井上繁樹の最新通信機器事情
NECアクセステクニカ「AtermWF1200HP」
~11ac対応で有線100Mbpsのリーズナブルな無線LANルーター
(2014/2/8 06:00)
NECアクセステクニカの「AtermWF1200HP」はIEEE 802.11acに対応した無線LANルーターだ。ルーター、ブリッジとして使えるのはもちろん、無線LAN子機(コンバーター)としても利用可能な、お手頃価格で汎用性の高い製品だ。
概要
AtermWF1200HPは、IEEE 802.11a/b/g/nに加え、つい先日正式な規格として認定されたIEEE 802.11acにも対応した無線LANルーターだ。無線部分の最大接続速度は11acが867Mbpsで、11n(2.4GHz帯)が300Mbps、有線部分は100Mbpsだ。有線部分が1Gbpsの製品が珍しくない昨今ではあるが、インターネット接続に限って言えば有線のサービスの多くは100Mbpsが速度上限であり、実効速度はそれよりも低い。主な用途がインターネット接続なら、必要十分な性能だと言える。
SSIDは2.4GHz帯が3つ(うち1つはゲストアクセス用、もう1つはWEP専用)で、5GHz帯が2つ(うち1つがゲストアクセス用)の計5つ。有線LANポートはWAN×1、LAN×3の計4つある。
モードスイッチを切り替えることで、無線LANルーターやブリッジとしてはもちろん、有線LAN機器を無線化する「コンバーター」としても使える。11ac対応の無線LAN子機がまだまだ高価な昨今では、3台以上無線化できることを考えると、リーズナブルな無線LAN子機と捉えることもできる。
大きさは約33×97×146mm(幅×奥行き×高さ、縦置き時)で、本体重量は約200g。消費電力は最大10Wとなっている。縦置き、横置き、壁掛け設置が可能で、デザインは最近のNECアクセステクニカの据置型無線LANルーター製品では一般的な、翼端を下に折り曲げた全翼機のような形状(横置き、壁掛け時)だ。表面の仕上げはマットでやや凸凹しており、光沢仕上げのものと比べると傷が目立ちにくそうだ。
パッケージは、AtermWF1200HP本体1台のみを含む単体パッケージ、親機と子機(コンバーター)として使うことを想定した2台組セット、USB接続の無線LAN子機「AtermWL900U」とのセットの3種類ある。
主な機能
管理画面から利用できる接続設定以外の主な機能としては、セキュリティ系の機能とリモートアクセス系の機能、そして省電力系の機能がある。セキュリティ系の機能としてはMACアドレスフィルタや、パケットフィルタ、危険なサイトへのアクセスブロック(ファミリースマイル、別途利用料が必要)がある。
リモートアクセス系の機能としてはVPNパススルー、PCリモート起動設定(Wake On Lan)、ポートマッピング、ダイナミックDNS(DDNS)などがある。NAS機能は搭載していないが、例えばPCリモート起動設定(Wake On Lan)とSkyDriveのリモートアクセス機能などを組み合わせるなどすれば、それほど手間をかけずに出先から自宅PCのファイルに自由にアクセスできる様になる。
省電力系の機能は、タイマー動作のほか、一定時間利用が無いと無線LANをオフにするオートECOと呼ばれる設定がある。2.4GHz帯、5GHz帯で別々にオン、オフできるので、よりきめ細かにかつ簡単に節電できる。
ここまでで述べた機能以外では、目立たないが重要なものとして、ファームウェアのアップデート機能がある。こちらはインターネットを利用した自動アップデートに対応しており、併せてAtermWF1200HPの内部時計の時刻調節も行なう。
NFCタグにも対応した接続設定
無線LANの接続設定は最近流行のQRコードと専用アプリを使うものに加え、NFCタグと専用アプリ(現在はAndroid4.0以降専用。NFC対応機器専用)が利用できる。NFCタグはシールになっているので好みの場所に貼り付けて使用できる。
QRコードを使った接続設定も、NFCタグを使った接続設定も、アプリをインストールする手間が必要だが、接続台数が多いときは手作業が減るぶん、接続設定がぐっと楽になる。ただし、注意しなくてはならないのが、本体に貼られたNFCタグは初期設定のもので、SSIDや暗号化キーを変更すると使えなくなること。これは書き換え可能な製品で変更できるようにすることが可能だと思われるので期待したい。
【お詫びと訂正:2月12日】初出時、設定変更後のQRコードを作成/表示できない旨の記載がございましたが、「クイック設定Web」で作成して画面表示することができます。お詫びして訂正いたします。QRコードの作成方法については、同社Webサイトに掲載されているユーザーズマニュアルをご覧ください。
ベンチマーク
速度の測定にはノートとデスクトップの2台のWindows 8.1 PCを使用した。どちらもメモリ容量は8GB、SSD搭載で、ノート側CPUはCore i5-3210M(2.5GHz)、デスクトップ側はCore i3-2120(3.3GHz)。無線LAN子機は、ノート側はNECアクセステクニカ「AtermWL900U」、デスクトップ側は「Intel Dual Band Wireless-AC 7260 for Desktp」を使用した。測定環境は、2.4GHz帯のSSID検出数が10件以上、5GHz帯が5件以下の鉄骨マンションの一室。
測定に使用したソフトは、CrystalDiskMark3.03(SSD上に作成した共有ドライブをネットワークドライブとしてマウントして測定。以下「CDM」)とFTP(RAMDISK上の100MBの圧縮バイナリファイルをバイナリモードでput、getして測定)で、どちらもノート側で使用した。FTPの速度の測定の際はデスクトップ側のOSをUbuntu 13.10に切り替え、FTPサーバーとしてvsftpdを、回線として有線LAN/100Mbpsを使用した。
クライアント経路 | サーバー経路 | リード | ライト |
11ac/867Mbps | 11ac/867Mbps | 42.6 | 69.6 |
11ac/867Mbps | 有線/100Mbps | 89.5 | 87.4 |
11n/300Mbps | 11n/300Mbps | 74.9 | 78.3 |
11n/300Mbps | 有線/100Mbps | 88.0 | 86.4 |
有線/100Mbps | 有線/100Mbps | 90.6 | 90.9 |
11ac/867Mbps | 11n/300Mbps | 127.0 | 144.9 |
CDMによる速度の測定結果はノートが11ac/867Mbps、デスクトップが有線/100Mbpsを使用した場合、リードが約90Mbps、ライトが約87Mbpsだった。それから、ノート、デスクトップどちらも100Mbpsの有線LANを使った場合はリード約91Mbps、ライト約91Mbpsだった。有線LAN部分が100Mbps上限ということを考えると、11acも十分に速度が出ていることが分かる。
そして、ちょっと面白い結果になったのが、ノートが11ac/867Mbps、デスクトップが11n/300Mbpsを使った場合だ。リードが約127Mbps、ライトが約145Mbpsで、どちらも100Mbps以上出ている。理屈としてはありそうだが、有線LAN部分が100Mbpsの製品で、無線LANが100Mbpsを超えるのは珍しいのではないだろうか。なお、テストは複数回やって100Mbpsを超えることは確認したが、ひょっとしたら測定ミスや何がしかの問題が原因でのことなのかも知れないことをお断りしておく。
少々残念な結果になってしまったのが、ノート、デスクトップ両方11ac/867Mbpsを使用した場合。11n/300Mbpsを使用した場合よりも速度が出ていない。こちらも複数回テストを行なって確認したが、やはり測定ミスや何がしかの問題が原因でのことなのかも知れない。ちなみに、インターネット接続用途で考えているのなら無視して構わない数字だ。
test1 | test2 | test3 | test4 | test5 | |
リード(get) | 83.7 | 94.5 | 94.5 | 94.8 | 94.5 |
ライト(put) | 96.2 | 95.3 | 91.3 | 96.1 | 96.3 |
test1 | test2 | test3 | test4 | test5 | |
リード(get) | 57.9 | 66.2 | 41.5 | 58.1 | 59.8 |
ライト(put) | 94.2 | 95.5 | 86.8 | 91.8 | 85.3 |
test1 | test2 | test3 | test4 | test5 | |
リード(get) | 72.1 | 71.1 | 52.1 | 69.6 | 77.6 |
ライト(put) | 42.9 | 62.6 | 50.6 | 63.8 | 78.5 |
FTPテストの結果は表2~4の通りで、11ac/867Mbps使用時は約84~96Mbps、11n/300Mbps使用時は約58~96Mbps、11n/144Mbps使用時は約51~78Mbpsとなり、11acと11nの速度差がはっきり分かる結果となった。
コンバーターモードと速度測定結果
AtermWF1200HPは有線LANケーブルで繋いで使う無線LAN子機「コンバーター」として利用可能だ。LANポートは3つなので通常3台まで、もちろんLAN Hubを使えばそれ以上の台数の有線LAN機器を無線化できる。なお、コンバーターモード時のAtermWF1200HPにPCなどの無線LAN機器(子機)を繋ぐことはできない。
親機側との接続には2.4GHz帯も5GHz帯も使えるが、多くの場合電波の混雑していない5GHz帯を使うことになるだろう。ちなみに、2台セットのパッケージのデフォルト設定は5GHz帯(Wi-Fi TVモード中継)だ。
クライアント経路 | サーバー経路 | リード | ライト |
Wi-Fi TV中継モード | 86.6 | 87.3 | |
11ac/867Mbps | Wi-Fi TV中継モード | 12.7 | 83.2 |
11n/300Mbps | Wi-Fi TV中継モード | 85.4 | 86.5 |
test1 | test2 | test3 | test4 | test5 | |
リード(get) | 95.0 | 94.6 | 92.6 | 93.4 | 93.8 |
ライト(put) | 96.1 | 96.1 | 96.1 | 96.2 | 96.3 |
コンバーターモード使用時の速度測定結果は表5、6の通り。有線LAN/100Mbpsで使う場合は約87Mbps、ノートを11n/300Mbpsで親機側に繋いでいる場合は約85~87Mbpsとなった。ノートを11ac/867Mbpsで親機に繋いでいる場合は、リードが約13Mbps、ライトが約83Mbpsで、リードの結果が思わしくなかった。こちらも複数回テストを行なって確認しているが、やはり測定ミスや何がしかの問題が原因でのことかも知れない。
まとめと感想
AtermWF1200HPは、LAN内で大容量ファイルのやり取りを頻繁に行なう用途には向かないが、インターネット接続用途には必要十分な性能を持つ無線LANルーターだ。11acに対応していることから、今後少しずつ増えるであろう対応製品の能力を無駄にすることなく、長期に渡って使っていける製品だと言える。
加えて、ファームウェアのアップデートをユーザーが気にかけなくて済む自動アップデート機能や、絞りこまれた節電メニューと節電の一部自動化、傷が付きにくく掃除のしやすいボディ表面、そして、用途によっては割安となるお手頃な実勢価格など、ユーザーに優しい仕様である点も見逃せない。
個人的にはNFCタグで初期設定以外の接続設定もできるようになるとさらに便利になると思う。今後に期待したい。