元麻布春男の週刊PCホットライン

小型iPodの紆余曲折



●日本は未定のApple TV
Apple TV

 かねてからの予告通り、米国時間の9月1日、AppleはiPodの大幅な刷新と新しいApple TVの発表を行なった。本校執筆時点で筆者はまだ日本の発表イベントに出席していないので、日本での展開はハッキリとは分からないが、Apple TVについては、とりあえず発売されないのではないかと思う。

 ライブ中継されたスティーブ・ジョブスCEOのスピーチにおいても、日本は新Apple TV発売時に出荷される国のリストに含まれていなかった。今回の目玉は、本体が99ドルに値下げされたことに加え、TV番組のレンタル視聴が1番組99セントで提供されること(米国内)だが、果たして日本の放送局がAppleに協力するのか、録画機が普及した日本で有償のTV番組レンタル配信がどれくらい魅力があるのか、判断が難しい。

 映画のレンタルにしても、DVDの100円レンタルの存在を考えると、たとえHDであっても4.99ドルのレンタルがどれくらいアピールするかは未知数だ。ただ、AppleがMac上のHDムービーに関して、Blu-ray Discのサポートを行なわず、iTunesストアからの配信に絞る方針を事実上示していることを考えると、地デジのサポートも含め、Macが国内のコンシューマ向けパーソナルコンピュータとして弱いのも間違いないところだろう。米国と違ってiPhoneやiPadのヒットが、Macのセールスにあまり結びつかないのは、このあたりの事情もありそうだ。

●iPhone 4ベースになったiPod touch
iPod touch

 さて、本題のiPodの刷新だが、あえて「全面」としなかったのは、Classicがそのまま据え置かれたからだが、実質的には全面モデルチェンジであろう。shuffle、nano、touchのすべてが更新された。

 iPod touchに関しては、事前の予想通りiPhone 4/iPadと同じA4プロセッサベースとなっている。ディスプレイもiPhone 4と同じRetinaディスプレイ(960×640ドット)に高解像度化された。待望のカメラ(前面/背面)も内蔵され、FaceTimeまでサポートされたから、「iPhone 4マイナス3.5G」的な存在にますます近づいた。iPhone 4にある機能としてはGPSがなかったりもするが、その代わりに64GBモデルがあるし、iPhone 4より薄くて軽い。携帯の2台持ちの覚悟のあるユーザーなら、iPhone 4とガラケーという選択肢ではなく、今はやりのモバイルルーターとiPod touchにガラケー、もしくはWi-Fi内蔵ガラケーとiPod touchという選択肢も十分アリではないかと思う。

 価格は8GB版の20,900円から64GB版の36,800円まで。国内価格は税込みで、米国価格は税抜きであること、一部の例外を除き米国では10%前後の税が当たり前であることを考えると、iPod touchにおける円ドルの換算は83円〜85円程度で、現在の円ドル相場をほぼ反映したものとなっている。ささやかだが、円高メリットを享受できる価格設定だ。

●方向性を大きく変えたiPod nano
iPod nano

 というわけで、事前の予想から大きく外れない、正常進化形であったiPod touchに対して、iPod nanoは若干議論を呼びそうだ。新しいnanoは、前世代(第5世代)のnanoにあった、ビデオの再生機能と録画機能(カメラ)がなくなり、その分小さく軽くなったものの、価格は据え置きである。国内価格は円高メリットで、8GBモデル、16GBモデルとも前世代より1,000円安くなった(円ドル換算はやはり84円〜85円前後)ものの、イマイチお得感に欠ける。

 ディスプレイも2.2型から1.54型に小型化している。第6世代iPod nanoの目玉は、この小さなスクリーン上のマルチタッチによる操作だが、あまりピンとこない。キーノートスピーチでスティーブ・ジョブスCEOは、iPod nanoのマルチタッチスクリーンを操作して見せたが、正直に言って「やりにくそう」という印象だった。会場の反応も微妙で、ジョブスCEOが拍手を催促するような「タメ」を作る様子が窺えた。

 そもそも米国人は必ずしも小さいものを好まない。基本的な考え方は、「強くて大きいものイコール善」であり、「小さいものは安いもの」、である。iPadの大ヒットにしても、平均的な米国人にiPhoneやiPod touchは小さすぎたのが理由の1つだと筆者は考えているほどだ。あの指の太い米国人が、新しいnanoの1.54型のマルチタッチディスプレイをチマチマと操作する様を想像すると滑稽ですらある。

 結局、多機能化を図ると上位にiPod touchがあり、iPod touchでも操作性に難を感じるユーザーはiPadへいく。1.8インチHDD(iPod mini)を捨て、フラッシュメモリを採用することで、小型化と軽量化を実現したiPod nanoだが、ここにきて進化の方向性を見つけるのが難しくなっているようだ。

●先祖返りしたiPod shuffle
iPod nano

 一方、iPod shuffleだが、最大のポイントはクリックホイールの復活である。前世代(第3世代)は小型化したあまり、クリックホイールを採用することができず、ヘッドフォン(Apple用語ではイヤフォン)ケーブルの途中に設けたスイッチで操作するようになった。結果、ユーザーが好みのヘッドフォンで利用することが難しくなるという副作用が生じてしまった。結局、今回のshuffleは第2世代に先祖返りした印象が否めない。4,800円という価格は、米国価格49ドルプラス10%の税に対し、円ドル換算レートが89円というところで、お得感的にもイマイチである。

 こうして見てみると、iPhoneあるいはiOSの進化に同期して、機能や性能を向上させていけば良いiPod touchに対して、iPod nanoやiPod shuffleは進化の袋小路的な場所に入り込んでいるように思われる。その理由の1つは、多くのユーザーがAppleに単純なプレイヤーではない「何か」を求めるから、ということがあるのだろうが、iPod touchと重複しない、また別の進化の方向を提示することがかなり難しくなっているようだ。一番安価なiPod touchより安価な価格帯にどんな機能を備えた製品を展開するべきなのか、しばらく模索が続きそうだ。

 今回のiPodのモデルチェンジを見て、筆者はとりあえずiPod touchの32GB版を注文した。Appleのオンラインストア上は、出荷予定は2〜3週間となっているのだが、筆者に提示された予定出荷日は4週間後であった。筆者の場合、所有するiPod touchが初代の8GB版だし、そろそろ更新すべきタイミングかということと、iPadが16GB版なので次は32GB版か、といった調子であまり考えずに決めた。が、iPadと新しいiPod touchの両方をキープすることはないだろうな、とも思っている。

 本音を言えば、筆者が一番欲しいiPodは、このiPod touchではない。今のiPod classicに近い形状と機能で、ストレージにフラッシュを使った容量128GBあるいは256GBのネオclassicとでもいうべき製品があればと思う。フラッシュ化することで、今のclassicより薄く、軽くして欲しい。128GB版で29,800円、256GB版で44,800円あたりでなんとかお願いしたいところだ。

 もし8GBで足りるのであれば、新しいnanoより、AppleのオンラインストアのiPod整備済製品コーナーにある第5世代のiPod nanoを買う。現在、8GB版が9,800円、16GB版が14,400円で販売されており、特に8GB版はお得感がある。この価格でビデオ機能も備える。

●iTunesへの要望

 本稿執筆時点において、今回発表されたもう1つの新製品、iTunes 10はダウンロードできていない。相変わらず「iTunes 10。まもなく登場。」の表示のままである。が、正直言うと、筆者にとって新機能の目玉である「Ping」はどうでもいい。どこの誰が何を聞いているかに興味はないし、自分が何を聞いているかを人に教えたいとも思わない。何が売れているかで、聞く音楽を選ぶことはしないし、iTunes 9のGENIUSもほとんど利用しない。正直に言うと、筆者はSNSのたぐいがうっとうしいと感じるタイプの人間である。

 筆者がiTunesに望むことは、全登録楽曲やアルバムをアーティストのアルファベット順に、カバーフローで閲覧できるようにして欲しい、ということだ。最近半年に限ってでも構わないから、発売日(リリース日)順でもみたい。要するに、リアルのCDショップでやっていることを、オンラインでもやらせて欲しいのである。そこで何を選ぶかは自分で決める。お店のリコメンドもあって良いが、あくまで参考であり、押しつけがましいのは勘弁だ。その点では、iTunesのアーティスト・アラートは許せる。

 実際には、全登録楽曲のカバーフローなどというのは、システム負荷的にサポートするのが難しいのだろうと思う。ならばせめて過去3カ月の新規登録アルバム限定でもいいから、カバーフローさせて欲しい。サーチでもなく、おすすめでもなく、すべての楽曲をフラットに、余計な情報抜きで、単純に大きなジャケット写真で眺め、そこからジャケ買いさせて欲しい。

 実際には、リアルのCDショップでも、こうした行為はどんどん難しくなっている。最近、渋谷のHMV閉店が大きなニュースになったが、都内でも十分な在庫を持ち、CDのジャケ買いができる規模のお店は数店というレベルになりつつある。だからこそ、リアルのCDショップを駆逐しつつあるオンラインショップに、その代わりを期待したいのだ。それさえできないというのでは、オンラインショップもしょぼいものだなぁと思う。