■元麻布春男の週刊PCホットライン■
米国のMicron Technologyは、なかなかユニークな会社だ。本社はじゃがいもで有名なアイダホ州にあるが、実際、アイダホのポテト王であるJ.R. Simplot氏の出資を受けている。Simplot氏はハンバーガーチェーンのマクドナルドに、冷凍のフライドポテトを納入している会社のオーナーで、経済誌のフォーブスのランキングに乗るクラスの大金持ちであった(故人)。また、現在のCEOであるSteve Appleton氏は、夜勤の期間工からCEOまで上り詰めた、立志伝中の人物である。
Micron Technologyというと、その主力はDRAMとNAND Flashメモリだが、2010年2月にNumonyxを買収しており、NOR Flashメモリや位相変化メモリ(PCM)も製品ラインナップに加わった。変わったところでは、Intelのシリコンフォトニクス関連のチップ(SOI)も、製造していたりする。
大ヒットとなったRealSSD C300 64GBモデルとBL2KIT25664FN1608 4GBkitのパッケージ |
Micron Technologyは、企業向けにこうした半導体チップや、メモリモジュール等を販売しており、コンシューマ向けの販売子会社として設立されたのがCrucial Technologyだった。現在は、2006年にMicronが買収したLexar Mediaに統合され、Crucialという会社はなくなったが、メモリカード以外の製品に対するブランドとしてCrucialが使われ続けており、直販サイトもCrucial.comとして独立した運営となっている。
残念ながら、これまでわが国では正式な販売ルートがなく、上記の直販サイトから個人輸入されたり、並行輸入されたものが秋葉原の店頭に並ぶ、というくらいで、知名度が高いとはいえなかった。ようやく国内販売の代理店が決まったのが2月で、エスティトレード(SSDおよびメモリ)とジェイ・ディ・エス(SSD)の2社による正規販売がスタートしている。それから約半年が経過した8月下旬、米国からCrucialブランドSSDのプロダクトマネージャーであるRobert Wheadon氏と、メモリ製品のプロダクトマネージャーであるJeremy Mortenson氏が来日したので、Crucial製品のわが国での展開等について、話を伺った。
●SSD編現時点においてわが国でCrucialと言えば、まず思い浮かべるのはSSD製品の、Crucial RealSSD C300シリーズだろう。特に6月に追加された64GBモデルは、手頃な価格(約15,000円)、上位モデルと同等のリード性能(355MB/sec)が受けて、爆発的なヒットとなった。秋葉原の店頭はもちろん、通販でも納期がハッキリとしなかったりと、かなりの品薄ぶりだ。
世界的に品薄となっているRealSSD C300 64GBモデル |
まずこの品薄について尋ねてみたのだが、64GBモデルがここまでヒットするとは思わなかったらしい。現在、C300シリーズの販売比率(グローバル)は、64GBモデルと128GBモデルが40%ずつで、残り20%が256GBモデルだという。発売前には、もっと大容量への需要が根強いと考えていたようだ。また、品薄については、ここ2~3カ月については、グローバルで供給がタイトな状態であり、品薄なのは日本市場に限らないということであった。ちなみに、購入者の用途は、正式な統計ではないものの、ノートPCが70%、デスクトップPCが30%くらいの感触だという。
この64GBモデルのインパクトがどれだけ大きかったかは、8月第2、第3週のBCNランキングのSSD部門で1位になっていることからも窺える。このランキングにおいて、2010年上半期No.1メーカーハードウェア部門のSSD部門で49.8%のシェアを占めダントツ1位だったのがIntelであり、その王者を打ち破ったのがC300 64GBモデルなのである。
ここで興味深いのは、Intelと、Crucialの親会社であるMicronは、合弁でNANDフラッシュメモリの生産会社(IM Flash Technologies)を設立したパートナー関係にある、ということだ。ここで生産されたNANDフラッシュメモリは、両者の出資比率に従って、Micronに51%、Intelに49%が引き渡される。Wheadon氏によると、「協力はここまで」だそうで、ここからはそれぞれ完全に独立した製品企画、開発、販売になる。
RealSSD C300シリーズのスペック面での特徴は、6GbpsのSATAに対応していることだが、IntelのSSDは6Gbpsに対応していない。これはIntelが、単にSSDとしての製品企画ではなく、Intelのチップセットがサポートしているデータレートなど、プラットフォームのロードマップに従った製品企画を行なっているからだろう。Micron/Crucialは、市場に6Gbpsに対応したSATAホストコントローラーがある以上、それに対応した製品に意味があると考え、6Gbpsをサポートしたという。容量の設定もIntelが40GB/80GB/160GBという刻みになっているのに対し、Micron/Crucialは64GB/128GB/256GBとなっている。
現時点で、この6Gbpsに対応したSSDはRealSSD C300のみで、他社にない特徴である。そのコントローラはMarvellとMicronの共同開発だとも言われているが、このMarvell製コントローラに、Micronのみが使用可能といった縛りはないという(外販可能)。ただし、ファームウェアはMicronが独自に開発したものであり、他社に供給する予定はないとのこと。Marvellが独自にファームウェアを開発し、コントローラにバンドルでもしない限り、他のSSDメーカーが採用することは難しそうだ。
そのファームウェアだが、開発は基本的にMicronで行なわれる。MicronもOEM向けにRealSSD C300シリーズを販売しているが、Crucialブランドの製品と100%同じではない。MicronブランドのSSDは、基本的にはOEM先のシステムでうまく動くことが最優先されるのに対し、コンシューマー向けに販売するCrucialブランドでは、Micronではテストしていないさまざまなシステムで動作することを保証する必要がある。そこでMicronのファームウェアをベースに、幅広いシステムで動作するよう改良を求めて、Crucialブランド向けのファームウェアが作られるわけだ。
NANDフラッシュメモリを自社(合弁ではあるが)生産していること、ファームウェアの開発力を持つことが、Micron/Crucialの他社に対するアドバンテージだという。SSDの生産は、NANDフラッシュメモリとコントローラ、そしてファームウェアを調達すれば、誰にでも作れる。少なくともHDDのように、組み立てにクリーンルームが要るということもない。その結果、現在SSDには200余りのブランドが乱立しているという。
その中で、チップとSSDの両方を手がけるのは、Micron/Crucial、Intel、東芝/SanDisk、Samsungの4者(グループ)にすぎない。そしてこの4者は、少なくともファームウェアを自社で開発するなど、コントローラにもコミットしている(東芝/SanDisk、Samsungはコントローラーチップも自社開発)。性能のいい新製品が出たからといって、今日はINDILINX、明日はSandForceとコントローラーを乗り換えていては、本当の意味でのユーザーサポートは難しいのではないか。最後に生き残るのは上記の4グループだろうというのがWheadon氏の見解である。
もちろん、自社生産のNANDフラッシュメモリを使える利点の1つには、その開発ロードマップに沿ってSSDの製品ロードマップを描くことができる、ということがある。2月にIntelとMicronは、25nmプロセスによるNANDフラッシュメモリの開発を発表した。これを用いたSSDがそろそろ登場する頃でもある。
2011年第1四半期に登場するC400とC400vの位置づけ |
今回示されたロードマップによると、2011年の第1四半期に、25nm NANDフラッシュを用いたSSD製品となるC400シリーズが登場する見込みだ。C400では、6GbpsのSATAに対応した「C400」と、3GbpsのSATAに対応した「C400v」の、2系統で製品化することが考えられている。C400vは性能を抑える代わり、100ドルを切る価格設定がなされるという。現時点で容量は明らかにされていないが、100ドルを切る価格がインパクトを持つには、最低でも64GBは必要だろう。
一般にNANDフラッシュメモリは、製造プロセスが微細化することで、バイト単価が向上する一方で、書き換え可能回数が減少する。25nmプロセスのNANDフラッシュを採用することで、書き換え可能回数の減少による寿命の短縮が心配されるところだが、「ファームウェア担当者に聞く限り、そんな心配の話は出てきていない」というのがWheadon氏の答えだった。現在、RealSSD C300には3年間の製品保証がつけられているが、これも変わらないようだ。
●メモリ編Crucialにとってメモリモジュールの販売は、SSDより古い事業だが、わが国での認知度は高いとは言い難い。メモリメーカーのMicronの名前を知っていても、その子会社(のブランド)であるCrucialまで知っているとは限らないようだ。SSDがそうであったように、メモリの認知度を上げる最も手っ取り早い方法は、差別化された商品、尖った製品を出すことだ。
BL2KIT25664FN1608 4GBkitは2GBのPC3-12800 DIMMが2枚セットで販売される |
そう考えたのかどうかは知らないが、今回のインタビューを行なう前日、マイクロン・ジャパンはCrucialブランドの新製品として、「BL2KIT25664FN1608 4GBkit」の発売を発表した。この型番だけでは何がなにやらサッパリだが、本製品は同社のパフォーマンスメモリプロファイル対応メモリである「Ballistix」シリーズの新製品で、2GB DIMMが2枚セットとなったパッケージである。
パフォーマンスメモリプロファイルとしてはIntelのXMPに対応、XMP時のスペックは8-8-8-24のPC3-12800(DDR3-1600)で、動作電圧は1.65V、JEDECプロファイルでは9-9-9-24のPC3-10600(DDR3-1333)で動作電圧は1.5Vというものだ。このクラスのパフォーマンスメモリとしては、ごく平均的なスペックといえる。
従来のBallistix製品に対し、本製品がユニークなのは、フィン型のヒートスプレッダを装着していることと、温度センサーを内蔵していることだ。このフィン型ヒートスプレッダは、従来品に比べて放熱効率が最大30%アップしているという。温度センサーは、SPDに統合されたもので、XMPに対応したIntel 5シリーズチップセット搭載マザーボードと、専用ソフトウェア(Crucialのホームページからダウンロード可能)の組み合わせで、リアルタイムに温度をモニターすることができる。国内での提供は不明だが、オプションでメモリモジュール冷却用のファンモジュールも用意されている。これまで、メモリへのアクセスを示すLEDを備えたメモリモジュール等はあったが、リアルタイムで温度をモニタできるメモリモジュールは、これが初と思われる。
BL2KIT25664FN1608 4GBkitの専用ソフトであるMemory Overview Displayは、メモリのスペック(SPD情報)の表示と、リアルタイムでの温度モニタと、ログの作成をサポートする |
早速、実物をテストしてみたが、JEDECスペックでは起動直後にDIMM 1が33℃、DIMM 3が35℃と表示された。DIMM 1の方が温度が低いのは、テストシステムがサイドフロー式のCPUファンを用いており、DIMM 1がCPUファンの冷却風を直接受ける位置にあるからだと思われる。次に、メモリの設定をXMPにしたところ、起動直後の温度は35℃と37℃へそれぞれ上昇した。さらにベンチマークテストのwPrimeを実行したところ、DIMM 1は37.38℃、DIMM 3は40℃まで上昇した。メモリの温度上昇はゆっくりとしたもので、ジワジワと温度が上がっていき、ベンチマーク完了でまたジワジワと下がっていく、という様子であった。この温度変化はCSVファイルとしてログに残すことができるほか、温度をモニターする間隔等も設定が可能だ。
筆者は過去にBallistixメモリを購入したことがあるのだが、困ったことに、パッケージにスペックが一切書かれていなかった。早速、この不満をぶつけたのだが、今回発表されたBL2KIT25664FN1608 4GBkitでは、この点が改善されており、ヒートシンクにレーザー刻印でXMP時のスペックが刻まれている。できればJEDECスペックも表示するよう、お願いしておいた。
この温度センサーが、どれくらい実用的に役立つかはともかく、ユニークな機能であることは事実だ。しかし、Ballistixではない、通常のCrucialブランドのメモリの場合、何か差別化のポイントはあるのだろうか。Jeremy Mortenson氏は、CrucialがメモリメーカーであるMicronの子会社であり、ほぼすべての製品がMicronが製造したメモリを使っていることによる信頼感と、互換性テストや製品テストなど厳重なテスト体制を挙げてくれた。こうした部分は、製品を見て分かるものでも、使ってすぐに実感できるものでもないだけに、ユーザーの間に浸透するには時間がかかる。やはり知名度を上げ、ブランドの認知度を上げるには、RealSSD C300シリーズのような尖った製品をリリースするのが一番だ。2011年早々に発表されるC400シリーズにも大いに期待したい。
フィン型ヒートスプレッダを採用したBL2KIT25664FN1608 4GBkitには、XMP時のスペックがレーザーで刻印されている | Crucial製品は厳重なテストを経て出荷される |