大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通がPC/携帯電話事業を分社化するのはなぜか?

〜齋藤執行役員常務にインタビュー

富士通 ユビキタスプロダクトビジネスグループ長 執行役員常務の齋藤邦彰氏

 富士通は、10月29日に行なわれた経営方針説明会において、2016年春にも、PC事業および携帯電話事業を、それぞれ100%子会社にすることを発表した。この狙いはどこにあるのか。そして、富士通のPC事業はどう変わっていくのか。富士通でPC事業および携帯電話事業を統括する富士通 ユビキタスプロダクトビジネスグループ長の齋藤邦彰執行役員常務に話を聞いた。分社化の発表以降、富士通幹部が、この件について言及するのは初めてとなる。

これまでの延長線上では限界がある

――富士通がPC事業を100%子会社として分社化することを発表した。その理由はどこにあるのか。

齋藤 今年(2015年)のPC市場を俯瞰してみると、予想以上に状況が悪い。調査会社も動向を見誤り、予測を外している。多くのベンダーが想定以上に落ち込んでいるのが現状だ。背景には、Windows XPの反動が長引いていることが挙げられる。また、為替によって調達コストが大きく膨らんでいることも厳しい要因の1つになっている。想定していた状況よりも悪化しているというのが業界に共通の認識ではないだろうか。

 もちろん、落ち込んでいる原因の真相は何か、これがいつまで続くのかという話も大切だが、もはや、これまでの延長線上でのやり方を変えて、対策を考えて、アクションを取らなくてはいけないという段階に来ている。その結果が、今回の分社化という判断に繋がっている。

LIFEBOOK AH45
ESPRIMO WH77

 一方で、富士通は、法人ユーザーの要望に合わせて、きめ細かいカスタマイズ対応やサービスを提供したり、品質面でも徹底したこだわりを持っており、ここに富士通が、市場から高い評価を得ている要因があると自負している。富士通が、開発、設計、製造を自前で持っているからこそできることである。

 だが、このままの体制で事業を続けていくと、市場の変化や想定外の事態に対応できず、こうした富士通ならではのサービスが提供できなくなる可能性がある。ここでも、これまでの延長線上でビジネスをしていてはいけないという危機感がある。何か新たなことを始めたり、また特別な案件を獲得しにいったりする場合にも、大きな組織では動きが遅くなることがある。これまでにも迅速な意思決定を行なってきたつもりだが、さらに速くするには、今の大きな組織のままでは限界がある。

――富士通の田中達也社長からは、PC事業および携帯電話事業には「甘えの構造」があると指摘されたが。

齋藤 敢えて言うならば、垂直統合型の組織の中では、PC事業、携帯電話事業に甘えの構造があったように、ほかの組織にも甘えの構造にあったとも言える。予測に基づいて事業をやるのが基本だが、PC事業の場合は、その予測が難しいという側面がある。それでも、2000年以降の15年間に渡ってPC事業は累計黒字となっている。ただし、利益が出る時には出るが、出ない時には出ないという「暴れ馬」のような事業であるのは確かだ。特にコンシューマ製品の利益が厳しく、これがPC事業全体の利益を左右することも多い。これはボリュームビジネスの宿命とも言える。

――2012年度はPC事業が赤字であったが、2013年度以降は黒字化している。だが、2013年度はWindows XP特需、2014年度は為替影響で黒字に滑り込んだという印象もある。

齋藤 確かにそうした要素があったのは事実だ。その点では、このタイミングで、想定以上に悪い方向に市場環境が振れた場合にも利益を出せる体質に変えておかなくてはならない。分社化はそのための策でもある。

――携帯電話事業は、年間300万台体制で利益を出せる体質作りを目指していたが。

齋藤 既にその体質はできている。ただ、今年5月に発売したAndroidスマートフォン「ARROWS NX F-04G」で、カメラが起動できない、電源が入らないなどの不具合が確認され、販売停止となっている。その対策費用の負担のため、第2四半期では赤字になっている。こうしたところにも「甘えの構造」が指摘される要素があると言える。

ARROWS NX F-04G

分社化後の体制はどうなるのか?

――PC事業の新会社の社員は、数千人規模になると公表しているが、島根富士通や富士通アイソテックといった製造拠点、あるいはサポート拠点などは含まれるのか。

齋藤 これはまだ決まっていない。強くするための体制は何かということを前提に考えていくことになる。富士通アイソテックの場合には、デスクトップPCだけでなく、サーバーも生産しており、簡単に子会社に移動させればいいというわけにもいかない。携帯電話事業の生産拠点である富士通周辺機についても、まだどうなるかは決めていない。

――PC事業の新会社には、タブレットが含まれることになるのか。

齋藤 これもまだ最終決定しているものではないが、プラットフォーム別に分けるのがいいのではないかと考えている。WindowsプラットフォームはPC事業会社、Androidプラットフォームは携帯電話事業会社という形にするのが効率的だと考えている。この考え方に基づくと、Windows MobileもPC事業会社になる可能がある。

島根県出雲市にある島根富士通

――PC事業および携帯電話事業には、多くの知財がある。これらの知財は本社に帰属するのか、新たな子会社に帰属するのか。

齋藤 それは気にしていない。100%子会社であるということを考えるとどちらにあっても問題がない。これは人の流動性と同じで、より強く使える方が持っていればいい。グループで持つという手法もある。クロスライセンスを考えると、本社側に持っていた方が優位という判断もあるが、これも今後決めていくことになる。

――分社した会社の具体的な姿は、いつまでに決めるのか。

齋藤 来年(2016年)の早い時期になる。何かのタイミングを待つのではなく、なるだけ早くやらないといけない。需要の見通しが不透明であり、予想外の事態が起こることで、市場がどう変化するかも分からない。可及的速やかにやっていくことが大切である。
IoT事業にも強く関与していく。

――一方で、IoTに関しては、グループ内に分散しているIoTに関連する技術や、企画、開発、製造、営業体制を、全社IoT部門に集約し、中核事業として強化していく姿勢も明らかにしている。PC事業や携帯電話事業は、ここにどう関与していくのか。

齋藤 IoTは、これからの成長領域となるのは明らかだ。ただ、IoTは、センサーやデバイスだけではなく、クラウドやアプリも重要な領域であり、それらを活用して導き出した答えを、ソリューションとして活用し、企業や社会が抱える課題を解決するといったように、幅広い範囲の事業を指すものとなる。そういう意味では、センサーやデバイスの市場は、IoT市場全体から見れば、一部だと言える。

 だが、その一方で、センサーやデバイスを持っていないと、苦戦することになるのは明らかである。つまり、IoTのフロントエンドを持っていることは強みになる。しかも、PCやスマートフォンといったフロントエンドの製品を、品質やサービスに代表される信頼性と、小型軽量の技術や無線、生体認証などの技術、そして、一定の数量を安定した形で提供できる体制を持っているからこそ、実現できるIoTというものも多い。スマートフォンに内蔵したセンサーを使って人の動きを捉えて、そこからさまざまなサービスを提供するといったことも、自分たちで技術とデバイスを持っているからこそできる。

 IoTでビジネスを優位に展開するには、PCやスマートフォンは大切。ゲートウェイとしての役割を果たすことになる。ここを強くしていく必要がある。全社IoT部門の中に、PC事業や携帯電話事業から人が流れることもあるだろう。また、分社化したからといって、切れるわけではなく、人の入れ替えなども進めていくことになるだろう。PCおよび携帯電話事業の分社化をするか、しないかという議論とは関係なく、成長領域であるIoT分野に人を割くのは当然のことであり、そうした考えの上で、技術を持ちながらIoT分野に人をシフトしていくことになる。これができないと、富士通のIoTの強さが発揮できない。雲の上(クラウド)と、地べた(PCやスマートフォン、センサー)を繋ぐゲートウェイはどういうフォームファクタで、どういう機能を持っているのかといったことも追求していく必要がある。

富士通アイソテック

PC事業を分社化するメリットはあるのか?

――PC事業を分社化するメリットはどこにあるのか。

齋藤 継続的に富士通らしいPCを提供すること、その体制を維持することが分社化の狙いになる。先にも触れたが、分社化することで、意思決定が迅速化することは大きなメリットだ。そして、意思決定力も高まることになる。その結果、今までよりも「強い」製品づくりができると考えている。

 例えば、先日、文教分野向けタブレットを新たに発表したが、こうした特化したモノづくりについても、子会社の中で迅速に判断して、製品化することができれば、これまで以上に力を持った製品を、いち早く市場投入できるようになる。また、海外戦略においても、力を入れるエリアと、そうでないエリアを、これまで以上に明確にして、一気に突っ込んでいきたいエリアにも踏み込みやすくできる。実際に、新興国を含めて、富士通のPC事業が得意とするハイエンドエリアの製品によって、打って出たいという市場がいくつかある。

 富士通のグローバル戦略を重視すると、それぞれの市場の要求にあったものを作ることになり、どうしても、標準的な製品しか生まれないという構図に陥りやすい。だが、分社化すれば、PC事業子会社の視点から強力にビジネスを推進したり、モノづくりをしたりすることができるようになり、これまでとは違った「尖った」ものを市場投入できるようになると考えている。特に、IoT分野においてゲートウェイとなる製品は、きっと「尖った」ものになるはず。ホームコンピューティングや自動車関連領域でも可能性は広がる。

富士通周辺機器

――富士通のPC事業の規模は、2013年度には年間590万台だったが、2014年度は470万台。そして、2015年度は、期初には前年並みの470万台を見込んでいたものの、先ごろ、50万台減の420万台へと下方修正した。ボリュームがモノをいうPC事業において、400万台規模で生き残れるのか。

齋藤 そうした議論もあるが、もはや数千万台の事業規模を持つPCベンダーでも厳しい状況にあるのは同じだろう。その中で、勝ち残るためには、IoTをどう取り込むかが重要である。ゲートウェイとしてのデバイスの広がりによって、どれだけ市場拡大に貢献できるか、その市場において、顧客にどれほど受け入れられるかが鍵である。今までのPCやタブレットという既存の市場だけを捉えて判断するものではない。

分社化は売却を視野に入れたものなのか?

ユビキタスビジネスの構造変革

――分社化の動きは売却を視野に入れたものではないのか。富士通の新たな経営方針では、目指す姿として営業利益率10%以上を掲げた。だが、2014年度の実績はわずか3.8%。2015年度通期見通しの営業利益率もわずか3.1%。しかも上期は赤字だった。PCおよび携帯電話を含むユビキタスソリューション事業を除いた全社営業利益率は2014年度実績で6.7%。目標達成が視野に入るようになる。目標達成には、PCおよび携帯電話事業の非連結化あるいは売却が近道に見える。

齋藤 西洋の外科手術的な発想からすれば、営業利益率の低いところを切り離せば済むという判断になるだろう。しかし、富士通は、これからの成長においては、IoTがそれを支えるものになると明言している。その中で、PC事業、携帯電話事業が持つデバイスの技術は「力水」になると考えている。デバイスを持っているからこそ、ユーザーへの接点においてもメリットがある。個人的に思っているのは、IoTと一体になって営業利益率をどう高めていくかというのが基本的な考え方。PCや携帯電話が、IoTの成長に貢献できないということになれば、外科手術が必要だが、それは今の時点では判断できないだろう。

 IoTはこれから市場が離陸するタイミングにあり、どんなデバイスがここで求められるかが分からない。検討の中では、売却という選択肢があるかもしれない。ただ、今はそれが決まっているわけではない。富士通のPC事業、携帯電話事業をどうやって強くするのか、そして、パートナーに迷惑をかけない最善の策が何なのかということを考えている。

(大河原 克行)