元麻布春男の週刊PCホットライン

日本HPのCore i7搭載モバイルワークステーション
「EliteBook 8740w」を試す



 2010年4月にJEITAが発表した2009年度(2009年4月〜2010年3月)におけるパーソナルコンピュータの国内出荷実績は、全体で951万8,000台(8,858億円)であった。その内訳は、デスクトップPCが279万6,000台(2,807億円)、ノートPCが672万1,000台(6,051億円)とされており(内訳を足して全体と一致しないことがあるのは、四捨五入等による)、ノートPCが占める割合は、台数ベースで70.6%、金額ベースで68.3%となっている。

 金額ベースでノートPCのシェアが下がるのは、ネットブックやCULVなど、ノートPCの低価格化が進む一方で、デスクトップPCは地デジ内蔵の液晶一体型など高額モデルへと軸足が移ったからだろう。いずれにしても、国内で新規購入されたPCの7割はもうノート型になった、ということになる。こうしたノートPCシフトは、今後も続くものと予想されている。

 同様に、持ち運び可能な形態へのシフトが進んでいるのがワークステーションだ。常時ネットワークに接続され、高負荷な業務アプリケーションを連続実行するワークステーションが据え置き型に限られたのは昔の話。今では持ち運び可能なモバイルワークステーションが、広く使われるようになっている。ここで紹介する日本HPのEliteBook 8740wは、そんなモバイルワークステーションを代表するモデルの1つだ。

 EliteBookは、HPのノートPCラインナップ中、大企業向けの製品につけられたブランド(中堅企業向けはProBook)。導入時コストよりTCOを重視するとともに、高いセキュリティに重きを置く。本機もIntel最新のvPro対応プラットフォーム(Core iプロセッサ+QM57チップセット)を採用、真皮の読み取りを行なう指紋センサーやTPMといったハードウェアに加え、ProtectToolsをはじめとするセキュリティソフトウェアがフルセットでバンドルされる。

 今回試用したのは製品番号「WT934PA#ABJ」と呼ばれる、プロセッサにCore i7-620M(2.66GHz/4MB L3キャッシュ)を採用した上位モデル。Hyper-Threadingに対応し、ターボブースト時は最大3.33GHzで動作する、Arrandaleの最上位モデルである。米国ではクアッドコアのClarksfield(Core i7-820QMおよびCore i7-720QM)を搭載したモデルも設定されているが、今のところわが国ではその設定はないようだ。

EliteBook 8740w マグネシウム合金とハニカム構造のアルミニウムを貼り合わせたディスプレイカバー HPとEliteBookのロゴ
本体と付属のACアダプタ ACアダプタと電源ケーブル 付属のマウス

 Core i7-620Mは、プロセッサコアに加え、グラフィックスコアを内蔵するが、本機では外付けグラフィックスとして別途NVIDIAのQuadro FX2800Mを搭載する。CUDAやOpenGL 3.2、DirectX 10.1に対応したG92コアをベースにしたGPUに、1GBのGDDR3メモリを組み合わせた、ワークステーション向けのグラフィックスとなっている。

 メインメモリは2GBのPC3-10600(DDR3-1333)を標準搭載する。Intelが公表しているスペックでは、Arrandaleプロセッサにおけるメモリの最大動作クロックはDDR3-1066までとなっているのだが、おそらくClarksfield搭載モデルとプラットフォームを共通化したこともあって、このような仕様になっているのだろう。Intelのスペックを超えているものの、発売元であるHPが動作保証しているわけだから、心配することはないハズだ。

 この標準搭載メモリは、2GBのDIMMが底面のパネルを開くことでアクセス可能なメモリスロットにインストールされている。本機にはもう1つ空きスロットが用意されているが、それはキーボードの下に配されており、アクセスするにはキーボードを取り外さねばならず、アクセスしやすいとは言えない。この8740wは、Clarksfieldプロセッサ選択時は、合計4つのメモリスロットが利用できるが、Arrandaleプロセッサ選択時は2スロットとなっており、本機でも底面スロットの横が空きスペースとなっている。ここに空きスロットを用意するか、せめてキーボード下のスロットから先に埋めておいてくれれば、ユーザーによる増設もしやすかったのだが。ちなみにBTOオプションによるHP純正の2GB DIMM追加(計4GB)は26,250円と、市場価格に比べて、かなり割高となっており、悩ましいところだ。

 その他の仕様については表1にまとめておいたが、特徴の1つはI/O機能が豊富なことだろう。USB 3.0とeSATAの両方を別コネクタでサポートした上、ExpressCard/54やSmartCardリーダまで備える。残念ながらUSB 3.0はBIOS(ファームウェア)によるサポートがないため、リカバリ等(Windowsが起動していない状態)で利用することはできないが、それでも高速なポートがあるのは喜ばしい。ディスプレイのデジタル外部出力がHDMIではなく、DisplayPortになっているのは、本機の性格(大企業向けビジネスノート)をストレートに物語っている。

【表1】主な仕様
OS Windows XP Professional(Windows 7 Professional 32bitダウングレード)
CPU Core i7-620M(2.66GHz/3.33GHz)
チップセット Intel QM57 Express
グラフィックス NVIDIA Quadro FX 2800M (G92/1GB DDR3/Driver 189.53 )
メモリ 2GB PC3-10600
ディスプレイ 17型WUXGA(1,920×1,200)
HDD WD3200BEKT(Scorpio Black 320GB)
光学ドライブ DVDスーパーマルチ(ソニーオプティアーク AD7701H)
eSATA あり
USBポート USB 3.0×2、USB 2.0×2
IEEE 1394a あり(4ピン)
外部ディスプレイ DisplayPort+ミニD-Sub15ピン
Webカメラ 200万画素
拡張スロット ExpressCard/54、スマートカードリーダ
メモリカードスロット SD/MMC/MS/xD
LAN Gigabit Ethernet(Intel 82577LM)
WLAN Centrino Ultimate-N 6300 AGN(802.11 a/b/g/n)
Bluetooth Ver.2.1+EDR(Broadcom 2070)
バッテリ 8セル(約4時間)
サイズ 398×286×36.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量 3.57kg(カタログ値)

 ストレージデバイスは2.5インチHDDと光学ドライブ(AD7701H)の構成が基本。本体に加速度センサーを搭載し、ハードディスクを落下や揺れから保護する(HP 3Dドライブガード)。チップセットがRAID構成をサポートしたQM57であるため、光学ドライブの代わりにHDDを搭載し、RAID構成を採用することも可能だ。

本体前面のインターフェイス インジケータ部
本体左側面のインターフェイス 右側面のインターフェイス 本体底面

 さて、実際に本機を手にしてまず思うのは、大きくて重い、ということだが、もともと、持ち運びをそれほど重視していない機種であることを考えれば、それほど驚くことではない。マグネシウムベースの筐体、マグネシウム合金とハニカム構造のアルミニウムを貼り合わせたディスプレイカバーなど、極めてガッチリとした作りになっている。メモリベイのフタやキーボード固定ネジなど、普段のメインテナンスでアクセスする可能性の高いネジは一般的なプラスネジ(フィリップス)、日常的な作業でアクセスする必要のないネジをトルクスと使い分けてあるのは、CompaqからHPに受け継がれたビジネスノートPCの基本だ。

 テンキー付きのキーボードも、特殊コーティングを施し刻印のはがれやかすれを防止した「DuraKeys」を採用、液体をこぼしても基板部への侵入を遅らせるとともに、筐体下に液体を流し落とすドレイン構造を採用している。なお、ポインティングデバイスは、ポインティングスティックとタッチパッドの両方を搭載したデュアルポイントで、3ボタン式となっている。

 ディスプレイは、17型のWUXGA(1,920×1,200ドット)。コンシューマーモデルと異なり、ノングレアのアスペクトレシオ16:10で、LEDバックライトを採用する。ディスプレイの周囲にはソフトラバーが貼られており、ディスプレイがキーボードやポインティングスティックと擦れないよう配慮されている。ディスプレイの上には200万画素のWebカメラを内蔵する。

テンキー付きキーボード タッチセンサー式のホットキーはインジケータにもなっている
スティック型のポインティングデバイスも備える WUXGA表示対応の17型ワイド液晶ディスプレイ

 プリインストールのOSは、Windows 7 Professional(32bit版)からのダウングレードによるWindows XP Professional。現時点で企業ユーザーの大半がWindows XPを採用していることを考えれば妥当な選択だが、Windows 7への移行も考えてか、標準でWindows XPとWindows 7両方のリカバリディスクが添付される。リカバリディスクはOSのインストールディスクと、ドライバ/アプリケーションインストールディスクに分かれており、Windows XPとWindows 7で合計4枚となる。ドライバ/アプリケーションインストールディスクは、利用時にインストールしたいソフトウェアのみを選択することが可能で、不要なソフトウェアをインストールする必要がない。個人的に最も望ましいリカバリディスクの構成だと思っている。

 このプリインストールOS以外に、HPのビジネスノートPCには、QuickLook 3と、QuickWebと呼ばれるソフトウェアが添付される。いずれもWindows XP/Windows 7を起動しなくても利用できるもので、前者はOutlookのデータを閲覧することが可能(要Outlook 2003 SP1以降もしくはOutlook 2007 SP1以降)、後者は専用のWebブラウザとなっている。Windows 7では起動時間も短縮され、以前ほどの必要性はないかもしれないが、勘弁ではある。QuickWebを短時間使ってみたが、簡単なWebサイトを見るには十分で、日本語の入力もいわゆるカナ漢字変換ではないものの、ローマ字入力により、日本語への連想変換が可能だった。

 このEliteBook 8740wの性能だが、表1のスペックから考えても、悪いわけはない。しかし、残念なことに筆者の手元には、8740wと比べられるような高性能ノートPCが存在しないため、今回はデスクトップPCと比較することにした。以前紹介したIntelのMini-ITXマザーボードであるDH57JGを用いたシステムだ。チップセットのスペックが近く、2.5インチHDDを搭載している。CPUがCore i5-661で、クロックがちょっと離れている(3.33GHz/3.60GHz)ものの、同じ世代のプロセッサだ。逆に、こちらはCPUの内蔵グラフィックスをそのまま利用しているため、グラフィックス性能では大きく見劣りする。

 結果は、表を見ての通りで、さすがにCPUのテストではクロックの差が現れるが、グラフィックス性能で大差がつくため、トータルではいい勝負。本当は、CUDAのテストも行ないたかったのだが、手元にあるアプリケーション(TMPGEnc Express 4.0)が要求するドライバのバージョンVer.190.38以降であるのに対し、本稿執筆時点でHPが提供しているドライバはVer.189.53どまりだった。CAD/CAMなど、本機がサポートするワークステーション向けアプリケーションで、認証がとれているのがこのバージョンまで、ということなのだろう。

【表2】ベンチマーク結果

8470w DH57JG
CrystalMark 2004R3
Mark 188943 141347
ALU 37740 42943
FPU 34797 43261
MEM 20399 30998
HDD 10399 7235
GDI 10149 11892
D2D 8041 2208
OGL 67418 2810
3DMark06
3DMark 11604 2017
SM 2.0 5339 613
HDR/SM3.0 5028 805
CPU 2915 3670
3DMarkVantage Performance
3DMark 5513 472
GPU 4953 358
CPU 8346 9380
PCMark 05
PCMark 8574 7675
CPU 8179 9464
Memory 6554 7472
Graphics 11868 3846
HDD 5966 4977
PCMarkVantage
PCMark 6788 6409
Memories 4785 3534
TV and Movies 3671 4098
Gaming 5740 3747
Music 6469 5787
Communications 7569 9993
Productivity 4821 5001
HDD 3781 2947
CINEBENCH 11.5
OpenGL 28.91fps 1.74fps
CPU 1.83pts 2.71pts

本機のWindows Experience Index ドライバ/アプリケーションのリカバリディスクは必要なものだけを選択してインストールできる仕組み

 NVIDIAのサイトで提供されているジェネリックドライバも試してはみたものの、本機のファームウェアがUEFIベースであるせいもあってか、インストールできなかった。ジェネリックドライバのインストールを認めないのは、企業向けのPCではそれほど珍しいことではないこともあり、今回は敢えてそれ以上の努力(バイナリだけ置き換える等)は行なっていない。

UEFIベースとなっている本機のBIOS(ファームウェア) Windowsを起動せずに利用可能なWebブラウザ(QuickWeb)

 この例でも分かるように、本機はノートPCのような格好をしていても、やはり本質はワークステーション。認証の取れたアプリケーションをヘビーに使う企業向けのクライアントだ。本機が備えるセキュリティは個人ユーザーにとってはかえって煩わしいだろうし、堅牢さも過剰だと思われる。パーソナルユースには、やはりPavilion dv7の方が向いている。企業内のヘビーユーザー向けの1台だ。