山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Amazon「Fire HDX 8.9」

〜薄型軽量ボディはそのままに性能が向上した8.9型タブレット

「Fire HDX 8.9」。端末オプションのモデル名では「第4世代」との表記が見られる

 「Fire HDX 8.9」は、Amazonのコンテンツ向けに設計されたカラータブレットだ。8.9型にして重さわずか375g、厚みも7.8mmと、薄型軽量であることが大きな特徴で、家庭内での電子書籍や動画の閲覧に適した製品だ。

 2014年秋に発表されたモデルからは、従来の「Kindle Fire」というブランド名ではなく、新たに「Fire」シリーズとして生まれ変わった同社のタブレットだが、画面サイズがもっとも大きい8.9型のモデルについては、従来モデル「Kindle Fire HDX 8.9」との外見上の差異はなく、性能の向上が中心となっている。

 オンラインサポート「MayDay」の実装など新しい取り組みも見られるものの、基本的には従来モデルの機能向上版という位置付けの本製品について、今回は従来モデル、および同時期に発売されたiPad Air 2、Nexus 9などのタブレットと比較しつつチェックしていく。

ボディのデザインは従来モデルと同一。サイズは8.9型、画面比率は16:10
パッケージ。各国語版のスリーブでフラストレーションパッケージを巻くという、Fire HD 6/7などと共通する仕様
スリーブを外して開封。ビニールで覆われた本体が封入されている
同梱物一覧。Kindleシリーズと異なり、充電用のUSB-ACアダプタが標準添付される

外観はまったく同一、CPU/GPU/Wi-Fiが強化

 まずは従来モデル「Kindle Fire HDX 8.9」とのスペックの比較から。

【表1】旧モデルとの比較
製品名 Fire HDX 8.9 Kindle Fire HDX 8.9
発売時期 2014年11月 2013年11月
メーカー Amazon
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) 231×158×7.8mm 231×158×7.8mm
重量 約375g 約374g
OS Fire OS 4 Fire OS 3
RAM 2MB
CPU 2.5GHzクアッドコアSnapdragon APQ8084 2.2GHzクアッドコアSnapdragon 800
GPU Adreno 420 Adreno 330
画面サイズ/解像度 8.9型/2,560×1,600ドット(339ppi)
通信方式 IEEE 802.11a/b/g/n/ac IEEE 802.11a/b/g/n
内蔵ストレージ 16GB(ユーザー領域9.9GB)
32GB(ユーザー領域24.3GB)
64GB(ユーザー領域52.9GB)
16GB(ユーザー領域10.9GB)
32GB(ユーザー領域25.1GB)
64GB(ユーザー領域53.7GB)
バッテリ駆動時間(公称値) 12時間(書籍のみの場合18時間)
カメラ 前面+背面
価格(発売時) 40,980円(16GB)
47,180円(32GB)
53,280円(64GB)
39,800円(16GB)
45,800円(32GB)
51,800円(64GB)

 本製品は内部の強化が図られた製品ということで、外見については従来モデルに当たる「Kindle Fire HDX 8.9」とまったく同一である。これまでのKindleならびにFireシリーズでは、外観がそのままで内部の強化が図られた新製品が投入されるケースはあったが、ボディカラーが異なっていたり、ロゴが刷新されていたりと、何らかの見分け方があることがほとんどだった。その点本製品は、外観ではまったく見分けが付かない。

 また、端がナナメにカットされ、手に持つと薄く感じられるボディデザインも従来モデルに準じており、さらにスピーカーが背面にあるため音が後ろに抜けやすく正面から聞こえにくいという、どちらかというとマイナス面の特徴もそのままだ。純正カバーを付ければ背面で音を反射させて正面から聞こえやすくすることは可能だが、重量が増してしまうので悩ましいところである。

 このほか、他社タブレットのほとんどが実装している充電ステータス表示のLEDがなかったり、メモリカードスロットを搭載しないのも、従来モデルと同様だ。

背面左上には音量調節キーのほか、上部にスピーカーを搭載。従来モデルとまったく同じ配置だ。余談ながら背面に指紋がつきやすいのも従来のまま
背面右上。丸型の電源キー、スピーカーを搭載。ボタンは若干凹んでおり、正面からでも位置を把握しやすい
背面。上部には背面カメラを備える。amazonロゴも含め、従来モデルとまったく同一のデザイン
従来モデルと同じく断面がやや傾斜したボディであるため、USBケーブルを挿すとわずかに上を向く特徴もそのまま
厚さ7.8mmの薄型ボディは健在。最近ではiPad Air 2などさらに薄いタブレットもあるが、本製品は本体が軽いことから、数値以上に薄く感じられる
上が本製品、下が従来モデルのKindle Fire HDX 8.9。外観だけではまったく見分けがつかない
背面。写真では若干色味が違って見えるが、素材感も含めてまったく同一だ

 一方、内部についてはCPUおよびGPUの強化に加えて、Wi-Fiは新たにIEEE 802.11acに対応するなどのスペックアップが見られる。11acについては、同時期に発売された「iPad Air 2」、「Nexus 9」のほか、「iPhone 6」や「iPhone 6 Plus」も対応を果たしており、ニーズに合わせて実装されたというよりも、2014年秋〜冬モデルのトレンドの1つと捉えたほうがいいだろう。

 OSはAndroid 4.4をベースとした同社の独自OS「Fire OS 4」を搭載する。もっとも、本製品がリリースされてしばらくのち、従来モデルもFire OS 4へのバージョンアップが提供されたので、出荷時点でインストールされているか否かだけの違いで、ユーザーにとって条件は同じということになる。本製品と従来モデルではユーザー使用可能領域におよそ1GBの差があるが、Fire OS 4へのバージョンアップでほぼ等しくなるものと考えられる。

 続けて、同時期に発売された「Nexus 9」、「iPad Air 2」と比較してみよう。

【表2】他製品との比較
製品名 Fire HDX 8.9 Nexus 9 iPad Air 2
発売時期 2014年11月 2014年11月 2014年11月
メーカー Amazon Google/HTC Apple
サイズ(最厚部) 231×158×7.8mm 228.25×153.68×7.95mm 240×169.5×6.1mm
重量 約375g 約425g 約437g
OS Fire OS 4 Android 5.0 iOS 8
画面サイズ/解像度 8.9型/2,560×1,600ドット(339ppi) 8.9型/2,048×1,536ドット(288ppi) 9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)
通信方式 IEEE 802.11a/b/g/n/ac IEEE 802.11a/b/g/n/ac IEEE 802.11a/b/g/n/ac
内蔵ストレージ 16/32/64GB 16/32GB 16/64/128GB
バッテリ駆動時間(公称値) 12時間(書籍のみの場合18時間) 9.5 時間 10時間
カメラ 前面+背面
価格(発売時) 40,980円(16GB)
47,180円(32GB)
53,280円(64GB)
43,090円(16GB)
49,570円(32GB)
53,800円(16GB)
64,800円(64GB)
75,800円(128GB)
備考 - LTEモデルも存在

 本製品と同時期に発売されたiPad Air 2は9.7型にして約437gと、従来モデル比で32gの軽量化を達成したが、画面サイズの違いを無視して重量だけを見るならば、本製品のほうがまだ優位を保っている。また同じ8.9型であるNexus 9と比較しても、50gも軽い。

 7.8mmという厚みについては、iPad Air 2には敵わないものの、本体が軽いことから、実際に持ってみると数値以上に薄く感じられるほか、Nexus 9との比較では本製品の方が優勢だ。最近はiPad Air 2のほかソニーのXperia Z2 Tablet/Z3 Tablet Compactなど薄型化が著しく、本製品も従来モデル登場直後のインパクトは失われているが、まだまだ一線級の薄さである。

左から、本製品、Nexus 9、iPad Air 2の比較。本製品とNexus 9は同じ8.9型であるが、本製品は縦横率が16:10、Nexus 9は4:3のため、雑誌コンテンツを表示すると本製品のほうが一回り小さくなる
厚みの比較。いずれも左側が本製品、右側は上から順にNexus 9、iPad Air 2、iPad Air。iPad Air 2に比べると分が悪いが、その他との比較ではなんら引けをとらない

画面デザインおよび操作方法は従来と大きな変化なし

 開封からセットアップまでは、従来モデルと特に大きな違いはない。すなわち、まず最初にWi-Fiを設定したのち、Amazonのアカウントを入力、その後SNSアカウントなどの設定を挟み、操作方法を学ぶためのウィザードが表示されるという流れだ。Fire OSが3から4に変わって若干デザインは変更になり、独自ブラウザ「Silk」など一部のアイコンも差し替わっているが、使い方そのものはなんら変わっていない。

 ウィザードが完了する頃には、バックグラウンドでセットアップが完了しており、ホーム画面が表示される。左右フリックでさまざまなアイテムをスクロール表示する「スライダー」があり、上部にはゲーム/アプリ/本/ミュージック/ビデオなどの「コンテンツライブラリ」が並ぶレイアウトである。

 後は「端末」、「クラウド」を切り替えつつ、必要なデータをタップしてダウンロードしたり、それぞれのカテゴリから「Store」をタップして新しいコンテンツを購入すればよい。電子書籍のKindleストアのほか、Amazonインスタント・ビデオ、Amazonデジタル・ミュージックストアなどが利用できる。本や家電品といった、リアルなコンテンツについても購入できる。

 以下のスクリーンショットは、Fire OS 3との比較である。従来モデルもすでに最新のFire OS 4へのバージョンアップが提供されているので、アップデート後は本製品と同じ画面ということになるが、ここではデザインの違いをご覧いただくために紹介する。ちなみに本稿執筆時点でのバージョンは「4.5.2」である。

ホーム画面。最近購入したか、もしくは使用したコンテンツが中央のスライダに表示され、左右にスワイプして目的のコンテンツを探すことができる。画面を下から上へとエッジスワイプするとショートカットが表示される
「お買い物」。KindleストアをはじめとするAmazon運営のストアへのショートカットのほか、Amazon.co.jpで買い物をするためのリンクがまとめられている。主にフォントやアイコンが差し替えられていることが分かる
「ゲーム」ライブラリ。クラウドおよび端末上のゲームアプリを切り替えて表示できるほか、ストアに移動することも可能。ポイントを集計するGameCircle制が表示されるようになったことで大きく印象が変わった画面の1つ
「アプリ」ライブラリ。こちらもクラウド/端末を切り替えて表示できるほか、アプリストアにも移動可能。こちらはほとんど画面デザインに変化はない
「本」ライブラリ。クラウド/端末の切り替えができ、Kindleストアへも移動可能。リスト表示に切り替えることもできる
「ミュージック」ライブラリ。こちらもクラウド/端末の切り替えができ、Amazon MP3ストアへも移動可能。フォントやアイコンのほか、マージンがやや変化しているのが分かる
「インスタントビデオ」ライブラリ。動画サービス「Amazonインスタント・ビデオ」が表示される。見出しが「ビデオ」から「インスタントビデオ」に変わっていることが分かる
「ウェブ」ライブラリ。Amazon独自のブラウザ「Amazon Silk」が使用できる。ちなみにここではAmazonトップページを表示しているが、Amazonで買い物をするならば「お買い物」から行なうのが正しい
「写真」ライブラリ。本体内およびクラウドストレージ内にある写真を表示できる
「ドキュメント」ライブラリ。パーソナルドキュメントにアップロード済みのPDFコンテンツを表示できる。アイコンが従来とは大きく変化した

 ベンチマークソフト「Quadrant Professional Ver.2.1.1」および「3DMark Ice Strom Unlimited」による他製品との比較は以下の通りで、一部を除き、数値的には従来モデルから1〜2割増しとなっていることが分かる。

 もっとも、かなり極端な使い方でもない限り、従来モデルとの違いを意識することはほとんどない。例えば、従来モデルでは再生時に途切れることがあった動画が本製品ではスムーズに再生できるといったケースは、いくつかのデータを試す中ではたしかに見られたが、これにしてもNASに置いた自前のフルHDデータを再生するといった、相当のレアケースである。性能の強化自体は嬉しいことだが、もともとFireシリーズとの親和性が高いAmazonインスタント・ビデオなどを利用する上では、目に見える影響はなさそうだというのが、今回試した限りでの結論だ。

【表】Quadrant Professionalの結果
製品名 OS Total CPU Mem I/O 2D 3D
Fire HDX 8.9 Fire OS 4 23850 91409 17852 7167 498 2326
Kindle Fire HDX 8.9 Fire OS 4 20933 78366 16989 6719 333 2259
Kindle Fire HDX 7 Fire OS 4 21032 79529 16589 6477 324 2242
Nexus 9 Android 5.0 13529 41041 8903 14844 391 2465
Nexus 7 Android 4.4 5141 13908 7435 2038 247 2078
【表】3DMarkの結果
Fire HDX 8.9 Kindle Fire HDX 8.9 Kindle Fire HDX 7 Nexus 9 Nexus 7 iPad Air 2
Ice Storm score 17928 13731 16922 25642 10545 21766
Graphics score 19670 13051 16995 38540 10347 31638
Physics score 13686 16793 16672 11809 11300 10404
Graphics test 1 100.4 FPS 64.9 FPS 87.6 FPS 217.1 FPS 52.8 FPS 148.1 FPS
Graphics test 2 74.5 FPS 50.4 FPS 63.9 FPS 136.5 FPS 39.2 FPS 128.4 FPS
Physics test 43.4 FPS 53.3 FPS 52.9 FPS 37.5 FPS 35.9 FPS 33.0 FPS
OS 4.4.3 4.4.3 4.4.3 5 4.4.4 8.1.1
注:Fire HDX 8.9、Kindle Fire HDX 8.9および7はいずれもFire OS 4.5.2でテストしているが、OS表示はAndroidベースで「4.4.3」と表示される

担当者の顔が見えるオンラインサポート機能「MayDay」が初お目見え

 外観はもちろん画面も従来モデルとほとんど相違のない本製品だが、ソフトウェアベースでは新しく追加になった機能がある。後述するX-Ray機能とは異なり、本製品のユーザのみに提供される新機能が、オンラインサポート機能「MayDay」だ。

 使い方は、画面を上から下にエッジスワイプすると表示される「MayDay」ボタンをタップし、確認画面で接続を選択するだけ。しばらく待つとAmazonのサポート担当者が画面上のミニウィンドウに現われ、音声によるサポートが受けられるようになる。海外では以前から提供されていた機能だが、本製品から国内向けにも提供されるようになった。

画面を上から下にエッジスワイプし、「MayDay」ボタンをタップする。この時、質問の対象となる画面をあらかじめ表示させておくとよい
「接続」ボタンをタップすると呼び出しが行なわれる。なお窓口の混雑状態もこの段階で確認することが可能
「MayDay」ボタンをタップする時点でバックグラウンドに表示されていた画面の右下にウィンドウが表示され、呼び出しが行なわれる
担当者がウィンドウに表示され、この時点から音声でのやりとりが可能になる。ウィンドウはドラッグして移動させることも可能。ここではモザイクをかけているが、ウィンドウ左下には担当者の苗字も表示されるので安心感がある
終了時に表示される画面。「解決しました」、「解決しませんでした」のいずれかをタップすると元の画面に戻る

 この機能の特徴は、Amazonのサポート担当者の顔が見える状態でサポートが受けられることだ。何やらTV電話のような仕組みだが、こちらの姿は相手から見えるわけではなく、あくまでも一方向だけの表示なので、例え起き抜けの姿でサポート担当者を呼び出しても、自分の姿が相手の目に晒されるわけではない。要は話相手の姿が見えれば安心してサポートが受けられるという、ユーザーフレンドリーさを追求してたどり着いた形態というわけだ。

 また画面はサポート側と共有状態になり、相手からマーキングをしてもらうことも可能なので、TV電話というより、性格的にはWindowsで言うところのリモートアシスタンスに近い。対応可能な時間は24時間365日となっており、また同社サイトによると「応対待ち時間を15秒以内にすることを目指して」いるとのことで、文字通り思い立ったらいつでもすぐにサポートを受けることができる。

 今回、試しに12月31日の早朝5時という、かなりシビアな時間帯に本機能を使って問い合わせをしてみたのだが(もちろん抜き打ちである)、約12秒で日本人の担当者が画面下の小ウィンドウに表示され、スムーズに回答を得ることができた。今回問い合わせたのはKindleストアの使い方に関する、マニュアルなどに書かれていない突っ込んだ疑問点だったのだが、他部署などへの照会で待たされることもなく、簡潔かつ要領を得た回答を得られた。これだけハードルが低いと、日頃の疑問をいろいろ聞いてみたくなるのが、むしろ困りものである。

 本機能はタブレット初心者が使い方を習得するのに有用であり、それゆえ本製品を初心者にプレゼントするにあたっても重宝するのは確実だが、一定以上のリテラシーを持つユーザーであっても、一歩進んだ使い方を極めるのに役立つ。何せ本製品さえ所有していれば別途契約も不要で、無料で利用できる機能である。あまり負担をかけすぎて将来的に有料化されないよう、ユーザーとして一定の節度を守ることは心掛けたいところだが、本製品を手に入れたら積極的に活用したい機能であることは間違いない。接続前にあらかじめ窓口の混雑状況が確認できるので、ユーザー数が今後増えていったとしても、安心感は非常に高い。

 ちなみに国内初お目見えとなるこの機能、本製品のみの対応となっており、同時期に発売されたFire HD 6および7では対応していない。6,980円から購入できるFire HDシリーズとの差別化を図るという意味合いもあるだろうが、動画でのコミュニケートを行ないつつ、リモートで画面へのマーキングを行なうには、ハードウェアで相応の性能が必要なことは容易に想像でき、下位モデルでは対応しようにもできなかった可能性が高い。

 では従来モデル(Kindle Fire HDX 8.9)はどうかというと、Fire OS 4.5.2にアップデートしてもこのMayDayボタンが表示されず、こちらも現時点では非対応である。今後提供される可能性がゼロとは言えないが、ハードウェアのスペックで提供するしないの線引きをしているのであれば、おそらく難しいのではないだろうか。従来モデルから敢えて本製品に買い替える動機付けがあるとすれば、性能面よりもむしろこちらではないかと思う。

本を2度3度楽しめる、登場人物や用語をリスト表示できる「X-Ray」

 もう1つ、これは本製品だけではなくKindleシリーズやアプリなどでも使える機能だが、12月から提供が開始された「X-Ray」も面白い機能なので紹介しておこう。これは本の登場人物や用語などをリスト化し、本の中での“出番”がどこなのかを表示したり、文中に登場する専門用語が他の文脈でどのように使われているかを調べられる機能だ。

テキスト本でメニューを表示すると、右上に「X-Ray」というボタンが表示されている。ちなみに非対応コンテンツではボタンは表示されない
登場人物のリストと、その文脈が表示される。これは青空文庫の「坊っちゃん」だが、明らかな日本人名だけでなく「赤シャツ」などニックネームの登場人物もきちんと抽出されている
登場人物名をタップすると、本のどの部分で登場しているのか、バーの上に黒印がつけられて表示される。下段には詳しい文脈が表示され、タップするとそのページに直接ジャンプできる

 このX-Ray機能で生成された登場人物や用語のリストは、もとの本には存在しないコンテンツということもあり、既読本でも新鮮な驚きを提供してくれる。どのページに登場しているかをバー上に表示することで、ある人物がどの章で多く登場しているかを調べたり、あるいは単純に登場回数をカウントしたりと、手作業ではとうてい不可能な集計が一瞬でできるので面白い。感想文や書評をまとめる際にも役立つことだろう。

 また、本を初めて読む際には登場人物名や用語をチェックする以外に、既読の本を違った角度から楽しみたいケースにもおすすめできる。とくに推理小説などは、あとから物語の伏線を探すなど、2度目3度目ならではの楽しみ方ができるだろう。読了済みの本であっても、このX-Rayに対応していることでもう一度読み返すモチベーションになる。言うなれば愛読者向けに用意されたボーナスコンテンツのようなものだ。すでに多数の本を所有しているユーザにとっては、試してみて損はない。

 肝心の人名やキーワードの抽出精度だが、フルネーム表記と苗字だけの表記でもきちんと同一人物として扱っていたり、また「僕」、「私」など一人称やニックネームで書かれた人物もリストアップしていたりと、なかなかインテリジェントというのが率直な印象である。抽出内容が不完全な場合もあるにはあるが(すべての登場人物を漏らさず網羅するところまではいかないようである)、それもひっくるめて楽しめる。

小川洋子著「博士の愛した数式」でX-Ray機能を使用したところ。「博士」、「私」のほか「ルート」といったニックネームの登場人物、さらに実在の人物である「江夏豊」、「オイラー」も表示される。実在の人物についてはWikipediaの説明文が表示されているのに注目
Wikipediaに項目がある場合、詳細ページからポップアップ表示したり、さらにブラウザでWikipediaを開くことも可能
谷川流著「涼宮ハルヒの憂鬱」でX-Ray機能を使用したところ。主要登場人物が一覧化されている中、主人公のキョンが漏れているのは、主に一人称で書かれているためか、あるいは他の登場人物と違ってニックネーム表記だからだろうか
人物以外にトピックについても表示できる。これは福井晴敏著「機動戦士ガンダムUC 1」でX-Ray機能を用いてトピックを表示したところ。「モビルスーツ」、「地球連邦軍」、「ジオン」など同作品に頻出する用語がピックアップされている。Wikipediaから引用された説明文はタップするとポップアップ表示され、Wikipediaにジャンプも可能
ノンフィクションの場合、人物はデフォルトでWikipediaの説明文が表示されるあたり、コンテンツの側でなんらかの表示方法を指定できるようだ。これは半藤一利著「日本のいちばん長い日(決定版)」
本文中の画像についても表示できるので、挿絵を参照するほか、推理小説などで見取り図や地図にすばやくジャンプしたい場合などに便利。これは綾辻行人著「十角館の殺人」でX-Ray機能を使用したところ
X-Ray機能は本製品特有というわけではなく、ほかのKindle端末やアプリでも使用できる。これはKindle Voyageで前述の「博士の愛した数式」を表示したところ

 ちなみに特定のコンテンツがX-Rayに対応しているか否かについてだが、現状はまったくのバラバラで、傾向も不明である。試しに筆者のライブラリにあるテキスト本数十冊を抽出してX-Rayへの対応状況を調べたのが以下の表だが、同じ出版社でも対応している場合とそうでない場合があり、発刊時期が新しいほど対応しているわけでもない。小説ばかりでノンフィクションは非対応というわけでもなく、「日本のいちばん長い日(決定版)」のように対応している例もある。

【表】X-Ray対応コンテンツ
タイトル 著者 出版社/底本 X-Ray対応
ラヴクラフト全集1 H・R・ラヴクラフト 東京創元社
セーラー服と機関銃 赤川次郎 角川文庫
もういちど生まれる 朝井リョウ 幻冬舎
桐島、部活やめるってよ 朝井リョウ 集英社文庫
十角館の殺人 綾辻行人 講談社文庫
帝都物語 第壱番 荒俣宏 角川文庫
グラスホッパー 伊坂幸太郎 角川文庫
砂漠 伊坂幸太郎 実業之日本社
残り全部バケーション 伊坂幸太郎 集英社文芸単行本
ゴールデン・スランバー 伊坂幸太郎 新潮社
バイバイ、ブラックバード 伊坂幸太郎 双葉社
SOSの猿 伊坂幸太郎 中公文庫
死神の浮力 伊坂幸太郎 文藝春秋
博士の愛した数式 小川洋子 新潮社
レヴォリューション No.3 金城一紀 角川文庫
ポニー・テールは、ふり向かない 喜多嶋隆 角川文庫
星を継ぐもの ジェイムズ・P・ホーガン 創元SF文庫
リング 鈴木光司 角川ホラー文庫
人類は衰退しました 田中ロミオ 小学館
涼宮ハルヒの憂鬱 谷川流 角川スニーカー文庫
時をかける少女 筒井康隆 角川文庫
罪と罰(上) ドストエフスキー グーテンベルク21
機動戦士ガンダム I 富野由悠季 角川スニーカー文庫
掟上今日子の備忘録 西尾維新 講談社
孤高の人(上) 新田次郎 新潮社
渚にて 人類最後の日 ネヴィル・シュート 東京創元社
日本のいちばん長い日(決定版) 半藤一利 文春ウェブ文庫
機動戦士ガンダムUC 1 福井晴敏 角川スニーカー文庫
審判 フランツ・カフカ 角川文庫クラシックス
マネー・ボール マイケル・ルイス 武田ランダムハウスジャパン
鴨川ホルモー 万城目学 角川文庫
ビブリア古書堂の事件手帖 三上延 メディアワークス文庫
百億の昼と千億の夜 光瀬龍 角川文庫
女子大生会計士の事件簿 山田真哉 角川文庫
出口のない海 横山秀夫 講談社文庫
悪人 吉田修一 朝日文庫
氷菓 米澤穂信 角川文庫
華氏451度 レイ・ブラッドベリ ハヤカワ文庫SF

 また上の表にはないが、角川スニーカー文庫の「機動戦士ガンダムUC」に至っては、全10巻のうち1、2、7巻がX-Ray対応、それ以外が非対応だったりと、同一シリーズでも途中で対応しなくなる例が見られるほか、「帝都物語」シリーズのように、最初の巻(第壱番)だけX-Rayに対応し、残り5巻は非対応という例もある。「涼宮ハルヒ」シリーズも、既刊本12冊のうち対応が5冊で非対応が7冊とほぼ半々で、かつ発刊順序とも一致しておらず、対応/非対応を決めているトリガーが何なのかは不明である。シリーズものの場合、物語が進行して登場人物が増えるにつれて有用性が高まる機能だと考えられるので、今後ランニングチェンジで対応が広がることに期待したい。

このほかKindleの新機能として、洋書を表示した際に難しい英単語の上にヒントを自動表示する「Word Wise」機能があるが、現時点では本製品は対応していない。画像はKindle Voyageで「Word Wise」をオンにしたところ

 ちなみにこのX-Ray機能、FireシリーズのほかKindle端末、またiOS/Android向けアプリでも利用できるが、呼び出し方はそれぞれ異なっており、また本製品では表示できるがほかのプラットフォームでは表示できないケースもあり、浸透にはもうしばらく時間がかかりそうである。とは言えマーカーやSNS共有、辞書検索といった電子書籍ならではの機能が各社ともに横並びである中、電子書籍をこれまでにない違った側面から楽しめるKindle特有の機能として、他ストアとの強力な差別化要因になりそうだ。海外ではすでに対応済みの、動画コンテンツへの対応も将来的には期待したい。

 なお青空文庫については、今回ランダムに20点ほどの作品をチェックしたところ、すべてにおいて対応を果たしていた。従ってX-Rayとはどういうものかを体験したければ、まずは青空文庫で試してみることをおすすめしたい。ちなみに12月上旬時点で対応する日本語書籍は1,500点とされており、特定の電子書籍がX-Rayに対応しているか否かは購入ページで確認できる。

性能は折り紙つき。ただしプラスアルファもそろそろ欲しい

 筆者は本製品を購入するまでの約1年間、従来モデル「Kindle Fire HDX 8.9」をほぼ毎日といっていいほど使っており、操作方法の習熟度はおそらく高い方だが、その筆者から見ても今回の「Fire HDX 8.9」は従来モデルとの違いが分かりにくい製品だ。外見が同一ということもあり、筆者は現時点で従来モデルが保護フィルムあり、本製品が保護フィルムなしで区別できるようにしているが、CPUやGPUの性能強化はふつうに読書や動画鑑賞をしていて意識することがほぼないだけに、本製品と間違えて従来モデルをしばらく使い続けてしまうこともしばしばだ。従来ユーザーが積極的に買い替える価値があるかと言われると、さすがにノーと答えざるを得ない。

 もっとも、これは従来モデルの完成度が高すぎて、ブラッシュアップする程度しか手の付けようがなかった証でもあり、性能自体は折り紙つきなので、新規ユーザーにはおすすめできる製品である。また新しく追加されたMayDay機能は、遠隔地に住むため直接サポートできない身内、例えば実家の両親などへのプレゼントに適しているという点で、これまでにない強みを感じさせる。タブレットをプレゼントしたいが、その後メールや電話で操作方法をサポートせざるを得ないとなると一歩引いてしまう……というニーズにぴったりハマる製品は、他社同等品を探してもそれほど多くはない。最近は価格競争のあおりでこうしたサポートは省略される傾向にあるのでなおさらだ。こうした取り組みを待望していたという人は、実は多いのではないだろうか。

 ただ、現状でiPad Air 2やNexus 9などの汎用タブレットに比べて圧倒的な価格競争力があるわけではなく、次のモデルチェンジでそれらの後継品がさらに薄く軽くなる可能性を考慮すると、ハード面では次のフェーズに向けてプラスアルファが欲しいのも事実である。Kindleアプリを入れたiPadやAndroidタブレットと比べ、購入フローなどのスムーズさは強みがあるが、一方でアプリのラインナップが少ないといった弱点があるだけに、それらが一朝一夕に解消されないとなると、別の「何か」に期待したくなる。可能性がありそうなところでは防水機能などが考えられるが、これにしてもすでにソニーのXperia Z2 Tabletなどで搭載済みで、目新しさはない。次に向けてAmazonがどんな一手を打ってくるか、期待して待つことにしたい。

本製品のボディデザインは従来モデルと同一だが、先日発売されたKindle端末の最新モデル「Kindle Voyage」とも共通点が多い
中でも電源ボタンなどは、本製品とKindle Voyage、およびKindle Fire HDX 7で同一の部品を使用しているとみられる
本製品はHDMIポートは搭載しないが、別売りのHDMIアダプタを接続することで動画や写真などをHDTVに出力できる。ちなみにこのアダプタは本製品のほかFire HD 6/7にも対応するが、従来モデルであるKindle Fire HDX 8.9は非対応とされている

(山口 真弘)