2014年9月3日

2014年9月2日

2014年9月1日


後藤弘茂のWeekly海外ニュース

PSP2とDS2は、iPhoneと携帯電話に勝てるか



●PSP2対DS2ではない、次の携帯ゲーム機戦争

 ゲーム業界の次の焦点は“PSP2対DS2”ではない。“携帯電話vs携帯ゲーム機”が焦点だ。携帯ゲーム機同士の戦いより、急激に伸びる携帯電話系ゲーム市場を前に、携帯ゲーム機というカテゴリそのものが生き残ることができるのか。それが大きなテーマになっている。

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は次世代携帯ゲーム機「PSP2」を、任天堂もDSファミリの後継となる「DS2」を準備している。どちらも正式名称はわからないが、すでにサードパーティによるゲーム開発の段階に差し掛かっており、秒読みが迫っている。つまり、ゲーム機戦争の次のフェイズはポータブルが戦場となる。

2004年E3でのSCEAプレスカンファレンスにて。PSPを持つ平井一夫氏(現ソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役社長兼グループCEO/ソニー執行役EVPネットワークプロダクツ&サービスグループ(NPSG)担当) 2004年E3での任天堂のDS発表の際にDSを持つ任天堂の岩田聡氏(代表取締役社長)

 例えば、PSP2は、すでに開発者に対してスペック概要が昨年(2009年)のうちに明かされ、一部のパートナーはすでにタイトル開発にかかっているという。DS2も、昨年の段階で一部のパートナーと作業に入っているという。このパターンの場合、6月のゲーム関連ショウ「E3」で何らかの発表が行なわれる可能性が高い。

 5〜6年前なら、これで新しいポータブルゲーミングの時代の幕が開けると盛り上がるところだが、今回は異なる。それは、携帯型デバイスでのゲーム市場が、iPhoneに代表される広義のスマートフォン(iPhoneとスマートフォンを別カテゴリとして区別する場合も多い)と携帯電話系のゲームの大波に飲み込まれつつあるからだ。特に、日本以外の地域では、この傾向が強い。

2003年PSP発表時のプレゼンテーション
2004年E3でのSCEAプレスカンファレンス 2004年E3での任天堂のDS発表

 iPhoneショック以前なら、携帯ゲーム機のゲームは、携帯電話のゲームと明瞭に差別化できた。数百の異なるプラットフォームに対応しなければならない携帯電話ゲームは、最大公約数のスペックに合わせるため、たいした内容にならなかった。チップスペックや端末のストレージにも限界があり、携帯ゲーム機には及ばなかった。

 しかし、iPhoneにより単一プラットフォーム(実際には世代間の差はある)での巨大アプリケーション市場が誕生したことで状況が一変した。今や、海外でのモバイルゲームの流れは携帯電話系に傾いており、あとは、経済上のエコシステムを打ち立てられるかどうかという状況になっている。ハードウェアスペックでも、スマートフォン系の向上が急カーブで進んでおり、携帯ゲーム機の優位は薄らいでいる。ゲーム機のようにスペックが固定されず、PC的に段階的に発展する携帯電話系デバイスは、携帯ゲーム機にとって性能でも大敵だ。

 こうした状況で、SCEにとっても任天堂にとってもライバルは、もはやお互い同士ではなく携帯電話&スマートフォンとなっている。そして、両社とも、その戦いに合わせて次世代機を開発していると言われる。対携帯電話の発想は、ハードウェア設計からコンテンツ流通に至るまで、全てに渡っているという。

●iPhoneによく似たPSP2チップ内部のIP構成

 SCEは、現在のPSPアーキテクチャでは、NURBSをサポートする独自設計GPUコアとカスタムMIPS系CPUコアやリコンフィギュラブルDSPといった、自社で手がけた特色のある機能ブロック(IP)の組み合わせを取った。しかし、PSP2では、ARM Cortex系CPUコアとPowerVR SGX5系GPUコアを使うと言われている。PSP2のこのIP構成は、iPhoneに代表されるスマートフォンで一般的なIP構成の延長にある。乱暴な言い方をすれば、PSP2の中身は、最先端スマートフォンと同じになる。これは、ゲーム機の伝統的な独自開発IPの世界から離れた、より一般的なチップアーキテクチャへと移ることを意味する。

初代PSPチップのブロックダイヤグラム(一部推定、PDF版はこちら)
初代PSPの3Dエンジン(PDF版はこちら)

 SCEのこの選択は、構図としてはスマートフォンに対抗するために、スマートフォン化するように見える。実際、ある業界関係者は「PSP2はiPhoneの影響を受けすぎている。これでは、PSP2が“iPhoneモドキ”と呼ばれても仕方がない」と言う。もちろん、コントローラレスのiPhoneと、ゲーム機としてコントローラを備えたPSP2ではフォームファクタは全く異なる。しかし、半導体レベルで見ると、両者は接近しているように見える。

 だが、これは必ずしもiPhoneを意識した結果ではないかも知れない。別な業界関係者は「金のかかる独自IP開発をやめて、汎用的なIPを買うとなると、選択肢がスマートフォンと似通うのは仕方がない」と言う。現実問題として、今のSCEには、チップ開発に、以前ほど金と時間をつぎ込む余裕がない。

 費用対効果で言うなら、むしろ別なところにコストをかけた方が効率がいい。これは、チップ開発にかつてない費用をかけたPS3が、ゲームコンソールの覇権を握ることができなかったことで、証明してしまった。チップの中核ブロックのアーキテクチャ開発は、ありモノのIPかセミカスタムIPで済ませて、別な部分に注力するという発想が、今は強い。

●GPUコアの選択で決まってくるチップ構成

 とはいえ、現状でモバイル機器向けでゲーム機にも使えそうなGPUコアで、ある程度の普及度を持っているIPは数少ない。最もポピュラーなImagination TechnologiesのPowerVR系以外では、NVIDIAのTegra系など数えるほどしかない。また、CPUコアとGPUコアの別ダイというソリューションは考えにくい。そのため、GPUコアの選択によって、同じダイに載るCPUコアアーキテクチャも自然に決まってしまう。半導体メーカーの揃えているIPによって、CPUコアの選択肢が決まってしまうからで、携帯機器ではARMコア+PowerVRが定番の1つとなっている。すると、チップのIPブロックの構成はスマートフォンに似てくるのもしょうがない。

 そう考えると、SCEがiPhoneに対抗するために同系のアーキテクチャを採ったというより、同じような開発モデルの結果、似たようなアーキテクチャ選択になったと考えた方がよさそうだ。もっと言えば、もはやハードウェア設計で戦う時代ではなく、その上のソフトウェア層や開発支援、ビジネスモデル、そちらが戦いのポイントであるとも言える。以前と比べるとハードウェアの独自性の利点は薄らいでいる。

 もっとも、当のAppleは、皮肉なことに、iPadから独自設計のカスタムIPへ向かっている。その背景には、iPhone系デバイスの、数の力、市場の勢い、そして利益の見込みがある。相対的に勢いのついているスマートフォン系と、勢いが鈍化すると見られている携帯ゲーム機という構図もある。

●特徴的なPowerVR SGXのパイプライン

 ただし、スマートフォンと同系列のアーキテクチャを採ってもパフォーマンスで差別化はできる。PSP2が採用すると言われているImagination TechnologiesのPowerVR SGX543は、マルチ“コア”型のアーキテクチャになっており、複数コアを載せることでスケーラブルにグラフィックスパフォーマンスをアップできる。SCEは4コア構成を採用することで、PSP2に次世代携帯ゲーム機として充分なグラフィックスパフォーマンスを与えると言われている。生パフォーマンスでは、同列の世代のスマートフォンを上回るだろう。

 また、SGX543はユニファイドシェーダ型のアーキテクチャでもあり、その点で、現在のシェーダグラフィックスに対応できる。もっとも、PowerVR系は「Tile-Based Deferred Rendering (TBDR)」と呼ぶ手法を取るため、グラフィックス面ではPC系グラフィックスとは異なるボトルネックに注意しなければならない。

 下は、Imagination Technologiesが公開しているPowerVR SGX系のコア構造を、一般的なPC向けGPUと同列に比較できるように書き換えたものだ。PowerVRでは、まずシーンのジオメトリパイプラインの処理を全部まとめて行なってしまう。頂点シェーダプログラムのアウトプットは、タイリングコプロセッサに出力され、ここでクリッピングやカーリングといった、余計な頂点の削除が行なわれる。そして、その後、頂点データはメモリにストアされる。

PowerVR SGXのコア構造(PDF版はこちら)

 ジオメトリパイプの処理が終わると、次にフレームバッファの四角いタイル単位のピクセルレンダリングが行なわれる。該当のタイル毎のトライアングルデータが、ピクセルデータマスタによって取り込まれる。ピクセルシェーダプログラムの出力は、最後にピクセルコプロセッサに渡され、オンチップのタイルバッファメモリに書き込まれる。このタイルバッファメモリは、ピクセルコプロセッサにぶら下がっており、システムバスに連結されていると推測される。

PowerVR SGXのパイプライン(PDF版はこちら)

●GPUでの汎用アプリケーションの実行も可能

 流れを見るとわかる通り、このアプローチでは、メモリ帯域を圧迫するZバッファリングなどは必要がない。ピクセルの最終段の処理もオンチップメモリで行なわれる。相対的にメモリ効率がいいアーキテクチャで、メモリ帯域とメモリ量が限られる携帯機器に向いている。

 しかし、ボトルネックもある。1つはジオメトリ処理が終わった段階で、メモリにストアすることだ。例えば、PowerVR Insider Newsletterでは、最適化の際に、頂点スループットがメモリスループットに制約されることを注意する必要があると呼びかけている。もちろん、これはコアを含むSoCチップのメモリ帯域に依存する。ゲームに特化するPSP2では、メモリ帯域は広く取るだろう。しかし、将来的な発展性の面でもDirectX 11的な、ジオメトリリッチなアーキテクチャには向いていないと推定される。

 PowerVR SGXで面白いのは、このチップファミリがGPUでの汎用(General Purpose)アプリケーションの実行、いわゆるGPGPUにも積極的に対応していること。今となっては旧世代のPS3のGPU「RSX」とは異なり、ユニファイドシェーダ型のプロセッサアーキテクチャで、パイプラインの制御を行なうブロックに汎用アプリケーションのためのユニットを持つ。

 PSP2のような携帯デバイスで、GPGPU的な使い方ができると、かなり展開が異なってくる。例えば、カメラからの画像の認識など、ゲームと非ゲームアプリを含めてさまざまな場面で利用できるからだ。もちろん、GPUコアをガンガン回すとなると電力消費の問題があるが、そこに目をつぶれば、面白い使い方ができそうだ。

 ただし、PSP2が採用すると見られるPowerVR SGX543は、OpenCL 1.0対応を謳っていない。OpenCL 1.0対応とされているのは、次世代iPhoneが採用するとウワサされているPowerVR SGX545だ。このあたりは、ハードウェア的な制約なのかどうか、まだわかっていない。

 全体で見ると、この世代のハードウェアも、それなりに面白い使い方ができそうだ。とくに、GPGPUによるデータ並列型のコンピューティングは、新しい地平を切り開く可能性がある。もちろん、それを使えるSDK(Software Development Kit)が用意されればの話だ。