Hothotレビュー

日本HP「HP Pavilion10 TouchSmart 10-e000」

~ネットブックの置き換えに最適なお手軽タッチ対応モデル

HP Pavilion10 TouchSmart 10-e000
発売中

価格:34,860円

 日本ヒューレット・パッカード株式会社は、タッチ対応の10.1型液晶ディスプレイを搭載したモバイルノート「HP Pavilion10 TouchSmart 10-e000」(以下Pavilion10)を発売した。価格は34,860円だ。

 かなり安価なモデルだが、その実力はいかほどなのか。今回1台お借りできたので、試用レポートをお届けする。

Windows 8.1搭載ネットブックとも呼ぶべき構成

スペック、画面サイズ、価格、重量、いずれをとってもいわゆるネットブックだ

 3万円台半ばという価格と10.1型タッチ対応液晶搭載のため、“Windows 8.1の入門用に最適”と謳われている本モデル。2008年~2010年頃にこの価格帯で小型ノートといえば、いわゆるネットブックが存在し、一世を風靡した。しかしながらAppleのiPadを台頭とするタブレットの登場で、インターネットコンテンツを消費することを前提としたネットブックは、すっかり市場から駆逐されてしまった経緯がある。

 Pavilion10のスペックをパッと見た印象で、これはネットブックの後継だという読者は多いのではないだろうか。プロセッサのアーキテクチャこそAMD最新のTemashを搭載するが、クロックは1GHzでデュアルコア、GPU部もシェーダーコア数128基/クロック225MHzとほぼ必要最低限。メモリも2GBで増設できず、ストレージもSSDではなく320GBのHDDが搭載されている。

 これまでのネットブックとの最大の違いは、液晶解像度が1,366×768ドットになっている点と、その液晶がタッチに対応した点。しかしいずれもフルWindows 8.1機能を使うための最低限のものであり、これといって特筆すべき機能ではない。この状況はまさにWindows XPのネットブックとよく似ている。Pavilion10は言わばWindows 8.1を搭載した“現代版ネットブック”なのだ。

ただし、質感と体感は一昔前のネットブックとは一線を画す

 スペックを見た感じでは現代版ネットブックそのものだが、そのイメージは本製品の実機を手にして使い出してから“ちょっと違う”と思った。

HP Imprint技術により高い質感を実現。天板のみならず、パームレストにも同等の処理が施されている

 まずは質感がとても良い点。ネットブックと言えば、プラスチックの質感が強い筐体、すぐに剥がれそうな塗装、はたまた塗装を諦めた純粋な梨地を思い浮かぶのだが、本製品はHPのメインストリームノートでお馴染みの「HP Imprint」を採用。ボディ成型時にデザインされたフィルムを挟み、そこに樹脂を流し込み模様の転写と成形を同時に行なうことで、キズや色剥げに強い構造になっているという。

 このImprintを採用していることもあり、透明な素材の中に模様があるような感じとなり、質感はほかのメーカーの従来のネットブックとは一線を画す。表面も光沢があり美しく、とても3万円台のノートPCだとは思えない。かつて日本HPはファッションブランドVivienne Tamとコラボレーションしたネットブック「HP Mini 1000 Vivienne Tam Edition」を販売していたが、その時の美しいデザインを支えていたのもImprint技術であった。それがこの低価格モデルでも採用されているわけである。

 ただ、Pavilion10を手にして1日も経たないうちにあっちこっち指紋だらけになってしまうのは気になった。「キズや色剥げを気にしなくて良いので、クロスで磨いてモノとして大事にして欲しい」という意図もあるだろうが、光沢感を残しながら指紋が付きにくい加工もあるようなので、実用性という観点から次モデルでは改善して欲しいところではある。

 もう1つはWindows 8.1を搭載していることも関係しているのだが、起動が高速なこと。Windows XPを搭載したネットブックを使い込んでしまうと起動に2分近く掛かってしまうことも珍しくないが、Windows 8.1では起動がかなり高速化され、UEFIによる高速起動にも対応しているため、本機はHDDを搭載しているにもかかわらず、30秒足らずで起動できる。

 またメモリが2GBとWindows XP時代から多くなっているためOS動作そのものも軽く、Webブラウザの立ち上げや各種アプリの起動でもたつくことも少ない。Windows XPネットブックを特に使い込んだユーザーならば、その差をすぐに実感できるだろう。現代版ネットブックは、それなりに進化しているのだ。

クラムシェルでは珍しいファンレス構造で静音

本体底面には吸気口が見られるが、ファンは非搭載

 本機に搭載されているAPUはTDP 3.9Wの「A4-1200」というモデルで、本来はタブレット向けのSoCとなっている。A4-1200の採用で低価格を実現している点もそうなのだが、これによってクラムシェル型ノートでは珍しいファンレス構造を実現している。

 本体左側面に排気口、本体底面に吸気口のようなが見えるものの、ファンは搭載しない。この吸気口の近くにはHDDが装着されているようだが、本機から発せられる騒音はHDDの回転音とシーク音のみであり、非常に静かだ。

 過去のネットブックは、TDPの高いAtom Dシリーズを搭載しているためファンを搭載していたと思う。TDPの低いAtom Zシリーズを搭載したノートではファンレス機があるが、価格が安いネットブックではない。個人的にファンレスのクラムシェルノートを手にするのは「VAIO type P」以来であるが、やはり静かだ。動作中の発熱もそれほどではないため、気にする必要はない。

 添付のACアダプタは65W出力タイプで、本機のスペックからしてかなりの余裕がある。ACアダプタ自体は小型なのだが、付属のケーブルが3ピンのいわゆる“ミッキータイプ”なのがネック。せっかくの小型のACアダプタも太いケーブルで携帯性が台無しになってしまう。とは言え、製品の性質上ヘビーモバイラー用ではないため、家に置いておく分には問題ないとも言える。

 BBenchでキーストローク/オン、Web巡回/オン、輝度30%の設定で計測したところ、おおよそ5時間駆動した。1日中外出先で使うといったヘビーモバイルはさすがに無理だが、カフェでちょっと調べ物をしつつレポートを書くといった用途ではちょうどいいぐらいだろう。

付属のACアダプタとケーブル。いわゆるミッキータイプのコネクタで、ケーブルは太い
ACアダプタは65Wタイプで比較的小型。重量はケーブル込みで実測245g
一方ACケーブルだけで110gもある

キーボード/タッチパッドとインターフェイス

 キーボードはアイソレーションタイプ。キーピッチは主要キーが約17.5mmとこのクラスにしてはギリギリまで頑張った印象だ。ストロークは浅いものの打鍵感はよく、一昔前のVAIO type Pを彷彿とさせる感触で悪くない。

 キー配列もクセが少ない部類で、フレームの使い回しでキーが一緒になっているといったことも無いのだが、人によってはEnterの狭さやカーソルキーの上下の狭さが気になるだろう。また、標準ではファンクションキーは輝度調節や音量調節、メディア操作が割り当てられており、F1~F12として機能させるためにはFnキーと同時に押す必要がある。

 タッチパッドは横長でそこそこサイズも確保されている。カーソル操作は問題ないが、クリックボタンがパッドと一体となっているため(いわゆるクリックパッド)、ボタンを用いたダブルクリックや右クリックなどで失敗する時があった。個人的にこのクラスの大きさのクラムシェルはタッチパッドよりもスティック型のポインタのほうがしっくり来るのだが、本機ではタッチパネルを搭載しているためさほどマイナス評価にはならないだろう。

アイソレーションタイプのキーボード
エンターキーや半角/全角キーなど、一部がやや細くなっているが、実用で気になることはなかった。カーソルは結構窮屈な印象
主要キーのキーピッチは17.5mm確保されている
タッチパッドも幅広でポインティングしやすいが、ボタンと一体型のため右クリックに失敗する時がある
細かい点だがHDDのアクセスインジケータを備えているのは良いと思う

 インターフェイスは、左側面にHDMI、USB 3.0、SDカードスロット、右側面にEthernet、USB 2.0×2、音声入出力兼用ミニジャックを装備。HDMIもSDカードスロットも標準サイズのため、TVやデジカメとの親和性は高い。また、Ethernetを搭載している点もタブレット製品では難しいので評価できる。

 液晶ディスプレイは標準的。色がやや薄めだが、視野角は比較的広く多少視点を変えたぐらいでストレスになるようなことはない。

 目立たない点だが、個人的に評価したいのはスピーカーだ。本機は小型ながらもステレオスピーカーを搭載し、dtsのSound+技術が用いられている。音量は筐体の大きさの域を出ないが、中低音は比較的豊かで、10.1型としてはトップクラス。ネットゲームをプレイしてその音を聞く程度であれば、外付けスピーカーは不要だ。

液晶ディスプレイ。やや色みが薄い印象だが、ホワイトバランスは比較的正しい
視野角はそれほど広くないが、このクラスとしては標準的で過不足はない
液晶ディスプレイはかなり角度を付けられるため、膝の上に載せてタイピングするといった場合でも見やすい
本体左側面のインターフェイス
本体右側面のインターフェイス
ネットブックだと考えれば、結構薄型の部類に入る
重量は実測で1,269gであった

性能は期待できないが、数値ほど遅くない

 最後にベンチマークによる性能評価に入りたい。使用したベンチマークは「PCMark 7 1.4.0」、「ファイナルファンタジーXI オフィシャルベンチマーク3」、「SiSoftware Sandra」の3つ。参考までに、1世代前のAtom Z2760を搭載した「ARROWS TAB Wi-Fi QH55/J」、上位APUのA6-1450を搭載した「Aspire V5」を加えてある。

Pavilion10Aspire V5ARROWS TAB Wi-Fi QH55/J
CPUA4-1200A6-1450Atom Z2760
メモリ2GB4GB2GB
ストレージ320GB HDD500GB HDDeMMC 64GB
OSWindows 8.1Windows 8Windows 8
PCMark 7
Score76712251358
Lightweight6046791378
Productivity328355946
Entertainment6491241956
Creative200328772815
Computation142738553208
System storage142915152930
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3
Low252031961424
High17372206858
SiSoftware Sandra
Dhrystone7.33GIPS18.21GIPS9.14GIPS
Whetstone4.54GFLOPS12GFLOPS5.8GFLOPS
Graphics Rendering Float66.7 Mpixel/sec115.34Mpixel/sec3.11Mpixel/sec
Graphics Rendering Double4.34Mpixel/sec7.46Mpixel/sec0.33Mpixel/sec

 PCMark 7の結果はずばり言ってしまえば振るわない。HDDなのでSystem storageのスコアはeMMC搭載のQH55/Jと単純比較できず足を引っ張っているが、LightweightとProductivity、Computationあたりもボトルネックになっている。Atom Z2760はHyper-Threadingに対応しているため、OS上からは4コアとして認識され、マルチスレッドに特化したベンチマークでは特に有利になることが影響している。

 単純にコア数が倍でクロックが4割向上したAspire V5との比較では、PCMark 7では順当な結果が出ている。SiSoftware Sandraでも同じ傾向を示す。

 ファイナルファンタジーXI オフィシャルベンチマーク3のようなCPUとGPUの性能が両方問われるようなベンチマークでは、本機のほうが高い数値を示す。実際にファイナルファンタジーXIをインストールしてプレイしてみたが、キャラクターが多い場所や、テクスチャの解像度が高いアトルガン/アルタナ/アドゥリンエリアではややもたつくものの、オリジナルエリアやジラートエリアでは、すべてのグラフィックス設定を高に設定してもほぼ問題なくスムーズにプレイできた。

 ネットブックが出た当初、ファイナルファンタジーXIをプレイできるかどうかで1つ話題に上がり、画質や解像度を落としたりしてなんとかプレイに辿り着けるレベルだったと思うが、本機でソロ~6人ぐらいまでなら、ストレス無くプレイできそうである。また、10年前の3Dゲームならばほぼ問題なくできると思われるため、「懐かしいゲームを引っ張りだして遊ぶ」にはもってこいのではないかと思う。

 いずれにしても、数値だけ見ると性能が低いように思われるが、実際のWebブラウズや一般的な作業、数世代前の3Dゲームではほかのモデルと比較しても遜色がない印象だ。

 ちなみに、最近Windowsタブレットでプレイすることが流行している「艦隊これくしょん~艦これ~」は、残念ながら快適にプレイできなかった。どのシーンもたついており、デュアルコアで1GHzというスペックが足を引っ張っている印象だ。このあたりはさすが最新のAtom Z37xxシリーズには敵わず、どこでも鎮守府に着任したい提督の方々にはおすすめできない。

Windows 8.1入門機だからこそタブレットではなくキーボード付きで

HPのロゴが強調されすぎている感じもあるが、閉じた時のフォルムはなかなかスポーティーで格好良い

 この冬に入ってから、高性能なAtom Z37xxシリーズを搭載したタブレットが充実し、価格も4万円台を切るところから用意されているため、そちらを選ぶユーザーは少なく無いだろう。

 しかし、Windows 8で導入された新しいUIはもちろんタッチが前提なのだが、クラシックデスクトップ環境を多用するWindowsユーザーが、いざWindowsタブレットを使い出し始めると「タッチパネルによってもたらされる新しい利便性」よりも「キーボードとマウスがないことによる不便さ」に気付かされる。Twitterで140文字つぶやくだけにしても「なぜキーボードがないとこうも不便なんだ」と思うことだろう。

 この状態でWindows PC初心者が安価だからといきなりタブレットを使うというのは、なかなか不安だ。Windowsのソフトウェアキー配列はAndroidやiOSと異なり特殊で、変更もできず、このままタブレット使い出し始めると「Windowsは不便だ」という誤解を抱いてしまいかねない。そのため、本機に搭載されたキーボードとクリックパッドは初心者ユーザーにとって重要だろう。

 一方、手軽なノートPCとしてこれまでWindows XPネットブックを購入した上級ユーザーにとっても良い乗り換え先だ。Windows XPのサポート終了となる2014年4月まであと5カ月を切っているが、この中にはWindows XPをプリインストールしていたネットブックも相当数含まれていると思う(とは言え、未だネットブックに執着する上級者ユーザーは少ないと思うが)。

 Windows XP世代のネットブックはHome Editionそのものであり、特に機能制限がなかったが、Windows 7世代になってから、機能制限がかなり課せられたStarterのみがネットブックに用意されたこともあり、ネットブック市場が縮小してしまったように思う。その点Pavilion10はそのような機能制限もないどころか、タッチ機能まで付いている。この手のモデルが増えれば、再びネットブックのブームが来るのではないかと、そんな予感をもさせられる製品だ。

(劉 尭)