Hothotレビュー
ASUS「TransBook T300 Chi」
~12.5型で世界最薄の2-in-1着脱式Windowsタブレット
(2015/2/28 06:00)
ASUSの「TransBook T300 Chi」は、12.5型のタブレットとして世界最薄を謳う2-in-1着脱式のWindowsタブレットだ。製品自体は2014年6月のCOMPUTEX TAIPEIで公開されたのち、米国では2015年1月にラスベガスで開催された記者会見で正式に発表。日本では2月13日に国内向け製品発表会が開催され、2月20日より発売を開始した。
ラインアップは3モデルが用意され、上位モデルは2,560×1,440ドット(WQHD)の液晶を搭載し、CPUはCore M-5Y71(1.2GHz、ビデオ機能内蔵)、メモリは8GB、SSDは128GB。中位モデルは液晶が1,920×1,080ドット(フルHD)、CPUがCore M-5Y10(800MHz、同)、メモリが4GBという点が異なり、SSDは同容量の128GB。この中位モデルのみOfficeを搭載し、ハードウェアスペックとしては実質2モデルということになる。
また、同じ「Chi」ブランドを冠するシリーズとしては、画面サイズが10.1型の「TransBook T100 Chi」、8.9型の「TransBook T90 Chi」もラインアップされている。T300 Chiとの最大の違いはCPUで、Core M搭載のT300 Chiに対し、T100 ChiとT90 ChiはAtom Z3775を搭載する。
今回はT300 Chiラインアップの中で世界最薄を謳うフラッグシップモデルを取り上げ、ハード面や使い勝手を中心にレビューする。上位モデルの税別店頭予想価格は139,800円前後で、中位モデルの99,800円前後と比べて4万円ほど高い。中位モデルのOffice付きモデルは124,800円と、ちょうど中間の価格に設定されている。
世界最薄ながら重量は720g。キーボード装着で重量は倍に
本製品は12.5型で世界最薄を謳うということもあり、12型の液晶を搭載したWindowsタブレット「Surface Pro 3」とスペックを比較しながらレビューを進めていきたい。Surface Pro 3そのものはタブレット単体だが、純正オプション「Surface Proタイプカバー」を利用してノートPC的に利用しているユーザーも多く、12型の2-in-1着脱型Windowsタブレットとして非常に構成は近い。
TransBook Chiのタブレット本体サイズは317.8×191.6×7.6mm(幅×奥行き×高さ)と、12.5型かつWQHDという高解像度ディスプレイを搭載していることもあり、本体は非常に横長。縦方向は200mmを切りつつ横方向は300mmを超えているため、元々横長なタブレットであるSurface Pro 3と比べても非常に横に長い印象を受ける。
厚みは世界最薄の7.6mmと非常に薄いことが謳われてはいるものの、液晶サイズが大きいこともあって重量は約720gと重め。筆者は普段10.1型のWindowsタブレット「ARROWS Tab QH55/M」を利用しているが、CPU性能や液晶サイズに違いはあるとはいえ、ARROWS Tabの重量約650gと比べてずっしりとした重みを感じた。
一方、同じ12型クラスのSurface Pro 3は重量が800gとさらに重く、サイズから考えるとTransBook Chiの軽さが目立つ。ただしこれはあくまで「タブレット」としての比較であって、「2-in-1」という視点で見ると評価が変わってくる。
というのも、TransBook Chiの付属キーボードが非常に重いからだ。キーボード単体のスペックは公開されていないのだが、キーボード装着時の総重量は約1.42kgというスペックが公開されており、単体の重量は差し引き722gと、ほぼT300 Chi 1台分に相当する。
Surface Pro 3の場合、本体こそ800gだが、タイプ カバーは295gと300gを切っており、装着時の重量は1.1kgで収まる。また、ASUSが薄さの対象として意識しているMacbook Airは、13インチモデルでも1.35kgとTransBook Chiより軽い。そもそもTransBook Chiのタブレット本体はMacbook Airよりも薄いかもしれないが、キーボード装着時は倍近い厚みになってしまい、キーボード前提として利用する場合はせっかくの薄さが目立たない。「世界最薄」というコンセプトをイメージして本体に初めて触れると、その大きさと重さに違和感を覚える可能性は高そうだ。
キーボードの接続はマグネット式。通信はBluetooth経由
キーボードの装着部はマグネットによる着脱式になっており、タブレット本体を軽く載せるだけで簡単に装着できる。マグネットの力も強く装着時もさほど不安定さは感じない。キーボード装着時にタブレットを開ける角度は120度、普段からディスプレイを倒しめに使うユーザーにとってはやや距離が近く感じるかもしれない。
前述の通りキーボードとの物理接続はマグネットで行なうため、キーボードと本体との通信はBluetoothで接続する。キーボードにはBluetoothのオン/オフスイッチがあり、初期出荷時は本体とキーボードがペアリング済みのため、スイッチを入れるだけでキーボードが利用可能だ。
Bluetooth通信を行なうため、本体だけでなくキーボードも充電が必要だが、本体とキーボードは普通に接続しているだけでは給電できない。付属品には両方がMicro USBタイプのケーブルが同梱されており、このケーブルを使って本体とキーボードを接続することでキーボードへの給電が可能になる。
付属品は上記ケーブルのほか、電源アダプタ、Micro USBをUSBに変換するアダプタが同梱。本体にフルサイズのUSBがないため、USBメモリやストレージなどを接続する際にはこのアダプタが必要になる。
キーボードへの給電は本体とUSBで接続
本体は上部に電源ボタンとバッテリ残量を示すインジケータ、左側面に電源入力ポートとスピーカー、音量ボタン、Windowsボタン、右側面にスピーカーとMicro USB 3.0ポート、Micro HDMI、イヤフォンジャックを搭載。本体下面はキーボード装着用のヒンジホールとmicroSDカードスロットが用意されている。
microSDカードの装着は本体下部にあるため、キーボードを装着している場合は背面に回り込むか、本体をたたむ必要があり、頻繁に装着する場合はやや面倒かもしれない。また、USBポートが本体に1つしかないのも気になるところだ。前述の通りキーボードへの給電はUSB経由で行なうため、給電でUSBを利用してしまうと他のUSBデバイスをが使えなくなってしまう。
最も謎なのが、タブレット本体のUSBポートは右側面にあるのに対し、キーボードの充電用USBポートは本体の左側面にあることだ。付属のケーブルは十分に長さがあるとは言え、本体を横方向に横断して無駄にケーブルが伸びることになる。同じ側面に揃えればケーブルも短くて済み、取り回しもいいと思うのだが、なぜ純正品にもかかわらずポート位置が左右逆なのかは開発者の意図を聞きたい。
マグネット接続である以上仕方のない仕様だが、給電のためにUSBポートを本体とキーボードでそれぞれ1つ消費し、常にケーブルが接続されたままというのはお世辞にも見栄えがいいとは言えない。マグネットの利点としてディスプレイの向きを入れ替えて装着することもできるのだが、それならそもそも本体を取り外してタブレットとして利用した方が使いやすい。
本体前面には92万画素前面カメラとマイク、周囲の明るさに応じてディスプレイの輝度を調整するライトセンサーを搭載。価格帯やスペックが違うとはいえ、Surface Pro 3が500万画素のカメラを前面と背面に搭載していることを考えるとやや物足りなさを感じるが、ビデオチャット程度であればこのくらいの画質でも十分だろう。
そのほかのスペックではIEEE 802.11a/b/g/nの無線LANとBluetooth 4.0を搭載。加速度センサー、ジャイロスコープは搭載するが、GPSは非搭載となる。本体の質感はマットなダークブルーとメタリックな筐体が本体重量と相まって高級感溢れるが、背面はやや指紋が付きやすく、普段持ち歩くだけで指紋が目立ちやすい。
性能面は快適。バッテリはキーボード前提の場合やや短め
ディスプレイはIPS液晶かつWQHD解像度ということで非常に美しく申し分ない。横長のディスプレイはストアアプリやブラウザの同時表示にも便利だ。フォントサイズが若干細かいためディスプレイとの距離が離れると文字が若干読みにくいが、コントロールパネルの設定からサイズ変更が可能。ただしその場合はフォントが大きくなり読みやすい一方でフォントのドットも目立ってしまい、せっかくのWQHD解像度が活用できなくなる。美しさか利便性か一長一短といったところだ。
キーボードはキーピッチも広く打ちやすいが、ストリークが浅めで、はっきりした打鍵感が欲しいユーザーだと物足りない可能性は高そうだ。また、トラックパッドはクリックボタンがパネルと一体化したタイプで、強めにクリックしないと反応しない。指1本タップで左クリック、指2本タップで右クリックの役割を果たすので、トラックパッドの隅をクリックするよりはタップの方が操作しやすいだろう。
スペック面では1.2GHzのCore M-5Y71を搭載していることもあり性能は良好。Futuremarkの「PCMark」、「3DMark」、Maxonの「CINEBENCH R15」、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」でベンチマークを計測したところ良好な結果が得られた。実際に利用していてももたつきなどは感じられず、性能面での心配はほとんどない。
【表】ベンチマーク結果 | |
---|---|
PCMark 8 v2 | |
Home 3.0(Accelerated) | 2607 |
Creative 3.0(Accelerated) | 3226 |
Work 2.0(Accelerated) | 3543 |
3DMark | |
Ice Storm | 42150 |
Cloud Gate | 4239 |
Sky Diver | 525 |
FINAL FANTASY XIV 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編 | |
1,280×720ドット高品質(ノートPC) | 1963 |
1,280×720ドット標準品質(ノートPC) | 1026 |
CINEBENCH R15 | |
CPU | 217 |
OpenGL | 21.53fps |
バッテリはBBenchを利用し、バッテリ設定を省電力、バックライト輝度を40%に設定し、無線LANを有効、BluetoothをオフにしてBBenchでキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測したところ、約6時間10分程度だった。公称の約6.6時間とほぼ同程度の水準だ。ただしこれはBluetoothキーボードをオフにしていた場合。キーボードを使う場合は、もう少し短くなるだろう。
アプリ面は、写真編集アプリ「ASUS PhotoDirector」、動画編集アプリ「ASUS PowerDirector Mobile」などASUS独自のものがプリインストール。最上位モデルはMicrosoft Office同梱ではないため、代わりにKINGSOFT Officeがプリインストールされている。ビジネスユースではOfficeが入っていないのは辛いところだが、ドキュメントの閲覧だけなら、最近はOffice Onlineもあるので、以前ほどMicrosoft Office無しモデルは気にならないかもしれない。前述の通り、中位モデルはMicrosoft Office付きとなる。
世界最薄ながら重量が課題。キーボードとの接続性も
中国語で「気」を表すChiの名を冠し、薄さと徹底的にアピールしたTransBook Chi。特に最上位モデルであるTransBook T300 Chiは12.5型では世界最薄であることが強く打ち出されている。確かに数値の上では世界最薄ではあるものの、12.5型のディスプレイを搭載した本機は、本体が薄いがゆえにずっしりした重みを感じてしまう。決して薄いことが軽いこととイコールではないものの、PCにおいて軽さを重視するユーザーは手に取った時に違和感を覚えるかもしれない。
もっとも課題に感じるのはキーボードだ。せっかく本体が薄型なのにも関わらず、キーボード装着時は本体の厚みが倍になるだけでなく、重量もほぼ倍になってしまう。その分、剛性は高いが、もう少し軽い方に振った方が良かったのではと思う。
本体自体のスペックはCore M搭載ということで性能は高く、高解像度のIPS液晶も視認性が高くて使いやすい。軽いとは言わないまでも12.5型であることを考えると十分な重量かつ世界最薄のタブレット本体は非常に魅力的な一方で、標準で付属するキーボードが本体の魅力を損なっているというのが正直な感想だ。現状はタブレット単体で発売する予定はないようだが、この製品はタブレットを単体で利用し、別途スタンドや軽量のBluetoothキーボードを組み合わせた方が使いやすいのではないかと感じた。
SSD容量を同じ128GBで選んだSurface Pro 3の場合、CPUがCore i5かつOffice Premiumで111,800円。Surface Proタイプカバーが12,800円のため合計額は124,600円とT300 Chiよりも安く、Officeも付いてくる。キーボードの重さや価格に対し、高解像度で最薄のタブレットとしてどこまで魅力を感じるかが本製品を選ぶ決め手になりそうだ。