大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

LifeTouchとMEDIAS TABは、iPadに張り合えるのか
~NECパーソナルソリューション事業本部の西大本部長に聞く



 6月の製品発表会見で、「iPadとも張り合える製品」との発言で話題を集めたNECのAndroidタブレット「LifeTouch L」。さらに9月には、LifeTouchシリーズの技術を活用したXi対応タブレット端末として「MEDIAS TAB UL N-80D」を発売。NECのタブレット製品群の品揃えの拡大とともに、幅広いユーザーへの選択肢を提案し始めている。NEC パーソナルソリューション事業本部の西大和男本部長に、LifeTouchシリーズのコンセプトやNECのタブレット戦略などについて改めて聞いた。

●5つの製品ラインでタブレットを展開
LifeTouch L発表会より

 NECでは、5つの製品シリーズにおいて、タブレット端末をラインアップしている。コンシューマから法人まで幅広い用途をカバーするLifeTouchシリーズ、携帯電話キャリアとの連動によって提案するMEDIAS TABシリーズ、Windows環境でコンシューマユーザーを対象とした「LaVie Touch」シリーズ、既存のシステム資産の活用やセキュリティの強化など、企業のWindows資産との連携を重視した「VersaProシリーズ」、そして、顧客ニーズにあわせてカスタマイズが可能なパネルコンピュータである。用途やユーザーニーズにあわせて選択が可能なように広いラインアップが特徴だといえる。

 その中でも主軸となるのがAndroidを搭載したLifeTouchシリーズである。7月から発売したLifeTouch Lは、10.1型液晶ディスプレイを搭載し、同じ画面サイズを持つiPadの牙城に対して、NECならではの回答によって対抗したものであった。

 6月に行なわれた製品発表会見では、NECパーソナルソリューション事業本部の西大和男本部長が「iPadとも張り合える製品」と発言したのはいまだに記憶に新しい。

 この意図を改めて西大本部長に聞いてみた。

西大和男氏

 西大氏は、「NECとして、iPadに勝るもの、あるいは違うものをどう作るのか。そうした発想はすべて横に避けて、NECがターゲットとする顧客層に対して、どんな価値を提供できるのか。そうした点から製品化し、個性を持たせたのがLifeTouch Lだった」と語る。

 LifeTouch Lでは、日本のユーザーをメインターゲットとして開発したことによる「日本仕様」を、特徴の1つに挙げる。約50種類のアプリケーションを搭載し、デジカメやプリンタ、TVやレコーダーとの連動性を高めたのも、日本仕様としてのこだわりだ。

 「デジカメで撮影した写真のそのままタブレットに取り込んだり、TVで録画した番組をLifeTouchに簡単に取り込んでどこでも視聴できる。また、いつも使っているプリンタでそのまま印刷できるといったこともLifeTouchの強みの1つである」とする。

 そして、個性という表現を用いて次のように語る。

 「同じ10型というディスプレイサイズを持ちながら、薄さ、軽さ、バッテリ寿命といったハードウェアとしての特徴を1つ1つ比べても、iPadを上回っているのがLifeTouchの特徴。この点でも実際に導入して頂いたユーザーからは高い評価を得ている。ただこうしたところで比較して上回ったとしても、決してiPadに勝てるわけではない。これがLifeTouchの個性になるとは言い切れない」とする。そして、「個性を打ち出すのは、やはりアプリケーション。そこに張り合えるかどうかのポイントがある。ここに、NECならではの強みを発揮していかなくてはならない」と語る。

 アプリケーションという点では、AppStoreやiTunesなどを通じて、数多くのアプリケーションやコンテンツを提供できる環境を持つiPadの方が優位であると感じるが、それでも西大本部長は、この分野でもアップルにはない強みがNECにあるとする。

●NECの強みとは何か

 では、NECの強みとは何か。それは、企業での利用をターゲットとした垂直型サービスとの連動だ。

 「企業が求めるセキュリティレベルを実現し、企業が安心して利用できるための環境を提供できること、安心して利用できるアプリケーション紹介サイトを用意していること、そして、デジタルサイネージなどとのシステム連携などはNECならではの特徴だといえる。iPadと張り合えるのは、NECが得意とするこうした部分。iPadとは異なる価値を、端末を通じて見せていかなくてはならない」と語る。

 同社では、スマートデバイス活用ソリューションとして、BtoBtoCやBtoBで利用するためのアプリケーションを20種類以上用意。営業支援や店舗内販促、点検/保守/入力業務などといった業務別、信用金庫向けなどの業種別のソリューションを標準パッケージとして提案し、さまざまな業務利用などに活用できるような提案を行なっている。

 そして、こうした業務利用が可能なアプリケーションの品揃えは、他のAndroid端末との差にもつながるという。

 その一例が、アプリケーション紹介サイトである「タブレットアプリファン」である。

 一見、第三者が運営しているサイトのように見えるが、これはNECが提供するサイトであり、同サイトを通じて、ユーザーが安心してすぐに利用できるアプリケーションを紹介している。毎週金曜日にはこれを更新して、新たなアプリケーションが増える仕組みだ。

 「Androidのユーザーは、Google Playを通じて数多くのアプリケーションをダウンロードできるが、正直なところ玉石混淆の状態。全てが安心して利用できるものではない。そうしたユーザーの不安を払拭するという点では、タブレットアプリファンは有効なものだと言える」というわけだ。

NECのタブレット製品群

 NECのタブレット事業のもう1つの強みは、バリエーションの広がりだといえよう。先にも触れたように、NECは、LifeTouchシリーズのほかに、MEDIAS TABシリーズ、LaVie Touchシリーズ、VersaProシリーズ、パネルコンピュータをラインアップ。10月26日のWindows 8の発売にあわせて、NECパーソナルコンピュータでは、液晶ディスプレイ部を360度折り畳んでタブレットとしても利用できるWindows RTの「LaVie Y」も追加した。

 「10型、7型といった画面サイズの違いだけでなく、防水対応や2画面対応など、利用シーンに応じた提案が可能になる。さらにには用途に応じて求められるセキュリティレベルにも柔軟に対応ができる」とする。

 また企業での利用だけでなく、家庭内で利用する「ホームタブレット」としての利用提案も可能だと自信を見せる。

●タブレットは演歌型ビジネス?

 西大本部長は、「LifeTouchは『演歌』型のビジネスを目指す」と語る。「スマートフォンやPCの事業は、発売から2~3カ月でピークを迎え、次のモデルにスイッチする。タブレットPCの事業でこれをやっていては息が切れてしまう」と苦笑しながらビジネスモデルの違いを指摘。そして、「静かに立ち上がって、徐々にマーケットに浸透して、1年ぐらいの長い期間をかけて評価されていくというようなビジネススタイルが適している」とする。

 iPadも製品サイクルはほぼ1年。LifeTouchも製品サイクルは長期化しており、PCのそれとは大きく異なる。そして、企業に向けて提案するという点では、やはり1年という期間は検証機関などを含めると最低限必要のようだ。

 短期間でヒットするのではなく、じっくりと時間をかけてヒットにつなげるという点で、「演歌」型という表現は適切ともいえる。

 特に、一括導入などによる企業内利用や、BtoBtoC型のビジネスモデルが主軸となるLifeTouchの場合は、試用期間やソフトウェアの作り込みといったものが発生し、どうしても長期化する傾向にある。試用期間を経て、本格導入というパターンは、BtoBtoCでは当然の流れである。

●企業向け販売ルート以外にも展開
MEDIAS TAB

 しかし、演歌型を目指すというLifeTouchにおいて、全てがBtoBあるいはBtoBtoCに特化した展開を進めているわけではない。

 LifeTouch Lでは、コンシューマ市場も重要な柱の1つと位置づけ、量販店店頭での販売展開にも取り組んでいる。また、MEDIAS TABでは、キャリアを通じた販売ルートにも乗り出しており、こうしたルートを通じてコンシューマライゼーションやBYODといった動きにも対応していくことになる。

 NECのタブレット戦略の中では、BtoBやBtoBtoCだけでなく、量販店ルートやキャリアの販売ルートを通じたBtoC向けの取り組みも重要な要素なのだ。

●徐々に導入成果が生まれるLifeTouch
LifeTouch L

 とはいえ、やはりLifeTouchの販売の主軸はBtoBおよびBtoBtoCである。その点では、すでにいくつかの導入実績が出ている。

 BtoBtoCの事例としては、東京ケーブルネットワークがある。東京都文京区を中心に展開するCATVの東京ケーブルネットワークでは、加入者へのサービス拡大策の1つとして、LifeTouchを活用。地域情報などをインターネットを通じて配信し、これをLifeTouchで閲覧できるようにしている。LifeTouchをTVのリモコン代わりにも使用できるといった使い方も可能だ。

 また、岐阜県白川町では、独居世帯の安否確認や見守りサービスとして、立命館小学校では学習支援ツールとして、それぞれLifeTouchを活用するといった例が出ている。

 一方、BtoBの事例として、三重銀行では営業店舗内での業務効率化を目的に、LifeTouchを活用しているほか、ローソンでは、LifeTouch Lを1,600台導入。店舗指導員である「スーパーバイザー」の業務効率化と経営指導力強化に活用しているという。

 ローソンの事例では、これまで紙で作成し、PCで集計していた品揃え確認、衛生チェック、防犯管理などの各種報告レポートをLifeTouchで作成。直接本部にレポートのデータを送付することが可能になり、作業時間の短縮を実現するほか、タブレット端末のカメラで撮影した写真を添付し業務報告をすることができ、より正確でわかりやすい報告が可能になるという。

●タブレット事業を今後も加速

 今年に入ってから、タブレット端末に対する需要に変化がみられると西大本部長は指摘する。「企業においても、個人においても、1年前とは雰囲気が大きく変わっている」というのが西大本部長の意見だ。

 1つはiPadの企業利用が促進されたことで、タブレットの業務利用事例が増加したことが見逃せない。そして、Android端末が数多く登場したことで、タブレット端末を利用する企業が増加したことも「雰囲気の変化」に影響している。

 「以前はタブレットの意味や効果などを説明する必要があったが、いまでは、そうした説明をしなくても、ユーザー側がタブレット導入のメリットを理解している。2011年度がタブレット創世期だとすれば、2012年度はタブレットの時代が確実に到来し、2013年度に向けて、さらに市場が飛躍することになる」とする。

 NECでも、2013年度は、タブレット端末で年間100万台の出荷規模を目指す計画だ。

 「技術の進化、アプリケーションの増加、サービスの拡張といったことが組み合わさり、これまで以上の勢いで市場が拡大するだろう。NECは、それに向けて引き続きタブレットのラインアップを拡大していく」とする。

 NECでは、これまでの取り組みの成果が少しずつ形になりつつあり、今後もタブレット事業に積極的に取り組んでいく姿勢には変わりがないとする。NECは、これからどんな風に事業を拡大していくのか。タブレット事業を着実に拡大しつつある同社の取り組みにも注目しておきたい。