大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
まもなく10周年を迎えるデル宮崎カスタマーセンターの今までとこれから
(2015/10/9 06:00)
宮崎県宮崎市のデル宮崎カスタマーセンターが、2015年11月に、開設10周年を迎える。同センターは、2005年11月17日に、ユーザーサポート拠点、および電話やメールを活用した営業拠点としてスタート。当初は、100人体制だったものが、現在では約500人の正社員が勤務する規模にまで拡大。宮崎市内における外資系企業として、あるいはIT企業としても最大規模を誇る。今後、デル宮崎カスタマーセンターはどんな発展を遂げることになるのか。デル 宮崎カスタマーセンターの金子知生センター長に話を聞いた。
温厚で気さくな県民性を活かした拠点
デル宮崎カスタマーセンターは、JR宮崎駅から徒歩10分ほどの距離にある。宮崎ブーゲンビリア空港からも車で20分ほどの距離だ。
入居している建物は、カリーノと呼ばれるショッピングビルとなっており、デル宮崎カスタマーセンターは、そのうち、4~6階フロアを利用している。多くのテナントが入居し、しかも不特定多数の人が訪れるショッピングビルに、カスタマーセンターが入居するのは珍しいとも言える。そうした点から、センター施設への入退出については厳重に管理。一般の人が間違って入ることがないような構造としている。
デルが宮崎に進出した背景には、宮崎県および宮崎市による進出企業に対する支援措置もあったが、宮崎県が、産官学一体となったIT人材の育成に積極的に取り組んでいること、地元大学の卒業生を始めとして優秀な人材を確保しやすいこと、温厚に人柄で、気さくな人が多い県民性などが背景にある。また、市内中心部にこうした大規模なスペースを確保できるというタイミングが重なったことも大きな要素だったと言えよう。
さらに、デルでは、PCの普及率や教育レベル、進出企業などの地域環境を背景に、PCのサービスおよびサポート業務を行なうための十分なインフラが整っていると判断。また、Uターン、Iターンを含めて、優れた人材を確保できるという点も宮崎進出の理由だったようだ。
現在でも、デル宮崎カスタマーセンターの勤務者は、宮崎県内あるいは九州出身者が多く、デルにとっても優秀な人材を地元で雇用できるといったメリットが生まれている。
採用した人材は、専用のトレーニングルームで数週間に渡る研修後、指導員がついて実践型の教育を実施。その後、初めてオペレーターとして独り立ちして、ユーザー対応することになる。こうした教育体制の確立と、開設以来10年という長年の蓄積、社員の定着率の高さにより、高いスキルを持ったオペレーターが勤務している点も見逃せない。
実際、宮崎カスタマーセンター開設当初は、コンシューマ向けPCのサポートが中心であったが、その後、ビジネス向けPCやサーバー、ストレージなどのエンタープライズ製品へとサポート範囲を拡大。また、ソフトウェアや仮想化環境におけるサポートなどにも範囲を広げている。
デルは、2007年以降、買収戦略を加速しており、取り扱い製品の幅を拡大。それに合わせて、宮崎カスタマーセンターでサポート対応する製品も広がっている。だが、それを可能にしているのは、サポートに関するノウハウと知識の蓄積、高いスキルを持った社員の存在抜きには語れない。
なお、デルでは、この宮崎カスタマーセンターのほかに、本社のある神奈川県川崎市と、中国・大連にも拠点を設置。サービス内容や契約に合わせて、3つの拠点から、国内向けのユーザーサポートを行なっている。
コンシューマPCからエンタープライズまでをサポート
現在、宮崎カスタマーセンターで行なっているサービスは、コンシューマPCの有料サポートを始め、コマーシャルPCやサーバー、ストレージなどのハードウェアのほか、ソフトウェアにもサポート対象が広がっている。
デル 宮崎カスタマーセンターの金子知生センター長は、「この1年は、デル 宮崎カスタマーセンターの能力が広がった1年だったと言える」とし、「ストレージについては、昨年(2014年)から開始しているEqualLogicも宮崎での対応が増加。さらに、今年(2015年)3月からは、ソフトウェアサポートも宮崎で開始した。ハイエンドサポートへと対応範囲が広がっており、エンタープライズ関連製品にまで対応できる体制が整っている」とする。
この背景には、やはり10年という蓄積が見逃せない。
「10年に渡る知識、経験が蓄積され、タレントも増えている。定着率も高く、川崎本社と宮崎カスタマーセンターの平均就労年数が変わらなくなってきている」とする。
デルは1993年に日本に進出。それに対して、宮崎への進出は2005年。それにも関わらず、平均就労年数には差がないというのだ。
「これまでは、コンシューマPCとコマーシャルPC、エンタープライズ製品のサポート体制が分かれていたが、これを1つに統合したことで、社員同士が連携しやすくなった。また、川崎と宮崎の人員交流が行ないやすい体制も整った。こうした体制変化によって、コンシューマPCからコマーシャルPC、あるいはコマーシャルPCからエンタープライズへとキャリアアップする社員が増えている」
宮崎カスタマーセンターにおけるエンタープライズ製品のサポート対象領域が広がることで、川崎ではソリューション型サポートの強化が可能になっており、デルのサポート品質全体の底上げにも寄与しているという。
「宮崎での10年の成果を挙げるとすれば、それは人に尽きる。優秀な人材が、正社員として集まっている。これが、デルの強みにも繋がっている」と、金子センター長は自信を見せる。
デル プロサポートプラスによるハイレベルサポートも担当
デルには、「デル プロサポートプラス」と呼ばれるサポートがある。
これは、専任のアカウントマネージャーが配置され、リモート監視を行なうことで、事前に問題を発見し、予防措置も行なうというものだ。
「サポートアシスト機能を活用することで、ユーザーのPCなどに障害がある場合には、自動的にカスタマーセンターに情報が送信されてくる。それを解析し、修理の必要があると判断すれば、こちらから連絡をし、修理のために伺いたいといった提案を行なう。これは個人ユーザーも使えるサービスになっている」という。
さらに、ベーシック・プロサポートサービスでは対応してない「アクシデンタルダメージサービス」も、プロサポートプラスでサポート。コーヒーをこぼしたり、外出先でPCを落としたといった不慮の事故もカバー。また、HDDといった部品が故障した際に、部品だけを配送して、ユーザー自ら交換作業を行なうサービスを用意しているが、この時に、情報保護の観点から、故障したHDDを返却したくないというケースにも対応する「HDD返却不要サービス(Keep Your Hard Drive)」も用意している。
まさに最上位のサポート体制と言えるもので、宮崎カスタマーセンターでは、こうしたクライアントPC向けのプロサポートプラスの対応を一手に引き受けている。
また、宮崎カスタマーセンターでは、エンタープライズソリューションに関する複合的な問題に対応するためのレゾリューションマネージャーを配置。「この陣容を拡大することで、今まではできなかった高度な仕事が、宮崎で受けられるようになってきた。さらに、グローバル連携が求められる仕事も増えており、英語ができる人材も増やしている。優秀なタレントが増えたことで、宮崎で対応できる仕事が増え、ポジションが増えている」とする。
Twitterによるサポート担当者を増員
一方で、デル宮崎カスタマーセンターで力を注いでいるサポートの1つとして、Twitterを活用したサポートが挙げられる。
ユーザーのつぶやきを見て、デル自らが、そのつぶやきに対応。Twitterでのやりとりを通じて、サポートを完結するというものだ。
「昨年までは1人体制であったが、これを3人体制へと拡張した。クライアントPCだけでなく、エンターブライズへの対応もTwitterを通じて行なえるようになっている。電話での対応をアナログだとすれば、電子メール、チャット、Twitterといったデジタルで対応する部分を増やしていきたい」としている。
電話だけに留まらない、サポートチャネルの拡大にも積極的に乗り出している。
Windows 10にも万全の体制で挑む
日本マイクロソフトが、7月29日から提供を開始したWindows 10に対する体制作りにも余念がない。
7月29日までに、全員がWindows 10に関するトレーニングを完了。さらに、ここでもTwitterの活用や、リモート操作を通じたサポートを展開することになる。
「コマーシャルPCでの問い合わせは少ない。また、コンシューマPCでも、まだ知識を持った人が中心であり、問い合わせが爆発的に増えているわけではない。7月29日にあわせて、既発売のどの機種でWindows 10が動作するのかといったことをサイトに掲載したことも混乱が少ない理由の1つ。今後、Windows 10搭載PCが発売されることで、問い合わせが増える可能性があるが、それに向けての体制作りは万全」だとする。
パートナー戦略拡大に向けた新たなサポートも
デルにおいて、今後の新たな取り組みとなるのが、日本におけるパートナー戦略の拡大に伴うサポート体制の強化だ。
昨年来、デルでは、パートナーを通じた販売拡大を最重点課題においている。先頃、コンシューマPCにおいても、量販店を活用した販売拡大に乗り出す姿勢を表明したばかり。これまで直販中心であったデルにとっては大きな転換だ。
「これまでは直販で販売したユーザーに対してサポートすることが中心であったが、今後は、パートナー企業をサポートの観点から支援していくことになる。パートナー企業からは、サポートは全て宮崎で対応して欲しいといった声や、高度なサポート対応についてはデルにやってほしいといった要望もある。パートナーの要望に応じたサポート体制づくりも必要である。現在は、高いスキルを持ったエンジニアが対応しているが、今後、パートナー向けサポート体制の専任化も視野に入れながら、パートナーの声を聞きつつ、最適なサポート体制を構築したい」とする。
年間で約50社のパートナー企業が、宮崎カスマターセンターを見学に訪れているという。
「これだけの規模の正社員によって、ユーザーが直接対応しているという強みは他社にはないもの。パートナー企業においても、武器になるうるセールスツールの1つとして、宮崎カスマターセンターを活用してほしい。宮崎カスマターセンターは、お客様にデル製品を安心して利用してもらうだけでなく、パートナーに安心してデル製品を取り扱っていただくための重要な拠点になる」と語る。
デルのパートナー戦略の拡大においても、宮崎カスマターセンターは重要な役割を果たすことになる。
働きやすい環境作りを目指す
デル宮崎カスタマーセンターでは、働きやすい環境の実現や、地域貢献といった点にも力を注いでいる。
社員育成のための様々な仕組みづくりに加えて、女性の就労機会を増やすため、子育て支援などにも積極的に取り組んでいる。
2015年2月には「宮崎県 男女共同参画功労賞」を受賞。2015年7月には「未来みやざき子育て県民運動推進協議会 子育て支援優良企業賞」を受賞したことからも、これらの取り組みが評価されていることが分かる。
また、地域貢献では、これまでにも、ボランティアとして、地元開催の「えれこっちゃ宮崎」や「まつり宮崎」に参加。ブースを出展したり、社員が踊りで参加したりといったことが行なわれてきた。
さらに、青島太平洋マラソンやビーチクリーン活動にも参加するといったことも行なっている。
「県内の就職ランキングに、デルが入るようになりたい。そして、将来的には宮崎県内での就職人気ナンバーワンを目指したい」と金子センター長は語る。
宮崎市のIT産業活性化の中核的役割も
現在、デルは、宮崎市が音頭を取って2015年3月に設立した宮崎市内のIT関連企業を活性化させるための組織「Miyazaki ICT Plus(宮崎ICT企業連絡協議会)」に参加。副会長会社となっている。
「宮崎で10年間やってきて感じたのは、地域のIT企業全体の発展がないと、今後も優秀な人材を確保し続けることができないということ。自治体や地域IT企業との連携を深めることで、『宮崎』を、シリコンバレーのようにブランド化していきたい。ユニークなIT企業が宮崎市にあることで、宮崎市内での雇用を増やすことができる。会員会社が1つになって、首都圏に出向いて採用活動を行ったり、採用した人材を共同で育成したりといったことにも取り組みたい。宮崎には、肉や魚だけでなく、ITもブランド化できる潜在力がある。ITの力で宮崎を元気にしたい」と述べた。
Miyazaki ICT Plusには、現在、26社が参加し、会員会社の総社員数では、2,500人規模になるという。
宮崎市に拠点があるGMOやMANGO、GOOYA、アラタナなどが参加。会長会社にはGOOYAが就任している。
デルが宮崎に進出して10年を経過。ITを通じて、宮崎市の活性化に取り組むといった新たな役割も担い始めている。