大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

デル、宮崎カスタマーセンターを公開




 デルは、2005年11月に、デル宮崎カスタマーセンターを開設した。今回、同センターを訪問する機会を得て、その内部の様子を取材することができた。国内におけるサポート評価ナンバーワンの奪還を目指す戦略的拠点と位置付けられるデル宮崎カスタマーセンターは、果たして、どんな体制となっているのだろうか。その様子を紹介しよう。

●セールスおよび営業の戦略的拠点

 デル宮崎カスタマーセンターは、ユーザーサポートおよび、電話による営業拠点としての役割を担う。

 デルでは、この宮崎カスタマーセンターのほかに、本社のある神奈川県川崎と、中国・大連にも同様の拠点を設置しており、これら3拠点から、国内向けのユーザーサポートおよび電話によるセールスを行なっている。

 2005年11月17日に、100人体制でスタートした宮崎カスタマーセンターは、現在、300人体制へと拡充。そのうち約100人がテクニカルサポート、約200人がインバウンドセールス担当となっている。インバウンドセールスでは、新聞や雑誌などに掲載されたデルの広告などを見て、電話でPCを購入したり、購入前の相談を行なうといった人たちを対象に行なっているものだ。

 この陣容は、年内には500人、2010年には1,000人体制となる見込みで、最終的には、日本法人のカスタマーセンター機能としては、同センターが最大規模を誇ることになる。1,000人体制時には、約65%がセールス担当の人員となる予定だ。

●なぜ、宮崎にカスタマーセンターなのか

 デルが、宮崎にカスタマーセンターを開設した背景には、いくつかの理由がある。

 1つは、外資系企業を含む複数のIT関連企業が、宮崎県内に事業所を開設、運営していること、メーカーの高度生産拠点としての立地が推進されていることがあげられる。最近では、日立製作所のプラズマパネルの生産拠点である富士通日立プラズマディスプレイズが、宮崎県における先進生産拠点の代表的な企業といえるだろう。宮崎県のみならず、九州全域がこうした高度生産拠点としての役割を担っていることも見逃せない要素の1つといえる。つまり、ITや最新技術に対する意識が高く、そうした人材を確保しやすいという判断が働いたといえる。

 2つめには、宮崎県が、産官学一体となったIT人材の育成に積極的に取り組んでいることだ。さらに、宮崎県および宮崎市といった、県および自治体が、こうした企業の進出に対して、強力なバックアップを行なっており、今回のデルの進出に関しても、これらの支援面での好条件が影響しているのは間違いなさそうだ。デルでは、県などからの具体的な支援内容については明らかにしていないが、進出に関わる優遇措置や地域からの雇用に関する各種支援なども行なわれているようだ。

 デル宮崎カスタマーセンター所長であり、ホーム&ビジネスセールス事業本部統括事業本部長を兼務する天野総太郎氏は、「PCの普及率、労働人口、教育レベル、そして地域のカルチャーといった要件を総合的に見た結果、宮崎へのカスタマーセンターの設置は最適だと判断した。高度なパソコンのサービス/サポート業務を行なうための十分なインフラが整っており、Uターン、Iターンを含めて、優れた人材を確保できる地域である。現在、約9割が宮崎県内での採用であり、質の高いセールス対応、サポート対応を実現できる」と語る。

 また、サポート部門を統括するジャパンサービス統括本部宮崎カスタマーセンターテクニカルサポート本部長・大宮哲夫氏も、「社内の調査でも、宮崎カスタマーセンターからのサポート体制には高い評価が集まっている。短期間で、ここまでの高い評価が得られのは予想以上の成果」と異口同音に語る。

ホーム&ビジネスセールス事業本部統括事業本部長兼宮崎カスタマーセンター所長の天野総太郎氏 ジャパンサービス統括本部宮崎カスタマーセンターテクニカルサポート本部長・大宮哲夫氏

 宮崎カスタマーセンターでは、2005年7月から、地元での採用を開始。約6週間のトレーニングを受けた後に、2週間の実践でのトレーニングを経て、独立して業務を行なうといった仕組みとなっている。

社員教育用のトレーニングルーム。トレーニングルームは全部で5部屋ある こちらは教育中のオペレータたち。約6週間の学習後、約2週間に渡り、指導員がついて実践で教育する

 「宮崎県人の温厚で、気さくな人柄が、デルのセールスおよびサポートにプラス効果をもたらしている」と天野氏は語る。

 今後は、宮崎県県内から九州全域にも雇用の範囲を広げて、1,000人体制の確立を目指す考えだ。

●ショッピングビル内にカスタマーセンターの不思議

 デル宮崎カスタマーセンターは、JR宮崎駅につながる高千穂通り沿いのカリーノ宮崎の4階、5階フロアにある。宮崎駅から徒歩で7~8分程度に立地するカリーノ宮崎は、数多くのテナントが入居するショッピングビルとなっている。

 どちらかといえば、コールセンターの場所を明確にしたがらない企業が多いなかで、不特定多数の人々が出入りするショッピングビル内へのコールセンター開設は異例だ。

JR宮崎駅からつながる高千穂通り沿いにあるカリーノ宮崎 川崎本社にはDELLの看板がないことから、リアルサイトを除けば、これが国内唯一のDELLの看板。2006年8月には、屋上の大看板にDELLの文字が表示される予定 カリーノ宮崎の4、5階にデル宮崎カスタマーセンターがある。6階にも拡張予定

 現在、4階フロアには、セールス部門が入居。同部門では、約200人体制で、主に、中小企業やコンシューマからの問い合わせに対応している。新聞や雑誌への広告、オンラインを見て、電話で問い合わせるといったユーザーが中心だ。一方、5階フロアにはテクニカルサポート部門が入居。企業向けPCである「OPTIPLEX」シリーズのサポートを中心に行なっている。

4階のセールスチームのフロア。約200人が勤務している セールスチームの机の基本構成。PC 1台と電話機、資料置き場などが用意される。テクニカルサポートチームよりもパーティションが高い
5階の受付エリア。他のフロアが店舗であるのに比べるとまったく異なる雰囲気 5階のテクニカルサポートのエリア。約100人が勤務する
これがテクニカルサポート部門の一般的な構成。右のPCが業務用。左のPCが検証用 お客様からの声を、オペレータごとに張り出している。オペレータのモチベーションも上がる

 2つのフロアをあわせた面積は、約4,062平方m。8月には、6階フロアにもセンターを拡充する予定であり、約5,900平方mへと広がる予定。それに伴い、フロアごとの部門配置も変更することになる。

各フロアにミーティングルームを数多く用意。教育や面接などにも利用している 社内にはマイケル・デル会長のポスターなども貼られていた
休憩スペースを窓際に用意。明るい雰囲気でリラックスできるスペースだ
リラクゼーションルームはマッサージチェアを完備 仮眠室もあるが、現在は午後6時30分までの勤務体系なので、基本的には使用されていない

 勤務している約300人は、すべてデルの社員として雇用。競合他社のコールセンターが、外部企業への委託としているのとは一線を画している。これも地域での雇用を活性化するとともに、品質の高いサポートを実現することににつながっている、とデルでは説明する。社員の男女比は6対4。平均年齢は20代後半から30代前半だ。勤務時間は、月曜日から金曜日までの午前9時から午後6時30分まで。それ以外の時間帯は、川崎および大連のカスタマーセンターが対応することになる。

 「今後、人員の増強にあわせて、サービスできる時間帯を延長することになる。2007年には24時間体制となるだろう」(カスタマーサービス本部テクニカルサポートシニアマネージャー・金子知生氏)という。

年内に営業チームをあわせて500人規模に増員予定。増員に対応するためのまだ空席の机もある カスタマーサービス本部テクニカルサポートシニアマネージャー・金子知生氏

●サポートナンバーワン奪還を目指す

 デルは、事業の急拡大に伴って、サポート体制が追いつかず、顧客満足度を落とした経緯がある。

 コンシューマ分野におけるテレビCMの開始や、初心者層までをターゲットとした製品群の投入が成功するなど、販売実績は高まったものの、一方でサポート体制の整備がそれに追いつかなかったのが原因だ。

 デル宮崎カスタマーセンターは、こうした問題を改善するための戦略的拠点といってもいい。

 そして、その改善成果がすでに出始めているという。

 大宮本部長は、「社外の調査では、調査期間の違いなどもあり、まだ評価が一気に高まっているわけではない」と前置きしながらも、「社内では、毎週1,800人程度を対象に、オペレータの対応品質や、問題解決ができたかどうかといった20項目以上の設問に関して、顧客満足度調査を行なっている。9段階で7以上を『満足している』評価として集計。さらに、中立的な回答は、満足を得られなかった方へと分類した形で集計する。この調査結果を見る限り、デルのサポート体制に対する評価は確実に改善している。サービス、サポートを含めたお客様満足度ナンバーワン企業への復活に手応えを感じている」と自己評価する。

 サポート評価の上昇には、カスタマーセンターの強化に加えて、マニュアルの大幅改訂により、ユーザーがつまづきそうな問題解決が図れるようにしたこと、2006年2月から一部アプリケーションソフトのヘルプデスクサービスを有料で開始したこと。そして、サポートサイトのリニューアルなどの成果も見逃せない。

 「マニュアルは、2005年10月に日本独自のものとして作成したが、すでに2回の改訂を行ない、問題解決を図りやすくしている。電話による問い合わせが多いものを優先的に掲載しているが、これも、社員が直接サポートを行ない、履歴をリアルタイムで集計できるというダイレクトモデルの強みを発揮できる部分」(大宮本部長)と語る。

 宮崎カスタマーセンターの取り組みだけでなく、こうしたサポートに関するあらゆる取り組みが、デルの顧客満足度の回復に大きく寄与しているといえよう。

 また、デルでは、宮崎カスタマーセンターの増員とともに、川崎および大連のカスタマーセンターも、引き続き体制拡充を図る考えで、今後もサポート体制強化への投資を加速させる考えだ。

●宮崎での従業員満足度向上に取り組む

 一方、天野統括事業本部長は、宮崎カスタマーセンターの運用に関して、「顧客満足度の追求だけでなく、従業員満足度追求も大切だ」と語る。

 同センターでは、月に2回の割合で、上司と社員が面談し、将来に向けた自らの方向性を話し合い、それに関するスキル育成についても相互に議論するという。

 「宮崎カスタマーセンターに入社した社員が、5年後にはどんなことがしたいのか、そのためにはどんなスキルを身につける必要があり、いまはどんなトレーニングが必要なのか。また、その一方で、デルにどんな貢献ができるか、顧客満足度をあげるためにはどんなことをすればいいのか、といった点を話し合う。人の成長が、デルの成長につながるのは明らかであり、そのための投資はますます積極化させていきたい」と天野統括事業本部長は語る。

 今の宮崎カスタマーセンターを見ると、日本で事業をスタートさせ、急速な勢いで成長を遂げた、かつてのデルの姿がだぶって見える。若い人材が、いきいき働いている雰囲気が伝わってくるからだ。

 だが、その一方で、徹底した人材育成の実施や、管理者を急速な勢いで育成する必要に迫られるといった課題もある。また、このイキイキとした社風を維持することも大きな課題だろう。

 事実、「筋肉をつけた強固な組織に成長させる。それが今後の課題」と、天野統括事業本部長は語る。

 デルの宮崎カスタマーセンターは、デルの成長戦略および顧客満足度ナンバーワン奪還を実現するための戦略的拠点であることは誰の目にも明らかだ。宮崎という好条件の立地を得て、デルの成長、拡大を下支えするという、大きな役割を担い始めている。

□デルのホームページ
http://www.dell.co.jp/
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(2006年6月19日)

[Text by 大河原克行]


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