのダイサイズの一覧だ。Bay Trailは、従来のAtom系のスモールコア製品よりもダイが一回り大きい。Haswellのローエンドの製品よりダイが大きく、従来のメインストリーム向けCPUの枠内に入るダイサイズになっている。

Intel CPUのダイサイズ移行図(PDF版はこちら)

 これを32nm世代のSandy BridgeとClover Trail、22nm世代のHaswellとBay Trailのダイの比較にすると、もっと状況がよく分かる。32nm世代では、Sandy Bridgeのローエンドの2 CPUコア+GT1 GPUコアの構成よりも、Clover Trailの方がずっと小さい。ちなみに、この図はClover Trailと比較しているが、PC向けのローエンドAtomの32nm版だったCedarview(Cedar Trail)の方がさらにダイが小さい。

 ところが、22nmプロセスになると、Haswellのローエンドは100平方mm前後程度のダイサイズに下がる。それに対して、Bay Trailは105平方mm以上のサイズに大型化する。つまり、ビッグコアの2CPUのローエンドとスモールコアのダイサイズがほぼ同列になった。ダイサイズ的に違いがなくなったから、位置付け的にも違いがなくなったわけだ。ちなみに、AMDのスモールコアのKabini(カビニ)のダイサイズもほぼ同じだ。

Bay TrailはHaswellローエンドと同列に(PDF版はこちら)
BroadwellとHaswellを両手に持つKirk Skaugen氏(Senior Vice President, General Manager, PC Client Group, Intel)

 つまり、IntelとAMDともに、スモールコアの製品をダイサイズが小さな低価格&低コスト品ではなく、PC市場のローエンドCPUのダイサイズにまで持ってきた。そのために、ブランドや価格帯も混合するようになった。ちなみに、IntelはIDFで14nmのビッグコア「Broadwell」のダイも公開したが、こちらのダイサイズは80平方mm台と、さらに小さくなっている。

Silvermontの4コアとHaswellの2コアが同じサイズ

 スモールコアベースの製品のダイが大きくなったのは、CPUコア数を4コアに増やしたからだ。スモールコアの4コアと、ビッグコアの2コアが、ほぼ同じダイサイズで並んだ。つまり、マルチスレッド性能を重視してスモール4コアにするか、スレッド当たりの性能を重視してビッグ2コアにするかというチョイスに転換した。

 IntelやAMDのこうした戦略転換には、スモールコアCPUのサイズが4コアを搭載してもPC向けのローエンドに収まるダイサイズになったという事情がある。Intelは、初代AtomのLPIAコアである「Bonnell(ボンネル)」以降、LPIA系のCPUコアのサイズをどんどん小さくして来た。最新のSilvermontも、機能を大幅に拡張したにも関わらずダイは、微細化で小さくなっている。

Intel LPIA系のコア(PDF版はこちら)

 22nmのSilvermontコアは、28nmのCortex-A15コアのパフォーマンス最適化版の実装と同等レベルにまで縮小している。そのため、100平方mm程度の小さなダイに4コアを収めることが可能になった。

Intel、AMD、ARMのモバイルCPUコアサイズ(PDF版はこちら)

 Silvermontの賞賛すべき点は、ダイエリアを小さくしたにも関わらず、パフォーマンスは向上させている点。正確に言えば、ダイエリアはプロセス微細化から期待できるサイズより少し大きい程度に過ぎないほど抑えた。しかし、パフォーマンスは大幅に向上している。その背景には、初代のBonnellが、CISC(Complex Instruction Set Computer)命令でありながらインオーダー実行で、メモリストールが頻発するアーキテクチャだったという事情もある。Silvermontは内部パイプラインをアウトオブオーダー実行にしただけでなく、メモリアクセスも強化し、Bonnellの弱点を解消している。アーキテクチャの詳細は、IDFで技術セッションが行なわれたので、後ほどレポートしたい。

SilvermontとBonnellのブロックダイヤグラム(PDF版はこちら)

 こうした改良の結果、Bay Trailは、CPUコア性能を上げながら、CPUコア数を2倍にし、さらに動作周波数を引き上げ、GPU性能もアップさせた。パフォーマンス面で飛躍した結果、Bay TrailはIntelのバリュー&低消費電力帯のCPU製品の主軸として、従来ビッグコアが占めていた市場にも浸透しようとしている。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail