大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

2016年は「データセンター」、「IoT」、「メモリ」に注力

〜インテル・江田社長インタビュー

インテルの江田麻季子社長

 2015年は、「ムーアの法則」の提唱から50年目の節目を迎えるなど、インテルにとっても重要な1年であったと言えよう。インテルの江田麻季子社長は、「インテルがいい意味で大きく変化した1年。事業ポートフォリオが変化していくことを実感できる1年だった」と振り返る。

 そして、2016年は、「データセンター、IoT、メモリといった領域において、2桁成長を遂げることで、これらの分野におけるインテルの位置を確固たるものにしたい」と語る。一方で、国内PCメーカーの再編が注目を集めるなど、PC業界を取り巻く変化も気になるところだ。インテルの江田麻季子社長に、2015年の取り組みを振り返ってもらうとともに、2016年のインテルの取り組み、そしてPC業界の行方などについて聞いた。

2015年はインテルが大きく変化した1年に

−−2015年はインテルにとって、どんな1年だったでしょうか。

江田 1965年に「ムーアの法則」が提唱されてから、ちょうど50年目の節目を迎えたのが2015年でした。その節目の年において、インテルは今後も、「ムーアの法則」の実現に向けて、力強く推進していくという宣言をしましたし、1968年の設立以来、半導体業界のリーダーであり続け、継続的に研究開発投資を行なってきた姿勢を今後も変えずに、将来に向けて新たな一歩を踏み出すという姿勢を明らかにしました。

 2015年は、インテルのビジネスが、いい意味で大きく変化した1年だったと思っています。そして、それは業界にとっても節目の1年だったと言えるのではないでしょうか。インテルは、2015年11月に行ったグローバルアナリストミーティングの中で、売上高は前年とほぼ同じ状況であり、全体の約6割をPC関連事業が占めると発表する一方で、利益の65%は、PC関連以外のところから生み出していることを示しました。しかも、利益がPC以外のところから創出される割合が拡大基調にある点を強調しています。これは、インテルにとって大きな変化だと言えます。

 インテルというと、PCというイメージが強いのですが、それ以外のデータセンターやIoT、メモリといった領域で収益を確保し始めています。とくに、メモリは、「またメモリカンパニーに戻るのか」という指摘もありますが(笑)、2015年発表した3D XPointテクノロジーという画期的な技術により、今のメモリの世界を破壊していくような、新たなメモリビジネスができると考えています。

 いずれにしろ、これからインテルの事業ポートフォリオが変わる、ということを実感できる1年であったと言えます。この間も冗談で言っていたのですが、「ゆっくりしたインテル」というのは、私は想像が付かないんですよ(笑)。たぶん、インテルがゆっくりし始めたときが、インテルが駄目になるときだと思います。この市場の競争は激しいですが、その中で切磋琢磨して、次へと歩みを進めていくことができる力を持ち続けることがインテルの強みになると思っています。

−−インテルは、中国・大連の半導体工場をメモリ工場へと転換することを発表するなど、メモリ事業に力を注ぎはじめていることが注目されています。インテルが改めてメモリに注力する理由はなんですか。

江田 インテルが、メモリ事業を強化する理由の1つに、データセンター事業の拡大があります。そして、メモリの強化によって、CPUの性能を最大化するという狙いもあります。これまでは、他社のメモリとの組み合わせで、どうやってCPUを最適化するかといったことに取り組んできましたが、3D XPointを採用したNANDメモリや、3層化したSSDなどを自ら開発、製造することで、インテルのCPUに最適化するといった作業が促進されやすくなります。

 また、これらの新たな技術では、集積度が高く、高い性能を発揮し、それでいて低価格であるという環境も実現できるようになります。メモリ製品は、まずはサーバー製品向けに提供することになります。これまで以上に処理能力を高めることができ、データセンター市場における旺盛な需要に対して、効率的な製品を投入することができるになるわけですから、Samsungなどに対抗するという考え方よりも、新たな市場を作っていく役割を担うものだと捉えていただいた方がいいでしょう。

 Xeonに最適化したメモリを開発、製造し、それを低コストで提供することで、多くの場所で採用されやすくなり、新たな世界ができると考えています。中国・大連の工場では、65nmプロセスの生産ラインを持っていますが、まずはSSDの工場としてスタートし、将来的には、3D XPointの工場へと作り替えていくことになります。

−−半導体分野が大きな再編の中にあります。インテルも2015年には、FPGA大手の米アルテラを買収しました。インテルの立場はどう変わりますか。

江田 半導体は微細化技術を追求し続けることが成長の根幹であり、これを進めてかないと生き残ることができません。しかし、継続的な研究開発投資を維持し、知的財産を保護していくといった取り組みは、多くの企業ができるものではありません。そうした動きの中で、再編が始まっているとも言えます。アルテラの買収はまだ完了したわけではありませんので、現時点で詳細に言及することはできないのですが、アルテラが持つFPGAの良さを活かして、インテルの事業拡大に繋げることができるという期待はあります。

「IoTと言えばインテル」と想起される企業に

−−一方で、2015年は、IoTに関する発言をかなり積極化していたように感じます。

江田 2015年初め頃は、IoTの話をすると、少し先の夢物語という反応でしたが、年半ばぐらいからは、もはや現実のものであるというような変化が見られはじめ、我々の今後のビジネス成長という点でも、手応えを感じることができた1年だったと言えます。

 今年(2015年)5月には、富士通研究所とIoTプラットフォームの連携で合意し、島根富士通で工場における見える化に向けた実証実験を開始したほか、一昨年(2013年)発表した三菱電機とのIoTを活用した実証実験も粛々と進んでいます。さらに、LINEとの連携で、ホームオートメーションやデジタルサイネージ、インテリジェント自動販売機におけるIoTソリューションの開発に取り組みはじめています。こうした取り組みを通じて、インテルが、IoT分野におけるプレーヤーの1社であるとの認識が広がってきたと言えるのではないでしょうか。

 IoTは、技術によって世の中そのものを変えていく部分と、ビジネスモデルによって経営を変えていく部分と大きく2つの側面があると言えます。技術では、自動車の自動運転をはじめとして、製造業との各種連携もありますし、今後は東京オリンピックに向けて、さまざまなサービスが創出される中で、IoTの役割は重要になってくるでしょう。小売業においても、店頭に設置された鏡の中に、色の違う洋服を表示したり、布の感触を再現したりといった使い方ができます。インテルでは、DSS(デジタル・セキュリティ・サーベランス)ソリューションと呼んでいますが、こうした技術が今後、幅広い領域で活用されていくことになるでしょう。

 特に、技術という観点から見た場合、IoTにはセキュリティが不可欠な要素になります。事前にどうやって防ぐのかというセキュリティ、侵入した脅威に対してどう対応するのかというセキュリティ、そして、正しい機器が繋がり、そこから正しい情報が収集されているのかという点でのセキュリティも重視されることになります。IoTでは、デバイスやセンサーを管理するといった点がより重要になってくるでしょう。インテルセキュリティが持つ技術を、IoTに組み込むことで、こうした課題を解決していくことになります。さらには、インテルセキュリティでは、重要社会インフラを保護するテクノロジープラットフォーム「Critical Infrastructure Protection(CIP)」にも取り組んでおり、これを広く紹介していくといった活動も必要だと言えます。

 IoTの流れの中で、インテルの経営の舵を、今後、どう変えていくのかといったことも、2016年には表面化してくることになるでしょう。

−−2014年頃には、インテルが、講演会でIoTの話をはじめると、「聴衆がポカンとした顔をしているのを感じた」と語っていましたが(笑)、今年は、「IoT=インテル」というイメージができあがってきた感じですか?

江田 今では、私がIoTを語っても、聴衆がポカンとするような雰囲気はないですね(笑)。しかも、「モノのインターネット」というようなわかりにくい言葉で説明しなくても、「IoT」という言葉がそのまま通用するようになりましたからね(笑)。IoTがビジネスの言葉として定着してきたと言えます。ただ、「IoT=インテル」というイメージが定着したかどうかはまだ分かりませんね。

 私としては、むしろ、そのイメージが付きすぎることもどうかなと思っています。インテルは、データセンターもメモリも、PCもやっているわけですからね(笑)。インテルのビジネスが幅広くなってきたというイメージが定着する中で、IoTに取り組んでいる企業であるという認識があること、そして、IoTが主語で語られる中では、必ずインテルが想起されるという企業でありたいと思っています。インテルは、IoTやロボットなどの技術に対して、ビジネスの観点から興味を持っているだけでなく、同時に、新たな市場を広げてくれる人たちの支援に対しても高い関心を持っています。かつては高い技術力を持った人しか開発ができなかったものが、インテルのEdisonやQuarkといったモジュールを活用することで、簡単に医療用機器やスケートボードにこれを入れて、新たなものに挑戦するといったことができるようになっています。これもIoTやロボットなどの広がりに貢献することになるでしょう。Edisonのパッケージには、「What will you make?」(なにを作る?)というメッセージが入っていますが、この言葉に示されるように、メーカーズと呼ばれる人たちを支援するツールの提供にも力を入れています。

日本は最先端技術活用の実験場に

−−日本では、人口減少や少子高齢化といった課題を抱えています。その中で、ITはどう貢献することになりますか。そして、インテルはどんな役割を果たすことになりますか。

江田 人口変化や環境変化という観点からみると、日本は、ITやロボットなどの支援が必要になる市場だと言えます。言い換えれば、日本は、これらの最先端技術に関する実験的な市場であるともいうわけです。技術は、いいものであっても、人に受け入れられなくては使われません。最先端技術をうまく取り込んで、住みやすい社会にし、経済的に発展する国を作るといった動きを、世界に見せていくのが日本ということになるでしょう。

 今世の中では、全てがオートメーション化されたり、ロボット化されたりすることで、人の仕事がなくなるのではないかとか、場合によって侵略されてしまうのではないかといったような言われ方をしていますが、人としてこうして使いたいという「意思」と「価値観」を持って、ITやロボットを活用していく姿を、日本が見せられるのではないかと思っています。過酷な労働環境というのは、50年前、70年前に比べて減少していますが、それでもまだ過酷な環境は残っています。そうしたところを改善し、人がもっと創造的な仕事に関与できるようにし、ワークライフバランスが取れた生活が送れるようになればいいと思っています。

 また、職人の世界では、10年隣で仕事をしていないと得られないというような「いぶし銀の技術」も、さまざまなデータを得て、それを活用することで、2年で修得できるようになるといったことも起こるでしょう。全てのものがそうなるとは思いませんが、こうした動きが起こることもポジティブなものとして捉えることができます。技術が貢献できることは多いですし、人の補佐をする仕事も数多い。その点で、私はワクワクしています。

 これまでのITは生産性向上や業務効率化という点ばかりにフォーカスされてきましたが、今後は、それに留まらず、さまざまな使い方できるという点に注目したいですね。社会や個人が、より豊かになるための支援ができればと思っています。

 私見ですが、新たな技術が訪れ、それによって世の中が変化するのは明らかで、この流れは止まりません。これを、恐怖心が先行したり、脅威であるという点ばかりがクローズアップされ、だから止めようという議論になるのは時代の流れに逆らっているだけに過ぎません。全ての業界が影響を受けるのは明らかで、社会や企業経営者は、新たな技術に対して、ポジティブな姿勢で取り組んでいくことが大切です。変化をボジティブに受け取らないと成長はないと考えています。

メーカー再編が進展、PCはなくなるのか?

−−日本では、PCメーカーが再編の流れの中にあります。インテルの日本法人にとっても重要な取引先ですが、今後、日本のPC業界はどうなっていくと見ていますか。

江田 業界全体の動きを見ると、携帯電話やTVでも見てきた風景と、同じようなものを感じています。技術やビジネスには「旬」というものがあります。そうしたマクロ視点で捉えるという意味では、市場の大きな変化を感じざるを得ないのは事実です。

 ただ、コンピューティング技術は、ますます広がっていくことには間違いありません。PCの中に入っている技術は、そのままIoTの技術として活用され、今後は、300億台とも、500億台ともいわれるデバイスが、ネットワークに接続されることになります。PCの技術が活かされることで、私たちの生活が便利になっていくわけです。

 そして、私は、PC自体はなくならないと思っています。今、PCがなくなると私の毎日の生活は成り立ちませんし、多くの人が同様の状況に陥るはずです。生産性を高めるための重要な機器とし、PCは既に我々の生活の中に入り込んでいますし、なくてはならないものであるという認識はこれからも変わらないと言えます。PC市場全体は需要の揺り返しもあって、増えたり、減ったりといったことが続くと思いますが、まだまだPCが入っていける市場はありますし、大きな流れの中では拡大していくものと考えています。日本のPCメーカーは、尖った技術を持っていますし、顧客のニーズを取り込むことに長けています。そうした特徴が生きる領域において、ビジネスを拡大していくものと期待しています。

インテルの2016年はどうなるのか?

−−2016年はインテルにとって、どんな1年になりますか。

江田 PCの領域においては、いかにイノベーションを起こしていくかが大切ですから、この市場に向けて最新のCPUを投入し続けるとともに、リアルセンスなどの独自技術や無線技術を活用して、PCの使い勝手を高めること、そして、さまざまなフォームファクタの製品が市場投入できる環境を作り上げたいと考えています。

 PC市場は2桁成長を遂げるような市場ではないという認識は持っています。しかし、この市場が成長を遂げるためにはイノベーションが必要となります。その役割を果たす企業がインテルであり、インテルはこの分野に対して、引き続き、力を入れていきます。その一方で、2桁成長を遂げるのはデータセンター分野であり、IoT分野、そしてメモリ分野となります。この分野においては、インテルのテクノロジーの先進性を確固たるものにしたいと考えています。この新たな成長領域において、どんな事業バランスを取っていくのかということが、これからのインテルの戦略ということになります。ここはぜひ注目しておいていただきたい部分です。

 そして、1つの知的財産を活用し、これを広げていくことに加えて、投資のメリハリといったものも、明確になっていくと思います。さらに、2016年は、データセンター、IoT、クライアントPCまで幅広く使える共通技術の強化にも取り組んでいきます。米ラスベガスでまもなく開催される「CES 2016」においても、インテルは新たな発表をすることになりますから、ぜひ楽しみにしていてください。

 また、ダイバーシティに対する取り組みも、2016年は加速することになるでしょう。女性などの少数派と言われる人々を、研究職、技術職、上層部の管理職にいかに登用していくかといったことに力を注ぎます。インテル自身がダイバーシティに力を注がないと、異業種企業との会話、ベンチャー企業や若者たちとの会話などができない文化ができあがってしまうという危機感があります。外からの柔軟な発想を取り入れるためにも、インテルの社内に、ダイバーシティが実現されなければならない。最近では、ダイバーシティ&インクルージョンと言っており、多様性を取り込んでいくことで、これを会社としての強みにしていくことに力を注いでいます。会社の文化も面白くなってきました。2016年も、インテルは大きく変わっていくことになると思います。インテルの変化にぜひ注目してください。

(大河原 克行)