元麻布春男の週刊PCホットライン

アップルから新型iMacが登場



●Windows 7発売直前にiMacを一新
新型iMac

 Windows 7のリリースを直前に控えた10月20日、わが国では翌日に控えた21日、AppleはiMac、MacBook、Mac miniのモデルチェンジを行なった。

 9月にIntelが、メインストリーム向けのNehalemプロセッサとなるCore i5およびCore i7プロセッサをリリースしていたことを踏まえると、そろそろ来るのでは、という予感はあったし、とりあえずライバルのパーティ(Windows 7のローンチ)には茶々を入れておくのがビジネスの常道であろうから、このタイミングでのリリースに驚きはない。が、意外だったのはCore i5/Core i7の設定があったのはハイエンドのiMac 1モデルのみで、残りは従来通りCore 2 Duoを採用したモデル(おそらくはすべてNVIDIAのGeForce 9400Mベース)で占められていた。

 最も大きな変更があったiMacだが、全モデルに共通する最大のチェンジは、ディスプレイがLEDバックライトを持つアスペクト比16:9のIPS液晶パネルになったことだろう。iMacは大と小、2通りのディスプレイサイズで展開されるが、従来の16:10の20インチと24インチモデルに代わって、21.5インチと27インチに変更された。

 16:9化に伴い、解像度も引き上げられており、21.5インチモデルが1,920×1,080ドット(フルHD)、27インチモデルが2,560×1,440ドットになっている。以前は上位の24インチモデルのみが視野角の広いIPS液晶パネルを採用していたが、今回は21.5インチモデルもIPS化されており、少なくともスペック上はパネルの質の違いに悩むことはなくなった(実際に両者の質に差がないかどうかは、実物を見るまで分からないだろうが)。

 このディスプレイの高解像度化にともない、期待されていたのがBlu-ray Discドライブの内蔵だ。しかし、やはり今回もAppleはBDドライブの採用を見送った。これはコスト面での理由というよりも、同社のメディア戦略によるものであろう。要するに、ハイデフの映画はBDで見るのではなく、iTunes Storeからダウンロードして欲しい、というメッセージだ。もちろん、日本をはじめ、そのサービスが提供されていない国はどうしようもないわけだが、そのためにBDドライブを内蔵するより、現在映画のダウンロードサービスが提供されていない国にサービスを拡張したい、というのがAppleの戦略だと思われる。

 BDドライブ内蔵の代わりにiMacが搭載してきたのは、ディスプレイ入力端子だ。27インチモデル限定だが、今回のiMacでは、これまでセカンダリディスプレイの接続専用(ディスプレイ出力専用)だったMini DisplayPort端子が、入力にも利用可能になった(出力と入力を同時には利用できない)。つまりiMacを外部ディスプレイとして利用可能になったのだ。

 BDドライブを内蔵しないのなら、ここにBDプレーヤーやPLAYSTATION3(PS3)をつなげば、とは誰しも考えることかもしれないが、現時点でこのポートがHDCPに対応しているかどうかが分からない。Appleは用途として、MacBookやMacBook Proの接続しか挙げていないため、HDCPに対応していない可能性もある(今まで公式に対応したことはない)。

【お詫びと訂正】初出時にHDMI/DVIからのDisplayPort変換アダプタがないとしておりましたが、そういった製品も海外では出回っているようです。お詫びして訂正させていただきます。

●ボタンがない「Apple Magic Mouse」が付属
新しいApple Magic Mouseが付属する

 ディスプレイまわりの話が長くなったが、ほかに大きく変わったところといえば、キーボードとマウスだ。従来、iMacに標準添付されていたのはケーブル式のUSBキーボードとマウスだが、今回のiMacは標準でBluetooth対応のワイヤレスキーボードとマウスが添付される。キーボードもデザインなどが改められているが、マウスは今回新しく提供されることになったApple Magic Mouseに置き換えられた。

【お詫びと訂正】初出時にキーボードが従来モデルと同じとしておりましたが、変更されております。お詫びして訂正させていただきます。

 Magic Mouseの最大の特徴は、マウス上にボタンを持たないこと。代わりにマウスの上表面全体がマルチタッチ対応のパッドのようになっていて、その表面をタップしたりこすったりすることで、マウスクリックやスクロールを実現する。また、2本指のスワイプ動作で、ブラウザ等の「進む」と「戻る」が実現されている。マウスは感覚的なデバイスなので、実物を使ってみるまで良否は判断できないが、最大4本指でのスワイプがサポートされたMacBook系に比べ、機能的にどうなのだろうとは思う。

 もう1つ、外から見ても分かる変更点は、SDカードスロットの標準装備だ。すでにMacBook ProにSDカードスロットが用意されたことを思えば、iMacにSDカードスロットが加わっても驚くことはではないだろう。

 というわけでiMacの中身だが、冒頭でも触れたように、今回フルモデルチェンジしてクワッドコア搭載となったのは、最上位モデル、ただ1機種のみだった。現時点でグラフィックス機能が統合されていないCore i5/i7プロセッサでは、下位までフルラインナップ展開はできない、ということだと考えられる。

 今回のiMacは、21.5インチディスプレイ搭載が2モデル、27インチディスプレイ搭載が2モデルの計4モデルだが、27インチの最上位を除くと、残りはすべて3MBのL2キャッシュを備えた3.06GHzのCore 2 Duoプロセッサを搭載する。以前は、プロセッサのクロックによって3ランクあったことに比べると大幅に簡素化され、クロックが上がった代わりにL2キャッシュが半減したことになる。

 ただし、今回採用された3MBのL2キャッシュを備えた3.06GHz動作のCore 2 Duoプロセッサは、IntelのカタログにはE7600しか見当たらない。もちろん、これはデスクトップPC向けで、従来モバイルアーキテクチャを採用してきたiMacには相応しくない。同様に、CTO時に選択可能な3.33GHz動作のプロセッサ(L2 6MB)も、モバイル向けのプロセッサとしてはIntelの製品リストに存在しない。ひょっとするとデスクトップPC向けのプロセッサが使われているのかもしれない。

 この下位3機種のグラフィックスオプションは、最下位の21.5インチモデルがチップセット統合のGeForce 9400M、残りがRADEON HD 4670となっている。チップセットに関する表記はなく、確かなことは最下位モデルがGeForce 9400Mであることだけだ。素直に考えれば、Core 2 Duo採用の3モデル共通で同じチップセットが使われていると思われるのだが、21.5インチモデルと27インチモデルでサポートするメモリ構成が異なる(後述)ことを考えると、21.5インチと27インチでチップセットが異なっているのかもしれない。

 なお、外付けグラフィックスは、前回はNVIDIAだったが、今回はAMD/ATI製に切り替えられた。AppleはNVIDIAとATIを交互に採用する傾向があり、だからこそ、どちらかのGPUでしか動作しないアプリケーションは許されない。OpenCLに対応したアプリケーションも、両方のGPUでテストする必要があるわけだ。

 残る27インチの最上位モデルにのみ、新しいCore i5プロセッサ(2.66GHz)が採用され、CTOオプションとしてCore i7プロセッサ(2.80GHz)が提供される。前者はCore i5-750、後者はCore i7-860だと考えられるが、これらはいずれもデスクトップPC向けのプロセッサだ。現時点でCore i5にモバイルPC向けはなく、モバイルPC向けのCore i7プロセッサの動作クロックは2.00GHz止まりである。つまり最上位のiMacは、間違いなくデスクトップアーキテクチャを採用している(その上でメモリがSO-DIMMというのは珍しい構成だが)。

 最大メモリ搭載量は4GBのSO-DIMMを4枚搭載した場合16GBとなる。Core 2 Duoを搭載した27インチモデルも同様だが、21.5インチモデルは2GB DIMM×4枚の8GBが最大とされている。この違いがチップセットの違いに起因するものなのか、それ以外の理由によるものなのかは不明だ。

 最上位モデルに用意されるグラフィックス機能は、ATIのRadeon HD 4850を用いたもの。512MBのGDDR3メモリを搭載したものだが、下位の27インチCore 2 DuoモデルでもCTOオプションとして選択することが可能だ。周辺機器やその他のスペックから、特にプラットフォームが変わったことをうかがわせる部分はないが、それもAppleらしさの現れだろう。

●価格は118,800円から
新型iMacの表面と裏面

 さて、今回発表されたiMacの価格(希望小売価格)だが、下から順に118,800円、148,800円、168,800円、198,800円となっている。前回のiMacは、128,800円、158,800円、198,800円、244,800円だった。下位2モデルの価格を1万円引き下げて、上位モデルはグッと下げた感じだ。前回は下から2番目の158,800円のモデルから24インチになったのに対し、今回の148,800円のモデルは21.5インチとなる。ここの比較だけはバリューが微妙だが、それを除くと、実質的な値下げという感が強い。米国価格との比較で円ドル換算レートを計算すると、いずれも99円台前半というところで、先日発表されたiPod等とおおむね同じだ。

 また、前回では上から2番目にあたる198,800円が今回のハイエンドになったため、価格帯が圧縮された印象を受ける。これもリーマンショック以降の不景気の影響かもしれないが、前回と同じ244,800円のモデルが設定できれば、標準でCore i7を搭載したマシンの設定も可能だっただろう。その場合、21.5インチがCore 2 Duo、27インチがCore i5/i7ということで、きれいなラインナップになったようにも思うが、それを言ってもしょうがないことだ。

 逆に、一般的な日本の消費者からすると、プロセッサのクロックをもう少し抑えてもいいから、価格を引き下げて欲しいところかもしれない。ネットブックにはじまるPCの低価格化の波は、明らかに国内PC市場の売れ筋価格帯を引き下げた。メモリを2GBに抑え、ハードディスクも320GB程度にして、デュアルコアCeleronあるいはPentiumを搭載し8万円台のモデルを設定すれば、かなり競争力が増すと思うのだが、それをやらないのもまたAppleである。

 筆者的に、今回のモデルから選択するとしたら、最下位の21.5インチモデルか、最上位のCore i5モデルという感じだ。ただ、下位モデルを選択すると、来年の1月あたりにIntelがグラフィックスを統合したClarkdale(デスクトップPC向け)やArrandale(モバイルPC向け)を出した場合にどうなるのか、ちょっと気になる。それさえ気にならなければ21.5インチモデルのお買い得感が高いし、気になるのであれば奮発して最上位モデルを選ぶと後悔が少ないだろう。