石井英男のデジタル探検隊

セルシスの人型入力デバイス「QUMARION」開発者インタビュー
〜コミックの下絵にも最適なデバイスの誕生秘話と今後の展開



 セルシスの人型入力デバイス「QUMARION」は、人型フィギュアを自由に手で動かし、そのポーズをPCに取り込むことができるという画期的な製品だ。QUMARION本体と専用スタンド、ソフトウェアなどがセットになった「QUMARION初回限定パッケージ」は、6月21日から予約受付が開始されており、7月下旬に発送される予定となっている。

QUMARION

 QUMARIONについては、すでに本誌でフォトレビューを行なっているので、その使い方や使用感についてはそちらを参照していただきたい。QUMARIONを利用することで、これまでは習熟と根気が必要だった3Dキャラクターのモーション作りが飛躍的に簡単になり、初心者でも気軽に3Dキャラクターによるムービーが作れるようになる。

 今回は、QUMARIONの主要開発メンバーにインタビューする機会を得たので、誕生経緯や開発時の苦労点、今後の展開などをじっくりと訊いてみた。今回、インタビューに対応していただいたのは、ソフトイーサ株式会社の伊藤隆朗氏、株式会社ビビアンの久池井淳氏、株式会社セルシスの青山典晃氏の3名である。

●コミックの下絵を描くのに便利なデバイスが欲しいという発想が元
ソフトイーサ株式会社技術開発部グラフィック部門の伊藤髦N氏

 QUMARIONは、「QUMA技術」と呼ばれる独自のセンサー技術を搭載した人型入力デバイスである。QUMA技術は、元々ソフトイーサ株式会社が中心となって開発した技術である。ソフトイーサといえば、PacketiX VPNなどのネットワーク関連ソフトで有名だが、なぜこうした分野に進出したのか、そのあたりを訊いてみることにした。

− ソフトイーサといえば、VPNとかネットワーク関連の業務が主だと思っていたのですが、なぜQUMA技術の開発に取り組んだのか、その経緯を教えて下さい。

伊藤 もともとは、ビビアンの久池井さんが着想したものです。彼はもともとフィギュアの原型を作っていて、個人でコミックも描いていました。あるとき、とあるロボットものの3Dアニメーションをコミカライズしようという企画があったのですが、その時の作者さんがロボットを描けなかそうです。はじめは、漫画家さんにアニメで使用していた3Dモデルを提供することで解決しようとしたのですが、漫画家さんが3Dソフトの操作が行なえず、それでも描くことが出来なかったそうです。そこで、久池井さんが当時作っていたその作品のロボットのフィギュアを貸し出して、写真に撮り、その写真をトレースして無事にマンガが描けたそうです。そうした経緯があって、こういうデバイスがあれば、3Dキャラクターを動かしてコミックを描けるので楽になるのではと、久池井さんが思いついたわけです。私と久池井さんは、IPA、独立行政法人情報処理推進機構の未踏ユースで知り合ったんです。登(筆者注:ソフトイーサ代表取締役の登大遊氏)もそうなんですが、私も久池井さんも全員採択者です。

ソフトイーサ代表取締役の登大遊氏

− じゃあ、皆さん、スーパークリエータなんですね。すごいです。

伊藤 全員が未踏の採択クリエータです。久池井さんはスーパークリエータは受賞していませんが、未踏のクリエータの中でも異才のクリエータです。そのときに私はすでにソフトイーサの社員で、ソフトイーサは研究開発系の企業ですから、新しい面白いことがあったらやっていこうということで、是非やってみようと始めたのが、弊社で進めていくことになったきっかけです。

− それはいつ頃ですか。

伊藤 思いついてやり出したのは2008年冬です。その後、3Dデータを活用する会の理事の方が、秋葉原で「つくばの日」という講演会の音頭をとってらして、そこでちょっと発表しないかというお誘いを受けました。そこで発表するためにQUMA技術のプロトタイプを作り、発表したところ、セルシスさんにお会いし、一緒にやることになりました。それが確か2009年10月30日です。

2009年に製作されたプロトタイプでは、熊のぬいぐるみが使われていた

− その時点では、熊のぬいぐるみの形だったんですか。

伊藤 はい、その時点で、と言うよりもそこにあわせるために急ピッチで仕上げたものがあれです。

− それでは、最初からポーズを取り込むための人型のデバイスを作ろうという感じだったのでしょうか。それともセンサー技術だけをパーツとして提供する感じだったんですか。

伊藤 どちらかというと、パーツを組み合わせて作れるような仕組みを中心にやっていこうと思っていました。最初は人型を組めるキットみたいなものにしようかなと、そういう話で始めましたね。

●ポテンショメーターを使ったエンコーダで角度を取得

 QUMARIONには、センサーが取り付けられた関節が16個あり、1つの関節には2個ずつセンサーが搭載されているため、センサーは合計で32個となる。また、リリースには掲載されていなかったが、加速度センサーも搭載しており、QUMARIONが地面に対して、どのように傾いているかという情報も取得することができる。そこで、そうしたセンサー周りの話を訊いてみた。

− QUMARIONは、関節が16個あって、センサーの数は32個ですよね。1つの関節にセンサーが2つずつ付いているわけですか。

伊藤 はい、そうです。

− どういう風に角度を読み取っているんですか。

伊藤 エンコーダ(筆者注:角度や位置を検出するセンサー)です。

− 普通のポテンショメーター(可変抵抗器)を使ったロータリエンコーダですか。

伊藤 はい。物自体は普通のポテンショメーターを使ったエンコーダですが、このスペースに頑張って実装しました。

− QUMARIONは、スマートなフォルムも素晴らしいですよね。センサーを入れると関節が太くなったりしがちなので。もちろん、デザインした原型師の方もすごいと思いますが、ハードウェアとしても洗練されていると思います。では、センサーは一から開発したというわけではなく、既存の製品で小さくて十分な精度のものを探して使っているわけですね。

伊藤 そうですね。やっぱりコンシューマー用として販売したかったので、一から新たに開発するのでは、どうしても高いデバイスになってしまいますので。

− それから加速度センサーも入っているんですね。

伊藤 はい。

− リリースには特に書かれてなかったようなんですが、加速度センサーをオンにすると、前後左右、2軸で傾きを検出できますよね。やっぱりあると便利だと思います。ダンスのモーションなどを作るときに非常に有効だと思いますが、これも最初からのアイデアだったのでしょうか。

伊藤 最初、加速度センサーなしでプロトタイプを作ってみたのですが、イマイチ、ポーズが反映されている気がしなかったんです。直感的にポーズが決まらず違和感があると考えていたところ、体幹の傾きもとらないといけないと思い、後からつけました。

− ヨー軸方向の回転は検出してないですよね。ジャイロセンサーも積めば、首の周りのヨー軸方向の回転もとれると思いますが、あえて入れてない感じですか。

伊藤 そうですね。技術的には可能なのですが、PCにつないですぐに使えるということを重視しました。ジャイロだと挿して、「画面に表示された向きをとらせて下さい」とソフトを起動するたびに、キャリブレーションする必要が出てきてしまいます。しかも、使っている内にどんどんずれてきますので、「再キャリブレーションして下さい」のようなメッセージを使用中に出すのはできるだけ避けたいと思いました。

− どちら向きかというのは、ソフトの方で指定してやる感じですよね。

伊藤 はい。そういった部分はどちらかというと、ソフト側での指定の方が便利なのではないかと思っています。ソフトで苦痛のない部分は無理にハードウェアに持って行く必要はないと思い、このような仕様にしています。

●30cmのサイズにセンサーを搭載するのが一番大変だった

 QUMARIONは、ハードウェアとしての完成度も高いが、この形になるまでにはかなりの試行錯誤を繰り返したという。中でも大変だったのが、身長30cmという使いやすいサイズに、センサーを実装することであったという。また、ワイヤーの耐久性についても、試験を繰り返して、丈夫なワイヤーを選定したという。

− ハードウェアの開発で、苦労された点はなんでしょうか。

伊藤 やはり、ハードウェアの開発では、このサイズ、スペースに納めることが一番大変でした。初期の設計ですと、これくらい関節をいれて、それなりのフォルムにしようとすると、身長が50cmくらいになってしまう計算でした。ちょっと机の上に置いておくには大きいですよね。逆に小さすぎると今度は動かしづらくなってしまうため、ちょうどいいサイズが重要です。そのため30cmくらいにまとめたいとは考えていたのですが、身長30cmでかっこよく納めるにはセンシング部分の設計をもっと小さくしないと難しいという話になりまして、このサイズに抑え込むのが大変でした。

屈曲性に優れたワイヤーを採用。ワイヤーはコネクタで接続されており、メンテナンス性も高い

− ワイヤーの耐久性とかは大丈夫ですか。

伊藤 そこも苦労しました(笑)

− 何度も深く曲げるわけですからね。

伊藤 はい、屈曲試験もしました。ワイヤーも中に入れようと言う話もあったのですが、中に入れてしまうと関節がすごく太くなってしまいます。これが理由の1つです。もう1つの理由としては、外に出した方がメンテナンス性がいいということもあります。

− これはコネクタになってますけど、外して取り替えられるんですか。

伊藤 外せます。ユーザーさんには外さないでいただきたいですが(笑)。

●指パーツやつま先にこだわったのもポーズの表情のため
株式会社ビビアン代表取締役CEOの久池井淳氏。QUMARIONの元々のアイデアを思いついたのが彼だ

 QUAMRIONは、デザインが素晴らしいことも、話題を集めた要因の1つであろう。単にポーズを入力するためのデバイスというよりも、それ自体が造形物としての魅力にあふれている。このデザインへのこだわりについて、QUMARIONの元々の発想者である久池井氏に訊いてみた。

− 今度はデザインについてお訊きします。このフォルムがかっこいいとネットでも話題になりましたが、こういう形になった経緯とか、この辺のデザイン、例えば、足のつま先もちゃんと曲がりますよね。それから、指のパーツも何種類かありますけど、直接その指の形を取り込めるわけじゃないですよね。

久池井 はい、そうですね。

− つま先に関しても、つま先部分の関節にはセンサーは入ってないですよね。

久池井 はい。

− その辺も面白いなと思うんですけど。

QUMARIONには、手先パーツが何種類か付属しており、取り替えられるようになっている

久池井 QUMARIONをデザインしていただいたのは、浅井真紀さんっていう、有名なフィギュアデザインの方なんですが、つま先や手先は、浅井さんが入っていらっしゃる前から、このようにしたいと考えていました。なぜかといいますと、手で何かポーズをつけるとき、剣とか銃を持たせるか、持たせないかで、感じが変わるんですよね。実際に剣とか銃とか持たせると、ポーズを付けるときに、バリエーションがどんどん増えていく。例えば、手先は交換が可能なので、ワンダーフェスティバルとか、そういったところで、QUMARION用の手を、アマチュアのフィギュアとかを作っている方が作っていただけたりとか。また、1/6ドールとかの持ち物をちょっとした加工で付けられるので、手先にも表情を付けていけるようになっていったらなあと思っています。

 あと、足のつま先というのも、表情なんですよね。つま先の角度を変えると、実際のブツでも表情が違うし、CGの中でも表情が変わってくるんですね。その辺りを、ユーザーの方にスムーズにイメージしていただいきたいと思っていて、そういうものをできる限り入れていこうとやっております。

●ラピッドプロトタイピングを活用して短期間の開発に成功

 QUMARIONの開発にあたって、多大な役割を果たしたのが、ラピッドプロトタイピングという手法だ。ラピッドプロトタイピングとは、その名の通り、迅速に試作品を作るというやり方で、具体的には3Dプリンタなどを活用して、CADデータを元にどんどん試作品を作り、実際に試してみて、その結果またCADデータにフィードバックしていく方法だ。試作品のために金型を起こしていては、コストも時間も非常にかかってしまうが、3Dプリンタで試作品を作れば、開発にかかるコストや時間を大きく削減できるのだ。

− QUMARIONの開発の際には、ラピッドプロトタイピングというか、3Dプリンタをかなり使われたと訊いたんですが、このボディ自体を作るのに3Dプリンタを使われたんですか。

久池井 はい、そうです。

伊藤 実は金型を使った成形品ができたのは、つい最近です。

久池井 成形品ができたのは今年(2012年)の3月からで、それまでは全身ラピッドプロトタイピングでした。なぜ、ラピッドプロトタイピングでやったかというと、1回金型を起こしてこういう成形品を作るには、金型代から工場探しから多くのコストがかかります。できる限り、コストをかけずに検証していきたいのですが、かといってCADのデータを見たところで、やはり実際に動かしてみないと、触り心地とかクリアランスとかが分からないので、そういったところをラピッドプロトタイピングでどんどん出力しました。だから、一番最初のバージョンでも、関節部分は3Dプリンタを利用して作っています。あとはプラモデルも活用しています。手足の長さは一定にしたいので、工業製品を使うのがいいだろうと。全部揃っているのはプラモデルだから、プラモデルにセンサーを組み込んでいくためには、どうやるのがいいのかっていうことから始まりました。

− デザインが最終的に決まった状態で金型を起こしたわけですか。

伊藤 金型までの設計プロセスのお話になりますと、デザイン→CAD化→詳細設計→金型という手順を踏んでいます。浅井さんがまず粘土原型を作りました。それを3Dスキャンすると、点群データになります。そこから面貼りという作業にかかり、造形をCADデータ化します。その段階で実は1段階、元のデザインの印象を保ちつつ、工業製品になるよう値を補正しています。次に、金型屋さんの詳細設計というのを経て、できたデータを3Dプリンタで出力し、組み立てプロトタイプ一号機が出来上がりました。そこからさらに設計上のミスなどを確認して修正するたびに、ラピッドプロトタイピングで出しました。

− 金型屋さんもこういう製品に慣れてるところだったんですか。

伊藤 主にオモチャをやってるところで、非常に腕のよい金型屋さんでよかったと思います。ネジが全部背面にあり、表から見えないような設計は、この金型屋さんのセンスです。また、見たときのシルエットラインで割るなど、最初のデザインの印象を壊さないよう結構気をつかっていただいてます。

ラピッドプロトタイピングで作られたQUMARIONの試作品 こちらは第2段階の試作品 最終製品版と、基本的なデザインは変わっていない

久池井 ソフトウェアを作らないと使い物にならないのですが、動く物がないと、ソフトウェアの作りようがなかったんですね。それで、金型を起こしちゃうわけにもいかなかったので、ラピッドプロトタイピングでとにかくまず動く物を作りました。その一番古いものが、去年(2011年)の7月半ばにできたものです。

− 製品版とそんなに変わってないですね。最初からデザインの完成度が高かったってことですよね。

久池井 そうですね。金型からちゃんと抜けるようにするために、微妙に曲率が変わってたりはしてます。ただ、印象はやっぱり変えないようにしてます。

− ラピッドプロトタイピングがあったからこそ、時間とコストを節約できたわけですね。

久池井 そうですね。できましたね。

伊藤 ラピッドプロトタイピングも最初は外注に出していたんですが、あまりにも細かいのが増えてきたので、弊社で3Dプリンタを借りて社内で出してます。

− 1回全身を出力するのにどれくらい時間かかるんですか。結構かかりますよね。

伊藤 この3Dプリンタは、結構使いやすいものだと思いますが、全身だと18時間くらいですかね。

− もちろん金型を作ってたらもっとずっと時間がかかりますよね。

伊藤 そうですね。最初にプロトタイプを作るのに3カ月くらいかかりますし、その後修正不能な箇所も出てきてしまいます。

QUMARIONの膝関節部分。裏側に膨らんだ部分と凹んだ部分があり、それらが組み合わさることで、深く関節を曲げることができるようになっている 膝関節を曲げたところ。このように深く曲げられるため、自由なポーズをとることができる

●モーション作成ソフトウェア「CLIP STUDIO ACTION」

 QUMARION本体は、素晴らしい人型入力デバイスであるが、その真価を活かすには、対応ソフトウェアが重要になる。QUMARION初回出荷限定パッケージには、3Dキャラクターモーション作成ソフトウェア「CLIP STUDIO ACTION」や、ペイントソフトウェア「CLIP STUDIO PAINT PRO」などが付属しており、初めてQUMARIONを使う人でも、気軽に3Dキャラクターを利用した作品作りが可能だ。そこで、セルシス営業部の青山氏に、ソフトウェアについて話をお伺いした。

− 今回のパッケージには、「CLIP STUDIO ACTION」が付属しますが、これはQUMARION専用アプリですよね。あとは、3ds MaxとかMayaとかのプラグインも付く予定ですが、その辺はプロユースには必要なのかとか、ソフトウェア構成の理由を教えて下さい。

株式会社セルシス営業部の青山典晃氏

青山 もともと弊社は、「ComicStudio」と「IllustStudio」というコミックとイラストのソフトを開発/販売していました。2009年10月にQUMA技術を拝見し、非常に興味を持ちました。以前よりアナログで描いている方には、デッサン人形という、木のモデルを使って描かれているという土壌があります。それがデジタルに変わった形で、画面上で3Dキャラクターを自由に動かせ、イラストやコミックに活かせるのであれば、需要があるのではと考え、御一緒させていただきました。

 ちょうど、弊社も新しいペイントソフトを開発していましたので、それにQUMARIONを繋げたいと考えていました。実は、ComicStudioにも昔から3D機能はあります。3Dキャラクターを下絵にして、コミックやイラストを描いてもらうという機能ですが、3Dに不慣れな方は関節が変な方向に曲がってしまい、人らしくないポーズになってしまいます。作家の方によっては3D機能を利用していないケースもあります。QUMARIONのように直感的に3Dキャラクターを動かせるような仕組みがあれば、より3Dに親しみやすくなるのではと考え3Dキャラクターも動かせるペイントソフトを開発しました。

 手足の先端を引っぱっても、身体がちゃんとついてきたり、ありえない方向に身体が曲がらないようにと人間の動作に近い形で3Dキャラクターが動かせる仕様にしています。これでデッサンモデルキャラクターにポーズをとらせ、キャラを描いてもらう事も可能ですし、表情や衣装のついたキャラをそのまま使ってもらい背景をつければ、簡易的なコミック制作も簡単です。

− その機能は、今後サポートするのですか。

QUMARION用に開発された3Dキャラクターモーション作成ソフトウェア「CLIP STUDIO ACTION」

青山 はい。実はもう発売しています。「CLIP STUDIO PAINT PRO」という、QUMARIONパッケージに同梱されるソフトですが、5月31日にソフト単体だけを発売をさせていただきました。

− CLIP STUDIO PAINT PROは、ペイントって名前からもわかるように、絵を描くためのソフトですよね。

青山 はい。そうです。お絵かきソフトです。

− 3Dキャラクターでポーズを作って、それを下絵にして2Dのイラストを描くという。確かに、そういう風に使いたいという人も多いと思います。CLIP STUDIO ACTIONのほうはムービーというか、動きを作るソフトですよね。

青山 コミックやイラストだけの用途にしてしまうと、利用者が限られてしまうことが懸念されていました。そこで「CLIP STUDIO PAINT PRO」とともにQUMARIONに同梱されるのが、この「CLIP STUDIO ACTION」というソフトです。これを使えば、どなたでも簡単にモーション制作が可能です。QUMARIONでポーズをとらせ、タイムライン上にキーフレームを打ち、モーションを作るという手順になります。

CLIP STUDIO PAINTとQUMARIONを使って、キャラクターにポーズを取らせ、さらに背景を追加してマンガの1コマのようにしたところ

− イメージとしてはパラパラマンガに近いわけですよね。

青山 パラパラマンガでは、ポーズとポーズの間の動作を補間できませんが、このソフトは、キーフレームの間の動作を補間をして、滑らかな動きにしてくれます。

− 2足歩行ホビーロボットのモーション作成も似たようなやり方が多く、ポーズを作って、ポーズとポーズの間を補間して繋いでいくというシステムです。もちろん、QUMARIONの方が軽くて動かしやすいし、楽ですね。今後は、ソフトウェアも強化されていくんでしょうけど、評価版のソフトウェアだと、本体背面のボタンは、読み取りのオン/オフになってますよね。例えば、ボタンを押すたびに、自動的にポーズを取り込んで、フレームを1秒とか自分で指定した間隔で自動的に進めてくれる機能があれば、ボタンをカチカチおすだけで、ポーズが取り込まれていくので、楽かなあと。今のやりかただと、QUMARIONを動かして、画面をクリックして、また動かしてという形になりますが、本来は専用コントローラーが付くんですよね。それがあればもっと楽でしょうね。

青山 そうです。専用コントローラーを使っていただくことを前提にしています。まだ開発中なので、背中のボタンへの機能割り当ては変わるかもしれません。

− その割り当て自体をユーザーがカスタマイズできるといいですね。せっかくボタンがあるので。また、QUMARIONを動かすと、リアルタイムにきちんと画面上で反映されますが、取り込んだデータをそのままリアルタイムにモーションとして取り込むことは考えていないのでしょうか。

青山 リアルタイムにモーションを録画する仕様はQUMARIONを常に動かすという作業など、自然なモーション制作が難しいので、研究中です。身体全体を動かすモーション制作には、キーとなるポーズをとらせて、中間部分を補正していくのがよいと思います。

− 確かにポーズにこだわる人には、今のやり方がいいのかなあと思います。やはり、1ポーズ、1ポーズにこだわって、いろんな方向から見てみて、これでOKとなったら、そのポーズを取り込む。それでまた時間をかけて次のポーズを作って、取り込むといった感じでしょうね。

青山 細かい所までキーフレームを打てば、かなりの動きができると思います。

− QUMARIONのようなものを使わないと、こういうモーションを作るのは大変ですよね。MikuMikuDanceなどでも、すごいのがありますけど。想定されているユーザー層はどんな感じでしょうか。

青山 少しずつQUMARIONを動かしながら作っていくことで、かなりのことができると思っていますので、これまでMikuMikuDance等で動画制作をしたことがないクリエータの方でも、簡単にモーションを作れると想定しています。

− CLIP STUDIO ACTIONは、製品版ではもう少し機能が増えたりするんですか。機能としては評価版と変わらない感じですか。

青山 ACTIONの方は、もう少し機能を増やしたいと思ってます。例えば、モデルがスカートをはいていたときに、モデルだけでなくスカートの動きまで表現ができる機能とか将来的にはやりたいです。また、背景の読み込みができて、モデルと合わせて動画にするとか機能要望はたくさんいただいておりますので、今後追加機能を検討しながら、バージョンアップしていくことになると思います。

− 髪の毛は動いているんでしたっけ。

青山 髪の毛は開発中のソフトでは動いておりませんが、動かせるようにしたいと思っています。

− やっぱり、髪の毛が動くとだいぶ違いますよね。

青山 そうですね。そういう物理演算的なものも、ゆくゆくはできるようにと視野に入れています。

●MMD動画に感動して自分も作ってみたいという人も想定

 CLIP STUDIO PAINTは、初心者でも気軽に使えるように設計されているソフトウェアである。セルシスでは、これまで3D CGソフトを使って作品を作ってきたような人もターゲットではあるが、一般のコンシューマーを主なターゲットにしているという。

− 用途としては、教育というか、本当にダンスを教えたり、子どもたちになにか動きを伝えるとか、そういうのにも使えそうですが、まずは、どういう風に使われるのが多いと考えていらっしゃいますか。

青山 弊社が発売しているソフトの多くは、主に個人ユーザーの方が利用されていますので、CLIP STUDIO PAINTも、個人のコミック、イラスト制作ユーザーが多くなると思います。CLIP STUDIO ACTIONは、今まで動画を制作した事がない方や動画サイトでMikuMikuDanceの映像を見て面白いなと思われた方が、ちょっと自分でもやってみようと思い、QUMARIONを使ったらある程度のレベルの作品が簡単にできあがる、というような使われ方を想定しています。

− やはり、自分の動きを作ってみんなに見せたい。例えば、ニコニコ動画とかにアップしたいとか、そういう感じでしょうか。

青山 そうですね。創作意欲を持っていただけると嬉しいです。

− ただ、Mayaとか3ds Maxはプロユースというか、個人で気軽に導入できるソフトウェアではないと思いますが、それ用のプラグインもつくんですよね。

青山 はい。プラグインも同梱されます。

− プラグインも機能的には似たような感じなんですか。

青山 Mayaと3ds Max上で、読み込んだモデルデータが動かせるようになります。Mayaと3ds Maxには、モーション制作の機能がありますので、キーフレームを打ったり、アニメーションを制作するのはMayaや3ds Max側でやっていただきます。

− こういうものって、今までなかったわけで、実際に見てみないとわかりにくいですよね。例えば、店頭での展示デモや体験会ですとか、そういう販売施策を行なう予定はありますか。

青山 そうですね。露出は今後増やしていきたいですね。6月10日に秋葉原のソフマップさんのイベントで展示させていただいたりして、たくさんの方に体験していただきました。例えば、コミックマーケットとか、同人誌即売会みたいなところで触ってもらうことは検討しています。現在はTSUKUMO eX. 6階のPCパーツフロアに展示されています。

●センサーと自由度は1対1に対応しているのではない

− 技術的にはもっとセンサーの数を増やすことも可能ですよね。

伊藤 はい、可能です。

− 人間の自由度は、200だか300だかってあるって言われてますけど、それ全部は無理としても、より自由度を増やした製品も考えられるのでは。

伊藤 今回の製品では自由度の数を絞っていることにも、結構意味があります。120カ所可動するというフィギュアがあったとしても、正直そこまで可動部分が多くなってしまうと、もう素人の手に負えないデバイスになってしまうと思います。例えば、鎖骨が動くようにしたとしても、人間の鎖骨がどう動くかを知っている人がそんなにいないですから。

久池井 ソフトで補正するほうがよっぽどわかりやすい。

伊藤 QUMARIONもセンサーとPC上のモデルのボーン構造が1対1で対応しているわけではないんですよ。むしろ、1カ所も1対1で対応しているところはありません。

− ちょっと動かしてみると、1対1で対応しているように感じましたが。

伊藤 感じるんですが、それは雰囲気を合わせているだけです。先ほどつま先の話が出てましたが、デバイスは1カ所しか稼働していませんが、3Dモデルの方は足首にあわせてつま先が動くようになっています。肩口も、肩の動きに合わせて肩と肩の付け根のボーンが2つ入っています。このように、人形の方の印象にあった、それっぽいポーズを取れるようにしています。これも、浅井さんのデザインマジックによる効果も大きいです。

− なるほど、じゃあセンサーが搭載されている場所は16カ所だけど、実際にはもっと多くの自由度に影響しているんですね。

伊藤 実際には標準のボーン構造はもっとリッチですし、さらにセルシスさんの技術で、もっと多くのボーンをいい感じで動かしてくれてます。1対1対応だと思われがちですが、実はそうではなく、人形としての動かしやすさと3Dモデルとして稼働しなくてはいけない部分のギャップを使いやすい形でソフトで埋めています。

●今後はソフトも進化していく

 QUMARIONは今後、どう進化していくのだろうか、QUMARIONの将来像について、お訊きしてみた。

− 今後の進化についてはどうお考えですか。もちろん、ソフトウェアが進化していくんだと思いますけど。逆にいうと、今買えば、将来も楽しめるといった感じですかね。

青山 そうですね。ソフトウェアは機能追加であったり、繋がるソフトが増えたりと広がっていくのだと思います。

久池井 あとは、オプションを増やしたりとか。手とか増やしたり。机の上をスタジオ化できるような装置とか。それから、現状、関節角度以外は傾きしかとれませんが、もうちょっとリッチなスタンドを作って、移動も取れたりとか、そういうのは考えています。具体的な製品化は未定ですが。

●才能を発掘できるツールになってほしい

 QUMARIONは優れた道具だが、その道具が使いこなして優れた作品を作り出せるかは、やはりクリエイターのセンス次第だ。これまで、3Dモーションを作成するには、根気と習熟が必要であり、頭の中で思い浮かべていたモーションや世界観があっても、それをCGソフトの世界で実現することに挫折してしまった人も多いだろうと、久池井氏は指摘する。その最初の一歩を踏み出すためのツールになってほしいという願いを込めて、QUMARIONを開発したのだ。

伊藤 3Dって結局、まだまだ中間物扱いのものだと思います。3Dソフトはとてもたくさんありますが、各ソフトにはやっぱり得意処理があります。3Dをやっている方は、それぞれの得意なものをうまく経由して、最終作品を作っていくというのが主流です。例えば、MikuMikuDanceも、最近の上位プロデューサーさんは、MikuMikuDanceを使ってポーズをとらせてるわけではないと聞きます。そのため、この機能がないから、全部できないではなく、各ソフト同士が有機的に繋がるような世界ですから、現状でできることだけでも、相当な作品力のアップに繋がると考えています。

久池井 その最初の一歩が踏み出しやすいものになっていけばなあと思います。

− やはり、今までのように、画面の中にある3Dキャラクターを1つ1つ関節を選んで、動かしていくのは難しいですよね。それで、自分が思った通りのポーズを作るにはかなり習熟が必要だと思います。

久池井 こうやったら動かせるんだっていう、そのセンス・オブ・ワンダー感っていうのを、一番最初の成功体験として体感してもらいたいなあと思って作りました。3Dやコミックの世界に入ろうとして、挫折しちゃう専門学校生も多いのですが、やはり、3Dも、絵を描くのも、コミックを描くのもそうなんですが、非常にハードルが高いものなので、なかなか思い通りにいかないんですよね。でも、QUMARIONでは、初めて触ってもすぐにここまでできたから、次もまた挑戦してみようという感じで、最初の一歩を踏み出せるようにしたいと思っています。

伊藤 QUMARIONを使って自由に人型を動かせるっていうのは、ただ作業が簡単になるというだけではなく、これまでとは違った作品の作り方につながるのではないかと期待しています。初心者の目からは、こういうポーズをとらせてみたときに、何が間違ってるかっていうのを、ちょっとずつ動かしながらポーズが研究できるようになります。

 例えば、IKを使ったソフトだと、思ったポーズが取れない場合に、ソフトの機能のせいにしてしまうのですが、実際は単にポーズがしっかりとイメージできていないことやどこを動かせば自分の印象に近づくか理解していないだけのことも多いと思います(笑)。QUMARIONを使っていると、「どう動かすとより可愛く見えるんだろうとか、こうするといいのかなあ。ああするといいのかなあ」と、試行錯誤にどんどん時間をくってしまうのですが、そういったところが人が作品をクリエイトしていると言うことではないかと思っています。やっぱり微調整しながら表現を深くしていく作業って楽しいんですよね。そういったところにすぐに到達できるQUMARIONは、創作道具としては非常に優秀なんじゃないかと思います。可愛いポーズがとれるかどうかっていうのは、道具じゃなくて、そのクリエイターのセンスです。だからこそ、可愛いポーズを取らせるクリエイターがすごいわけで、やっぱりそこが人の力ではないかと思っています。

− そういう隠れた才能を発掘するツールにもなりそうですね。

伊藤 そうですそうです。

●創作活動応援サイト「CLIP」で素材データを配布予定

 CLIP STUDIO ACTIONでは、3Dモデルのデータさえあれば、さまざまなキャラクターを動かせる。そうした3Dモデルデータなどの素材は、セルシスの創作活動応援サイト「CLIP」で、提供していくことを検討しているという。CLIPは、セルシスが作った素材を配布するだけでなく、ユーザーが自分で作った素材をアップロードして共有できることが特徴であり、QUMARION用のさまざまな素材がアップロードされる可能性もありそうだ。

− 3Dモデルのデータですが、製品版ではもっと他のデータも入ってたりするんですか。

CLIPで配布されている素材例

青山 同梱するデータは検討中ですが、弊社のCLIPというサイトで、素材としてご提供していくことはできると思います。

− 人型以外のものもですか。

青山 うーん、まずは人型だと思います。

− 例えば、ガンダムは無理としてもロボット的なものとか。ロボットの方がむしろ自由度が少なくてもいいので、モデルを変えるだけでロボットになりそうな気がしますけど。

青山 CLIPというサイトは、弊社が素材を配布するだけでなく、ユーザーの方々が独自に作られた素材データをアップロードして共有できるサービスになっています。現在15,000種類以上の素材がアップされています。トーン素材やブラシ素材、3Dキャラクターもありますのでユーザーの方が自作の3Dロボットをアップする可能性はあります。CLIPで公開されている素材は、版権フリーになっており、商用、非商用問わずご利用頂けます。

− やはり、まずは興味を持った人が使って、自由な発想で作品を作ってもらいたいという感じでしょうか。

伊藤 そういう人がまず先で、それから「ああ、これを使うとああいう作品が作れるんだ」と、QUMARIONで作った作品を見た人が追従してくるものだと思います。最初からポーズ集を用意しておいて、それをぱっぱっぱっと組み合わせれば、アニメーションを簡単に作れるわけですが、この間のPC Watchのレビューの作例みたいに、バーチャファイターのモーションは作れないわけです。やっぱり、このデバイスを使って初めて、「ポーズで遊ぶ」という発想が出てくると思います。

【動画】レビュー記事で素人の記者が作成したサンプル動画

●3D映像だけでなく、イラストやコミック作品の登場も期待

 QUMARIONは、3Dキャラクターを気軽に動かせるデバイスであるが、先行プレビューに応募したユーザーの半分は、3D CGの経験はあまりないが、コミックやイラストを描いている人達だったという。そうした人達は、コミックやイラストの下絵として使うキャラクターのポーズを作るのに利用しようとしているのだ。QUMARION初回限定パッケージの出荷は7月下旬を予定しており、今年後半には、QUMARIONを駆使した作品が、3D映像だけでなく、イラストやコミックでも登場してきそうだ。QUMARIONの登場によって、ニコニコ動画などにアップされる3D映像のレベルがさらに上がることになるだろう。そうしたモーション作成の才能を認められて、新たなスターが登場する可能性もあり得る。

− QUMARIONは、人形としても動かしているだけでも面白いですよね。PCに繋がなくても遊べるというか。

青山 そうですね、これは実際に触って頂けると、その魅力が分かって頂けると思います。全国を回ってデモするというのもなかなかできないので、PC Watchさんに、レビュー記事を書いて頂けることは、とても効果的だと思います。今は色々な所で露出をしながら、本当にQUMARIONが使いやすいんだという話がどんどん出てきてくれるとうれしいなあと。先行プレビューユーザー様に使っていただいているので、そのレビューも今後サイトで公開していけると思います。

− 先行プレビューに応募された方というのは、やっぱり3D CGをやってる方が多いんですか。

青山 半々ぐらいというか、3D CGを制作されている方もいらっしゃるんですけど、弊社は元々、ComicStudioやIlustStudioを販売していますので、そちらのユーザーの方や、イラストやコミックを描かれる方も結構多くて、必ずしも3Dで作品を作りたいというよりは、イラストやコミックの下絵としてキャラクターのポーズを作る難しさをこれで解消できるのではないかという期待ですね。

− それでは、3D映像とコミックやイラストといった2Dの両方の作品が出てくるということですね。

青山 そうですね。期待しています。

− 海外からの反響はどうですか。

青山 反響は大きいですが、海外展開については検討しているという状況です。

− 今日はいろいろありがとうございました。