後藤弘茂のWeekly海外ニュース
新メモリ技術「3D XPoint」が準備段階に
~IntelはOptane、MicronはQuantXとして製品が登場
2016年8月16日 16:07
Micronは独自ブランドQuantXとOEM供給で3D XPointを立ち上げ
IntelとMicron Technologyが共同で開発した次世代メモリ「3D XPoint」が、いよいよスタートラインに立つ。Micronは、3D XPointメモリを独自ブランドSSD「QuantX」として発売する。ちなみに、Intelは3D XPoint技術の製品をブランド「Optane」で提供する。両社は、同じ3D XPointベース製品をそれぞれ別のブランドで発売する。
さらにMicronは、SSDメーカーなどに3D XPointチップを供給するという。来年(2017年)には、IntelとMicron以外のメーカーブランドのSSDも登場することになる。一言で言えば、Micronはこの新メモリをIntelとMicronの狭いチャネルではなく、より広い範囲で市場に供給する戦略を打ち出したことになる。
3D XPointについては、昨年(2015年)の発表時にIntelがSSDとDIMMで投入することを明らかにしていたが、製造するMicronの動きは今一つ明確ではなかった。しかし、Micronは、先週米サンタクララで開催されたメモリカンファレンス「Flash Memory Summit」でQuantXブランドを大々的に公開。また、技術セッションやブース説明などで、大まかな戦略や背景の理念も説明した。
また、Micronは既存のNAND SSDに対して、3D XPoint SSDがランダムアクセス性能の指標であるIOPS(I/O per Second)では、圧倒的な性能となることを強調。IOPS性能が求められるエンタープライズストレージでは、3D XPointベースのQuantX SSDが魅力的な選択肢になると宣言した。簡単に言えば、既存のSSDよりもはるかに高性能で、従来とは異なる使い方ができるSSDになるということだ。
Micronは、3D XPointの性能の高さと、それに対しての容量あたりのコストの高さから、当面はデータセンタ向けの製品にフォーカスして行く見込みだ。米国では、コンシューマPCへのSSDの浸透はゆるやかで、データセンタへのSSDが急激に進んで来ている。
Micronは3D XPointでその市場を狙う
3D XPointは、今週サンフランシスコで開催されるIntelの技術カンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」でも焦点の1つになることは間違いない。IDFで、Intelは3D XPointの技術内容をさらに公開、それと同時に、同社の製品プランの詳細も明かすと見られている。Intelは、既に3D XPointのサンプルSSDを大手顧客に提供していると、FacebookはFlash Memory Summitで明かしている。
Intelは、3D XPointをSSDだけでなく、DIMMソケットに据えるメモリデバイスとしても提供する。後者については、DIMMソケット上の3D XPointを、将来的にどう扱うかが注目される。ただし、スタート時点では、同じメモリバス上のDDR4 DIMMをライトバックキャッシュのように使うことで、3D XPoint DIMMの容量をメモリ空間としてフルに使いながら、DRAMの書き込みスピードを両立させると見られる。
セレクタ材料に特色がある3D XPoint
3D XPointは、IntelとMicronの共同開発による新不揮発性メモリだ。ポイントは、クロスポイントメモリである点。つまり、ワードラインとビットラインの交点の間にメモリセルを構成する。クロスポイントメモリは特にユニークな技術ではなく、次世代メモリの論文ではよく見かける技術だ。
3D XPointは、クロスポイントなので、1層(1デッキ)なら「4F2」のメモリセルサイズになる。3D XPointはこの構造を積層することで、3次元の厚み方向のメモリセル密度を稼ぐ。現在の製品は、2デッキ、つまり上下に2段のメモリセルとしている。メモリセルサイズ的には、2F2相当の計算になる。
3D XPointのもう1つの特徴はセレクタにある。3D XPointは、メモリ素子とセレクタを積層した構造となっている。3D XPointのメモリ素子はカルコゲナイド材料のPCM(Phase-Change Memory: 相変化メモリ)、セレクタはOTS(Ovonic Threshold Switch)と言われている。3D XPointの製造面での懸念材料はこのセレクタで、Flash Memory Summitでの3D XPointの解析セッションでも、セレクタがチャレンジになると指摘された。
3D XPointは、今後はメモリセルの積層数を増やす(=z方向の要素数を増やす)と同時に、メモリセルの縦横サイズ(xとy)を微細化することで大容量化する。ただし、メタル配線層の間にメモリセルを配置するため、構造上積層できる数に制約がある。あるメモリ業界関係者は、通常なら4層程度が限界と言う。それ以上に積層できる可能性はあるが、現在64層の3D NANDと比べると積層できる数には隔たりがある。大容量では3D NANDには当面は追いつけそうもない。
しかし、3D XPointには性能とランダムアクセスの利点がある。ページベースの大きな粒度でしかアクセスできないNANDと異なり、3D XPointメモリはDRAMのようなワードベースの細粒度のアクセスが可能だ。よりDRAMに近いため、CPUにより近いメモリとして扱いやすい。DRAMの完全な代替にはならないが、DRAMに近く、DRAMより大容量で不揮発なメモリとして使うことができる。
現在の3D XPointは、チップ容量が128G-bit。つまり、ワンチップで16GBの容量を持つ。NANDフラッシュは、既に256~384G-bitなので、NANDには容量で及ばないが、善戦はしているように見える。
しかし、20nmの3D XPointのダイサイズ(半導体本体の面積)は200mm程度と言われており、メインストリームのNANDダイと比べると数倍サイズが大きい。NANDフラッシュと比べると、容量あたりの製造コストはかなり大きい。しかし、DRAMと比べると容量あたりのコストはかなり低くできる。
Flash Memory Summitでは、本格的な量産に入る2017年の時点でMLC NANDに対して3.5倍の容量あたりコスト、DRAMに対しては50%以下の容量あたりコストになると推測されていた。
システム性能の制約はプロセッサからメモリ/ストレージへと移行
3D XPointメモリは、プロセッサメーカーであるIntelにとって、じつは死活的に重要な技術だ。なぜなら、システム性能の制約は、プロセッサではなくメモリ/ストレージ階層にどんどん移ってきたからだ。特に、電力あたりの性能では、メモリ/ストレージ階層のインパクトが大きい。遠いストレージからプロセッサまでデータを運ぶための電力とレイテンシが、性能を削ぎ、電力消費をアップさせてしまう。
Flash Memory Summitでは、Micronから3D XPointメモリを担当するSteve Pawlowski氏(Vice President, Advanced Computing Solutions, Micron)が登場。コンピューティングにおいて、3D XPointのような新しい「パーシスタントメモリ(PM: Persistent Memory)」が重要となる背景を説明した。非常に興味深いのは、Pawlowski氏がつい最近までIntelでプロセッサのリサーチのトップだったことだ。
Pawlowski氏は、かつてはCPUの命令セットが重要だったが、現在はデータをどう動かすかの方がより重要になったと説明。データの移動がエネルギーを必要とするため、データをできる限りプロセッサの近くに置く必要があると語った。特に、エクサスケール世代のスーパーコンピュータになると、メモリとストレージの間に大容量の階層がなければ、電力的に実現が難しいとした。
つまり、Intelは今後のプロセッサの性能と性能/電力を向上させ続けるために、新しいメモリを切実に必要としている。Intelの中で、エクサスケールも含めて将来のCPUの研究を率いていたPawlowski氏が、Micronで3D XPointの担当をしている意味は大きい。Intelが3D XPointの監督をさせるために送り込んだのかもしれない。
メモリのカンファレンスであるFlash Memory Summitでは、3D XPointのコンビのうち、Micronからのビジョンと戦略が示された。明日からのIDFでは、片割れであるIntelからのビジョンと戦略が示されることになる。