後藤弘茂のWeekly海外ニュース

MicrosoftがWindows Phone 8を発表



●カーネルから刷新され生まれ変わったWindows Phone 8
会場となったサンフランシスコマリオットホテル(Marriott Marquis San Francisco)

 Microsoftが「Windows Phone 8(Apollo)」の概要を発表した。Microsoftは、米サンフランシスコで、本日(現地6月20日)に「Windows Phone Summit」と題打ったイベントを開催。同社のスマートフォン向けOSの次期バージョンであるWindows Phone 8の概要を初めて公式に明らかにした。

 最大のポイントは、OSカーネルを刷新し、従来のWindows CE系カーネルからWindows 8系(厳密にはWinRT系に近いと見られる)カーネルへと入れ替えたこと。OSの心臓部分を刷新するため、同社のモバイルOSでは最大の変化となる。これによって、Windows NT系とWindows CE系に2分されていた同社のOSのコードベースが統一されることになる。プログラミングフレームワーク上の互換性が高まるほか、PC向けOSでの機能拡張がWindows Phoneにも迅速にもたらされるようになる利点も期待できる。

 Windows Phone 8は、機能的にも従来のWindows Phone 7.5から大きく拡張された。Windows Phone 8世代で、Microsoftプラットフォームのスマートフォンは、いよいよiPhoneやAndroid Phoneに対抗できるものになる。Windows 8とカーネルを共通化したことで、プログラミング面ではWindowsの強味をスマートフォンに持ち込むことができるようになる。一言で言えば、Microsoftの戦闘準備がようやく整ったと言える。Microsoft関係者はWindows Phone 7の発表後に「iOSやAndroidには周回遅れで、追いつくためのステップがWindows Phone 7。次のジャンプで追いつく」と語っていたが、その約束が果たされようとしている。

 Windows Phone 8は今秋発売の予定。ローンチ時のWindows Phone 8ハードウェアは、Microsoftの戦略パートナーであるNokiaのほか、Samsung、HTC、Huaweiから発売される。日本メーカーは入っていない。アプリケーションプロセッサはQualcommベースとなり、他のプロセッサはローンチ時点ではサポートされていない模様。50言語をサポートする予定。また、Windows Phone 8デバイスは、少なくとも18カ月間はアップデートが保証される。

 Windows Phone 8はカーネルや一部のプログラミングモデルも変わるため、互換性はある程度途切れる。Windows Phone 8自体はWindows Phone 7世代のアプリケーションを走らせることはできる。しかし、Windows Phone 7.x系のデバイスをWindows Phone 8にアップデートする道は閉ざされている。その代わり、Windows Phone 7.5デバイスに対しては、Windows Phone 7.8へのアップデートが提供される。


●Windows Phone 8とWindows 8で共有コア

 イベントでは、まずWindows Phone部門のTerry Myerson氏(Corporate Vice President, Windows Phone Division, Microsoft)が登場。Windows Phoneが市場に浸透していることをAmazonでのレーティングを例に説明した。

Terry Myerson氏(Corporate Vice President, Windows Phone Division, Microsoft)AmazonでのレーティングJoe Belfiore氏(Corporate Vice President)

 次に登場したWindows Phone Programを統括するJoe Belfiore氏(Corporate Vice President)は、Windows Phone 8の最大のポイントとして、Windows Phone 8とWindows 8で“共有コア(Shared Core)”となっていると説明。カーネル、ファイルシステム、ネットワークモジュール、マルチメディアモジュールなど、OSの中核要素が共通化されていると説明した。そのため、PC向けWindowsの最新の機能や幅広いハードウェアサポートがWindows Phone 8にも持ち込まれるほか、アプリケーションの移植も容易になるとした。Microsoftにとっても、Windows CE系とWindows NT系の2系統のOSを平行して拡張して行くのは、難しかったと推測される。

Microsoftはカーネルの共通化をシェアードコアと表現する

 その上で、Belfiore氏はWindows Phone 8の新フィーチャとして8つのポイントを公開した。下がそのリストだ。

(1)最新のハードウェアのサポート
(2)Internet Explorer 10搭載
(3)ネイティブコードプログラミングのサポート
(4)NFC(Near Field Communication)のネイティブサポートによるデータ交換
(5)高度なWallet機能
(6)Nokiaマップ技術の搭載
(7)ビジネス向け機能の強化
(8)カスタマイズ度を高めたスタートスクリーン


●マルチコアのサポートとIE10の移植

 (1)最新のハードウェアのサポートでは、マルチCPUコアのアプリケーションプロセッサに対応し、スペック上は64コアまでサポートする。ようやく、他のプラットフォームに追いついた格好だ。今秋発売されるWindows Phone 8対応スマートフォンはデュアルコアとなる。実際には汎用CPUコアを増やすことは、電力効率が悪いため、64コアはペーパースペックだろう。

 また、従来は単一解像度だったWindows Phoneのサポート画面解像度を3つに増やすことがアナウンスされた。WVGA(800×480ドット)15:9、WXGA(1,280×768ドット)15:9、720P(1,280×720ドット)16:9がサポートされる。また、従来解像度のWindows Phoneアプリは、OSレベルで新解像度にフィットさせられるため、アプリ側が新解像度に対応する必要はないという。また、microSDによるストレージ拡張もサポートされた。

 (2)Internet Explorer 10の搭載では、Webアプリケーションの実行パフォーマンスに大きな影響を及ぼすJavaScriptのパフォーマンスアップ(Windows Phone 7.5に対して4倍)が大きな変化だと説明された。これは、Webブラウザのレンダリングエンジンが、Windows 8版のIEと共通になったためだという。この点については、わざわざiOSとAndroidとの比較ベンチマークを出して、性能を謳った。HTML5の仕様のサポートも、より完全になった。また、エンドユーザーにとっては、フィッシングブロック機能により端末が保護されることも重要だとBelfiore氏は語った。

 (3)ネイティブコードプログラミングのサポートは、主にゲームをターゲットにしたものだ。現状のWindows Phone 8はARM命令セットベースだが、CまたはC++でのネイティブコーディングを通す。Windows 8との共有化によってDirectXを含めたAPIベースでの共通性とグラフィックスドライバの共通性が高まったことで、Windows 8とWindows Phone 8の共通ゲーム開発が極めて容易(super easy)になったと言う。ゲーム開発では、GoogleがAndroidでもネイティブコードをサポートしている(Androidは通常はDalvik VMベース)が、Googleのソリューションは複雑だとMicrosoftは言及した。


●NFCが大きくフィーチャされたWindows Phone 8

 (4)NFCのネイティブサポートによるデータ交換も、Windows Phone 8の目玉だ。スマートフォン同士や、Windows 8デバイスとの間でのNFCを使ったデータ交換が可能になる。もちろん、NFCタグからのデータ入力も可能だ。

 (5)高度なWallet機能の統合によってWindows Phoneの使い勝手が大きく増すこともMicrosoftは強調した。この機能により、クレジットカードやデビットカード、あるいはメンバーシップカードなども統合できる。また、NFCを使った「Tap to Pay」もサポートする。Microsoftは、この機能の使い勝手については、GoogleやAppleより優れていると説明した。カンファレンスでは、この機能の説明に時間が費やされた。

NFCを使ってWindows Phone 8からWindows 8へとデータを転送するWallet機能

 (6)Nokiaマップ技術の搭載は、スマートフォンで突如勃発した「マップ戦争」の3つ目のランナーだ。先週、AppleはiOS 6でGoogleマップではなく、Apple独自のマップを搭載することをアナウンスした。Googleもマップの大幅アップデートを発表した。両者に対して、Microsoftは、自社の弱味であるマップを、Nokiaとの提携で強化しようとしている。

 その結果、モバイルの3プラットフォームで、標準のマップサービスは3分裂することになった。マップとロケーション情報は、広告ベースのビジネスモデルに直結する。モバイル機器では、マップとロケーション情報からの検索が非常に多いからだ。言ってみればカネのなる木であるため、各社とも取り込みに力を入れ始めている。

 (7)ビジネス向け機能の強化についてもMicrosoftのBelfiore氏は言及した。企業情報の保護に神経を尖らすエンタープライズ向けの機能強化だ。この部分は、Windows 8カーネルベースになったことで、大幅に強化された。

 (8)カスタマイズ度を高めたスタートスクリーンは、じつは、見た目では最も目立つWindows Phone 8の新機能だ。Windows Phoneのユーザーインターフェイスはタイルベースだが、Windows Phone 8ではタイルのサイズや表示を自由自在にカスタマイズして、自分だけのUIを構築できる。

ユーザーがさまざまなカスタムUIを創り出すことができる例タイルのサイズと位置を変更する例

●AppleとGoogleの合間に開かれたWindows Phone 8イベント

 今回、MicrosoftのWindows Phone Summitの会場となったのはサンフランシスコ中心街にあるMarriott Hotel。毎年、ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)が開催される会場だが、地味なISSCC時の会場設定とは打って変わって、派手な会場に仕立てられていた。イベント後はレセプションも開かれ、会場設備だけでも、学会とはケタ違いのコストがかけられていた。

 当初は、Microsoftは開発者にターゲットを絞ったカンファレンスを行なうと言われていた。それが頷けるのは、この発表会が、AppleがiOS 6を発表した開発者向けカンファレンス「WWDC」と、Googleが次期Androidなどについて説明する開発者向けカンファレンス「Google I/O」に、期間的に挟まれているからだ。AppleのWWDCが6月11日~15日、Google I/Oが6月27日~29日で、どちらもサンフランシスコ。同じスマートフォン市場で対抗する他の2プラットフォームが開発者を集める、そのただ中に切り込む姿勢だった。

 しかし、フタを開けてみると、当初は「Windows Phone “Developer” Summit」となっていた仮称が、「Windows Phone Summit」となり、Developerの文字が抜けた。次世代Windows Phone 8の単なる紹介イベントになっていた。フルに2日間と見られていたイベント日程も、半日の発表イベントで、技術的な詳細は明かされなかった。また、ハンズオンも行なわれなかった(壇上ではエンジニアリングサンプルでのデモが行なわれた)。今秋という発表時期を考えると、開発者にはおそらく疑問符がつくイベントだ。