大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

デルの20周年キャンペーンで見え隠れする、20年前への「原点回帰」

 デルは、2013年1月に、創立20周年を迎えた。そして、1月21日が、その発表会見から、ちょうど20年目を迎える日なのである。

デル日本法人は、今年20周年を迎える
デル日本法人本社が入る川崎市のソリッドスクエア

 今から20年前の1993年1月21日。東京・五反田の東京デザインセンターで行なわれたデルの日本市場への本格参入記者会見は、当初50人程度の出席としていたデル側の予想を大きく上回り、150人近い報道関係者が詰めかけた。立ち見どころか、会場の外にまで報道関係者があふれ出すという異例の会見となったことを覚えている。

 このときに発表したのが、当時としては破格となる98,000円の価格設定とした386SX搭載の「333s/Lデスクトップシステム」。さらにノートPCでは、386SLを搭載したモデルを248,000円で投入。同モデルには60MBのHDDを搭載していた。

 この発表のわずか3日前の1993年1月18日には、国内最大シェアを誇るNECが、98FELLOW、98MATEを発表。1992年10月1日にコンパックが発表した128,000円のProLineaシリーズによる「コンパックショック」への対抗措置を明確にしたところだった。そこに、ダイレクト販売で急成長を遂げていたデルが、日本への本格参入を図るという構図だったのである。

 その会見では、当時同社社長を務めていた飯塚克美氏が、「店頭販売は一切しない」、「値引きも一切しない」、「無制限の電話サポートを行なう」という、それまでの日本のPC業界の常識を覆す施策を発表。これも大きな注目を集めることになった。

1993年1月21日に行なわれた記者会見の様子。記者が会場外にも溢れ出す状況だった
会見には米デルのマイケル・デルCEOも来場。当時は27歳だった
デルが1993年1月に掲載した新聞広告。「いよいよ本格上陸」の文字があった

 だが、当時を振り返ると、電話による直販専業を打ち出していながらも、その裏では、本格上陸前から提携関係にあった三井物産デジタルが展開していた「PC-iN」による店頭販売を展開。さらには、ラオックス ザ・コンピュータ館や、J&Pテクノランドといった主要店舗での展示販売を行なうなど、間接販売を着実に増やし、認知度を高めていった点が見逃せなかった。

 また、当初は圧倒的な「低価格」を見せつけたが、事業の主力としていたのは、むしろ高機能モデルだった。まだアジアの部品は安かろう、悪かろうのイメージがあった時期でもあり、日本の部品を数多く使用した信頼性の高い製品を中心に展開。当時、価格訴求型製品に位置付けられていたDimensionシリーズ、Precisionシリーズの国内投入を見送るといったことまで行なっていた。

 当時の取材で飯塚社長は、「デルの在庫日数は35日。モデルチェンジの度に、他社が在庫処分に追われる中、新たなCPUを搭載したモデルをいち早く投入できるのがデルの強み。その結果、高機能モデルを他社に先駆けて販売できる」と語っていた。現在のようにサプライチェーンが進化していない中での35日間の在庫は異例だった。

 その強みを活かしながら、米国で展開していたダイレクト販売主流の施策や低価格戦略にこだわらず、日本の商流や、品質を重視した展開で日本市場への投入を図っていったというわけだ。

 それから20年を経過し、デルは日本での地位を確立している。

宮崎市のデル宮崎カスタマーセンター

 MM総研の調べによると、2012年上期のデルのシェアは8.5%で5位。電話やインターネット、さらには全国に展開するデル・リアル・サイトによるダイレクト販売、パートナーを通じた間接販売網を構築。川崎本社に加えて、宮崎市には、サポートおよびダイレクトセールスを行なうデル宮崎カスタマーセンターを設置し、同センターだけで580人の正社員を雇用。日本全体では2,000人の社員数を誇っている。そして、事業領域も、PCに留まらず、サーバー、ワークステーション、ストレージへと事業を拡大。ソリューションプロバイダーへの転換を目指しているところだ。2012年9月に日本経済団体連合会(経団連)に加盟し、日本に根差したビジネスを推進する姿勢をみせている。

 デルの郡信一郎社長は、2013年の年頭所感の中で、「今年、米国デル社の日本法人として営業を開始してから20周年を迎える。この間、基幹システム、クラウドの導入支援からパソコン・モバイル端末まで、企業活動に欠かすことのできないITソリューションを、日本のお客様に提供してきた。デルの企業理念である『お客様とのダイレクトな関係』を何よりも大切にし、導入から運用・保守に至るまで効率のよい革新的なIT技術とサービスを提供することで、お客様のどのようなご要望にも迅速にお応えできるよう努力していく」としている。

早くも第2弾を終了した20周年キャンペーン

 デルは、20周年にあわせて積極的なプロモーションを開始している。

 すでに、現時点で、デル20周年記念キャンペーンは、第2弾となっており、「1年間を通じて、毎月何かしらのキャンペーンが実施されることになる」と同社では説明する。

 2013年1月8日から開始した第1弾のキャンペーンは、中堅・中小企業を対象に、「デル20周年特別記念PC」を提供。デルのPCを導入したことがない中堅・中小企業を対象に、1月8日〜10日までの3日間の期間限定で、Core i3を搭載した15.6型ノートPC「Vostro 2520」を24,980円で提供。さらに、コンパクトタワーサーバーである「PowerEdge T110 II」を、デル20周年記念サーバーとして19,980円で販売した。

 また、既存のユーザーに対しては、Vostro製品を対象に、プロサポートへの無料アップグレードなどの特典を用意した。

 一方、個人ユーザー向けのキャンペーンでは、JR品川駅構内において、「Dell Ultrabook Touch & Try Event」を、1月15日〜18日まで開催。Ultrabookである「XPS 12」および「XPS 13」、ビジネス向けUltrabookの「Latitude 6430u」、ビジネス向けタブレットの「Latitude 10」を展示し、実際に見て触れることができるようにした。

 来場者には、デルのPCを購入する際に利用できる「20周年記念特別割引クーポン券」を配布。20周年記念特別割引クーポン券は、XPS 13を対象とした「1万円OFFクーポン」と、XPS 13を除くXPSシリーズおよび、InspironシリーズのノートPC、デスクトップPCを対象とした「5千円OFFクーポン」を各100台分ずつ用意していた。

 さらに、同会場では、「XPS 13」を無料でレンタルする「Dell Ultrabook体感レンタルキャンペーン」を実施。実際に利用してもらうことで、XPS 13の良さを体験してもらうというわけだ。

 また、1月16日から開始した第2弾キャンペーンでは、デルのPCを未導入の中堅・中小企業を対象に、1月16日〜18日までの3日間限定で、Core i3を搭載したスモールビジネス向けデスクトップPC「Vostro 270s」を、24,980円で提供。さらに第1弾キャンペーンで提供した「PowerEdge T110 II」も、引き続き、19,980円で販売した。

 また、1月31日までに、Dell Eメールに登録すると、20人にダイナミック密閉型ヘッドフォン「Beatsstudio」が当たる「Dell Eメール登録キャンペーン」も実施。このメールを通じて、新製品情報をはじめ、会員限定パッケージ、各種キャンペーン、イベント・セミナー開催情報などを提供するという。

JR品川駅構内において開催した「Dell Ultrabook Touch & Try Event」
XPS13を無料でレンタルするという施策も用意した
「20周年記念特別割引クーポン券」を配布
Beatsstudioが当たる「Dell Eメール登録キャンペーン」

20周年記念キャンペーンの布石は「9,999円PC」

 実は、このキャンペーンには布石があった。

 デルは、2012年10月30日に、「お試し特別価格 9,999円パソコン!」キャンペーンを静かに実施。これが20周年キャンペーンの前身になっていたのだ。

 このキャンペーンは、事前告知がなく突然行なわれたもので、デルで初めてPCを購入するユーザー、あるいは2009年8月1日以降にデルからPCの購入履歴がないという従業員数6〜99人の法人ユーザーを対象に、デスクトップPCの「OptiPlex 3010」およびノートPC「Vostro 2520」を、それぞれ9,999円で販売するというものだった。

 デルでは、このときに用意したPCの販売台数を明らかにはしていないが、キャンペーン開始から約6時間後の午後2時30分には受付を終了。ほとんどの人に知られることなく、このキャンペーンは終わった。

 OptiPlex 3010およびVostro 2520は、通常、45,980円で販売している製品。OptiPlex 3010では、CPUにCeleron G460(1.80GHz)、2GBメモリ、250GBのHDDを搭載。Vostro 2520は、Core i3-2328M(2.20GHz)、2GBメモリ、320GBのHDDを搭載するといったように、1世代前のWindows 7搭載PCではあったが、それでも9,999円は破格である。

 そして、2012年11月19日までの期間限定で、1万円の特別割引クーポンを提供するキャンペーンも同時に実施。これも、従業員数6〜99人までの法人ユーザーの中で、デルから初めてPCを購入する、あるいは2009年11月1日以降にデルからの購入履歴がないユーザーを対象にした。

 こうした「実験」を経て、今回の20周年記念キャンペーンがスタートしたというわけだ。

中堅・中小企業にフォーカスした展開を軸に

 20周年記念キャンペーンの内容をみると、現時点では、中堅・中小企業向けのキャンペーンが先行している感が強い。

XPS 13を持つ、デル マーケティング統括本部コンシューマー・スモールビジネスマーケティング本部コンシューマーマーケティングコミュニケーションマネージャーの横塚知子氏

 デル マーケティング統括本部コンシューマー・スモールビジネスマーケティング本部コンシューマーマーケティングコミュニケーションマネージャーの横塚知子氏は、「より多くのビジネスマンにデルのPCを使ってもらいたいと考えている。特に、XPS13を戦略的に訴求していきたい。XPS 13は、ディスプレイにカッターでも傷つかない、強度のあるゴリラガラスを採用。バックライト付きのキーボードであり、飛行機の中で消灯された場合にも使いやすく、新幹線の小さなテーブルでもグリップ感があり落ちない、約9時間のバッテリ駆動時間を有しているなど、ビジネスマンに最適な1台になっている。中堅・中小企業のユーザーや、自分でPCを選んで、購入するといった使い方をしているビジネスマンには、ぜひ選んでほしいPC」だと語る。

 キャンペーンの注目度は、低価格で販売される「デル20周年特別記念PC」に集まるが、デルの本来の狙いは、XPS 13などの付加価値製品の販売拡大。日本での事業開始時のように、「低価格」に注目を集めながら、実際の事業は付加価値モデルで展開するという手法を再現しているようにもみえる。

 キャンペーンで、デルが中堅・中小企業にフォーカスしているのには理由がある。それは、デルが最も優位性を発揮できるのが中堅・中小企業だと考えているからだ。

デルの郡信一郎社長

 デルの郡社長は次のように語る。

 「デルは、もともとミッドマーケット(中堅・中小企業)ビジネスで成長をしてきた企業であり、デルが提供するソリューションは、今でもミッドマーケットにフォーカスしている。多くのベンダーが提供しているソリューションは、大規模企業向けのものであり、それをそのままミッドマーケットに提供している。そのため、ミッドマーケットのユーザーは、カスタマイズ要素が多くなり、IT投資が増加し、システムが複雑なため運用コストが膨れ上がるという悪循環の中にある。シンプルなITを提供するデルは、中堅・中小企業に対して、最適なソリューションを提供できるプロバイダーであるという認知を高めたい」。

 実際、中堅・中小企業向けビジネスにおいて、デルは実績をあげている。

 米Dellが発表した2013年度第3四半期(8〜10月)の業績は大幅な前年割れとなったが、大企業向け、公共分野向け、コンシューマ分野向けビジネスがいずれも大幅な落ち込みを見せる中、中小企業向けビジネスは前年同期比1%減と、最も落ち込みが少ない。

 また、IDCジャパンによると、2012年1〜6月には、国内の従業員99人以下の中小・中堅企業向けデスクトップPCの出荷台数で、デルが首位になっているという。

 中堅・中小企業向けのビジネスで成長するのがデルにとっての常套手段だといえる。これも、やはり20年前の様子と同じだ。

サポート体制の強化にも乗り出すデル

 「1年間を通じて、毎月何かしらのキャンペーンが実施する」というデルだが、その内容はさまざまなものになりそうだ。

 継続的に、中堅・中小企業向けのキャンペーンが実施されるのは確実で、特に、企業の決算が集中する3月でのキャンペーンには注目しておきたい。

 また、個人向けの製品に関しても、新たなCPUの登場とともに発売される新製品で、何かしらのキャンペーンが実施される可能性が高い。

 そして、注目すべきは、この一連のキャンペーンの中に「サポート」を含めて行こうと同社が考えている点だ。

 すでに、Vostro製品を対象に、プロサポートへの無料アップグレードといった特典を用意しているが、さらに個人向けおよび中堅・中小企業向けのサポート体制で大規模な進化を計画中であり、これをキャンペーンにも組み入れていくことになりそうだという。

 かつてのデルの成長は、サポートによる顧客満足度ナンバーワンが支えたといってもいい。しかし、中国・大連へのコールセンター機能の移管などの影響により、顧客満足度が大きくダウン。その評価がなかなか戻らないという状況にある。

 計画されているサポートの強化は、デル宮崎カスタマーセンターを活用したものになる可能性が高く、20周年記念キャンペーンを活用して、サポート強化も訴求していく考えだ。

 これも、20年前のサポート重視の姿勢をいち早く打ちだした、同社の原点回帰への姿勢が垣間見られる。

 このように、20周年記念キャンペーンの取り組みには、デルの日本への本格上陸時の施策への原点回帰の姿勢が見え隠れする。それを、キャンペーンを通じて訴求していこうというわけだ。

 デルは、国内PC市場において、シェアを3位にまで高めた実績もあったが、今は5位止まり。シェア10%という、かねてから掲げてきた目標にも到達していない。

 20周年という節目に、年間を通じたキャンペーンを実施するデルは、果たして、どこまでシェアを引き上げることができるのだろうか。その鍵を握るのは、中堅・中小企業におけるシェア拡大、そしてサポートの強化だといえそうだ。

(大河原 克行)