大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECパーソナルプロダクツ、生産拠点を一本化した成果
~「恥ずかしい不良」を撲滅、米沢生産でこだわる品質とは



NECパーソナルプロダクツ生産事業部・大鷲真一事業部長

 NECパーソナルプロダクツの米沢事業場で、PCの生産拠点を1カ所に集約してから、約半年が経過した。早くも、物流コスト、管理コストなどの削減といった点で効果を生みだしており、NECがPC事業で目指すローコストオペレーションの実現にも寄与しはじめている。

 また、商品企画本部と開発生産事業部を、4月1日付けで、生産事業部、品質保証本部、商品企画開発本部に再編。生産事業部では、米沢事業場における生産品質の向上や生産効率化、および海外の生産拠点との連動による効果的な生産体制確立などに取り組む。新体制によって、生産分野における深耕が推進されることになろう。米沢事業場を訪れ、新たな生産体制について、生産現場を統括するNECパーソナルプロダクツ生産事業部・大鷲真一事業部長に話を聞いた。

 NECパーソナルプロダクツ米沢事業場は、NECのデスクトップPCおよびノートPCの生産を担う国内生産拠点である。また同時に、製品の開発、設計部門も同事業場内に置かれており、開発から調達、生産までを担当する拠点ともなっている。東京・大崎のNECパーソナルプロダクツ本社のマーケティング、営業部門との連携によって、国内においてPC事業を推進する体制だ。

 米沢事業場は、下花沢工場と八幡原工場の2つの工場で構成されるが、2008年11月に、PCの生産を下花沢工場に一本化。それに伴い、PC生産に関する部品倉庫も下花沢工場に移転した。一方で、下花沢工場で生産していたテープストレージを、八幡原工場へと移転。同工場では、テープストレージとプリンタの生産に集約することになった。

NECパーソナルプロダクツ米沢事業場

 「従来のPC生産体制は、下花沢工場の1階でデスクトップPC、2階でノートPCの生産体制としていたほか、協力会社によるPC生産を八幡原工場で行っていた。2008年5月から、協力会社の一部生産ラインを下花沢工場に移設。11月には、下花沢工場に完全移行した。これにより、部材の数量削減、材料の運送コスト、管理コストの削減という成果が出ている」と、NECパーソナルプロダクツ生産事業部・大鷲真一事業部長は語る。

 生産ラインは、ノートPCとデスクトップをあわせて、再編前の2つの工場の合計ライン数の約1.3倍になる67ラインとしたが、部品の供給や製品出荷に伴うトラック便の数は約2割も削減し、管理者や部品をラインに供給する水すましの削減といった人員および管理コストの削減効果があがっているという。

 具体的な効果を数値では明らかにしていないが、「再編に伴う投資は、1年半で償却できる」(大鷲事業部長)と、再編効果に意欲を見せる。

 この削減効果は、そのままモノづくりにおけるローコストオペレーションの実現につながり、国内PC事業の黒字必達を目指すNECにとって、重要な要素となっている。

 一方で八幡原工場に在庫されていた部品がすべて下花沢工場に一本化されたことで、下花沢工場における在庫部品点数は一気に増加したともいえる。

 つまり、ライン横の配置する部品を大幅に削減してきた取り組みを、いま一度推進する必要が出てきたわけだ。

 だが、1カ所に部品を集約できたことで、在庫の「見える化」が実現したともいえ、具体的な削減効果に向けた目標も立てやすい。RFIDによる活用などによって、在庫量の削減を一層進めることができるかどうかが課題だといえよう。

 「RFIDの活用は、生産ラインで成果をあげているが、その前工程にいかに展開していくかが今後の鍵となる。これはサプライチェーン全体に関わる改革が必要であり、短期間で成果があがるものではないが、着実に一歩一歩改革を進めていきたい」とする。

 RFIDによって、生産ラインでは1秒単位での生産管理が可能だが、部品の入庫に関しては1日単位という管理体制に留まる。在庫削減に直結させることができる取り組みだけに、しばらくの間に渡って、重点課題の1つに掲げられるのは確実だろう。

部品の搬入口。PCの生産拠点が一本化され、物流面でも効率化されているRFIDは約9割の部品に対応している。今後、さらに拡大する予定
部材置き場も広がった。手前は中国から輸入されたベースユニットベンダー資産のまま在庫するVMIも米沢事業場内に移転した

 米沢事業場で、PC生産拠点の一本化と同時に取り組んでいるのが、PC生産ラインにおけるミックス生産体制の確立だ。

 超薄型モバイルノートPCなど、細かい特殊作業が求められる製品を生産するノートPC専用ラインを9ライン設けているが、残る58ラインは、今年4月以降、部材供給の仕組みなどを変更するたけで、デスクトップとノートPCのどちらも生産できるミックス生産ラインへとシフトすることに成功している。

 物理的には、ほとんどをミックス生産が可能なラインとしたが、人材教育の観点からは約5割の人員が、ミックス生産が可能だという。

 「ノートPCの組み立てを行った経験がある人は、デスクトップPCも組み立てられるが、逆にデスクトップPCしか組み立てたことがない人はノートPCの組み立てのための教育が必要。社員に対しては、どちらも生産できるように、2007年度から教育を進めていたが、昨年度からは協力会社に対しても対応を求め、所要変動にあわせて柔軟性を持った生産が可能なラインへとシフトした」(大鷲事業部長)という。

 所要変動にあわせた生産の実現は、国内生産ならではの強みにつながるともいえる。

デスクトップの製造ライン。縦100mに10本のライン。現在、27ラインが稼働中デスクトップは6人体制を標準ラインとして生産する組立ラインの反対側にエージングのラインを設置している
デスクトップラインにハードディスクの自動ネジ締め装置を新たに導入自動搬送機を復活。デスクトップPCの完成品の回収に使われるラインへの部品供給は従来通り、手押しの水すましが行なう
手前にはノートPCのLaVieの箱。奥ではデスクトップPCの生産というように混在化を実現デスクトップPCの完成品置き場。地域ごとに区分けされる
ノートPCの生産ラインは標準で5~6人体制異機種混在での生産も可能となっているラインの横にはラベル自動検査設備を用意して、ラベルの正否、貼り位置の確認を行なう
このなかに入れて、デジカメを使って画像認識する。5月に全ラインに導入したラベルの確認は目視でも行なう
ラインで完成後に、完成品置き場に移送され、出荷方面別に置かれるノートPCの完成品置き場。このエリアも拡張している

出荷口。トラックを2台設置できるようにしている

 米沢事業場では、生産拠点の一本化、ミックス生産体制の推進とともに、もう1つ取り組んだものがある。

 それは、生産ラインの標準化である。NECパーソナルプロダクツの社員によって運営されていたラインは、デスクトップPCで6人体制、ノートPCの最先端専用ラインでは3人体制で生産する体制となっていた。

 だが、これまでは場所が分散していたこともあり、協力会社の生産体制については、協力会社ごとの独自性に任せ、8~9人体制で生産ラインを構成しているケースもあった。

 これを基本的には組み立て5人、エージング1人の6人体制とし、この構成を標準ラインとして定着させる。結果として、ミックス生産の実現や、効率的な部品供給体制、管理体制の実現に寄与することになるという。

 標準化の取り組みは、工場内の看板などにも反映され、これまでは工場やラインごとにバラバラだった表記なども統一したものに変更した。

ユーザー企業の仕様にあわせてソフトなどをインストールするカスタマイズセンターは2倍規模に拡張企業などのロット商談を対象にした天板へのロゴレーザー刻印サービスに加え、ロゴシルク印刷(中央)も強化マニュアルなどの添付品も、従来は外注していたものを内製化することでコストを削減した
工場によって色分けがバラバラだったため、これを統一ラインを表示する看板も集約に伴い表示形式を統一した

 このように協力会社を中心にして一部生産ラインの短縮は見られるが、実は、米沢事業場では、「ライン短縮が効率化に直結する」というこれまでの考え方を見直しはじめている。

 というのも、PCの機能が拡張するのに伴い、検査工程などが増え、これらの検査工程をインライン化することで、実際には生産ラインそのものが伸びる可能性があるからだ。

 水冷PCでは静音性の検査工程が入り、地デジ対応PCではそれらの表示に関する検査工程が増えることになる。また、ノートPCにおけるディスプレイの開閉検査の強化、電源まわりの検査強化、あるいはラベルの貼付位置の検査なども、インライン化すれば、当然、距離は長くなる。

 「棚を2段式とした装置をラインに導入するなど、縦方向のスペースを利用すること、エージング時間において効率的な検査を行なうことなども盛り込むことで、現在約7mのライン距離を、プラス1m程度の延長で抑えたい。結果として、1人あたりの持ち台数が増えることになるが、品質を重視する取り組みとして、これに取り組んでいきたい」と語る。

 こうした取り組みの背景には、大鷲事業部長自身のこだわりが強い。

 長年に渡り生産革新に取り組んできた大鷲事業部長は、「NECがシェアナンバーワンを維持する、また、カスタマサポートのナンバーワンを維持するという観点において、生産現場はどんな貢献ができるのか。それは、世の中に対して、品質が高い製品を送り続けるということに尽きる」と、持論を語る。

 4月1日付けで事業部長に就任した際にも、「品質」という言葉を、社員に対して、何度も繰り返したという。

 「例えば、購入したPCを開けてみたら、ラベルが曲がって貼られている、あるいはちょっとした傷がついている。これだけでお客様はがっかりしてしまう。高いお金を出して購入したのに、なんだということになる。PCそのものには、先進的な技術を搭載していて、それがちゃんと動作するとしても、ラベルが曲がっているだけで、NECのブランドイメージを傷づけることになる。こうしたところからしっかりと品質を確保していく」。

 大鷲事業部長は、これを「恥ずかしい不良」という言葉で表現する。

 PCに貼付されるラベルは、Intel、Microsoftの各種ロゴのほか、故障受付問い合わせ番号やBluetoothのロゴなど、複数枚となる。「恥ずかしい不良は、これまでゼロではなかった。外観検査を徹底して、恥ずかしい不良をゼロにする」と大鷲事業部長は宣言する。

 5月には全ラインにラベル自動検査設備を導入して、ラベルの正否、貼り位置の確認を行なうようにした。

 さらに、9月までの間に、各種検査工程を導入することで、技術的な観点からも、品質向上を図る考えだ。

 「密度の濃い検査を、時間を短縮しながら実現する。それに向けた検討を過去3カ月以上に渡って行なってきた。Windows 7搭載PCが出荷される頃には、生産性と品質向上をさらに実現したラインが確立できるはず」と自信を見せる。

 品質という観点では、設計、開発部門との連携も強化する考えだ。

 米沢事業場に設計、開発部門が同居している地の利を生かし、生産ラインとの情報交換を積極化。生産しやすい設計へと改良することで、品質向上につなげるというわけだ。

 「毎週木曜日に1時間程度、生産ラインの責任者が集まり、設計部門に意見を出す。生産時に、ケーブルを横から挿すよりは、上から挿せるようにしてほしい、あるいはそれが無理ならば横から挿すためにこれだけの隙間が欲しいといった要求を出す。同様に、群馬事業場の保守部門からも意見をもらう。重要なものに関しては、8~9割を次機種に反映してもらうという成果があがっており、これが品質向上やリードタイムの短縮にもプラスとなっている」

 生産革新、品質向上には完成系がないとする大鷲事業部長は、「NECのPCは、何が特徴かと言われたときに、製品の技術的優位性だけでなく、カスタマサポート、そして品質もナンバーワンであると答えたい。それを下支えする生産現場であり続けたい」として、品質向上と生産効率化を両立させながら、生産現場の改革を促進する考えだ。

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(2009年 5月 29日)

[Text by 大河原 克行]