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FinFETプロセスで2倍以上のGPU性能になった「PlayStation 4 Pro」

スリム版PS4と、パフォーマンスアップ版PS4 Pro

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、ニューヨークで開催したプレスカンファレンス「PlayStation Meeting」で、新PS4ラインナップを発表した。性能を大幅にアップしたPS4 Proと、機能はそのままだが、スリム&軽量になったPS4の2系列。PS4 Proが「CUH-7000シリーズ」、スリム版が「CUH-2000シリーズ」で、どちらも、APU(Accelerated Processing Unit)が新チップになっており、16nm FinFET 3Dトランジスタプロセスで製造される。

PlayStation Meetingの会場となったニューヨークのPlayStation Theater

4K/HDRディスプレイの時代に合わせたPS4

 PS4 Proは、APUが強化され、GPU性能は2倍以上、CPUやメモリも強化された。位置付けとしては、4K/HDR(High Dynamic Range)時代に対応した機能強化版だ。

 PS4ファミリーのリードアーキテクトであるMark Cerny(マーク・サニー)氏は、4K、HDR、HDTV、PlayStation VRの4つをPS4 Proのキーワードとして挙げた。もっとも、HDRについては、これまでに発売した全てのPS4で、ファームウェアアップデートにより対応することも発表した。PS4 Proは、4K/HDRで、よりリッチな映像を楽しめる機種となる。

PS4 ProではGPUをアップグレード、CPUを高速化、ディスク容量も増やす
PS4 Proでは4Kディスプレイへの対応を強く謳う
4Kの精細な表現による質感
PS4 Proの4つのキーワード

 従来、ゲーム機は単一スペックのフラットなプラットフォームだった。ゲーム機のライフサイクルを通じて、ほぼ同一スペックのまま据え置かれていた。しかし、PS4世代でついに変化が起き、1段性能の高い機種が派生した。チップ的に見ると、16nm世代で、従来のPS4 APUのシュリンク(縮小)版と拡張版の2つに分かれたことになる。

 もっとも、SIEは、PS4 ProがPS4に対して上位互換性を保ち、共通タイトルが維持されることを強調する。同じゲームをPS4 Proで走らせると、グラフィックスがよりリッチなるが、ゲームプレイ自体の体験は共通させる。

【訂正】初出時にPS4 Proが2バイナリ/2アセットとしておりましたが、1バイナリであるとSIEから訂正が入ったため、該当部分を修正いたしました。

 SIEのアンドリュー・ハウス氏(社長兼グローバルCEO)は、「ワンコミュニティ」という言葉でコンセプトを表現した。PS4とPS4 Proは共通のゲームをプレイできるが、PS4 Proでは、より高い品質のゲーム体験ができるという位置付けだ。

アンドリュー・ハウス氏(SIE 社長兼グローバルCEO)
PS4 ProとPS4は共通のコミュニティに属し、共通のゲームをプレイできるが、PS4 Proではより品質の高いゲーム体験ができる
新しいスリムタイプのPS4

GPUコアは演算ユニット数を2倍に

 PS4 ProのGPUコアは、演算コアであるCU(Compute Unit)が従来のPS4の2倍に増えた。PS4のCUが18個であるのに対して、PS4 ProのCUは36個となっている。1個のCUは、16-wayのFP32浮動小数点演算ユニットを4個備える。CU当たり、FP32ユニットが64個となる。チップトータルの演算ユニット数は、PS4の1,152個に対して、PS4 Proでは倍の2,304個となる。これをAMDのディスクリートGPUと比較すると、「Radeon RX 480 (Polaris 10)」と同数となる。

 PS4 Proは、GPUコアを911MHzで駆動する。従来のPS4は800MHzだったため、動作周波数でも性能が上がる。PS4のGPUの演算性能は1.84TFLOPSで、PS4 Proは4.2TFLOPSとなる。PlayStation Meetingにて、Cerny氏は2倍以上のGPU性能と説明している。

AMD系GPUコアのCU(Compute Unit)アーキテクチャ

 ちなみに、PS4 Proの36 CUは、有効になっているCU数であり、物理的に実装しているCU数は数%多いと見られる。ゲーム機のチップの場合、歩留まりを上げるためにコア数に冗長性を持たせるのが一般的だからだ。GPUコア部分のロジック回路は配線が極めて稠密で、配線やビアにあまり冗長性がない。そのため、ダイ(半導体本体)上に欠陥が発生すると、欠陥を含むCUが正常に動作できなくなる。この問題を解決するため、CU自体に冗長性を持たせて、数%のCUが動作できなくても、チップとして問題がないように設計する。ディスクリートGPUの場合は、欠陥が多いダイはCU数の少ない廉価品として販売できるが、ゲーム機の場合はそういかない。そのため、演算コアに冗長性を持たせるのが一般的だ。

 PS4 ProのGPUコアは、演算ユニットであるCUは拡張したが、コマンドプロセッサ部は拡張されていない。コンピュートを制御する「ACE (Asynchronous Compute Engine)」も8ユニットのままだ。また、レンダリング部のROP(Rendering Output Pipeline)も従来通りと言う。シェーダ性能の向上を目指した拡張となっている。

 また、PS4 Proでは、ディスプレイパイプも1本で、2系統のディスプレイに出力することができない。そのため、バーチャルリアリティの「PlayStation VR」についても、ヘッドマウントと通常ディスプレイへの2画面出力を、PS4 Pro単体で行なうことができない。現在のPS4同様、PSVRのサポートには、2画面出力を行なうプロセッシングボックスが必要となる。

新しいPlayStation 4(PS4) ProのAPUアーキテクチャ(一部推定)
PDF版はこちら
PlayStation 4(PS4)のAPUアーキテクチャ
PS4のリードアーキテクトであるMark Cerny(マーク・サニー)氏

周波数をアップしたCPUとメモリ

 PS4のCPUコアの動作周波数は1.6GHzで、SIMD(Single Instruction, Multiple Data)のFP演算性能は102.4GFLOPS。それに対して、PS4 ProのCPUコアの動作周波数は2.1GHzで、FP性能は計算上134.4GFLOPSとなる。CPUコア数はオクタコア(8コア)で変わらないが、周波数の向上によって、性能は大幅に伸びている。

 PS4 ProのCPUコアは、PS4と同じAMDの省電力CPUコア「Jaguar」系列だが、最新の「Tiger」コアとなっている。Tigerは、マイクロアーキテクチャが改良され、FinFETプロセスに最適化されたコアだ。AMDのJaguar系CPUコアは、シンセサイザブル(論理合成可能)コアだが、セイセサイザブルなARMコアと同様に、各プロセスに最適化される。FinFETプロセスに最適化されたTigerコアにより、PS4 Proは、より高周波数でCPUを動作させることができる。アーキテクチャ面での性能向上はまだ分からない。

AMDのJaguar系CPUアーキテクチャ

 メモリ回りは256-bitインターフェイスのGDDR5のまま。しかし、GDDR5の転送レートを引き上げたため、メモリ帯域も拡張されている。PS4のメモリ帯域は176GB/secだったのに対して、PS4 Proは217GB/sec。PS4ではデータ転送レートが5,500Mbpsだったが、PS4 Proでは6,800Mbpsに引き上げられている。GDDR5自体のスピードイールドが上がっているためと推測される。

 SIEはPS4の設計時に、DRAMのコストダウンの布石を打っている。当初は4G-bit容量のGDDR5をx16で使って16個でx256のインターフェイス構成。これを8G-bit容量のGDDR5をx32で使い8個に減らすことができるようにした。GDDR5自体はx16とx32の切り替えが可能となっている。

 当初の記事で、SIEへの取材をベースにPS4 ProのGDDR5のチップ個数は16個で初代PS4と同じと書いたが、それは間違いで、PS4 Proでは8個に減っている。現行機種で8G-bit品が8個になっているが、PS4 Proでも同様に8G-bitとなる。ちなみに現状では、HBM(High Bandwidth Memory)などのスタックドメモリはコストが高くゲーム機に使えない。GDDR6は2017年末から2018年で間に合わず、選択肢がGDDR5しかない。

PS4 ProのDRAM

FinFET時代のゲーム機

 SIEはスリム版PS4を9月15日に投入する。現在の「CUH-1200 シリーズ」に対して、30%以上小型化され、重量は16%減、消費電力は28%下がる。価格レンジは米国で299ドル、日本で29,800円。一方、PS4 Proは11月10日発売で、米国399ドル、日本44,980円となる。

新型スリムPS4は、従来のPS4より価格を引き下げ。PS4 Proは上位機種として100ドル~1万5,000円の価格差がつく
新PS4ファミリに合わせて周辺機器も新デバイスが

 この2シリーズの背景には、言うまでもなくチップのプロセスシュリンクがある。今回は、PS4もXbox Oneも28nmプロセスでスタートし、その次にFinFETプロセスによって、消費電力が下がり、性能がアップするタイミングが来た。そのため、ゲーム機をスリムにしたり、拡張するチャンスが産まれた。FinFET時代のゲーム機、それがPS4 Proだ。

ファウンドリ各社のプロセスロードマップ
これまでとパターンが異なるPS4のプロセス移行

【22時30分訂正】記事初出時よりメモリに関する記述および図を改めました。