大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Microsoftの新CEOは「既存路線の踏襲」か?

〜ナデラ氏選出の理由を探る

新CEOに任命されたサティア・ナデラ氏

 米Microsoftの次期最高経営責任者(CEO)に、サティア・ナデラ氏が就任する。

 2013年8月に、スティーブ・バルマーCEOの退任を発表。その際に、12カ月以内にCEOから退任する予定であることを発表しており、次期CEO選びが注目されていた。

なぜいま新CEOを発表したのか?

 この時期の発表には意味がある。

 7月から新年度を迎えるMicrosoftにとって、毎年1月はその折り返し点として、米国本社では、「ミッドイヤーレビュー」と呼ばれる、全世界の法人、部門を対象にした個別会議が行なわれる。ここでは半年間の進捗状況や、下期となる今後半年間の取り組みなどについて、経営幹部から厳しい提案が行なわれるのが常だ。日本マイクロソフトからも経営層、事業担当者が全員渡米し、説明を行なう。毎年、年明けから1月20日頃まで、日本マイクロソフトから新製品発表や会見が一切行なわれないのは、ここに理由がある。

 その法人、部門ごとの会議が1月に終了すると、今度は、法人、部門のトップが一堂に介する「ワールドワイドミッドイヤーレビュー」が行なわれ、ここで各部門のトップからCEOへの報告が行なわれる。ここでは各国法人の社長などもオブザーバーとして出席する。これが来週から本格化する予定だ。つまり、Microsoftの全世界、そして全部門のトップが集結するタイミングがここにあるのだ。

 見方を変えれば、新CEOのナデラ氏が、方針を直接説明する場としては最適なタイミングが、用意されているとも言える。

 実は、一部では、1月のミッドイヤーレビュー前に、新CEOが決定するのではないかという憶測も出ていた。

 というのも、今後半年間の方針を決定する際に、新たなCEOが決まらない限り、そこで決定した内容が、その後に変更される可能性もあり、会議そのものが意味を持たなくなることも想定されたからだ。実際、2014年のミッドイヤーレビューは、中長期的な視点の議題になると、やはり方向感だけを共有するというレベルの話に留まった模様である。それは仕方がないことだろう。

 だが、ワールドワイドミッドイヤーレビュー前に、新CEOが決定したことは、全世界、全部門のトップに対して、メッセージを発信し、意思を統一することができるとも言える。ある種絶妙なタイミングでの新CEOの発表だとも言えよう。

複数候補の中からナデラ氏が選ばれた理由とは

 では、ナデラ氏のCEO就任によって、Microsoftはどうなるのだろうか。

 まず、明確なのは、「既存路線の踏襲」という姿勢が明確であるという点だろう。

 これはミッドイヤーレビュー前に、新CEOを決定しなかった事実とも合致する。もし、既存路線から大きく舵を切るのであれば、それこそミッドイヤーレビュー前に、新CEOを決定し、その方針の下で会議を行なう必要があったからだ。

スティーブ・バルマー氏とナデラ氏

 バルマー氏が、CEO退任を発表して以降、次期CEO候補には数々の名前があがっていた。

 一時、最有力候補と言われたのが、米フォードのCEOであるアラン・ムラーリー氏である。異業種からのCEO招聘は、まさに一大改革を前提としたものとなる。

 IT業界でもこの手法はたびたび用いられている。有名なのが1990年代に経営不振から一気に蘇った米IBMの事例。アメリカン・エキスプレスやRJRナビスコでCEOを務めたルイス・ガースナー氏による改革で、息を吹き返した。

 だが、Microsoftは今、そういう立場にはない。確かに、スマートフォンやタブレットでの遅れが指摘され、経営体質の抜本的改革が必要であるとの見方があるのは事実だが、先頃発表した2013年10月〜12月の同社第2四半期決算は、四半期売上高としては過去最高となる245億1,900万ドルを記録したように、業績面では順調だ。

 また、もう1人の有力候補として挙がっていた、かつてMicrosoftに在籍し、Nokia CEOを務めたスティーブン・エロップ氏が就任するのであれば、デバイスカンパニー体制へとより強力にシフトすることが前提になったといえる。

 もちろん、Microsoftでは、「デバイス&サービスカンパニー」へのシフトを明確にし、デバイス事業を拡大している。

 最新四半期決算では、デバイス分野では、「Surface」シリーズの売上高が7〜9月の2倍以上となる8億9,300万ドルに達し、新たに発売した「Xbox One」は5週間で390万台を出荷。同四半期におけるXboxシリーズ全体の販売台数は740万台に達している。

 コンシューマ分野に限定すれば、WindowsおよびOfficeのライセンスビジネスは、53億8,000万ドルであるのに対して、SurfaceやXboxによるハードウェアビジネスは、47億3,000万ドルと、ソフトウェアとハードウェアが拮抗してきたのだ。

 同四半期では、Xbox Oneが発売されるという特殊要因があったとはいえ、関係者の間では、今後数四半期でソフトウェアとハードウェアの売上高が逆転するのではないかとの見方もある。

 これに買収完了が間近のNokiaのスマートフォンが加われば、その見方も現実的と言わざるをえない。

 もし、それ以上にデバイスビジネスを加速させ、デバイス主軸の企業へと生まれ変わろうとするのであれば、エロップ氏のCEO就任という筋もあっただろう。

22年の経歴はプロパーと同様

 だが、ナデラ氏のCEO就任は、こうした改革路線を否定する人事だと受けることができよう。

 ナデラ氏は、1992年に米Microsoftに入社し、これまでに22年の経歴を持つ。

 マイクロソフトに入社前は、Sun Microsystemsの技術部門に所属していたが、24歳からマイクロソフトに在籍しているという点では、プロパーに近いものがある。

 その間、Microsoft Business部門のバイスプレジデントや、オンラインサービス部門の研究開発担当シニアバイスプレジデントなどを歴任。2013年まではサーバー&ツールビジネス担当プレジデントとして、190億ドル規模の事業を統括していた経緯がある。

 サーバー&ツールビジネス担当プレジデント時代の2013年7月には、米ヒューストンで開催された全世界のパートナー企業を対象にしたワールドワイドパートナーカンファレンスでは全世界約150カ国から来場した15,000人以上の参加者を前に、同社のエンタープライズ事業の方向性について説明。その場で発表したPower BIをデモストレーションし、「全員データサイエンティスト化」という、Microsoftのビッグデータ戦略の方向性を示して見せた。

 さらに、新年度に入ってからは、クラウド&エンタープライズ担当エグゼクティブバイスプレジデントとして、同社が推進するコンピューティングプラットフォーム、開発ツール、クラウドサービスを担当。マイクロソフトが今後注力する「Cloud OS」の推進役を担っていた。

 Cloud OS は、パブリッククラウド、プライベートクラウド、そして、サービスプロバイダークラウドに共通のリッチで一貫性のあるプラットフォームと位置付けており、Windows Azure、Windows Server、SQL Server、Visual Studio、そして、System Centerなどによって構成される。また、クラウドサービスとして提供するOffice 365、Bing、SkyDrive(OneDrive)、Xbox Live、Skype、Dynamicsなどに加えて、世界中のグローバル企業のコンピューティングのニーズにも対応するものとなっている。つまり、Cloud OS は、マイクロソフトの多岐のサービスに渡るものなのだ。

 こうした点からも、22年の経験を持ち、クラウドファーストを推進するナデラ氏のCEO就任は、「既存路線の踏襲」を、まさに意味する。

 そして、ナデラ氏が担当しているエンタープライズビジネスは、最新四半期決算の売上高245億1,900万ドルのうち、半分以上となる126億7,000万ドルを稼ぐ事業だ。

 主力事業の出身者を選んだのは、既存路線の踏襲を意味する証ともいえよう。

ナデラ氏、ビル・ゲイツ氏、バルマー氏

 今回の新CEO就任とともに、会長を退き、取締役会の創業者兼技術アドバイザーに就任するビル・ゲイツ氏は、YouTubeで公開されたコメントの中で、「サティア・ナデラ氏がCEOに選ばれたことをうれしく思います」とし、「市場の変化に伴い、我々はイノベーションを起こし、前進していく必要があります。その点において、サティアはこの時代において会社を率いていくために、適切なバックグラウンドを持っています。モバイルコンピューティングの世界には課題があり、クラウドの市場には機会があります。彼が従事してきたさまざまな事業領域において、彼はイノベーションをもたらし、アーキテクチャを統合し、顧客の要求に応えてきました。Microsoftにとっての機会はかつてないほど大きなものになっています」とコメントしており、これまでのMicrosoftにおける長年の経験が、新CEOの仕事に活かされることに期待している。

 ナデラ氏は、1967年生まれの46歳。3月に58歳になるスティーブ・バルマー氏から、一回り若返るCEO人事であり、長期的な舵取りを視野に入れた人事であることが分かる。バルマー氏は、2000年にCEOに就任し、約13年間務めたが、現在のバルマー氏の退任年齢を考えれば、ほぼ同じ期間、CEOを担うことも想定できよう。

 こうして振り返ってみれば、今回の新CEOの人事は極めて順当な結果になったと言ってもいいのかもしれない。

 ただ、これまでのCEOがビル・ゲイツ氏、スティーブ・バルマー氏といった、業界に影響力を持つビッグネームであったのに対して、知る人ぞ知る人物という印象は否めない。

 そのナデラ氏は、どんなMicrosoftを作るのか。長期的視点で、その手腕に注目が集まる。

(大河原 克行)