■平澤寿康の周辺機器レビュー■
Samsung SSD 830シリーズ |
独自コントローラを採用する高速SSD「Samsung SSD 830」シリーズ。すでに昨年(2011年)末頃から並行輸入のバルク品がPCパーツショップなどで販売されていたが、このたびITGマーケティングが日本でのSamsung製SSDの正規販売特約店となり、正規品のパッケージ販売が開始されることとなった。今回、256GBモデルを試用する機会を得たので、パフォーマンス面をチェックしていこう。
●シーケンシャルリード最大520MB/secの高速SSD
現在SSDは、さまざまなメーカーから多くの製品が登場しているが、仕様が似通っている製品も少なくない。事実、現在市販されているSSDのうち人気の高い製品は、SandForce製コントローラまたはMarvell製コントローラを採用するものがほとんどで、メーカーが異なってもハードウェアの仕様はほぼ同等ということも珍しくない。従来は独自コントローラを採用するSSDを投入していたIntelも、Intel SSD 510シリーズでMarvell製コントローラを、Intel SSD 520シリーズではSandForce製コントローラを採用し、独自コントローラを採用する製品の新規投入が途絶えている。そのため、高性能SSDではこれら2社のコントローラを採用する製品でほぼ占められているという状況となっている。
そういった中でSamsung SSD 830シリーズは、「MCX」と呼ばれる独自コントローラを採用する点が大きな特徴だ。MCXは、ARM9ベースのプロセッサを3個内蔵する、トリプルコアコントローラで、大量の処理を高速にこなすことができ、優れたパフォーマンスを発揮するとしている。
実際、Samsung SSD 830シリーズのアクセス速度は、下の表にまとめたように、シーケンシャルリードが最大520MB/sec、シーケンシャルライトが最大400MB/sec、4Kランダムリードが最大80,000IOPS、4Kランダムライトが最大36,000IOPSと、SandForce製コントローラやMarvell製コントローラ搭載の高速SSDに匹敵する速度が実現されている。しかも、64GBの低容量モデルでも、書き込み速度が比較的高速という点も特徴の1つだ。こういった特徴から、並行輸入のバルク品も比較的人気が高い。
これまでバルク品のみの販売だったSamsung SSD 830シリーズだが、今後は販売特約店のIGTマーケティング経由で、正規パッケージ品が販売されることになる |
ただ、これまで正式ルートで販売されていなかったことや、販売数自体が多くなかったこともあり、あまり注目されることがなかった。しかし、正規販売特約店経由で正規パッケージ品が販売されることになるため、今後は入手性が高まるとともに、注目も高まることが予想される。
販売されるパッケージ品は、SSD本体に専用ユーティリティ「Magician Software」などを含むCD-ROMが添付された「ベーシックキット」に加え、SATA-USB変換ケーブルや取り付けスペーサー、ディスクコピーツールなどが付属する「ノートパソコン用キット」、3.5インチベイ取り付け用ブラケットやSATAケーブル、ディスクコピーツールなどが付属する「デスクトップパソコン用キット」の全3製品を用意。容量は、ベーシックキットとデスクトップパソコン用キットが64GB/128GB/256GB/512GBの4モデル、ノートパソコン用キットが128GB/256GB/512GBの3モデルとなる。
【表】Samsung SSD 830シリーズアクセス性能
64GB | 128GB | 256GB | 512GB | |
シーケンシャルリード | 520MB/sec | 520MB/sec | 520MB/sec | 520MB/sec |
シーケンシャルライト | 160MB/sec | 320MB/sec | 400MB/sec | 400MB/sec |
4KBランダムリード | 75,000IOPS | 80,000IOPS | 80,000IOPS | 80,000IOPS |
4KBランダムライト | 16,000IOPS | 30,000IOPS | 36,000IOPS | 36,000IOPS |
●本体は厚さ7mmの薄型形状
Samsung SSD 830シリーズの本体は、他のSSD同様2.5インチHDDサイズとなっている。ただし厚さは7mmと、一般的な9.5mmよりも薄くなっている。これは、Ultrabookなどの薄型ノートへの搭載を想定してのものと思われる。そのため、ノートパソコン用キットには厚さを9.5mmに増やすスペーサーが付属する。もちろん、ネジ穴の位置などは2.5インチHDDと全く同じで、2.5インチHDDと同等の感覚で利用できる。
接続インターフェイスはSATA 6Gbps。速度を最大限に引き出すには、SATA 6Gbpsポートに接続して利用する必要があるのは言うまでもない。
ケースはネジ止めされておらず、ドライバ不要で基板を取り出せるが、ケース自体はしっかりとツメで固定されているため、分解時にケースを破損する可能性もある。当然分解すると保証が受けられなくなるので、無闇に分解するのは避けた方がいい。
内部の基板は、基板表にコントローラやキャッシュ用メモリ、NANDフラッシュメモリチップが集められており、基板裏には一切チップが搭載されていない。
コントローラは、先ほど紹介したとおりSamsung独自の「MCX」で、チップの型番は「S4LJ204X01-Y040」。コントローラの下にはキャッシュ用のSamsung製2Gbit(256MB) DDR2 SDRAMチップ「K4T2G314QF-MCF7」を搭載。また、今回は256GBモデルだったため、Samsung製32GB Toggle DDR MLC NANDフラッシュメモリチップ「K9PFGY8U7B-HCK0」が8チップ搭載されていた。コントローラだけでなく、キャッシュメモリやフラッシュメモリも全て自社製でまかなっている点は、他のSSDにはない特徴といえる。
●公称値に近い速度を発揮
では、速度をチェックしていこう。今回は、ベンチマークソフトとしてCrystalDiskMark v3.0.1b、HD Tune Pro 5.00、AS SSD Benchmark 1.6.4237.30508、Iometer 2008.06.28の4種類を利用した。また、比較用としてIntel SSD 520の240GBモデルと、Intel SSD 510の250GBモデルの結果も掲載する。テスト環境は下に示す通りだ。
□ベンチマークテスト環境CPU:Core i7-2700K
マザーボード:ASUS P8Z68V PRO/GEN3
メモリ:PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2
グラフィックカード:Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk)
HDD:Western Digital WD3200AAKS(OS導入用)
OS:Windows 7 Professional SP1 64bit
まず、CrystalDiskMarkの結果を見ると、データサイズが1,000MBの場合には、シーケンシャルリードが510.2MB/sec、シーケンシャルライトが429.9MB/secと、ほぼ公称通りの速度が発揮されていることがわかる。データサイズが4000MBの場合には、シーケンシャルリードが500.5MB/secと若干低下しているが、ほぼ同等の速度が発揮されていると考えていい。また、テストデータを「0fill」に設定した場合には、速度の変化がわずかに見られるものの、ランダム設定時とほぼ同等レベル。データ形式によらず、常にほぼ最大の速度が発揮される点は、SandForce製コントローラに対する優位点と言っていいだろう。
ランダムアクセス速度も、非常に高速だ。Intel製SSDとの比較では、ランダム512KリードはIntel 520シリーズにやや劣っているが、ランダム512KライトはIntel SSD 510/520ともに上回っている。逆に、4K QD32はリードがIntel 520を上回り、ライトはIntel 520に劣っている。このように、ランダムアクセス速度に関しては、項目によって優劣にばらつきが見られる。
HD Tune Proの結果も、CrystalDiskMarkの結果とほぼ同じ傾向となっている。シーケンシャル速度はほぼ公称値通りで、ランダムリード速度はIntel SSD 520に劣っているが、ランダムライト速度はおおむね上回っている。また、File Benchmarkの結果を見ても、データ形式(Zero、Random、Mixed)によらずほぼ同等の速度が発揮されている点も、CrystalDiskMarkの結果と同じだ。
AS SSDの結果も同様だ。Compression Benchmarkの結果をみると、データ圧縮効率によらずほぼ一定の速度となっていることがわかる。
Intel 510の圧縮データの書込み | Intel 520の圧縮データの書込み | Samsung 830の圧縮データの書込み |
最後にIOmeterの結果だ。「File Server Access Pattern」を利用したランダムアクセス速度のみをチェックしているが、Intel SSD 520には劣っており、Intel SSD 510とほぼ同等の結果だった。ただ、ランダムアクセス速度はこれだけの結果が得られていれば、通常利用で問題になることはないだろう。
【表2】IOmeterの結果Iometer 2008.06.28 Windows 7 Professional 64bit | Samsung SSD 830 256GB | Intel SSD 520 240GB | Intel SSD 510 250GB | ||||
Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | ||
File Server Access Pattern | Read IOPS | 2581.053148 | 3002.749759 | 2732.625374 | 22557.268014 | 2518.945393 | 3005.251127 |
Write IOPS | 643.594975 | 748.794978 | 684.657207 | 5639.862849 | 630.988051 | 752.059451 | |
Read MB/s | 27.922074 | 32.549826 | 29.661371 | 243.960157 | 27.21782 | 32.545145 | |
Write MB/s | 6.942597 | 8.148521 | 7.422751 | 60.954622 | 6.856002 | 8.11623 | |
Average Read Response Time | 0.350949 | 8.712323 | 0.293527 | 1.141611 | 0.354286 | 9.733365 | |
Average Write Response Time | 0.141376 | 7.788753 | 0.284175 | 1.104272 | 0.165497 | 3.648021 | |
Maximum Read Response Time | 22.249387 | 618.325519 | 43.233803 | 48.061698 | 15.157595 | 773.977776 | |
Maximum Write Response Time | 25.471696 | 614.155472 | 6.293818 | 51.212252 | 198.125356 | 773.461918 |
これまで、Samsung製SSDは、メーカー製PCなどでの採用例は比較的多かったものの、販売ルートがなかったこともあって、一部バルク品として流通する以外に自作ユーザーが目にする機会が少なく、あまり話題になることはなかった。もちろん、メーカー製PCで広く採用されていることからもわかるように、Samsung製SSDは品質面では申し分ない。その上で、今回取り上げたSamsung SSD 830シリーズは、ランダムアクセス速度など、Intel SSD 520シリーズには若干劣る部分も見られるが、十分に優れたパフォーマンスを備えていることを考えると、もっと注目される存在となってもおかしくない。
これまでSamsung SSD 830シリーズがあまり注目されなかったのは、やはり入手性が非常に悪かったことが最大の要因と思われる。その点も、正規販売特約店経由で日本向けの正規パッケージ品が供給されることになったことで、一気に改善されるはず。それどころか、SSDではバルク販売の製品も少なくないため、しっかりとしたサポートが受けられる点は逆に魅力となるはずだ。パフォーマンス面も合わせ、今後注目の存在になることは間違いないだろう。
(2012年 4月 13日)