山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Amazon「Kindle Fire HD」(後編)

~アプリや音楽、動画などの機能をチェック

Kindle Fire HD
発売中

価格:15,800円~

 Amazon専用の7型カラー液晶タブレット「Kindle Fire HD」。レビューの前編では、基本的な使い勝手とKindleストア周りの機能について紹介した。後編となる今回は、アプリや音楽、動画といった電子書籍以外の機能についてチェックしていく。

Amazonの各サービスとシームレスに結びついたタブレット

 Kindle Fireシリーズの機能を見ていくと、大きく2つに分類できることが分かる。

○Amazonからコンテンツを購入して楽しむもの

  • 本(Kindleストア)
  • ミュージック(Amazon MP3ストア)
  • アプリ&ゲーム(Amazon Androidアプリストア)
  • 買い物(Amazon.co.jp)

○Amazonの機能を利用するもの

  • Webアクセス(Amazon Silk)
  • ドキュメント(パーソナルドキュメント)
  • 写真(Amazon Cloud Drive)

 本来ならばここに「ビデオ」が入ってくるべきなのだが、現時点でAmazonの動画配信サービス「Amazon Instant Video」は日本ではサービスインしていないため、Kindle Fireシリーズにおける「ビデオ」は、USBケーブルで転送した動画を再生できるだけにとどまっている。MIMO技術を利用した本製品のデュアルアンテナは、動画などの大容量データのストリーミングにこそ真価を発揮するわけで、現時点では宝の持ち腐れに近いのだが、そのうちサービスが開始されることは間違いないので、気長に待つことにしたい。

現時点でメニューから「ビデオ」をタップすると、手持ちの動画を転送する方法が表示される。ちなみに指示に従って転送した動画は「パーソナルビデオ」という名称で扱われる
Kindle Fire HDの8.9型モデル(Kindle Fire HD 8.9")は現時点で日本未発売。動画再生に適した大画面ということもあり、LTE搭載モデル(Kindle Fire HD 8.9" 4G LTE Wireless)とともに、「ビデオ」のサービスインとともに追加投入される可能性はありそうだ

 さて、この「ビデオ」のように、国内ではなんらかの制約があって利用できないコンテンツを除けば、上記の機能はなんらかの形でAmazonのクラウドを利用するという点で共通している。それだけAmazonの各サービスとシームレスに結びついたタブレットであり、汎用的なタブレットとは大きく異なるところだ。この点については事前に知っておいた方が、理解が深まるだろう。

アプリ

「アプリ」のトップ画面。「ゲーム」はディレクトリ的にはこの下層に位置するが、メニューではこの「アプリ」と並列に並ぶ。なお、有料アプリが日替わりで無料になる「本日限定 無料アプリ」はチェックしておいて損はない

 まずは「アプリ」から見ていこう。Amazonサイト上の本製品のカスタマーレビューでもっとも言及数が多いのが、この「アプリ」に関するものだ。内容の多くは、AppStoreやGoogle Playといったストアに比べ、ラインナップが圧倒的に少ないことに対する指摘である。TV CMで放映されているアプリの一部がいまだ登録されていないケースもあるようで、一概にユーザーの下調べ不足と言えない節もある。

 アプリストアのラインナップについては拡充を待つしかないが、ベンダーによってはストアを経由せずにアプリを配布している場合もあるので、ストアにないからといって諦めるのは早計だ。著名なアプリではDropboxが挙げられ、apkファイルをダウンロードしてインストールする方法が、同社Webサイトで詳しく解説されている。

 Dropboxがあれば、撮影した写真やスクリーンショットを素早くDropboxのクラウドにアップロードできるようになるほか、手持ちのファイルをKindle Fireシリーズに転送するのも容易になるので、Dropboxのユーザーは入れておくことをお勧めする。

 ちなみにほかのオンラインストレージでは「Box」がストア上で公式アプリを配布しているが、アップロードを手動で1ファイルずつしかできないなど、現状では使い勝手はいまいちだ。

ブラウザからDropboxのWebサイトにアクセスすると、Kindle Fireへのインストール方法を記したページが見つかる
ストアを経由せずにアプリをインストールするためには、設定画面の「端末」の中にある「アプリケーションのインストールを許可」をオンにしておく必要がある。言うまでもないが、これ以降は全てユーザーの自己責任だ
DropboxのWebサイトからapkファイルをダウンロードする。通知領域にダウンロードが完了したことが表示されるので、タップして実行する
インストールするかを尋ねられるので「インストール」を選択する
インストールが実行される
Dropboxの起動画面が表示されたら手持ちのアカウントを登録する。アプリを「お気に入り」に登録しておけば、以降はお気に入りからすぐ呼び出せるようになる

 なお注意したいのは、Amazon Androidアプリストアを経由せずにapkファイルからインストールしたアプリは、クラウドにバックアップされないことだ。通常のアプリであれば、いったん削除してもアプリストアを開くことなくクラウド(アプリコンテンツライブラリ)から簡単に再インストールできる。しかし独自にapkファイルからインストールしたアプリはクラウドには保存されないので、本製品を初期化すればそれっきりだ。本製品は起動パスワードを5回連続して間違うと出荷時状態に戻さなくてはいけないので、こうしたリスクはある。Amazonがアプリの動作保障をしているわけではない点も含め、自己責任であることは忘れないようにしよう。

 ちなみにストアの使い勝手についてだが、悪い意味でAppStoreやGoogle Playとよく似ており、カテゴライズが独特なうえに和洋のアプリが混在しており、非常に探しにくい。後者については単に日本向けのアプリが少ないことが影響しているようだが、もう少し絞り込みなどの機能を強化してほしいと感じる。

ミュージック

 Amazon MP3ストアは、大雑把に言ってしまえばKindleストアの音楽版であり、購入した楽曲をKindle FireシリーズやiOS/Androidアプリ、さらにはPCで再生して楽しめる。PC用のソフト「Amazon MP3 ダウンローダー」を使えば、ローカルにダウンロードしてiTunesなどに自動追加することもできるなど、DRMフリーならではの強みをもつ。フォーマットはMP3およびiTunesのAACファイル(.m4p)をサポートしている。

「ミュージック」のトップ画面。今回は試しにThe Beatlesのカバーアルバムである「# 1 Beatles Hits」(上から4つ目)を購入してみる。価格の部分をタップすると「購入」というボタンに変わるのでもう一度タップする
購入完了。この時点でAmazon Cloud Playerのクラウドに保存される
ダウンロード中。手動でのダウンロードはもちろん、購入後に自動的にダウンロードする設定も可能
再生中。リピートやシャッフルなど、プレーヤーとして一般的なインターフェイスを備える。余談だがこの「# 1 Beatles Hits」はカバーアルバムであり、名前がよく似た「The Beatles 1」とはまったく異なる

 Amazon MP3ストアで購入した楽曲はクラウドに保存されるので、Kindle Fireシリーズだけでなく、iOS/Android用アプリ「Amazon Cloud Player」や、PCのブラウザで聴くこともできる。PCにプレーヤーを入れておかなくても、ブラウザがあればアクセスして聴けるのは便利だ。またスマホ用アプリはオフライン再生にも対応しているので、地下鉄など電波の入りにくいところでも聴くことができる。

iPhoneアプリ「Amazon Cloud Player」から見たところ。ちなみにAndroidアプリもほぼ同じインターフェイスだが、iPhoneアプリと違ってストア機能があり、名称も「Amazon MP3」と異なる
PCからはブラウザベースで「Amazon Cloud Player」にアクセスして楽曲が再生できる。なおAmazon Cloud Playerは最大10台の端末からアクセスできる

 このCloud Player、海外版では手持ちの音楽ファイルも取り込める機能があり、CDなどからリッピングした楽曲ファイルを複数環境で共有するのに便利なのだが、日本国内では対応していない。そのため現状ではAmazon MP3ストアで購入した楽曲のみの対応となる。このあたりは国内未リリースのiTunes MatchやGoogle Musicも同様で、法的な問題が絡むので難しい。将来的になんらかの解決を期待したいところである。あとはなんといってもラインナップの増強だろう。

 ちなみに手持ちの楽曲ファイルをKindle Fireシリーズで再生するには、USBケーブル経由で楽曲をKindle Fireシリーズに転送すればよいのだが、やや時代遅れな感は否めない。それなら、楽曲ファイルをリモートで再生できる「aVia Media Player」のようなプレーヤーを使った方がいいだろう。これがあれば、DLNA対応のNASなどの機器に保存されている楽曲ファイルをリモートで再生できるので、わざわざ転送する必要もない。DLNA特有の階層構造の複雑さはあるが、ランダム再生なども可能なほか、プレイリストも作成できる。なにより、iTunes MusicフォルダをNAS上に置いているような場合は、そのままKindle Fireシリーズで使えてしまうのでお勧めだ。

「aVia Media Player」のメイン画面。「音楽」「ビデオ」「写真」の3つが並ぶ
「音楽」をタップして開いたところ。DLNA対応プレーヤーではおなじみの階層構造だ
DLNA対応のNASや、Dropbox内に保存されている楽曲を表示、再生できる
タップすれば再生できる。Dropboxに保存されているMP3ファイルはアーティスト名が正しく表示されないが、それ以外はとくに利用に支障はない
Amazon MP3ストアで購入した楽曲もこの「aVia Media Player」で再生できる
プレイリストの作成も可能

 この「aVia Media Player」が秀逸なのは、Dropboxに保存されているMP3ファイルのストリーミング再生ができることで(有料のPro版のみ)、これとモバイルルータなどを組み合わせれば、外出先でDropbox内のMP3ファイルを再生するという芸当も可能だ。再生の進み具合に対してどれだけキャッシュが進んでいるのか分かりにくいのがやや難だが、ネットワーク環境さえあればクラウド経由で楽曲が再生できるのは便利だ(Androidのスマートフォンとの共用もできる)。おそらくAmazon Cloud Playerはこのようなことをやりたかったのではないだろうか。この「aVia Media Player」は後述する動画や写真の再生にも使えるので、Kindle Fireシリーズのユーザーは導入しておくことをお勧めする。

 なお、Kindle Fireについては本体に音量調節キーがないほか、スピーカーも2基がともに本体上部に並ぶなど、あまり音楽再生に向いた設計とは言えない。Kindle Fire HDであれば音量調節キーも備えるのはもちろん、本体左右にドルビーオーディオスピーカーを備え、さらにBluetoothのヘッドフォンまで使える。音楽/動画機能を重視するのであれば、Kindle FireよりもKindle Fire HDをチョイスした方がよい。

ビデオ

 「ビデオ」については冒頭で述べたように国内ではAmazonの対応ストアがサービスインしていないため、現状ではUSBケーブルで転送したmp4形式の動画ファイルを再生する機能しか持たない。ただし「ミュージック」と同様、別の動画アプリを入れることで使い道は大きく広がる。

 オンラインで動画コンテンツを視聴できるサービスとしては、 TSUTAYA.comの「TSUTAYA TV」がある。多くは48時間のレンタル制で、新作が400円から、旧作が300円からとなっており、月間20作品までを視聴できる980円の月間レンタルサービスも用意されている。品揃えはカテゴリによっても数に差があるので各自で判断いただくとして、個人的には、Amazon Instant Videoが国内でサービスインすれば競合になるはずの動画視聴サービスを、Kindle Fireシリーズ上でアプリを提供していること自体にむしろ驚く。

「TSUTAYA TV」。あらかじめ「アプリ」からダウンロードしてインストールしておく。会員登録は無料。クレジットカード番号が必要になるので準備しておく
決済が完了するとダウンロードが開始されるが、実際にはダウンロード完了を待たなくともストリーミングで視聴を開始できる。視聴し始めた時点で視聴期限のカウントが始まる
ダウンロードリスト。買い切りではなくレンタルなので期限が来ると視聴できなくなる

 動画コンテンツを新たに入手するのではなく、手持ちの動画ファイルを観るのであれば、「VPlayer」をお勧めする。標準プレーヤーよりも多彩なファイルフォーマットに対応するほか、DLNAをサポートしている機器上の動画データをストリーミング再生できる。

 ストリーミング再生については「ミュージック」の項で紹介した「aVia Media Player」でも構わないのだが、手持ちのDLNA機器で試した限りでは「aVia Media Player」ではエラーが出る動画が、この「VPlayer」では再生できるケースも多かった。すでに「aVia Media Player」を購入していればまずそちらを試し、うまくいかなければこの「VPlayer」を試してみるのがいいだろう。

「VPlayer」。Androidでは定番の動画プレーヤーの1つ。7日間限定のトライアル版という位置付けで、継続使用する場合は「VPlayer Unlocker」(499円)の購入が必要
DLNA対応機器に保存した動画ファイルを再生できる。これはNECのルータ「Aterm WR9500N」に接続したUSBメモリ内のフォルダを表示している
標準でサポートしているたmp4形式以外の動画ファイルも認識、再生できる
再生画面。ジェスチャー機能を備えており、画面を上下にスワイプして音量調節、左右にスワイプして早送りや巻き戻しが可能
この種のアプリとしてはかなり細かい設定が可能。日本語が怪しいのはご愛嬌

 ちなみにこの「VPlayer」で動画コンテンツを観ていると、Nexus 7では転送速度の関係でまともに再生できなかった動画ファイルが、Kindle Fire HDではちゃんと再生される場合があった。これは本製品のデュアルアンテナの威力とみていいだろう。個人的には、無線LAN搭載のPC上で再生した際も頻繁に止まっていたHD動画がスムーズに再生されたのは感動した。早送りや巻き戻しの際のバッファの時間も明らかに短かく、ポテンシャルの高さを感じる。

 またサウンドのクオリティについては、比較にならないレベルで本製品の方が上である。7型タブレットで横向きにした際に左右にスピーカーが来る製品自体が数少ないことに加えて、音の拡がり、深みともに、タブレットではこれまでなかったクオリティだ。このようにハードの性能は十分なだけに、Amazonネイティブの動画配信サービスの開始が待ち望まれるところだ。

写真とドキュメント(Amazon Cloud Drive)

 「写真」と「ドキュメント」については、Amazonのオンラインストレージサービス「Amazon Cloud Drive」にアップロードしたものが「写真」、「ドキュメント」にそれぞれ表示される。また本体前面カメラで撮影した画像やスクリーンショット、またFacebookから取り込んだ画像についても「写真」に表示できる。

PCにインストールした「Amazon Cloud Drive」のアップロードウィンドウ。ここにデータをドラッグ&ドロップするとクラウドにアップロードされ、Kindle Fireシリーズから見られるようになる。なお楽曲ファイルや動画ファイルはアップロードは行なえるものの、Kindle Fireシリーズ上で表示することはできない
アップロードした写真は、「写真」を「クラウド」に切り替えると表示される。タップするとダウンロードされ表示することができる
アップロードした各種オフィスファイルやPDFは「ドキュメント」に表示される。ちなみにKindleのパーソナルドキュメントにアップロードしたファイルもここに表示されるのでややこしい

 もっとも、この「写真」のビューワはスライドショー機能もなければ、写真の向きを回転させる機能もなく、お世辞にも高機能とは言えない。お勧めは、「ミュージック」の項でも紹介したアプリ「aVia Media Player」を使って表示する方法だ。これなら本体にダウンロードした写真やDLNA対応機器に保存されている写真だけでなく、Dropbox、さらにはPicasaに保存してある写真についてもスライドショー表示できる。

「aVia Media Player」を使い、DLNA機器上の写真ファイルを表示しているところ
スライドショー表示も可能。サイズの大きい写真をスライドショー表示すると画質が粗い状態のまま次の写真に移動してしまうことがあるが、いったんキャッシュされると問題なく表示されるようになる

 なお「Amazon Cloud Drive」は無料で5GBまで利用できるが、追加容量を購入することもできる。20GBで800円/年から、1,000GBで40,000円/年までかなり幅広い。オンラインストレージサービスとして見た場合は競合も多いが、Kindle Fireシリーズとのシームレスな連携性はなかなか魅力である。Dropboxのようにローカルフォルダと自動同期する機能がPC側のユーティリティに追加されれば、利用頻度も増えるのではないかと思う。

Android向けには「Amazon Cloud Drive Photos」という専用アプリが用意されており、撮影した写真をAmazon Cloud Driveに自動アップロードできる
「Amazon Cloud Drive」をPCのブラウザで表示したところ。アップロードのほか、写真のプレビュー表示も可能

ウェブとメール

 最後に紹介するのは「ウェブ」、つまりブラウザによるインターネットアクセスと、あとは「メール」だ。ブラウザについては、クラウドを利用して転送時間を短縮するという触れ込みの「Amazon Silk」を搭載しているが、正直なところ、普通に使っている限りでは高速なのかどうかはよく分からない。ブラウザとしての機能そのものは標準的で、とくに使い勝手が悪いことはないのだが、もう少しエッジの立った機能があってもいいかもしれない。スターターページの「話題のサイト」「おすすめサイト」が随時更新されるのが、1つの特徴といえばそうだろう。

「Amazon Silk」。見た目は普通のブラウザで、使い勝手もいたって普通。Flashには対応しないが、これはAndroidでは共通なので、とりたてて欠点とはいえないだろう
新規タブを開くと、よく使用するサイトや話題のサイト、お勧めサイトが並んだスターターページが表示される。自分が一度も開いたことのないページがここに表示されるのが、OperaのSpeed DialやChromeの「よくアクセスするページ」との相違点
設定画面。「ページの読み込みを速くする」にチェックが入っていると先読みが行なわれるようになる。ちなみに検索エンジンのデフォルトはBingで、Googleなどに切り替えることもできる

 一方の「メール」については、GmailやYahoo!メールのほか、一般的なプロバイダも設定できる。「本」や「ミュージック」と並列に並んでいる「ウェブ」とは異なり、アプリの1つとして一階層下に位置付けられるなど、あまり機能的には重視されていない感はある。

メールの一覧表示画面。画面を右にスライドさせると受信トレイなどほかのラベルが表示できる
メールの個別画面。一般的なメールアプリと大きく変わるところはない。よく使う単語を辞書登録しておけば、メール作成もそこそこ快適に行なえる
さまざまなメールアカウントを設定できる
Gmailについては受信トレイの確認頻度を自動(プッシュ)にも設定できるのだが、試した限りではうまく動作しなかった。Exchange経由で設定すればうまくいくのかもしれないが、今回は未検証

まとめ

ハードウェア上のライバルと目されるNexus 7(中央)、iPad mini(右)だが、ことAmazon関連の機能については、KindleやCloud Playerアプリを一通り入れたとしても、Kindle Fire HDほどの統一感や連携性は出ない

 読書やTV、音楽、映画、インターネット、そしてゲームに至るまで、今の時代は過酷な可処分時間の取り合いである。ハマるゲームが登場すれば、ほかのゲームはもちろん、ほかの娯楽のための時間までもが持っていかれる。同じジャンルで競り合っているように見えて、実際にはまったく違う争いがジャンル間で繰り広げられているわけだ。

 そうした意味で、Kindle Fireシリーズは、これら可処分時間の取り合いをするさまざまな娯楽が1台に詰まった端末である。本に飽きたらゲーム、ゲームに飽きたらネットといった具合に、1台あればあらゆる娯楽が楽しめる、いわば可処分時間キラーだ。ないのはTVくらいで、これにしても一部サードパーティーが外付けデバイスを開発中との話もある。

 これは汎用タブレットも似たような形になりつつあるのでKindle Fireシリーズだけが特別な存在というわけではないのだが、結果的にそのような形になりつつある汎用タブレットと、当初からそれらを指向して設計されたKindle Fireシリーズとでは、囲い込み方のレベルが少々違う。Kindle Fireシリーズはホーム画面に戻るたびに別のコンテンツが提示されるので、あらゆる意味で飽きさせないのだ(逃れにくいとも言う)。このあたりの感覚は、従来の汎用タブレットとはやや異質である。

 ただ、今回国内向けにリリースされたKindle Fireシリーズでは、海外版では利用可能な機能のいくつかが省かれているが故に、汎用タブレットとそれほど大きな差が感じられず、逆にアプリなどの品揃えの少なさに目が行きがちというのもまた事実だ。これもまた視点としては正しい。Amazonのカスタマーレビューで本製品の評価が二分しているのは、このあたりを肯定的に見るか、否定的に見るかの違いだけで、感覚的にはきわめて近しい気がする。

 ともあれ、今回のレビューで紹介したように、現時点で欠けている機能の一部は別のアプリでカバーできる場合も少なからずあるので、これらのアプリを「お気に入り」に登録してすばやく星マークから起動できるようにしておけば、ずいぶんと印象は変わる。なによりこの価格にして、この音質や画質のポテンシャルである。Kindleストアはこの年末年始にかけてもコンテンツが大幅に増強されていたりと(ほかのストアに遅れをとっていたジャンプコミックスカラー版の大量投入は嬉しい)、Amazonの本気を感じる。当面はこうした「中身」の進化に注目していきたい。

(山口 真弘)