元麻布春男の週刊PCホットライン

PC-9801“ガリバー”のNECがレノボと合弁



 2011年1月27日、NECとレノボは合弁会社を設立し、現在両社が日本国内で展開しているPC関連事業を、合弁会社の傘下に置くと発表、都内で記者会見を開催した。発表内容自体は、数日前から新聞等で報道されていたこともあり、もはや衝撃的なものではなかった。が、かつてPC-9801シリーズで7割近いシェアを誇り、「ガリバー」と呼ばれたNECのパソコン事業が、今でも国内トップシェアであるとはいえ、1社単独での生き残りが難しくなったことには、感慨を覚えずにはいられない。そう思うほど、かつてのNECは、わが国のパソコン市場において、圧倒的な存在だった。

 ちなみに、「国民機」というのは、PC-9801シリーズ互換機をリリースしたエプソンが自らの製品に対して付けた呼称であり、圧倒的なシェアを誇るPC-9801シリーズ上に築かれたソフトウェア資産は、(NECだけのものではなく)国民全体の資産といった意味だったと記憶する。また、NEC自身が自らをガリバーと呼んだりしたわけではない。

 そもそもNECがパソコン事業に参入したきっかけは、自社で生産している半導体チップの拡販を図るためだったと言われている。わが国で最初のパソコン(マイコンという呼び方の方がポピュラーだった)としてTK-80が発売された1976年当時、NECはIntelのセカンドソースとして、8080AをはじめとするIntel互換製品の製造と販売を行なっていた。半導体というビジネス自体がよちよち歩きの赤ん坊だった時代であり、製造や供給の不安を解消するために、開発元以外の会社(セカンドソース)が半導体の量産を行なうことは決して珍しいことではなかった。今なら受託生産専門のファウンダリ企業を使うところかもしれないが、当時はそんなものは存在しないし、ファウンダリの利用を前提にしたファブレスの半導体企業も存在しなかった。要するに半導体の設計から製造まで手がける会社同士で、互いの製品を作り合ったのである。Intelのセカンドソースは、NECのほか、AMD、富士通、Harris Semiconductor、IBM、Siemensなど、多数存在した。TK-80は、NECがセカンドソースとして生産していた8080A互換プロセッサの利用方法をトレーニングするためのキットという位置づけだった。

 このTK-80が予想以上に売れたことで、NECはパソコン事業に本腰を入れることになる。8080A上位互換のZ80プロセッサを搭載したPC-8001シリーズおよびPC-8801シリーズに続いて1982年に発売されたのがPC-9801シリーズだ。PC-9801シリーズは、その後継であるPC-9821シリーズと合わせ、それから15年あまり日本のパソコンの主流であり続けた。

 PC-9801シリーズは、IBM PC/ATと同じIntel製のプロセッサとMicrosoft製のOSを採用しながら、IBM PCとは非互換の独自アーキテクチャを採用した。PC-9801シリーズのアーキテクチャには、PC/XTの影響が伺える部分が多数あるものの、PCやPC/XTが採用した外部8bitの8088プロセッサとは異なり、外部16bitの8086プロセッサでスタートするなど、明確な違いがある。

 もう1つPC-9801シリーズがIBM PCと大きく異なったのは、日本語表示を行なうために、強化された独自のグラフィックス機能を持っていたことだ。これはPC-9801シリーズに限ったことではなく、富士通(FM11、FM-R等)、日立、三菱、シャープなど、当時日本でパソコン事業を展開していたほぼすべての企業が、独自の日本語表示機能を備えた、独自のアーキテクチャのパソコンを事業化していた。日本IBMでさえ、国内販売する製品には、米国仕様とは異なるグラフィックスを採用していたほどだ。

 それが大きく変わったのは日本IBMが、ソフトウェアだけで日本語表示を行なう、いわゆるDOS/V(IBM DOS J4.0/Vおよびその後継となる製品)をリリースしてからだ。日本語フォントをファイルとしてHDD上に持ち、CPUを用いてVGAディスプレイにソフトウェア表示するDOS/Vは、メーカー毎に互換性がなく市場が細分化され割高だった日本のパソコン市場に、世界市場のスケールメリットを背景に持つ外資系PCベンダーを呼び込むことになった。さらにWindows 3.0の登場とWindows 3.1の本格普及は、日本語表示をハードウェアで行なうアーキテクチャを陳腐化させた。そしてNECも1997年のPC98-NXで、独自アーキテクチャを捨て、海外と同じIBM PCにルーツを持つ現在のPCと同じ路線に転じることとなった。

 このPC98-NXに先立つ1996年、NECは米Packard Bellを買収、NECの米国法人と同社を事業統合し、パッカードベルNECとしてPC/AT互換機ビジネスに本格参入している。NEC自身は、これ以前にも米国でPC/AT互換機ビジネスを手がけたことがある(NEC UltraLight等)ものの、大きなシェアを獲得するには至っていない。それだけに、この買収はNECが世界市場に本気を出したもの、と受け止められたのだが、残念ながらPackard Bellは、シェアはそれなりにあったものの、PC本体にプリンタやディスプレイをバンドル、アプリケーションもセットにして販売する初心者向けのビジネスが主力で、ブランドとして一流ではなかった。結局、パッカードベルNECは、たびたびNEC本体に経済的支援を要求するなど、業績に貢献したとは言い難く、1999年6月に日本法人が解散、米国でも2000年にはPC事業から撤退することになる(その後Packard BellはeMachinesへ売却され、そのeMachinesがGatewayに買収され、さらにはAcerによりGatewayが買収されている)。

 パッカードベルNECが失敗に終わった後、NECは独自に米国のPC市場への参入を試みている(NEC PowerMate等)。一時は、Comp USA等の量販店店頭で見かける機会も多かったのだが、チャネル管理の問題や、米国のPC市場で直販の比重が高まったこともあり、これも撤退してしまった。以降も、日本国内ではトップシェアを確保していたものの、世界シェアを持つベンダーと戦うには、絶対的な量の力が不足しているのは否めないところだった。

●今回のレノボとの合弁は

 27日の記者会見でNECの遠藤信博社長は、レノボとの提携による戦略的効果として、

1. 両社の開発連携による製品力強化
2. スケールメリットを活かした価格競争力強化
3. NECのビジネスPCの海外展開拡大

の3点を挙げているが、スケールメリットはその2番目にリストアップされている。遠藤社長は、このスケールメットについて、「お客様に最も価値の高い製品を提供するのが使命であるにもかかわらず、NEC単独ではそのような価値を提供できる規模がなくなった」という趣旨の発言を行なっている。

記者会見に臨むNECの遠藤信博社長 LenovoグループCEOのユアンチン・ヤン氏 笑顔で握手を交わすヤンCEO(左)と遠藤社長(右)

 これに対してLenovoグループCEOであるヤン・ユアンチン氏は、提携のメリットとして、現在6位である日本市場シェアが、合弁会社により1位となることを挙げている。すなわち、世界3大PC市場(米国、中国、日本)のうち、2つ(中国、日本)でシェアがトップになるわけだ。また、Lenovoの中核商品の1つであるノートPCのThinkPadが日本生まれであること、レノボ・ジャパン本社の六本木ヒルズへの移転や大和事業所をみなとみらい地区に移転したことなども合わせ、日本にコミットし続ける意志を示した。

 さて、ここで今回のPC事業に関する提携スキームだが、NECとLenovoが日本国内向けPC事業を統合し、合弁の持ち株会社としてLenovo NEC Holdings B.V.(本社オランダ)を設立する。出資比率はNECが49%、Lenovoが51%で、この合弁会社設立に伴い、NECはLenovoの発行済み株式の約2%(1億7,500万ドル相当)を譲り受ける。持ち株会社の社長はNECでPC事業を手がけるNECパーソナルプロダクツの高須英世社長が、会長にはレノボ・ジャパンのロードリック・ラビン社長がそれぞれ就任する。持ち株会社の下に、NECブランドのPC事業を手がけるNECパーソナルコンピュータ(高須英世社長)と、LenovoブランドのPC事業を手がけるレノボ・ジャパン(ロードリック・ラビン社長)が設けられることになる。

 この新体制だが、現時点では営業体制、販売体制、サポート体制は今までと変わらないという。さらにNECが米沢に持つ生産拠点に関しても、当面は維持される。ヤンCEOは、短期的には米沢をそのまま維持すると明言した上で、「長期的には見直す可能性はあるが、現状で具体的な計画はない」と述べている。また遠藤社長も、今のところ合弁会社から撤退し、持ち株会社がLenovoの100%出資になることは予定していない、とした。

 両首脳とも、今回のPC事業に関する提携は、両社のパートナーシップの第一歩であり、今後、さらにさまざまな事業分野での提携の可能性を唱えた。遠藤社長は、今回の合弁の対象からは外れたタブレットデバイス(LifeTouch等のAndroid端末)や、サーバーを例として挙げている。

NECから見たLenovoとの提携による戦略的な効果 今回の提携スキーム 合弁による新会社設立後も、営業・販売・サポートは、当面これまで通りの体制が維持される
現NECパーソナルプロダクツ社長で、合弁会社(Lenovo NEC Holdings B.V.)の社長に就任する高須英世氏

 全体に現状維持を強く押し出す内容で、両社はイコールパートナーであるとするなど、NECが単体でPC事業を維持できなくなったことの衝撃を少しでも緩和しようという内容だ。また、Lenovo側のNECに対する配慮も感じられた。その一方で、新会社の社長に就任する予定であるNECパーソナルプロダクツの高須社長は、どちらかというと表情が硬く、この提携が本社主導で進められていたことをうかがわせた。