大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

アマゾンで電子書籍を出版する流れを体験してみた

ワークショップの会場となった宮城県仙台市のせんだいメディアテーク

 アマゾンジャパンは、2017年4月15日、宮城県仙台市のせんだいメディアテークにおいて、Amazon Kindleストア向け電子書籍出版「Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)」を体験するワークショップ「Amazonで電子書籍を出版しよう! KDPワークショップin仙台」を開催した。今回、同ワークショップに参加する機会を得て、実際に、電子書籍を出版するまでの流れを体験してみた。その様子をレポートする。

 KDPは、小説や漫画、写真集、子供向け絵本、ハウツー本などのさまざまなコンテンツを、Amazon Kindleストア向け電子書籍として、出版し、販売できる電子書籍出版サービスだ。

 同サービスによって、無償で電子書籍を出版でき、さらに、著者や出版者は、Kindleストアを通じて、世界に向けてコンテンツを販売し、収益を得ることができる。

 全世界では、KDPを通じて、数百万人が電子書籍を利用。出版されるコンテンツは、日本でも増加傾向にある。

 アマゾンジャパン Kindleコンテンツ事業本部の友田雄介事業本部長は、「KDPはセルフ出版のプラットフォームである。これまでは、出版というと、出版社を通じて行なうものだったが、インターネットの普及や電子書籍の普及によって、出版社を通さずに出版することができるようになった。電子書籍で出版したあとに、紙で出版されたり、映像化されたりといった動きも出ている」とする。

 日本においては、作家の藤井太洋氏が、会社に勤務していた2012年にKDPを含む複数のプラットフォームにおいて、自ら執筆した小説を電子書籍として発行。同年には、Kindle本の年間ランキング小説・文芸部門で1位を獲得し、2013年から作家として独立しているという。このように、電子書籍をきっかけに小説家になったり、電子書籍で人気を博し、その後、作品が紙で出版されるという例が日本でも出ているというわけだ。

 また、希望小売り価格は99円から自由に設定が可能であり、印税についても、Kindleストアに限定して出版した場合には、70%の印税が入るという仕組みも用意している。海外では著名作家がKindleストアだけで作品を販売するといったこともあるという。

 「セルフ出版は海外では一般化しており、電子書籍の販売のうち、米国では41%、英国では32%、カナダでも36%がセルフ出版になっている」(アマゾンジャパン Kindle事業本部Kindle ダイレクト・パブリッシング事業部の廣澤祥生事業部長)という。

せんだいメディアテークの会議室を利用して行なわれた
「Amazonで電子書籍を出版しよう! KDPワークショップin仙台」の様子
アマゾンジャパン Kindle事業本部コンテンツ事業部の友田雄介事業本部長
アマゾンジャパン Kindle事業本部Kindle ダイレクト・パブリッシング事業部の廣澤祥生事業部長

 だが、「セルフ出版というと、その名の通り、出版社がやっていたことをすべて自分でやらなくてはならない。書くだけではなく、編集を行ない、表紙を作る必要もあり、ハードルが高い部分もある。しかし、それもさまざまなツールが登場し、それをサポートする環境もできあがってきている。ワープロソフトに校正機能が搭載されているのはその一例。そうしたものを駆使して、自らが出したいものを世に問うことができるのがKindle ダイレクト・パブリッシングである」(アマゾンジャパンの友田事業本部長)とする。

 今回のワークショップは、KDPによる電子書籍の出版作業を体験してもらうことで、多くの人に出版の機会を提供するのが狙いだという。

 アマゾンジャパンでは、「KDPを通じて、より多くの才能ある作家を発掘し、活躍、成功できる場を広げたい」と説明。Amazonが用意したコンテンツをもとに、Microsoft Wordを使用して、「リフロー型」の電子書籍を制作し、Amazonサイトで出版するまでの一連の流れを体験する実践的なワークショップとしたのが特徴だ。

 アマゾンジャパンの友田事業本部長は、「我々に対する質問で最も多いのが、出すことができるコンテンツはあるが、どうやってKDPで出版できるのかというもの。出版したいとは思っていても、出版するところまで行っていないという人が多い。今回のワークショップは、出版の仕方を知ってもらうために、我々が手助けをする活動の1つになる」と語る。

 これまで首都圏でワークショップを開催したことはあったが、地方都市での開催は今回が初めて。仙台市には、電話およびメールによる問い合わせに対して、365日体制で対応している同社のカスタマーセンターが設置されていることもあり、地方初の開催地に仙台を選んだ。なお、今後の地方都市での開催については未定としている。

 会場となった仙台市青葉区のせんだいメディアテークには、定員の2倍以上の応募のなかから選ばれた30人が参加した。

 ワークショップの参加は無料だが、20歳以上であることや、KDPで本を出版した経験がないこと、KDPアカウントを開設し、所定のアンケートに回答することなどが条件となった。

 4月15日午後7時から開始されたワークショップでは、KDPの概要などの説明が行なわれたあと、実際の作業に入った。

KDPは誰でも無料で出版できる電子書籍だ
セルフ出版を行なうことができる
最大で70%の印税を得ることができる

電子出版を行なう方法

 では、電子出版を行なうまでの方法を追ってみよう。

 今回のワークショップでは、無線LANに接続できるPCを持参すること、KDPアカウントを事前に登録しておくこと、そして、KDPのサイトをブックマークしておくことなどの準備が求められた。

 アマゾンジャパンからは、宮沢賢治の作品をテキスト化したWordファイル、表紙用のイラスト、文章中に挿入するカット画像の3つの素材が提供され、これを使って、電子書籍を編集し、出版する直前の作業までを行なうものになった。

ワークショップで使用したコンテンツ

 まずはMicrosoft Wordで、テキスト化したWordファイルを立ち上げ、編集作業を行なうところから始まった。今回の作業では、Word 2013以降を使用している。

 先にも触れたように、今回の作業は、小説のように、コンテンツの大部分をテキストで構成する「リフロー型」での作業となった。リフロー型の特徴は、フォントサイズを自由に変えたり、行間の変更なども柔軟にできる点だ。またハイライトした言葉の意味を知ることができる辞書機能も利用できる。

 それ以外にも漫画や写真集など、1ページに1枚の画像などで表示する「固定型」もあり、こちらの編集作業には、Kindle Comic CreatorやKindle Kids'Book Creatorなどの無料ツールを使うと便利だ。

 最初の作業は、Wordでの作業を行いやすくするための設定から始まった。編集記号を見えるようにすることで作業がしやすくなるため、「ファイル」→「オプション」→「表示」を選択。「すべての編集記号を表示する」にチェックを入れた。

 続いて作品ごとの改ページの作業を行なう。用意されたテキストでは、宮沢賢治の「やまなし」、「銀河鉄道の夜」、「狼森と笊森、盗森」、「注文の多い料理店」の4つの作品を使用しており、それぞれ作品ごとにページを切り替える作業を行なう。改ページを作成するために、改ページする場所にカーソルを当てて、「挿入」→「ページ区切り」を選択する。これによって作品が終わったところで改ページが行なわれた。

 カット画像の挿入は、「注文の多い料理店」の作品中に挿入する作業を行ったが、挿入したい部分に「挿入」をクリックして挿入。中央揃えをすれば体裁も整う。これはWordの基本機能だけで作業できるものだ。

 次の作業は、目次の作成だ。ここでも、Wordの機能を使うことで、移動メニューとしても利用できる論理目次と、コンテンツの扉となるHTML目次を同時に作成できる。

 今回の場合は、「やまなし」などの作品タイトルを目次に使用。タイトル名をハイライトし、「ホーム」→「スタイル」→「見出し1」を選択。これによって、タイトルのテキストスタイルが「見出し1」に設定された。Wordでは、見出し2まで設定でき、章立てが多い場合などにはこれを利用するといい。

 続いて、作品の前に、目次ページを作るために、カーソルを一番前のページに持って行き、「挿入」→「空白ページ」で、空白ページを作成。その空白ページに、「参考資料」→「目次」を選択。使用する目次スタイルを選択することになる。これで論理目次とHTML目次が一度に完成する。目次にページ数を表示させたくない場合には、「ユーザー設定の目次」→「ページ番号を表示する」の項目からチェックマークを外せばいい。

 ここまでで一連の編集作業は終了だ。テキストそのものが完成したものであったこと、さらに、約3,000文字強のテキストを対象に行なったこともあり、作業は簡単に終了した。

まずは使いやすいようにWordの設定変更から
改ページの作業によって小説ごとにページを切り替える
用意されたカットを挿入する
目次を作成する作業。タイトルをハイライトして目次に指定
目次の自動作成を行なう
ページ番号を表示しないように設定を変更
1ページ目に設定された目次

 ここからは出版に向けた作業になる。

 今回のワークショップでは、KDPアカウントを事前に取得することが参加の前提となっていたため、会場ではこの作業は行なわなかったが、ここでは、KDPアカウントの取得についても簡単に触れておきたい。

 KDPアカウントの作成は、Amazonアカウントを持っていることが前提となる。

 KDPのサイトにアクセスすると、そこでマイアカウントを作成するページが表れる。

 項目は「個人用プロファイル」、「支払い情報および銀行口座」、「税に関する情報」の3つだ。

 個人用プロファイルでは、氏名あるいは会社名のほか、住所や電話番号などを入力する。ペンネームで出版したいと考えている人も、ここで入力する氏名は本名で大丈夫だ。

 電話番号の入力方法は、ちょっと面倒で電話番号の前に、海外から連絡をする際の「+81」を入れる必要がある。東京の場合は「+813」、仙台の場合は「+8122」ということになる。

 支払い情報および銀行口座は、印税を受け取る窓口であり、すべてのAmazonマーケットプレイスにおける売り上げをここに統合することもできる。注意したいのは口座名義の入力。日本の金融機関の場合は、カタカナの半角文字で入力する必要がある。ちなみに、銀行口座がない場合には、小切手で受け取ることも可能だが、電子送金できる国へは電子資金振替が優先されるようだ。

【18:05編集部追記】Amazonより、小切手で受け取ることも可能だが、電子送金できる国へは電子資金振替が優先されるとの連絡があったので、追記させていただきます。

 そして、最後が支払い情報および銀行口座である。これは、米国企業であるアマゾンらしい部分でもあるが、質問に答える形で入力していけばいい。だが、入力する文字は、半角英数字や半角記号であり、漢字やひらがな、カタカナは使用できない。また、納税者番号の入力など、やや面倒に感じる部分もあるだろう。だが、これが完了しないと、書籍の発行はできない。ここはじっくりと格闘しながら、入力をしていくしかない。

 KDPアカウントを作成後、KDPのサイトでサインインをすると、いよいよ出版に向けた作業を始めることができる。

KDPアカウントの登録画面

 まずは、「本棚」にある「+新しい本を作成」をクリックする。

 すると出版する本に関するいくつかの入力を行なうことになる。本のタイトルや著者、内容紹介など、必須となっている項目がいくつかあり、これらを入力する。著者名はペンネームだったり、共著者を同時に表記したり、あるいはイラストレータや翻訳者などの名前を同時に入れることも可能だ。また、出版に関して必要な権利を有していることを示す「出版に関して必要な権利」、本の内容が分類される「カテゴリー」、成人向けコンテンツであるかないかを示す「年齢と学年の範囲」といった項目もチェックマークを入れる必要がある。

 必須項目が入力されていないと、本が発行できず、未入力の場所がハイライトされる。

 これらの項目が正しく入力され、必須項目のすべてが埋まると、「本の発売準備ができました」をチェックし、「保存して続行」をクリックする。これによって、「Kindle本の詳細」項目の作業が完了することになる。

 その次の作業が「Kindle本のコンテンツ」である。

 「原稿」の項目で、デジタル著作権管理(DRM)を有効にし、ページめくりの方向を選択。「参照」を押して、編集作業が完了したWordファイルをアップロードする。

 Kindle本では、推奨フォーマットとしてdoc、docxのほか、HTML、Mobi、EPUB、RTF、プレーンテキスト、PDF、KPF(Kindle Package Format)をあげており、これらのファイルから原稿のアップロードが可能だ。

 ちなみに、現時点では、Wordファイルでは、縦書き表示やルビなどの日本語固有のフォーマットは正式にサポートしていないので注意が必要だ。また、Adobe PDFも、現時点では日本語の本はサポートしていない。

 原稿がアップロードされたあとは、「Kindle本の表紙」のアップロードである。今回のワークショップでは、JPEGによる表紙画像が用意されており、「参照」をクリックして、この表紙をアップロードすれば済むようになっていた。

出版の作業に移る。KDPのアカウントページから「新しい本を作成」をクリックする
Kindle本の詳細を設定する。本のタイトルなどを入力する
必要な項目をクリックする
必要な項目が入力されると完了の表示
続いてKindle本のコンテンツで原稿をアップロード

 Kindle本の表紙は、JPEGおよびTIFFの画像が利用でき、縦横サイズ比は1.6:1。50MB未満のデータが使用できる。同社では、「表紙ファイルの理想的なサイズは、2,560×1,600ピクセル」だとしている。

 表紙は本の売れ行きにも大きく影響を及ぼす部分だけに、少し力を入れたいところだ。

 実際、「フリーの素材を活用しても、素人が作るとどうしても、素人っぽい表紙になってしまう」という声が出ているのも事実だ。執筆作業や、編集作業とは異なり、ちょっとしたデザインセンスが求められると言えよう。

原稿および表紙がアップロードされた状態

 ここまでの作業が完了した時点で、アマゾンでは、一度、完成した電子書籍をプレビューしておくことを勧めている。

 プレビューにはいくつかの方法があり、PCでもビューアーを使って確認ができるが、手元にKindle端末があるのならば、Kindle端末でやってみるのがいいだろう。

 「Kindle本のプレビュー」で、mobiファイルをダウンロード。PC上に保存したのちに、USBケーブルでKindle端末と接続して、Kindle上のDocumentフォルダに転送し、それを開けば確認ができる。見出しの様子や挿入されたカットなどを確認し、修正が必要だと感じたら、修正作業に戻ればいい。

 プレビューが完了したら、続いて、「Kindle本の価格設定」において、価格設定や出版地域などの設定作業を行なうことになる。

Kindle端末に転送してプレビューを行なう
実際にKindle本をプレビューしてみる。(終わりB)という余計な文字が残ってしまった

 希望小売価格の設定では、最低で99円から設定できるが、250円~1,250円で設定した場合には、Kindleストアの独占販売では70%の印税が支払われ、ほかのプラットフォームでも出版する場合には35%の印税が支払われることになる。また、250円~1250円以外の価格で設定した場合には、Kindleストアの独占販売でも、ほかのプラットフォームで同時に出版する場合でも、いずれも35%の印税が支払われる。

 なお、KDPセレクトに登録すると、読み放題サービスのKindle Unlimitedからの収益も加わることになる。

 ちなみに、5日間の無料キャンペーンを設定することも可能だという。

 「無料キャンペーンでは、収益は得られないが、読んだ人が多ければ、Kindleストアにおいて、著名な書籍を購入した人に、『この商品を買った人はこんな商品も買っています』とお勧めされたり、出版社と同じ棚に、セルフ出版の本が並ぶこともある。また、カスタマーレビューが書かれる機会も増加することになり、結果として、プロモーションとして活用することもできる」とする。

 これで、すべての入力が完了する。最後に「Kindle本を出版」をクリックして、出版を行なうことになる。

 Kindleストアで販売が可能になるまでには、24時間~48時間が必要であり、「本棚」を見ると、「本」というところに、本の表紙が加わっており、現在のステータスとともに内容が表示されている。

最後に価格や出版地域などを設定する

 なお、アマゾンジャパンでは、KDPによるセルフ出版のサポート窓口を用意しており、不明な点などはメール(kdp-support@amazon.co.jp)で対応するという。

 実際に体験してみると、出版までの流れは非常にスムーズであり、こんな作業だけで出版ができてしまうのかと思うぐらいだった。

 もちろん、この手軽さは、コンテンツがあっての話であり、それを仕上げる作業は、実際の紙での出版と同じように相当の作業を伴うのは明らかだ。

 私の場合、書くことに特化する仕事ばかりをしてきたこともあり、KDPでセルフ出版をする際に発生する編集作業や表紙制作の作業を考えると、ちょっと頭が痛くなるが、そのあたりを請け負ってくれる仲間がいたり、企業があれば、もう少しハードルが下がりそうだ。実際、米国では、こうした作業を請け負う企業も増加しているという。

 もちろん、考え方を変えれば、これらの作業をすべて自分で行えるという醍醐味もあるのは事実だ。プロフェッショナルの他者と組んでしまっては、「セルフ出版」と言っていいのかも微妙になってくる。

 また、米国では、電子書籍著者を掘り起こし、出版社との契約を行なうようなエージェントも存在しているほか、自らは編集者としての役割を果たし、章ごとにさまざまな人に執筆を依頼し、それをまとめて出版しているという人もいるという。日本でもそうした動きは徐々に出てくるのかもしれない。

 一方で、KDPは、こんな使い方もできそうだ。

 たとえば、子供が書いた絵をまとめて、出版するという使い方だ。

 もしかしたらアマゾンとしては、あまり推奨したくない使い方なのかもしれないが、子供が自由に描いた絵をまとめて、出版してしまえば、ローカルのHDDに保存しておくことで、データを紛失してしまうリスクがなくなったり、有料で契約しているクラウドにあげるよりも、将来に渡って、いつでも99円でダウンロードできる保管庫として利用することも可能だろう。

 いずれにしろ、電子書籍の登場によって、出版というのもが一気に身近になったのは確かだ。もし手元にコンテンツがあるという読者は、一度、KDPによる電子書籍に挑戦してみてはどうだろうか。