■平澤寿康の周辺機器レビュー■
「Entry Storage System SS4200-E」 |
Intelから、SOHOおよび家庭向けとして位置付けられているストレージサーバキット「Entry Storage System SS4200-E」が登場した。IntelからこのようなNASキットが登場すること自体、かなり珍しいことだが、機能面はかなり充実しており、NASキットとしてかなり魅力的な製品となっている。加えて、内部システムは一般的なPCをベースとしていることもあり、NASとは違った使い方も目指せそうだ。
●3.5インチHDDを最大4台搭載可能
ではまず、Entry Storage System SS4200-E(以下、SS4200-E)のハード面をチェックしていこう。
一般的なNASキットでは、コンパクトさを追求した製品が多いが、SS4200-E本体は、それらとは異なり、PCのスリムタワーに近いケースを採用している。本体サイズは、406×336×122mm(幅×奥行き×高さ)。HDDを4台搭載できるNASキットとしてはかなり大柄で、設置場所の確保には少々苦労するかもしれない。
HDDは、本体内部に用意されているHDDベイに取り付けて利用する。本体側面のパネルを開けると、本体に対して水平に並んで用意されている4つのHDDベイが現れる。また、HDDベイの下には、マザーボードと電源ユニットが配置され、本体後部には2個の6cm角ファンが取り付けられている。電源ユニットは、Delta製の「DPS-250AB-24」(最大234W)を搭載している。
本体側面のパネルの開閉と、HDDベイへのHDDの取り付けは、ドライバレスで行なえる。HDDベイの構造は少々特殊で、HDDの側面ネジ穴に付属のアダプタを4個取り付け、そのアダプタ部分をコの字型の金属フレームで挟み込んで固定するという仕組みだ。利用可能なHDDはSATA接続の3.5インチHDDだ。
外部接続ポートは、Gigabit Ethernetに加え、USB 2.0ポートが本体前面および背面に2ポートずつの計4ポート、eSATAポートが背面に2ポート用意されている。
本体は、縦置き横置き双方に対応する。付属するスタンドを、底面のスリットに取り付ければ縦置き、側面のスリットに取り付ければ横置きとなる。
●Celeron M 420オンボードの小型マザーボードを搭載
SS4200-Eに搭載されるマザーボードは、サイズが183×242mm(幅×奥行き)と、Mini-ITX仕様のマザーボードよりもやや大きいものが採用されている。サイズやコネクタ類の配置など、独自仕様となっているが、機能面は、一般的なPC向けのマザーボードと大きく変わらない。
CPUは、モバイル向けCPUであるCeleron M 420(1.60GHz)をオンボードで搭載。チップセットは、Intel 945GZ Expressで、サウスブリッジはICH7R。CPUおよびチップセットには比較的大きなヒートシンクが取り付けられているものの、空冷ファンは取り付けられておらず、マザーボード自体はファンレス仕様となっている。メインメモリは、DDR2 533/400をサポートしており、DIMMスロットは1本のみ用意。標準で512MBのDDR2 533 DIMMが取り付けられていた。
オンボードデバイスは、Intel製のGigabit Ethernet対応コントローラ「82573E」と、Silicon Image製のeSATAコントローラ「SiI3132」を搭載。NASキットということもあり、サウンドなどの不要なデバイスは搭載されていない。また、チップセットにはグラフィック機能が統合されているが、映像出力は用意されていない。
マザーボード上の接続インターフェイスは、SATAが4ポートと、IDEが1ポート、PCI Express x1が1スロット用意されている。ただし、拡張カードを固定するスペースは用意されておらず、基本的にこのPCI Express x1スロットは常用するものではない。また、IDEポートには、標準でPQI製の256MBフラッシュメモリドライブ 「Disk On Module」が取り付けられており、システムOSがインストールされている。
動作時の音は、電源投入直後は2個の6cm排気ファンがフルで回転するためかなりうるさいが、すぐにファンコントロール機能が働き回転数が落ちるため、通常はうるさくない。それでも、ファンの音は比較的はっきり聞き取れるため、静かな部屋に設置した場合には少々気になるかもしれない。
IDEコネクタには、PQI製の256MBフラッシュメモリドライブ 「Disk On Module」が取り付けられ、標準でシステムOSがインストールされている | 排気ファンは、電源投入直後はフル回転でかなりうるさいが、すぐにファンコントロールが働き、回転数が落ちる。ただ、低回転時でもファンの動作音はやや気になる |
●HDDは必ず2台単位で取り付けて利用する
SS4200-Eの利用は、非常に簡単だ。内部のHDDベイにSATA仕様のHDDを取り付け、背面の有線LANコネクタにLANケーブルを接続するだけだ。あとは、電源を投入し、しばらく待てば、接続したHDDに自動的に共有領域が確保され、NASとして利用可能となる。
ただし、取り付けるHDDに関しては制約がある。それは、2台または4台と、2台単位で取り付ける必要があるという点だ。SS4200-Eでは、RAID 1/10またはRAID 5の、いずれかの構成での運用が基本とされている。そのため、1台または3台といった奇数のHDDを取り付けた状態では利用不可能となっている(RAID 5運用はHDD 4台搭載時のみ)。加えて、取り付けるHDDは領域が確保されていない状態である必要がある。実は筆者はこの点ではまってしまい、トラブルと勘違いして、しばらく悩み続けてしまった。SS4200-Eを利用する場合には、必ず同じHDDを2台単位で取り付けて利用するということを忘れないようにしてほしい。
運用時のRAID構成は、標準ではRAID 1に設定されている。また、RAID 10またはRAID 5への変更は、クライアントPCからWebブラウザ経由でアクセスする設定メニューから行なうことになる。
ちなみに、RAID構成として利用できるHDDは、内部SATAポートに接続した4台のHDDのみだ。eSATAポートに接続したHDDはRAID構成の対象とはならず、内部SATA接続の4台に、eSATA接続の2台を加えた6台構成での運用は不可能となっている。eSATAに接続したHDDは、USB 2.0に接続したHDD等と同じように、外付けHDDとしての運用となる。
内蔵HDDは、2台または4台と、2台単位で取り付けて利用する必要がある | HDD2台搭載時にはRAID 1、4台搭載時にはRAID 10またはRAID 5での運用となる |
●設定メニューなどは日本語に対応
SS4200-Eが採用するシステムOSは、EMCが開発する「EMC TimeLine」と呼ばれる、uClibcベースのLinux系OSが採用され、マザーボードのIDEコネクタに取り付けられているフラッシュメモリドライブにインストールされている。
SS4200-Eの各種設定は、クライアントPCからWebブラウザを利用して行なう。クライアントPCに、付属するCD-ROMに含まれている「Storage System Software」をインストールすると、「Storage Systemマネージャ」や、EMC製のバックアップツール「EMC Retrospect」がインストールされる。このStorage System Softwareは、Windows用とMac OS X用が用意されている。
Storage System Softwareをインストールすると、Webブラウザが開き、SS4200-Eの設定メニューが表示される。そこで、SS4200-Eのデバイス名や、トラブルなどを通知するメールアドレスの設定、タイムゾーンなどを設定すれば、初期設定は完了。あとは、ユーザーやユーザーグループの作成、共有フォルダの作成や共有フォルダへのアクセス制限の設定など、一般的なNASと同じような設定を行なうことになる。ちなみに、搭載したHDDの初期チェックが完了するまでに数十分から数時間ほどかかるが、その間も設定作業などは行なえる。
ちなみに、付属のマニュアルなどは英語表記のものしか添付されていないが、設定メニューは、ごく一部を除いて日本語化されており、設定作業は戸惑うことなく行なえるはずだ。
次に、トラブル時などに自動的に送信されるメールの送信先アドレスを登録 | 最後にタイムゾーンを設定 |
以上で初期設定が完了し、標準で確保されているパブリックの共有フォルダにアクセス可能となる | 設定メニューは全て日本語化されており、設定作業も楽に行なえる |
●DLNA、バックアップなど機能面は充実、アクセス速度も圧倒的に高速
SS4200-Eの機能面は、一般的な家庭向けのNASキットと同等で、なかなか充実している。Windows PCやMacなどを対象としたファイル共有機能やFTPサーバー機能などの、NASとしての基本的な機能はもちろん、専用バックアップソフト(EMC Retrospect)を利用したクライアントPCのバックアップ機能、DLNAサーバー、iTunesサーバーなどを搭載。また、本体に用意されているUSBポートにデジタルカメラを接続することで、撮影データを自動的に共有フォルダに転送する機能(PTP転送)や、USB接続のWebカメラを利用したビデオ監視機能なども用意されている。
DLNAサーバー機能は、PLAYSTATION 3からも全く問題なく音楽や静止画、動画ファイルの再生が行なえた。
クライアントPCからのアクセス速度をチェックすると、リード65MB/秒、ライト91MB/秒と、一般的な家庭用NASとは比べものにならないほど高速であった |
ところで、SS4200-Eは、内部システムがPCをベースとしていることもあって、アクセス速度が非常に高速となっている。実際にCrystalDiskMark 2.2.0を利用してアクセス速度を計測してみたところ、シーケンシャルリードが65.10MB/sec、シーケンシャルライトが91.10MB/secと、一般的な家庭用のNASとは比べものにならないほどの速度が発揮された。家庭用のNASでは、ファイルコピーが遅く、少々イライラしてしまうことも少なくないが、SS4200-EならUSB 2.0接続のHDDよりも圧倒的に高速で、ファイルコピーなどの速度で不満を感じることは全くないと考えていい。
SS4200-Eの実売価格は3万円前後。HDDが4台搭載できるNASキットとしては安価な部類だが、充実した機能と高速なアクセス速度などは大きな魅力で、この価格帯のNASキットの中で、もっともオススメできる製品と言える。
ちなみに、SS4200-Eは、システムがPCをベースとしていることから、Windows Home Serverをインストールして利用するなど、NASの枠を超えた使い方にも対応できるようになっている。そこで次回は、その部分について紹介しようと思う。
(2010年 1月 5日)