■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
2011年7月1日から、いよいよ東京電力、東北電力管内で発令された電力使用制限令によって、契約電力が500kW以上の大口需要家は、ピーク時の電力使用量を前年比15%減とすることが決められ、中小企業や家庭においても、15%の節電を目標に掲げることになる。
また、東京電力、東北電力管内以外でも、関西電力が15%の節電を要請する動きがみられているほか、中部電力の浜岡原発の停止、九州電力の玄海原発2号機、3号機の再開延期の決定など、原子力発電の安全性を懸念した稼働停止が相次ぎ、電力供給量不足は日本全国に広がっている。
節電は、もはや日本全国に共通した課題だといえる。
そうした中、企業や家庭においては、空調や照明の電力使用量が最も多いとされ、まずは、この領域での使用制限が効果的だとの声が多い。
実際、富士通では、東日本大震災の発生以降、オフィスの空調停止や、窓側の照明やトイレ、廊下、自動販売機などの消灯、エレベータの間引き運転、エスカレータの停止などによって、震災前に比べて約20%の節電を達成したという。
だが、その一方で、PCにおける節電も見逃せないものとなる。
では、実際に、オフィスにおけるPCの節電効果はどの程度あるのだろうか。
●PCが占める電力使用の割合はオフィスにおけるPCの電力使用量は全体の29%を占める |
省エネルギーセンターによると、オフィス占有部における電力消費のうち、空調が占める割合は28%、照明が40%、そしてコンセントからの電力消費は32%を占める。PCはコンセントから使用する電力の中に含まれることになる。
この中で、空調を除いて、照明(天井灯)およびコンセント系の利用を100とすると、そのうちPCが占める割合は29%となっている。さらに複合機が9%、ネットワーク機器が4%、サーバーが1%という構成比だ。
こうした点からもPCの節電が効果的なのがわかる。
機器別に1台あたりの消費電力をみてみると、デスクトップPCは約100W、ノートPCが約30W、PCサーバーが150Wであるのに対して、ページプリンタは1,000W、コピー機が1,000W、複合機は2,000Wとなっている。
機種別にみると、プリンタやコピー機、複合機の節電をした方が効果的にみえるが、PCの場合には1人1台環境が広く普及しており、使用されている台数が大きく異なる。そのため、PCの節電を図り、それを1台1台に確実に適用していった方が節電効果が高いということになる。
●最新のPCで節電できる
では、PCの節電にはどうやって取り組むべきだろうか。
最も効果的なのは、最新機種に買い換えることだという。もちろん、これが一部のユーザーにしか適応できない、現実的な回答ではないのは確かだ。だが、もし少しでも買い換えを検討しているのであれば、それだけで大きな節電効果につながることを知っておくべきだ。
富士通によると、2005年度上期に発売された多機能型デスクトップPCと、2011年度夏モデル同等クラスの製品を比較すると、OSアイドル時の消費電力は約69Wから約23Wへと、なんと3分の1に削減されている。また、ノートPCでもA4スタンダードモデルでは、2005年度上期製品の約20Wから、2011年夏モデルでは約11Wへと半減しているのだ。
これだけの節電効果をもたらした背景には、CPUをはじめとする低消費電力部品の採用や、独自の電源制御技術の採用、筐体内の温度制御技術などがある。
また、ノートPCの「LIFEBOOK」シリーズでは、「ECO Sleep」機能を搭載し、PCの電源オフの状態や休止状態時に、ACアダプタからの給電を止め、内蔵バッテリからの給電に切り替えることで待機電力を半減。また、オプションとして、ECO Sleepと連動することで、待機時に消費する電力を削減するゼロワットACアダプタを用意するといった節電対策も図っている。
2011年の夏モデルでは大幅な消費電力の低減を実現している | |
富士通がお勧めする低消費電力型の夏モデルの例 |
●既存のPCでも節電可能
だが、新製品に買い換えなくても既存製品での節電対策も多い。
富士通では、Windows OSの節電設定を活用することがまず効果的だとする。
スクリーンセーバーの使用を考慮したり、ディスプレイの電源切断、スリープモードや休止モードの設定をこまめに使用することで、大幅な節電が可能になるという。例えば、通常使用時は50~60Wを消費電力であるものが、スリープや休止時には約1~2Wで済む。昼食時間や会議などで離席する際にスリープモードを多用するだけで、効果的な節電が可能だという。スリーンセーバーも背景が黒い部分が多いものが消費電力が少ないという。
またディスプレイの輝度を落とすことも節電効果が大きい。これだけで約10Wの節電可能になるという試算も出ている。
なお、Windows PCであれば、日本マイクロソフトが、5月から同社サイトを通じて無償提供している「Windows PC自動節電プログラム」を利用すれば、手軽に節電モードへと切り替えることができる。
●ピークシフトの積極的な活用そのほか、富士通のPCならではの節電もある。
デスクトップPCのESPRIMO(旧DESKPOWER)シリーズでは、電源連動サービスコンセントが搭載されている機種がある。ここにディスプレイの電源ケーブルを差しておけば、PCの電源オフや省電力モードにした際に、ディスプレイへの電源供給をストップできる。また、待機時の消費電力をゼロにするメインスイッチを搭載しており、土日や長期休暇の際に、コンセントからプラグを抜くことなく、待機電力を抑えることができる。
また、ノートPCのLIFEBOOK(旧BIBLO)では、省電力ユーティリティを利用することでディスプレイ輝度や、CD/DVDドライブ、オーディオ、Blutooth、LANなどの使用しない機能を省電力モードに設定できる。
さらに、ワンタッチでこうした設定を行なえる「ecoボタン」や「ワンタッチ省電力ボタン」を利用することで、手軽に節電モードを利用できるという。ecoボタンを利用することで、明るさセンサーと連動した最適輝度への調整も可能になっているほか、対人センサー付きモデルでは、利用者の有無を関知した画面ロックにより、ディスプレイの消費電力を引き下げることができる。
ただ、これらの機能は、機種によって搭載されていない場合もあるので、注意が必要だ。
一方で、ピーク時の時間帯での電力需要を引き下げ、効率的な電気の利用に効果を発揮するのがピークシフト機能だ。
LIFEBOOKシリーズでは、指定した時間に自動的にバッテリ駆動に切り替え、電力消費を分散するといった機能を搭載している。
ここでは、機能を有効にする期間、バッテリ駆動を優先する時間、PC使用時にバッテリ充電を抑止する時間の設定が可能で、さらに2種類の設定ができることから、夏場と冬場などに切り分けて、あらかじめ設定しておくこともできるという。
富士通ではピークシフト機能の利用例として次のようなものを示す。
業務終了後の午後9時30分から始業時間の午前9時まではエコスリープモードで利用していないため0Wで推移。午前9時からの業務開始にあわせて、ACアダプターからの電源供給によりPCを使用(このときには約13Wの消費電力)。午後2時からはピークシフト機能を利用し、バッテリで駆動(コンセントから供給される消費電力は0W)。午後5時になると充電を抑止した形で、ACアダプタからの供給で利用し、消費電力は約13W。午後7時からはバッテリ充電を開始するため、37Wに消費電力が上昇するが、午後7時30分にはPCでの仕事を終了させることで26Wに低下。バッテリ充電を続け、午後9時30分にはそれが終了し、エコスリープモードに入るという仕組みだ。
この機能を活用し、複数のノートPCにおいて設定時間を変えるなどの使い方をすれば、より効率的な電力利用が可能になるだろう。
富士通が提案する各種節電機能 | 富士通の夏モデルに搭載されている「ecoボタン」 | PCのピークシフト利用を提案 |
一方、ページプリンタでも節電モードを用意しており、これにより節電を意識した最適な環境へと移行することができるという。また、メインスイッチを利用して、休日などの長時間利用しない日は、これをオフにすることを推奨している。
●集中管理するミドルウェアを活用企業においては、ミドルウェアを活用した節電対策も効果的だ。
富士通では、管理ソフトウェア「Systemwalker」を製品化。その中で、PCの資産管理から情報漏洩対策、そしてグリーンITまでを網羅することができるSystemwalker Desktopシリーズをラインアップしている。
Systemwalker DesktopシリーズのSystemwalker Desktop Patrol V14gでは、IT管理者が企業内のPCユーザーに対して、節電を促すために必要とされる機能を搭載している。
例えば、各PCの省電力設定を促す警告を表示。これを利用してユーザーに設定の改善を促し、それでも利用者がポリシーに準拠していない設定を続けた場合には、統制機能によって一括設定変更を行なうこともできる。
さらに、帰宅する際などにも、消し忘れて、電源が入ったままになっているPCに関しても、一定時間が経過した時点で警告を発し、それでも利用者からの返事がない場合には、リモートで電源を切るといった操作もできる。
企業においては、1人1台環境となったことで、PCの運用、管理は利用者に委ねられているのが実態だ。そのため、IT管理者にとっては、ポリシーに反した使い方をしている利用者に対して啓蒙活動や警告する活動も求められている。これは節電ポリシーの徹底においても同様だ
また、個々のPCにおいては、どけだけの削減効果が出ているのかといったことが見える化しにくいという背景もあり、これが利用者の節電意識を高めることに壁となっている。
Systemwalker Desktop Patrol V14gを利用することで、こうしたことが解決できるというわけだ。
また、Systemwalker Desktopシリーズでは、富士ゼロックスとの協業によって、PC、サーバーに留まらず、複合機やプリンタなどの管理も可能になっている。対象となるのは富士ゼロックスが発売する現行モデルとなるが、一元的な管理ができるという点で注目を集めている。
富士ゼロックスが提供するApeosWare Management Suiteの「ApeosWare Log Management」と、富士通のSystemwalker Desktop Patrol V14gを組み合わせることで、富士ゼロックスの複合機である「ApeosPort」シリーズや「DocuCentre」シリーズ、プリンタ「DocuPrint」シリーズのログ情報を収集し、Systemwalker Desktop上で一元的な管理を可能にする。
これにより、サーバー、PC、複合機/プリンタといったIT機器の稼働状況、消費電力量、CO2排出量を見える化することができるという。
すでに、富士通と富士ゼロックスでは、社内で共同実証実験を実施。電力およびCO2排出量では約40%の削減、コストでは約30%の削減が可能になったという成果が出ているという。
Systemwalker Desktop Patrol V14gを利用し、ルールに違反したPCに設定変更を促す表示。個々のPCで使用した電力量などもわかる。対処というボタンをクリックするば最適な設定に自動変更できる | 富士通は企業向けに節電セルフチェックリストを用意し、無償で提供している |
富士通製ページプリンタの節電機能 | 富士ゼロックスと連携することで、複合機、プリンターの稼働状況、節電利用も管理 |
そのほか、富士通では、電力使用量30%削減を達成した成果をもとに独自に開発した節電セルフチェックリストを、同社サイトを通じて無償で提供している。
同チェックリストを使用することで、今年夏を節電対策だけでなく、2012年度や2012年度以降の節電対策にも利用できるという。
また、富士通では、省エネ診断・改善支援サービス、環境計測構築サービス、環境経営コンサルティングサービスなどを用意。さらに、富士通総研では、環境経営診断簡易サービスを提供。環境経営に関するレベルを診断できるという。
企業ユーザーでは、こうしたソリューションやコンサルティングサービスを活用して節電に対する取り組みを加速することも可能だといえよう。