大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

日本マイクロソフト、法人向けOffice 365を最大32.8%値上げ

~国内向けサービス品質向上措置が背景に?

 日本マイクロソフトは、2015年1月1日から、一般法人向け「Office 365」の価格改定を実施し、最大32.8%値上げすることを明らかにした。

 対象となるのは、企業向け、行政機関向け、教育機関向けの全てOffice 365ライセンスであり、同社が、全てのSKUにおいて、Office 365の価格を引き上げるのは、今回が初めてのことになる。

 10月17日から出荷を開始しているコンシューマ向けの「Office 365 Solo」は対象外だ。

 日本マイクロソフトでは、値上げの理由について、「価値と価格のバランスを考慮して、定期的に価格を見直しており、今回の価格変更はこの見直しによるもの」とコメントしている。

 同社の発表によると、Office 365 E1やOffice 365の個別製品単体などは32.8%の値上げとなるほか、Office 365 E3およびE4は20.8%の値上げ、Office 365 BusinessやOffice 365 ProPlusは12.5%の値上げとなる。

 新たな価格については、12月にも公表されることになるが、発表された値上げ幅を当てはめると、主力製品であるOffice 365 E1の場合は、現在の月額660円が約880円に、同E3では月額1,800円が約2,170円に、E4は月額1,980円が約2,390円にそれぞれ改定されることになりそうだ。また、Office 365 Businessは月額800円が約900円に、Office 365 ProPlusは月額1,160円が約1,300円に改定されることになる。

 値上げが実施される2015年1月1日までに購入すれば、現在の価格が適用され、250人以上のEAライセンスユーザーは最大3年間まで現行価格での契約が可能であるほか、中小企業が対象となるオープンライセンスでも最長5年間の一括購入が現行価格で行なえる。

 だが、今後、値上げおよび値下げの可能性があること、当該ライセンスのSKUが無くなるなどのラインアップ変更の影響もあることから、日本マイクロソフトでは長期間の一括契約は推奨してはいない。

 Office 365 E1を例に取ると、現行製品の一部機能として2009年4月に発売したBPOS(Microsoft Business Productivity Online Suite)が月額1,567円の希望小売価格でスタート。その後、すぐに1,044円に値下げ。さらに、2011年6月にOffice 365を発売した際には、E1は月額800円でスタート。さらに2012年12月には660円に値下げしてきた。その点でも値上げは今回が初めてのこととなる。

 「今年8月には、EAライセンスにおいて、E1、E3、E4の各SKUを対象に、既存ライセンス購入者を対象に価格を引き下げたものの、新規ライセンス購入者に対しては最大約6%の値上げを行なった経緯がある。また、今年6月にはSharePoint単体の月額を最大約64%引き上げた経緯がある。SharePointについては、過去1年での数多くの機能強化や、OneDrive for Businessで25GBの容量を1TBに増量するといったことも影響している。だが、基本的には常に機能強化を図るのがクラウドサービスの特徴であること、取り巻く環境が常に変化しているという市場性を踏まえ、価値によって価格を決定するのがグローバル共通での基本姿勢となる」(日本マイクロソフト Officeビジネス本部Officeマーケティンググループエグゼクティブプロダクトマネージャ・米田真一氏)としている。

 日本マイクロソフトでは、通常1年ごとにOffice 365の価格見直しについて検討を行なっており、今回の値上げはそれに則ったものだという。

 「機能を始めとする製品の内容、チャネル戦略、競合状況、特定セグメントに対する期間限定での価格戦略などを考慮して、価値と価格のバランスを考慮している」というのがその考え方だ。

 今回の値上げの理由についても、日本マイクロソフトではその点を強調してみせる。

 そして、SKUごとに値上げ幅が異なるのは、「製品ごとの特性を考慮したもの」と説明している。

価格引き上げの背景にあるサービス品質向上への取り組み

 ただ、最大で32.8%という大幅な値上げ幅であるだけに、「価値と価格のバランス」という表現だけではなかなか納得しにくいのは確かだ。

 実際、日本マイクロソフトのOffice 365ビジネスは高い成長を見せており、過去2年間で5.5倍の販売数量を達成。前年比でも2倍以上の成長を遂げている。同社でも「クラウドファーストを掲げる当社にとって、柱中の柱といえる製品。今後も積極的に投資を行なっていく」と語る。つまり、販売不振を背景にした値上げでないことは確かだ。

 一方、Office 365は、過去1年間で100以上の主要な機能強化を図ってきたが、機能強化が前提となるクラウドサービスにおいて、それが直接的に、大幅な価格引き上げに繋がるとは考えにくい。

 その点で、これだけの価格改定を行なうには何かしらの大幅なサービス品質の向上が図られる可能性があると見ていいだろう。

 そうした観点からみると、今回の価格改定はグローバル戦略の一環であるものの、このタイミングでは、日本のみで実施されることに注目しておく必要がある。つまり、日本におけるサービス品質向上が対象となって価格改定が行なわれるものと捉えることもできそうだ。

 日本マイクロソフトでは、「新価格が適用されるまでの間に、具体的なサービス品質向上の内容については明らかにできる予定。日本のユーザーに安心、安全に使ってもらえるためのものになる」としている。

 実は、日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、今年(2014年)2月の本誌取材に対して、「Office 365は、ますます堅牢性を高めていきたい。100%の可用性実現は難しいが、停止時から回復までの時間を短くし、信頼性の高いバックアップ体制を実現することにさらに取り組んでいきたい」とコメントしている。

 日本マイクロソフトでは、セキュリティやプライバシー保護の強化も含め、日本のユーザー向けに安心・安全・安定したサービス提供を目指して、さまざまな準備をしている、としている。今回の価格改定には、そうした動きも背景にあると見られる。

 「値上げに見合った満足を提供できるように、一層最善を尽くす」と日本マイクロソフトではコメントしている。値上げ幅に見合ったサービス内容が、今後、発表されることを期待したい。

(大河原 克行)