日本HP「HP Pavilion Desktop PC p6-2210jp/CT」
~AMDの最新APU「Trinity」搭載デスクトップ




 日本HPは、シンプル設計でコストパフォーマンスに優れるデスクトップPC「HP Pavilion Desktop PC p6シリーズ」の新モデルを発売した。Intel製CPU搭載の「p6-2220jp」と、AMD製CPU搭載の「p6-2210jp」の2モデルが用意されるが、今回はAMD製CPU搭載の「p6-2210jp」を取り上げる。

●第2世代AシリーズAPU「Trinity」を搭載

 HP Pavilion Desktop PC p6シリーズは、日本HPのデスクトップPCのエントリーモデルとして位置付けられている製品だ。今回取り上げるAMD製CPU搭載のp6-2210jpは、販売価格が39,900円からと、非常に安価に設定されている。仕様面もかなりシンプルで、いかにもエントリーモデルらしい製品となっている。

CPUに、第2世代AシリーズAPU(左)を採用。A10-5700またはA8-5500を選択できる。右は第1世代AシリーズAPUのA8-3850

 ただ、p6-2210jpには、1点非常に大きな特徴がある。p6-2210jpでは、CPUにAMDのグラフィックス機能統合CPUである、AMD AシリーズAPUを採用しているが、開発コードネーム「Trinity」こと、デスクトップPC向け第2世代AシリーズAPU「AMD A10-5700」をいち早く採用している点だ。

 Trinityは、第1世代AシリーズAPU「Llano」から、CPU/GPUともに強化した最新APUだ。Llanoでは、Phenom II系の「Stars」コアをベースとしたCPUコア「Husky」と、「VLIW5」アーキテクチャのGPUコアを統合していた。それ対し、TrinityではAMD FX系の「Bulldozer」コアをベースとしたCPUコア「Piledriver」と、Radeon HD 6900シリーズと同等の「VLIW4」アーキテクチャのGPUコアを統合。これにより、CPU、GPUともにパフォーマンス向上を実現している。

 こちらでも紹介しているように、すでにノートPC向けTrinityは発表済みで、搭載製品もいくつか登場している。それに対し、デスクトップ向けTrinityはSKUこそ発表済みながら、製品はまだ正式発売とはなっていない。そういった中で、Trinityをいち早く採用したp6-2210jpは、要注目の製品と言えるだろう。

 ちなみに、p6-2210jpに搭載可能なCPUは、「A8-5500」と「A10-5700」の2モデルで、今回の試用機ではA10-5700が搭載されていた。A10-5700は、CPUコアのベースクロックが3.4GHz、Turbo CORE時の最大クロックは4.0GHz。GPUコアは、コア数が384個、GPUコアクロックが760MHzのRadeon HD 7660Dとなる。


●CPUソケットは「Socket FM2」

 デスクトップ向けTrinityでは、CPUソケットがLlanoの「Socket FM1」から「Socket FM2」に変更されている。ピン数は905から904に減っており、双方に互換性はない。当然、Trinityを採用するp6-2210jpのマザーボードでも、CPUソケットはSocket FM2が採用されている。ただし、チップセットはLlano向けチップセットと同じ「AMD A75」を採用している。

 マザーボード上には、メインメモリ用のDIMMスロットが4本、拡張スロットとしてPCI Express x16が1本、PCI Express x1が3本ある。また、PCI Express Mini Cardソケットも用意されている。メインメモリは、Llano同様PC3-14900(DDR3-1866)に対応するが、p6-2210jpではPC3-12800(DDR3-1600)を搭載している。試用機では、4GBモジュールが2枚、合計8GB搭載されていた。

p6-2210jpに採用されているマザーボード。Micro ATX仕様で、チップセットはAMD A75を採用するCPUソケットは「Socket FM2」となっており、Llanoとは互換性がない左がA10-5700、右がA8-3850。ピン数はTrinityが904、Llanoが905となり、ピン形状も異なっている

●ミニタワーケースの拡張性はやや低い

 p6-2210jpのスペック面は、購入時に自由にカスタマイズできる。CPUは、先ほども紹介したようにA8-5500とA10-5700から選択可能。メインメモリは4GBまたは8GB、HDDは500GBから3TBまで、光学式ドライブはDVDスーパーマルチまたはBDドライブから選択できる。他にも、グラフィックスカードとしてNVIDIA GeForce GT 630搭載カードや、ダブル地デジ/BS/CSチューナーカード、無線LAN機能などを追加可能だ。試用機では、メモリ8GB、GeForce GT 630搭載カード、1TB HDD、DVDスーパーマルチドライブが搭載されていた。

 ケースは、サイズが約164×374×368mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトなミニタワーケースを採用。ボディはブラックで、前面が光沢感の強い塗装となっている。また、前面にはUSB 3.0対応のUSBポートが2ポートとヘッドフォン、マイクの各端子、SDカード、メモリースティック、xD-Picture Cardなどに対応する「6in1メディアスロット」を備える。

 内部へのアクセスは右側面パネルからで、マザーボードはケース左側面に取り付けるようになっている。ケース内部のドライブベイは、5インチベイ×1、3.5インチシャドウベイ×1で、標準で光学式ドライブとHDDが取り付けられるため、ベイの空きはない。ケースがコンパクトなためベイ数の少なさは仕方のない部分もあるが、せめて3.5インチシャドウベイはもう1つ用意してもらいたかったところだ。空冷ファンは、背面に8cmの排気ファンを備える。また、電源ユニットは容量300WのATX仕様のものを搭載する。

本体正面。幅が164mm、高さが368mmとコンパクトなミニタワーケースを採用。カラーはブラックで、正面は光沢塗装となっている前面には、USB 3.0対応のUSBポートが2ポートとヘッドホン、マイクの各端子、SDカード、6 in 1メディアスロットを備える左側面。奥行きは374mmと、タワーケースとしてはやや短めだ
背面。左側面側にマザーボードが固定されているため、拡張スロットが上方に配置されているマザーボードの背面ポートは、ミニD-Sub15ピン、DVI-D出力、USB 3.0×2ポート、USB 2.0×4ポート、Gigabit Ethernet、音声入出力端子、光音声出力端子を用意。ちなみに、GeForce GT 630カードを搭載すると、マザーボードの映像出力はフタで隠される右側面。内部へはこちらからアクセスする
右側面パネルを開けた様子。電源ユニットは300WのATX仕様電源で、上部に搭載する拡張ベイは、上部に5インチベイを1個備えるが、標準で光学式ドライブを搭載HDD搭載用の3.5インチシャドウベイも1個のみ。標準でHDDが搭載され、追加は不可能だ
背面下部に排気用の8cmファンを搭載するHDDは500GBから3TBまで選択可能
光学式ドライブは、DVDスーパーマルチドライブまたはBDドライブから選択するGeForce GT 630搭載ビデオカードを追加することも可能だ

●CPU処理能力はやや低いものの、描画能力は優れる

 では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。ところで、今回はLlano「A8-3850」と比較しようと思ったのだが、用意したA8-3850でメモリがデュアルチャネルで動作しないという不具合があり、正確な比較ができなかった。一応、シングルチャネル動作での結果を掲載しているが、当然A8-3850の本来のパフォーマンスが引き出せていないため、あくまでも参考値としてみてもらいたい。

 また、LlanoおよびTrinityはメモリとしてDDR3-1866対応だが、今回はp6-2210jpがDDR3-1600搭載のため、LlanoでもDDR3-1600を搭載して計測している。比較マシンのスペックは表に示したとおりだ。また、「A8-3870K」をレビューしているこちらの記事の結果も参考にしてもらいたい。

 ちなみに、利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 7 v1.0.4」、「PCMark05 Build 1.2.0 1901」、「3DMark11 v1.03」、「3DMark Vantage Bulld 1.0.1」、SiSoftwareの「Sandra 2012 SP5a」、カプコンの「モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】」、セガの「ファンタシースターオンライン2キャラクタークリエイト体験版」の7種類。また、EAのゲームソフト「BATTLEFIELD 3」とフレームレート計測ツール「Flaps」を利用し、BATTLEFIELD 3を1分間プレイした場合の平均フレームレートも計測(3回計測の平均)した。ただし、ストレージが異なるため、比較用のA8-3850機ではPCMark7のテストは行なっていない。

・比較機のスペック
CPU:AMD A8-3850
マザーボード:ASRock A75 Pro4
メインメモリ:PC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB×2
ストレージ:Intel SSD 520 240GB

【表】ベンチマーク結果

TrinityTrinity + GeForceLlano
CPUAMD A10-5700
(3.40/3.70GHz)
AMD A10-5700
(3.40/3.70GHz)
AMD A8-3850
(2.90GHz)
チップセットAMD A75AMD A75AMD A75
ビデオチップRadeon HD 7660DGeForce GT 630Radeon HD 6550D
メモリPC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB×2PC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB×2PC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB×2
ストレージ1TB HDD(ST310005)1TB HDD(ST310005)Intel SSD 520 240GB
OSWindows 7 Home Premium SP1 64bitWindows 7 Home Premium SP1 64bitWindows 7 Professional SP1 64bit
PCMark 7 v1.0.4
PCMark score25382562
Lightweight score21032040
Productivity score17101654
Creativity score42702806
Entertainment score26362541
Computation score53783029
System storage score19861901
PCMark05 Build 1.2.0
PCMark ScoreN/AN/AN/A
CPU Score904390528774
Memory Score576657135067
Graphics Score1003587106100
HDD Score7089772969031
Sandra 2012 Processor Arithmetic
Aggregate Native Performance(GOPS)39.7637.65
Dhrystone Integer Native SSE4.2(GIPS)49.1441.48
Whetstone Double Native SSE3(GFLOPS)32.1734.18
Sandra 2012 Memory Bandwidth
Aggregate Memory Performance(GB/s)11.857.042
Integer Memory Bandwidth(GB/s)11.87.047
Float Memory Bandwidth(GB/s)11.97.038
CINEBENCH RELEASE 11.5 64bit
OpenGL(fps)33.5326.6417.01
CPU(pts)2.92.873.33
Windows エクスペリエンスインデックス
プロセッサ7.27.27.3
メモリ7.27.35.9
グラフィックス6.76.84.7
ゲーム用グラフィックス6.76.86.2
プライマリハードディスク5.95.97.9
3DMark11 v1.03 1,280×720ドット
3DMark 11 Score12651277797
Graphics Score11491166720
Physics Score346736553211
Combined Score10671013606
3DMark Vantage Bulld 1.0.1 0906a 1,280×1,024ドット
3DMark Score531055852530
GPU Score465644642048
CPU Score9176226218619
Sandra 2012 General-Purpose(GP) Computing
Aggregate Shader Performance(MPix/s)157.5476.0396.61
Native Float Shaders(MPix/s)610.52304.98500.92
Emulated Double Shaders(Mpix/s)40.6518.9518.63
Cryptographics Bandwidth(GB/s)2.310.8170.998
Encryption/Decryption Bandwidth(GB/s)1.11.080.739
Hasing Bandwidth(GB/s)4.870.6181.315
Aggregate Memory Performance(GB/s)7.711.215.93
Internal Memory Bandwidth(GB/s)10.3720.0638.999
Interface Transfer Bandwidth(GB/s)5.726.263.905
Sandra 2012 Graphics Processor
Aggregate Shader Performance(MPix/s)48.1241.7831.02
Native Float Shaders(MPix/s)106.7141.2870.34
Emulated Double Shaders(Mpix/s)21.712.3613.68
Tranccoding Bandwidth(MB/s)2.640.5230.367
Video Memory Bandwidth(GB/s)8.538.954.521
モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】
1,280×720ドット441134052179
1,920×1,080ドット233317561155
ファンタシースターオンライン2キャラクタークリエイト体験版
横1,280相当フルスクリーン842473215
BATTLEFIELD 3 画質設定「低」
1,280×720ドット(fps)41.843.420.2
1,920×1,080ドット(fps)21.321.910.0
BATTLEFIELD 3 画質設定「最高」
1,280×720ドット(fps)17.820.49.3
1,920×1,080ドット(fps)8.610.44.5

 今回は、トラブルでA8-3850との直接比較が行なえなかったが、それでもA10-5700のポテンシャルが十分に確認できた。まず、CPUの処理能力は、動作クロックが大きく上昇している割には、A8-3850から若干上回っている程度と、大きな向上は見られないと考えられる。コアのアーキテクチャが異なることもあるが、CPUの処理能力はLlanoより大きく向上するということはなさそうだ。

 それに対し、3D描画能力はLlanoから比較的大きく向上している。テストにもよるが、メインメモリがシングルチャネル動作のA8-3850に対し、2倍以上のスコアとなっているものが多い。メインメモリがデュアルチャネル動作になったとしても、A8-3850の3D描画能力が2倍ほどに向上することはない。そう考えると、A10-5700が内蔵するRadeon HD 7660Dの3D描画能力は、かなり優れると考えていいはずだ。

 ところで、今回の試用機では、GeForce GT 630カードが搭載されていたが、GeForce GT 630利用時と比較すると、3D描画能力は甲乙つけがたいといった感じで、この結果を見る限り、Radeon HD 7660DとGeForce GT 630は、パフォーマンス的にほぼ同等レベルと考えられる。統合グラフィックス機能ながら、エントリークラスの外部GPUと同等レベルの3D描画能力を備えるという点は、競合製品に対する優位点となるはずだ。逆に、この結果を見る限り、p6-2210jpでGeForce GT 630カードを搭載するのは、あまり意味がないだろう。

 p6-2210jpは、いち早くデスクトップ向けTrinityを採用することで、エントリークラスのマシンながら、比較的優れた3D描画能力を備えている点が大きな魅力と言える。最近は、3D描画を利用したカジュアルゲームも増えているが、p6-2210jpならそういったゲームも十分快適にプレイできるだろう。さすがに、「バトルフィールド 3」のような非常に高い3D描画能力を必要とするゲームでは、表示解像度や描画設定を落とす必要があるものの、なんとかプレイできるレベルで動作する点は、他の統合グラフィックス機能に対する大きな優位点。そういった意味で、p6-2210jpは、3D描画のカジュアルゲームが快適に楽しめる低価格デスクトップを探している人におすすめしたい。

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(2012年 8月 29日)

[Text by 平澤 寿康]