~ハード、ソフトとも大きく進化したAndroid 4.0タブレット |
ソニーから発表された「Xperia Tablet S」は、Android 4.0を搭載した9.4型タブレット端末である。ソニーは昨年(2011年)、「Sony Tablet S series」と「Sony Tablet P series」という2つのAndroidタブレットを発売したが、Xperia Tablet Sは、その前者の後継となる製品だ。液晶サイズはどちらも同じ9.4型だが、Xperia Tablet Sでは、CPUがデュアルコアのTegra 2からクアッドコアのTegra 3に強化されたほか、本体最厚部の厚さが8.75mmも薄くなるなど、大きく進化している。
今回は、Xperia Tablet Sを試用する機会を得たので、早速、レビューしていきたい。なお、今回試用したのは試作機であり、製品版とは細部や性能などが異なる可能性がある。
●防滴設計の薄型軽量本体を実現Xperia Tablet Sは、ソニーのスマートフォン「Xperia」シリーズとブランドを共通化し、アプリケーションのUIなども一部共通化したことが特徴であり、Xperiaシリーズのユーザーに親しみやすい製品となっている。
Sony Tablet S seriesとXperia Tablet Sを比較すると、まず、本体デザインが大きく変更されている。Sony Tablet S seriesは、横から見るとくさび形の本体を採用していたが、最厚部の厚さは20.6mmとやや厚みが大きかった。それに対し、Xperia Tablet Sでは、横から見ると、一部を折り返して厚みが増したようなデザインになっており、最厚部の厚さはわずか11.85mmしかない。最薄部の厚さも、Sony Tablet S seriesの10.1mmから8.8mmへと薄くなっており、手で持ったときにより手になじむ感じを受ける。重量も598gから570g(ともにWi-Fiモデル)へさらに軽くなっており、立ったまま片手で持っていても、苦にならない。
また、IPX4相当の防滴機能を実現したことも高く評価できる。台所など、水がかかる可能性のある場所でも気軽に使え、濡れた手での操作も可能だ。ただし、IPX5相当の富士通の「ARROWS Tab Wi-Fi」とは異なり、防水機能は備えておらず、水の中に沈めるようなことはできない。
Xperia Tablet Sの前面。前モデルと同じ9.4型液晶搭載だが、フットプリントはわずかに小さくなっている | Xperia Tablet Sの背面。側面から見ると、一部を折り返したようなデザインになっており、背面もツートンカラーになっている。黒い部分が厚くなっているが、その厚みも前モデルに比べて9mm近くも薄くなっている | 試用機の重量は実測で555gであった |
●クアッドコアのTegra 3を搭載
外見だけでなく、中身のハードウェアも一新された。Sony Tablet S seriesでは、デュアルコアのTegra 2が搭載されていたが、Xperia Tablet Sでは、最新のクアッドコアCPUのTegra 3(実際には省電力動作時に使われる5つめのコアも搭載)を搭載し、処理性能が大きく向上している。ストレージ容量も、Sony Tablet S seriesでは、16GBと32GBの2モデルが用意されていたが、Xperia Tablet Sでは、新たに64GBモデルも追加された。ただし、Sony Tablet S seriesにあった3Gモデルは省略され、Wi-Fiモデルのみとなっている。なお、試用機のAndroidバージョンは、4.0.3であった。
液晶は、Sony Tablet S seriesと同じ9.4型IPS液晶パネルで、解像度も1,280×800ドットと変わらないが、同社の液晶TV「ブラビア」で採用されているオプティコントラストパネルを採用し、より表示品位が高まっている。従来の液晶パネルでは、液晶パネルと本体前面のガラスの間に隙間があるため、映り込みや白ぼやけの原因となってしまっていたが、オプティコントラストパネルでは隙間をなくして樹脂で埋めることよって、外光の反射を抑え、よりコントラストの高い表示を実現している。また、液晶表面には、低摩擦コーティングと防指紋コーティングが施されており、さわり心地も快適だ。
無線機能としては、IEEE 802.11a/b/g/n準拠の無線LANとBluetooth 3.0をサポートする。前述したように、3G対応モデルは用意されていない。また、GPS、3軸加速度センサー、ジャイロセンサー、デジタルコンパス、照度センサーを搭載しており、センサー類についてもフルスペックといえる。
インターフェイスは、マルチポートとヘッドフォン出力、SDカードスロットのみとシンプルな構成だが、マルチポートとHDMIを結ぶHDMIケーブルや、USBホスト機能を利用できるUSBホストアダプタケーブルなどが用意されているので、さまざまな周辺機器を利用できる。なお、防滴構造を実現するため、マルチポートには防滴キャップが装着されており、SDカードスロット部もカバーで覆われている。これらのキャップやカバーを外した状態では、IPX4相当の防滴機能は失われてしまうので注意が必要だ。
カメラ機能もSony Tablet S seriesに比べて強化されており、前面カメラはVGA解像度から100万画素に、背面カメラは500万画素から800万画素へと、それぞれ画素数が向上している。また、感度の高い裏面照射型CMOSイメージセンサーを採用しており、暗い場所でもより鮮明な写真が撮影可能だ。
サウンドにもこだわっており、2Wの高音圧スピーカー機構を搭載。現行のSony Tablet S seriesに比べて、音圧は5dB向上し、周波数帯域も1,000~10,000Hzから750~16,000Hzへと拡大しており、より高品位なサウンドが聴けるようになった。さらに、クリアフェーズやxLOUDなどの高音質化技術も搭載されている。
【動画】基本的な動作の様子。タッチパネルの反応もよく、描画も高速なので、快適に利用できる |
●公称10時間以上の長時間駆動を実現
ACアダプタはコンパクトで軽く、ACプラグ部分の折りたたみが可能なので、携帯しやすい。バッテリは交換できないが、容量がSony Tablet S seriesの5,000mAhから6,000mAhに増加しており、公称10時間以上の長時間駆動を実現している。充電は、付属のマルチポート専用USBケーブルをACアダプタに接続して行なうが、高出力タイプのUSBポートからの充電も可能だ。
ACアダプタは、コンパクトで軽く、携帯性は優秀だ | ACアダプタの側面。ACプラグ部分は折りたたみが可能だ | ACプラグ部分を引き出したところ |
ACアダプタの出力コネクタは、USBコネクタとなっている | 付属のマルチポート専用USBケーブル。充電もこのケーブルを利用する | マルチポート専用USBケーブルをACアダプタに接続したところ |
マルチポート専用USBケーブル経由で、本体バッテリの充電が可能 |
●手書き入力機能も搭載
入力はタブレットとしては一般的なソフトウェアキーボードで行なうが、手書き入力機能も搭載している。この手書き入力機能は、表示されるマス目の中に文字を書いていく方式ではなく、自由に文字を書いていけば、自動的に変換されていくというもので、変換効率も高く、快適に入力が可能だ。
入力はソフトウェアキーボードで行なう。予測変換機能もある | 手書き入力機能も優秀であり、文字を書き込むためのマス目などは表示されず、自由なサイズで文字を書いていけばよい |
●独自サービスやアプリケーションがさらに充実
Sony Tablet S seriesも、ソニー独自のサービスやアプリケーションが充実していることが好評だったが、Xperia Tablet Sでは、タブレットならではの新しい体験を提供する、独自サービスやアプリケーションがさらに強化されている。
まず、挙げられるのが、エンターテイメントサービスの充実だ。Xperia Tablet Sが対応するエンターテイメントサービスとしては、PlayStation Mobile(今秋開始予定のPlayStation Storeから配信)やMusic Unlimited、Video Unlimited、PlayMemories、Reader Storeなどがある。例えば、ソニーの電子書籍ストアであるReader Storeでは、話題の書籍やコミックなどが6万冊以上(7月末時点)配信されており、Xperia Tablet Sでも楽しむこともできる。
今回新たに導入されたアプリが、Socialifeと呼ばれるアプリだ。Socialifeは、自分が気になる情報が一目で見つかるソーシャルニュースマガジンという位置づけのアプリで、具体的にはFacebookやTwitterなどのソーシャルメディア上の投稿やYouTubeの動画、ニュース記事などを「マイストリーム」画面でまとめて見ることができる。タブレットのタッチ操作に向いた雑誌風のレイアウトで表示されるため、ブラウザで見るのとはまた違った新鮮な体験を得ることができる。
音楽や動画、写真を楽しむためのメディアアプリケーションが一新されたことも特徴だ。アプリケーションの名前とアイコンデザインが一新され、従来のミュージックプレイヤーはWALKMANに、ギャラリーはアルバムに、ビデオプレーヤーはムービーに変更された。それぞれのアプリは、各メディアのゲートとしての位置づけになっており、コンテンツの種類(音楽や動画など)さえ一緒なら、ローカルメモリにあるコンテンツ、ネットワークデバイス上のコンテンツ、ネットサービス上のコンテンツを問わず、簡単にアクセスできるように設計されている。音楽プレーヤーのWALKMANは、Xperiaスマートフォンと共通のユーザーインターフェイスを採用しており、Xperiaスマートフォンユーザーなら、すぐに使いこなすことが可能だ。また、WALKMANアプリからホームネットワークのDLNAサーバーを直接検索できるほか、Facebook上の友人が勧める楽曲一覧を自動生成し、その楽曲情報を入手する機能も備えている。
アルバムは写真や動画などのプライベートコンテンツを楽しむためのアプリで、ブラウジングが非常に高速だ。また、地図上への表示など、さまざまな表示スタイルで写真を楽しむことができる。さらに、アルバムアプリからDLNAサーバーやオンラインサービス(Facebook、Picasa)を直接検索することもできる。
ムービーは、プレミアムコンテンツを楽しむためのアプリで、DLNAサーバーの動画などにアクセスすることが可能だ。
【動画】ピンチ操作でサムネイルサイズも自由に変更できる。表示が高速で気持ちがいい |
●リモコンやテザリングなど機器連携機能も充実
Xperia Tablet Sは、リモコンやテザリングなどの機器連携機能も強化されている。タブレットをTVやBDレコーダなどの赤外線リモコンとして使うアプリは、Sony Tablet S seriesでも提供されているが、Xperia Tablet Sでは、新たにマクロ機能を搭載し、複数機器にまたがる最大16までのキー操作を記憶できるほか、スキン変更機能も追加された。スキンは各機器ごとに設定できるので、リビングと寝室のTVを区別するといった具合で使える。
また、Xperiaスマートフォンと連携してテザリング動作を行なう「Xperia Link」アプリも搭載された。Xperia Tablet Sからの操作で、スマートフォンのテザリング機能を呼び出せるので、スマートフォンをポケットやカバンに入れたまま3G回線でインターネットに接続できる。ただし、対応機種がXperia LinkアプリがインストールされたXperiaスマートフォンのみに限られるのが残念だ。動作検証の都合もあるだろうが、汎用のAndroidスマートフォンで利用できれば、Xperiaスマートフォン以外のスマートフォンユーザーにも訴求できるので、何らかの対応を期待したいところだ。
●タブレットの共有に便利なゲストモードを搭載
Xperia Tablet Sでは、新たにゲストモードと呼ばれる機能も搭載している。これは、ユーザーが普段使うホーム画面とは別に、ゲスト用のホームを作成する機能であり、ゲスト用のホームには、ユーザーが利用を許可したアプリしか表示されない。子どもにタブレットを使わせる場合でも、子どもに起動して欲しくないアプリは利用を許可しないようすれば、安心して使わせることができる。強固なデータセキュリティやインターネットのフィルタリングなどを実現する機能ではなく、あくまでアプリを非表示するだけだが、家族や友人とタブレットを一時的に共有する際には便利だ。
●他のアプリと同時に使えるスモールアプリも強化
スモールアプリと呼ばれる、ミニアプリも強化されている。スモールアプリは、子画面で動作するアプリで、他のアプリを起動中にも同時に呼び出せる。ウィジェットとも似ているが、ウィジェットよりも高機能であり、標準でブラウザ、リモコン、電卓、レコーダー、タイマー、メモ、クリップの7種類がプリインストールされており、簡易マルチタスク感覚で利用できる。ブラウザやリモコン、電卓は、以前からプリインストールされていたが、レコーダー、タイマー、メモ、クリップについては、Xperia Tablet Sで新たに搭載されたアプリである。また、汎用のウィジェットをスモールアプリとして登録し、使用する機能も追加されたので、より便利な環境を実現できる。また、情報をクリップして管理する、スクラップブックも便利だ。
ホーム画面の下のスモールアプリアイコンをタッチすると、デフォルトで登録されている7個のスモールアプリのアイコンが表示される | 新しく追加されたスモールアプリの「クリップ」。画面に表示されている情報を自由に切り抜いてクリップできる | スモールアプリの「ブラウザ」を利用しているところ |
●カバーキーボード、ドッキングスタンドなど、アクセサリ類が充実
Xperia Tablet Sは、専用アクセサリ類が非常に充実していることも魅力だ。シーンに応じたアクセサリを利用することで、Xperia Tablet Sの可能性はさらに広がる。ここまで純正のアクセサリ類が充実したタブレット端末は、他には見たことがない。ここでは、Xperia Tablet S用に発表されたアクセサリの中から、試用機と同時に試用することができたものを紹介したい。
オプションのキャリングカバー。 |
まず、最初に紹介するのが、キャリングカバーだ。キャリングカバーは、書籍のカバーのように本体をカバーするようになっており、もちろん、装着したまますべての機能を利用できる。カラーバリエーションも豊富で、全部で7色用意されている。ブラックとホワイトはレザー素材、ピンク、グリーン、ブルー、レッド、グレーはファブリック素材でできており、ユーザーの好みで選べる。キャリングカバーには、使わないときにカバーが開いてしまうのを防ぐためのカラーバンドが付属しているのだが、このカラーバンドもカバーのカラーにあわせて、それぞれ2色ずつ付属していることにも、ソニーらしいこだわりが感じられる。
キャリングカバーへの本体の装着は、本体の穴と爪を合わせることで行ない、しっかりと固定される。キャリングカバーは、折り返すことで、スタンド代わりにもなるように設計されており、2段階の角度で本体を傾けて固定することが可能だ。キャリングカバーを装着することで、重量は多少増加するが、液晶画面への傷などを気にせずに安心して持ち歩けるようになる。
カバーキーボードもユニークなアクセサリだ。名前の通り、本体のカバーとしても使えるキーボードであり、カラーはブラックとホワイトの2色が用意されている。本体の装着は、キャリングカバーと同様に、爪と本体の穴を合わせて固定する。キーボードのキーピッチは約16.5mmだが、薄さを重視してタッチセンサーのキーを採用しているため、キーストロークはほとんどなく、キーのクリック感も感じられない。筆者が試したところ、力の入れ具合がやや難しいと感じたが(指を乗せていて、入力するつもりがなかったのに入力されたことがあった)、慣れればソフトウェアキーボードよりも快適に入力できるだろう。
なお、カバーキーボードも、スタンド代わりに利用できるのだが、角度は決まっており、変更はできない。また、本体装着部(キーボード側ではない方)の裏側に小さなスイッチが用意されており、このスイッチが押されている状態では、キーボードが有効にならない。カバーキーボードをスタンド代わりにして本体を立てると、スイッチ側に隙間ができて、スイッチが押されていない状態になるので、キーボードが有効になる仕組みだ。
【動画】カバーキーボードを利用しているところ。ストローク感が一切ないので、やや慣れが必要だが、慣れればかなり速く入力できそうだ |
オプションのクレードル |
クレードルは基本的なアクセサリであり、他のタブレット製品にも用意されていることが多いが、Xperia Tablet Sのクレードルは、防滴キャップを脱着せずに、クレードルに置けるように、防滴キャップの代わりにマルチポートに装着するアダプタが付属していることが特徴だ。アダプタにはマルチポートの端子がそのまま出ており、クレードルのスタンド部分にマルチポートと同じコネクタが用意されている。このコネクタに、本体付属のマルチポート専用USBケーブルを接続することで、本体への給電やPCなどとの通信が可能になる。
クレードルのスタンドは、角度の調整が可能であり、利用シーンに応じて、本体を寝かせたデスクトップスタイルと、本体を立てたスタンディングスタイルの2スタイルで利用できる。
オプションのドッキングスタンド |
ドッキングスタンドも、タブレットの使い方を広げてくれるアクセサリだ。一見、ただのスタンドのようだが、インターフェイスを拡張する機能も備えており、スタンドに装着することでHDMI出力とUSB 2.0×3(ホスト機能対応)が利用できるようになる。スタンドの本体装着部は、上下の角度を調整するチルト機能と液晶を回転させるピボット機能を備えており、利用する場所や目的に応じて見やすい角度や液晶の向きで利用できる。ドッキングスタンドには、ACアダプタが付属しており、ACアダプタを接続することで、本体の給電や充電が可能だ。
オプションのタブレットスタンド |
タブレットスタンドは、本体と電気的には一切接続しない、シンプルなアクセサリだが、形状がよく考えられており、利用シーンに応じて3通りのスタイルで使えることが特徴だ。スタンドの上に載せてひっかける形で利用するのがフックスタイルで、閲覧重視の場合に適している。また、カウンタースタイルは、タブレットスタンドを横に倒して、その上に乗せて使うスタイルで、角度が低くなり、腰の高さに置いて使う場合に向いている。スタンドスタイルは、フックスタイルとスタンドの向きを前後逆にして使うスタイルで、縦画面にも対応する。
さらに、専用アクセサリとして、10W+10Wの本格的なデジタルアンプを搭載し、リモコンも付属するドックスピーカーも用意されている。このように、アクセサリ類の充実度に関しては、他社よりも一歩も二歩も先を行っているといえるだろう。
●パフォーマンスも満足でき、タブレットとしての完成度は高いXperia Tablet Sは、Tegra 3搭載で高いパフォーマンスを実現していることも魅力だ。そこで、参考のために、「Quadrant Professional Edition」を利用して、ベンチマークを行なってみた。トータルスコアは4321で、デュアルコア搭載の他の機種と比べて、かなりスコアが高くなっている。
「Quadrant Professional Edition」測定結果 |
実際の操作感も非常に快適であり、ストレスなく利用できる。Xperia Tablet Sは、Android 4.0搭載タブレットの中でもトップクラスのパフォーマンスを実現しているだけでなく、防滴設計や薄くて軽い本体、ソニー独自のサービスやアプリケーションが充実していることも魅力だ。さらに、充実したアクセサリを組み合わせることで、より多くの場面で活用できるようになる。2世代目の製品だけあって、タブレットとしての完成度はさらに高くなっており、初めてのAndroid 4.0搭載タブレットが欲しいという人には、有力な選択肢となるだろう。
(2012年 9月 4日)
[Text by 石井 英男]