元麻布春男の週刊PCホットライン

IntelのMini-ITXマザーを読む



 現在使われているPCの直接の先祖はIBM PC/ATである。これはキーボードを除く大半のペリフェラルI/Oをマザーボード上に実装せず、拡張スロットにカード形式で実装する、という特徴を持っていた。そのため、拡張スロットの数が8本と多く、筐体は大きく重かった。

 にもかかわらず、8本ある拡張スロットは、FDD/HDDコントローラ、マルチI/O(シリアル/パラレル)、グラフィックスという基本的な拡張カードに加え、バスマウスI/F、SCSI、サウンド、さらにはビデオキャプチャや高速モデム用のFIFO付きシリアルポートなどにより占有され、ほとんど空きがない状態のユーザーも少なくなかった。今では信じられないような話だ。

 現在のPCでは、2つの理由により拡張スロットを使う機会が激減している。1つは半導体製造技術の進歩により、多くの周辺機器の機能がチップセットに統合されたため。もう1つは汎用性の高いシリアルバス技術、USBの普及により、多くの周辺機器を外付け式に拡張できるようになったためだ。昔のように何が何でも拡張スロットを用いた機能拡張にこだわる必要はない。

●Mini-ITXの成り立ち

 拡張スロットの減少によりマザーボードの小型化が実現された。ATXマザーボードの大きさは、おおむねBaby ATと呼ばれるPC/AT互換機用マザーボードに範をとっているが、これはPC/ATオリジナルサイズ(フルサイズ)より奥行きが1インチほど短いPC/XT用マザーボードの大きさに近い。このATX規格を元に、拡張スロットを減らすことでさらに小型化を図ったmicroATX、さらにはFlexATXといった規格も存在する。microATXのマザーボードは今もよく見かけるが、FlexATXのマザーボードを見かけることはほとんどなくなった。

 FlexATXに代わって省スペースPC向けマザーボードのフォームファクタとして普及しつつあるのがMini-ITXだ。microATXとFlexATXが、Intelが策定したATX規格から派生したのに対し、Mini-ITXはVIA Technologiesが産業用(組込み用)を主眼に開発したフォームファクタである。といっても、I/Oシールドの寸法を揃えるなど、ATXとの互換性に一定の配慮がなされているのがポイントだ。

 Mini-ITXという以上、ミニではないITXも存在したわけだが、こちらはほとんど普及せず、Mini-ITXが標準的な存在となった。さらに小型のNano-ITXやPico-ITXといった規格もあるが、こちらも今のところあまり普及していない。平たく言うと、VIA以外のベンダからもマザーボードが製品としてリリースされ、対応したケースともども流通しているのはMini-ITXくらい、ということだ。大きさが手頃であることから、組込み用途に加え、省スペースPC用としても普及しつつある、というのがMini-ITXの現状だろう。

 もう1つMini-ITXの普及を感じるエピソードは、Intelが自社製のリテールマザーボードのフォームファクタとして、Mini-ITXを採用していることだ。デュアルコアのAtomプロセッサ(Atom 330)を搭載したことで話題になったD945GCLF2や、Core 2 Quadプロセッサにまで対応したLGA775ソケットを備えるDG45FCなど、さまざまな製品をラインナップしている。同社の現行マザーボード製品にFlexATX準拠のものがないのと好対照だ。

●IntelのMini-ITXマザー

 先月開かれたIDFでも、IntelはMini-ITXに準拠したマザーボードを展示した。いずれもNehalem/Westmere世代のプロセッサに対応した、省スペースPC向けのものである。

【写真1】Emerald Bayマザーボードを用いた薄型のデスクトップPC。 省電力性に優れたモバイルプラットフォーム(Calplella)の採用に加え、ハロゲンフリーも実現した環境配慮型のEmerald Bay。

 写真1に示した薄型PCは、Emerald Bayというコード名で呼ばれるMini-ITXマザーボードを用いたプロトタイプだ。モバイル向けのCalpellaプラットフォームをベースとし、ClarksfieldおよびArrandaleの両プロセッサをサポートする。対応するメモリモジュールはSO-DIMMで、拡張用にPCI Express x16スロットと2基のミニカードスロットを持つあたりに、Calpellaプラットフォームがベースであることがうかがえる。写真ではミニカードスロットに、Wi-Fiモジュールがインストールされている。ほか、デジタルディスプレイ出力とeSATAをサポートする。

 写真のプロトタイプでは、32nmプロセスのプロセッサコアを用いたArrandaleが使われており、内蔵グラフィックス機能を用いたゲームのデモが行なわれていた。必要とされる性能に応じて、CPUの動作クロックを定格以上に引き上げるTurbo Boostに加え、グラフィックスコアの動作クロックを引き上げるGraphics Turboをサポートするのが、このArrandaleの特徴だ(デスクトップPC向けのClarkdaleはGraphics Turboをサポートしない)。

 Emerald Bayは、単にモバイル向けのプロセッサをデモンストレーションするだけでなく、デスクトップPCにモバイル向けのプロセッサを用いるMobile on Desktopというくくりで紹介されている(図1)。従来から、こうしたデスクトップPCの縄張りに踏み込んだ製品がなかったわけではないが、モバイルとデスクトップの事業部が統合されたことで、これまで以上に活発化することも考えられる。

 写真2に示したのは、デスクトップPC向けプロセッサに対応したLGA1156ソケットを搭載するMini-ITXマザーボードのプロトタイプだ。イエローストーン国立公園に存在する間欠泉「Jet Geyser」という開発コード名が冠されたこのマザーボードは、来年の早い時期にリテール製品として販売される予定になっている。こちらはデスクトップPC向けアーキテクチャであり、メモリは通常の240ピンDIMMソケットを用いる。

【写真2】LGA1156ソケットを備えたJet Geyser。チップセットとディスプレイコネクタの間に見えるソケットが、ONFI準拠のNANDフラッシュメモリモジュール用のものだが、製品化の際には取り除かれるという。 小型のMini-ITXでありながら豊富なI/O機能を備えるJet Geyser。昔であれば、これだけのI/Oをサポートするのに、拡張スロットを何スロット消費しただろう。

 Emerald Bay同様、こちらも豊富なI/O機能をオンボードに実装しており、デジタルディスプレイ出力(DVI-I/HDMI)、eSATA、6ポートのUSB、7.1チャンネルサウンド(S/PDIF対応)などを標準で備える。グラフィックス機能を統合したClarkdaleを組み合わせるのであれば、PCI Express x16スロットにグラフィックスカードをインストールする必要もない。

 Jet Geyserで注目されるのは、マザーボード上にONFI対応のNANDフラッシュメモリモジュールをインストールするソケットを備えることだ。もちろん何のためかと言えば、Turbo Memoryとして利用するために決まっている。現在、ノートPC向けのオプションとして提供されているTurbo Memoryのモジュール(ミニカード)には、PCI Expressに対応したコントローラチップが搭載されている。が、このJet Geyser上にはそれらしいチップが見当たらない。すでにチップセットのIbex Peakは、ONFI準拠のNANDフラッシュに対応したNVMHCI準拠のコントローラ機能を備えているのだろうか。ただし、実際にJet Geyserが製品化される際には、このNANDモジュール対応のソケットは取り除かれるということで、ソフトウェアを含めた提供はまだ先のようだ。

 さて、ここで紹介した2つのマザーボードに共通する特徴は、グラフィックス用のPCI Express x16スロットを備える、ということだ。実は、これまでIntelがリリースしたMini-ITXマザーボードで、PCI Express x16スロットを備えたものはない。サードパーティ製品を含めても、Mini-ITXでは珍しい部類に入る。

 元々、小型の筐体、小容量の電源で使われることが多いMini-ITXでは、一般のPCで使われるような高性能グラフィックスカードを利用することはできない。逆に、高性能グラフィックスを必要とするユーザー(たとえばゲーマー等)は、Mini-ITXを選ばない、ということでもある。

 この原則は、Emerald BayやJet Geyserでも変わることはない。しかし、両マザーボードとも、グラフィックスを内蔵したArrandaleとClarkdaleだけでなく、外付けグラフィックスを必要とするClarksfieldやLynnfieldとも互換性を確保しなければならない。それがMini-ITXでありながらPCI Express x16をサポートする理由だろう。確かに探せば今でもPCIバス対応のグラフィックスカードや、PCI Express x1スロットに対応したグラフィックスカードを見つけることは可能だが、割高になってしまう。何にせよ、PCI Express x16スロットが用意されたMini-ITXマザーボードがIntelから供給されることで、またこのフォームファクタが注目されることになりそうだ。

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