大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「Surface Pro 3」の国内向け初期ロットが完売

〜樋口社長に2015年度の事業方針を聞く

 「掛け声だけに留まるのではなく、身体の芯からチャレンジャーにならなくてはいけない。サティア(=サティア・ナデラ氏)がCEOに就任してから、それが強く浸透し始めた」。

米ワシントンD.C.で開催中のMicrosoft Worldwide Partner Conference(WPC) 2014で取材に応じた日本マイクロソフトの樋口泰行社長

 日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、新CEO体制になってからの変化をこう語る。7月から2015年度をスタートした同社にとって、挑戦者としての意識の浸透とともに、「Mobile First, Cloud First」の事業姿勢をさらに鮮明に打ち出すことが今年度の課題だ。

 一方で、7月17日から国内販売を開始したSurface Pro 3は、すでに予約段階で初期ロットを完売するという出足の良さを見せているという。この週末に向けて第2ロットが入荷する予定であり、量販店店頭でも品不足にはならないという。米Microsoftが、2014年7月14日〜17日までの4日間、米ワシントンD.C.で開催した「Microsoft Worldwide Partner Conference(WPC) 2014」の会場で、日本マイクロソフトの樋口泰行社長を直撃した。

チャレンジャーの意識を身体の芯に置く

――WPC 2014の基調講演において、ケビン・ターナーCOOは、「Microsoftは、PCでは9割のシェアを持つが、タブレットやスマートフォンを含めた全デバイスではわずか14%のシェアしかない。我々は挑戦者であり、多くの成長機会を持っている」と発言しました。長年に渡り、王者というポジションで事業を推進してきたMicrosoftにとって、挑戦者としての意識はどれぐらい浸透していますか。

樋口氏:日本ではWindows Phoneがありませんから、シェアという点では、14%という数字より、さらに厳しいかもしれませんね。我々が「チャレンジャー」であるということは、前任のCEOであるスティーブ・バルマーの時から言ってきたわけですが、長年に渡って、「放っておいても売れる」という時代を経験した社員がほとんどであり、口で言っても、なかなか身体はそうはなっていないという状況が続いていました。私自身がMicrosoftに入社した時にも、「チャレンジャーという意識が低い企業だな」と感じた時がありました。

 しかし、サティアは、本気で身体の芯からチャレンジャーにならないといけないということを徹底し始めました。以前の体質では、ユーザーに使ってもらうことはあまり考えずに、支配的なシェアを背景に製品を開発して、それを何かに付ければ売れるという意識がどこかにあったのです。大切なのは、お客様に使ってもらっているかどうか。つまり「ユーセージ」です。

 お客様が自然に使いたいと思ってもらい、これが伝染するように伝わっていくという世界を作らなければならない。サティアは、元々エンジニアですし、R&D部門にこれを強く指示しています。サティアが個々の製品について決断をしていますから、今後、直感的に使用できる製品が出てくることを、私自身も期待しています。

――ナデラ氏がCEOになって、最も変わったところはどこですか。

樋口氏:最大の変化は、経営の意思決定を始めとして、さまざまなことがスピードアップしたことですね。数カ月かかる案件を数日で意思決定したという例もあります。日本におけるデータセンターの開設や、富士通との「A5 for Microsoft Azure」との連携といった案件は、もともとサティアがクラウド事業を担当していた時に決定したもので、その頃から決断が速いとは思っていました。それはCEOになってからも同じで、半年を経過していない内に数多くの決断をしていることからも、決断の速さが感じられます。14%のデバイスに向けてだけ売ればいいという発想から、それ以外の86%のところに売っていくという判断は現実的なものであり、それを明確に打ち出している。これがMobile First, Cloud Firstの考え方の根底にあります。

 元々サティアは、インドからの移民ですし、米国中心の考え方でなく、日本を含むアジアに対する理解度も高い。異文化を受け入れる素養もある。エンジニアとして、日本の企業との付き合いも多かったようですので、日本についても理解があると思います。私としても、早い時期に日本に来てもらいたいですね。

 Microsoftはテクノロジの会社ですから、そこをしっかりとしなくてはならない。どういう考え方で、どういう製品を出していくのかということが肝になりますので、そこに時間を使っているという感じはありますね。それもサティアによる変化の1つです。

Surface Pro 3の出足に強い手応え

――7月17日から日本で、Surface Pro 3が発売されましたが、その手応えはどうですか。

樋口氏:7月17日までは予約販売をしていたわけですが、個人向け、法人向けを含めて、最初のロットは予約だけで売り切れになりました。今週末には、第2ロットが入荷しますから、品切れになるということはありませんので、安心して量販店に行っていただきたいですね。安定した供給体制の必要性については、Surface Pro 2で学んだことですから(笑)。手応えはもの凄くいいですね。法人向けでも数千台単位での商談が始まっています。

――Surface Pro 3のどんな点が、購入者に響いているのでしょうか。

樋口氏:細かな改良点はたくさんありますが、やはりなんといっても、Surface RTのようなタブレットとしての薄さと軽さを実現しながらも、PCの全機能を持った製品が登場したという点ではないでしょうか。これは、初代のSurfaceが登場した時から言われていたものですが、それが本当に出てきて、「これさえあれば、何もいらない」というのが現実のものになりました。

 法人市場においては、「デバイスの一元化」という流れの中で、Surfaceが注目を集めています。これはむしろお客様の方が出てきた言葉なのですが、大手企業の中では用途ごとに複数の端末を持つというケースがあります。iPadとノートPCの両方を鞄の中に入れて持ち歩いている企業は意外と多いんです。ただ、こうした使い方をしていると、導入コストだけでなく、管理コスト、運用コストの全てが2倍になる。場合によっては、ネットワーク費用を2重に支払っているという例もあるでしょう。これを1台のSurfaceにすれば、全てのコストが安くなる。こうした提案が進んでいます。

ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba、ビックカメラ各店でも7月17日からSurface Pro 3の展示販売が開始された

OEMベンダーの低価格タブレットにも期待

――先日行なわれた新年度事業方針説明会では、2015年度にはWindowsタブレットで国内50%以上のシェアを獲得すると宣言しましたが、それに向けての出足は好調だと。

樋口氏:50%という数字については具体的には定義をしていなくて、最終週に瞬間風速で50%を突破するということも含めています(笑)。非常に厳しい戦いしなくてはならない市場ですし、ここはWindowsタブレット全体で戦っていくわけですから、OEMベンダーのタブレット新製品にも期待しています。今回のWPC 2014でも発表されたように、OEMベンダーからは価格面において魅力的な製品が登場しますから、今年のWindowsタブレットのシェア拡大においては、それも重要な要素になります。我々からは明確な棲み分けを提案しているわけではないのですが、Surface Pro 3は、付加価値を持ったハイエンド製品に位置付けていきたいと思います。

――念のためにお伺いしますが(笑)、Windows Phoneの国内投入はどうなっていますか。

樋口氏:これは各方面から期待されていることでもありますし、国内投入に向けて、がんばっているところです。

IBMとAppleの提携を歓迎

――IBMとAppleが提携し、iPhoneやiPadを発売するという動きがありました。Microsoftもオープン化戦略を採っているわけですが、こうした提携の影響はありますか。

樋口氏:オープン化はMicrosoft全社の基本戦略になっています。マルチプラットフォーム対応、マルチデバイス対応という方向性を打ち出していることからも分かると思います。エンタープライズ領域においても、SAPやSalesforceとも提携していますし、iPad向けにもOfficeが使える環境を用意しています。ある部分では競合するが、ある部分では手を組むといったことが日常茶飯事で起こっています。

 これまで、Microsoftは、「Windows, Windows, Windows」という号令のもと、全てWindowsで染めてしまおうという感じでしたが、現実を踏まえた戦略に転換しているという点では、より明確になっています。IBMがiPadを販売し、それが広がるということであれば、それはOfficeが利用される状況が広がるのと同義語です。まずはOfficeを使ってもらって、最終的にSurfaceを始めとするWindowsタブレットに置き換えてもらえば、Microsoftにとってはプラスになります(笑)。

ワークスタイル変革も提案をリード

――2015年度はワークスタイル変革の提案も重要なテーマですね。

樋口氏:先日、東京ビックサイトで、「ワークスタイル変革EXPO」と呼ばれるイベントが開催され、そこで基調講演を行なったのですが、当初は500人だった参加予定者が1,000人に増加し、さらに当日は立ち見も出るという状況でした。

 展示会場では、当社の品川本社と同じような形で「ミニ品川オフィス」を作りました。基調講演が終わったあとに、来場者がここに集中してしまい、クレームをいただいてしまうという問題も発生したのですが(笑)、こうしたことからも「ワークスタイル変革」ということが注目されていることが分かります。

――注目されている理由はなんでしょうか。

樋口氏:ワークスタイルの変革に関心が高いのは、人事部門、総務部門の方達ですね。日本では生産性といった場合には、製造現場にばかり注目が集まり、ホワイトカラーの生産性を求めるということはほとんどありませんでした。しかし、ここにきて、ホワイトカラーは、労働時間ではなくて、アウトプット(結果)が重要であるということを安倍首相が言い始めるなど、意識改革を促す取り組みが出始めています。OECD先進7カ国において、日本の生産性は19年連続で最下位となっています。与えられた仕事はこなすが、新たなものを生み出す、イノベーションを起こす、創造力がある、といったことを起こせていない。ここに気が付き始めた企業が増えてきたわけです。

 また、東日本大震災以降、事業継続性に注目が集まり、どこからでも仕事ができる環境が注目されている点や、女性の活用を始めとするダイバーシティにおいて、女性が育児や家事、介護をしながら働ける、テレワークの環境が求められるといったように、複数の要素が重なったことも、ワークスタイル変革に関心が高まっている理由の1つです。

――そうした中で、Microsoftは「プロダクティビティ(生産性)とプラットフォームの企業」という姿勢を明確に示し始めましたね。

樋口氏:生産性を高めるということは、これからの企業にとって非常に重要なものです。安倍政権でも第1の矢、第2の矢によって、環境面はかなり変わってきた。第3の矢では、企業の努力が必要ですし、そこではやはり生産性を高めることが求められています。日本マイクロソフトはそこをお手伝いすることで、日本の企業に貢献ができると考えています。決まったことを回す部分での効率性はICTを活用することで解決できます。

 組織の壁を破り、オープンな風土を作るといった創造性、戦略性といった部分でもソーシャルネットワークなどを活用して体質を変えることができると言えます。コンピューティングパワーと、クラウドパワーが低コストで利用できる環境になっていますし、データを見える化してそこから知見を導き出すこともできるようになってきました。日本の企業は、こうした部分には、むしろ強い関心を抱くのではないでしょうか。

 今回、Microsoftは、マシンラーニングのサービスを発表しましたが、製造現場では数多くのセンサーがあるわけですから、どんな兆候が出たときに、不良品が出やすいのかといったことを導きだし、予防の用途にも応用できますし、その仕組みは営業やマーケティングにも利用できるといえます。

――マシンラーニングでは、唯一、クラウドを活用したサービスと位置付けていますが、データをクラウドに預けることについて、不安視する声もあります。

樋口氏:Microsoftが提供するクラウドサービスですから、セキュリティという観点では、どこにも負けないものを作り上げています。多くのエキスパートがこれに取り組み、お客様が望むセキュリティレベルを提供できると自負しています。安心してご利用いただけるサービスです。

(大河原 克行)