山田祥平のWindows 7カウントダウン

ウィンドウ操作の効率化



 Windowsにおけるウィンドウには、いくつかの状態がある。その状態をうまくコントロールし、作業しやすいデスクトップにするには、ユーザー側の積極的な操作が求められてきた。Windows 7のAero Snapは、そのコントロールをインテリジェント化してくれる。

●ウィンドウサイズを最適化するAero Snap

 Windows OSにおいて、ファイルを扱う一般的なプログラムは、自身をウィンドウとして開き、その中にファイルを開く。そして、開いたウィンドウのサイズにはいくつかの状態がある。

1. 最大化状態
2. 最小化状態
3. 最大でもなく、最小でもない「元のサイズ」
4. 閉じた状態

 閉じた状態をウィンドウというかどうかは議論もあるが、未起動のプログラムをタスクバーに置けるWindows 7ではそれもありだとしたい。

 1、2、3、4それぞれの状態への移行は基本的にはウィンドウ右上のボタンを使う。閉じるボタンは多少大きいが、最小化、最大化(元のサイズ)ボタンは小さい。ここにポインタをピタリと合わせるのはたいへんだと思ったら、タイトルバーをダブルクリックするという手もある。これは昔ながらの方法で、元のサイズと最大化状態を行き来することができる。

 また、閉じるための方法としては、ウィンドウ左上をダブルクリックするという方法もある。新しい世代のアプリケーションウィンドウでは、ここにコントロールメニューを置かないものもあるが、表示はされていなくても、シングルクリックでコントロールメニューが開き、ダブルクリックで、デフォルト項目の「閉じる」が実行される。さらに、Word 2007やExcel 2007などは、シングルクリックしてもコントロールメニューは表示されないのに、ダブルクリックすれば「閉じる」が機能するという妙な振る舞いになっている。それでもAlt+スペースではコントロールメニューが表示されるのだから不思議な感じだ。

Word 2007のウィンドウにはコントロールメニューボタンはないが、ダブルクリックすればウィンドウは閉じるし、Alt+スペースでコントロールメニューも表示される

 さて、3番目の状態である「元のサイズ」だが、これがもっともクセモノで、決して広くはないデスクトップを少しでも有効に使うために、パワーユーザーたちは、ユーティリティまで使って、ウィンドウサイズを絶妙なサイズに調整しながら複数のウィンドウをデスクトップに表示させてきた。

 だが、Windows 7では、Aero Snapと呼ばれる機能が用意され、ウィンドウサイズの最適化を半自動で行なえるようになった。

 タイトルバーをドラッグすれば、ウィンドウを移動できるのは、ご存じの通りだが、Windows 7では、移動中のウィンドウを、デスクトップの右側に振れば右端に、左側に振れば左端にスナップし、ちょうど、デスクトップを縦方向に半分使うサイズに最適化される。

ウィンドウを右または左に振ると、デスクトップの半分を使った条件付き最大化が行なわれる

 何が便利かというと、2つのウィンドウを左右に並べて表示し、参照したり、ドラッグ元、ドラッグ先として使うときにわかりやすい。

 実は、こうした作業は、Vistaでだってできなくはなかった。デスクトップを、並べたいウィンドウだけが開いた状態にし、タスクバーを右クリックしたショートカットメニューから「ウィンドウを左右に並べて表示」を実行すればいい。

 言ってしまえば、元も子もないが、つまるところは「ただし横幅半分」という条件付き最大化が、Aero Snapの正体だ。

●フルHD液晶なら十分に快適

 デスクトップを縦に2分割するように2つのウィンドウが並んだ状態は、たとえば、24型サイズのフルHD液晶なら、かなり快適に使える。1,920の半分、つまり、横方向が960ドットあれば、たとえば、IEとWordのウィンドウを並べて参考資料を見ながら文書を作るような環境が簡単に作れる。

デスクトップを2分割した状態で作業をしてみる。24型フルHDクラス(1,920×1,080ドット)なら快適。横1,280ドット程度ではちょっとつらい。サイトによっては、本文のフレームがうまく収まることもある

 12.1型ワイドで1,280×800ドットあたりでは、ちょっと窮屈だ。横方向が640ドットでは、多くのウェブサイトで、その表示に横スクロールが必要になる。スクロールしなくていいようにウィンドウ内の表示をズームすればいいが、さすがに文字が小さすぎてつらい。まして、いわゆるXGA解像度(1,024×768ドット)のスクエア液晶では、さらに横幅が狭くなり、ちょっと使う気になれないかもしれない。

 Aero Snapによる最適化ジェスチャーはまだある。ウィンドウを上に振ると、ウィンドウは最大化される。タイトルバーのダブルクリックと、どちらが簡単かといわれると微妙だが、振る舞いとしては納得のいくものだ。

 そして、ウィンドウの上辺または下辺の枠線をダブルクリックすると、ウィンドウの横幅はそのままに、上下方向のみが、デスクトップの縦方向からタスクバーの幅をのぞいた全体を使うように調整される。ただし、ウィンドウそのもののサイズの変更が自動化されても、その内部の表示に関しては、OSとしてのWindowsは関知しない。ウィンドウ内の表示を最適化するのは、今なお、ユーザーが担う仕事のままだ。

 ちなみに、これらの最適化には、Windowsキーと方向キーのコンビネーションによるショートカットキーも割り当てられている。

Windowsキー + ↑ 最大化
Windowsキー + ↓ 最小化、または、最大化されたウィンドウを元に戻す
Windowsキー + → 右半分にウィンドウを最適化
Windowsキー + ← 左半分にウィンドウを最適化

 タイトルバーをつかんでウィンドウを左右に振ると、そのウィンドウ以外のウィンドウが最小化されるAero Shakeというのもある。もう1度シェイクすると、最小化されていたウィンドウが元のサイズに戻る。果たして、それに意味があるかどうかは別の話だが、そのときの気分をうまく表現していると思う。

●デスクトップが見えなくて困ることはない

 デスクトップを有効に使うというのは、隙間を作らないということなのだろうか。実際、ウィンドウで覆われ、いっさいの隙間がなくても特に困ることはない。タスクバー右端にポインタを重ねれば、すべてのウィンドウは透明になり、デスクトップに置かれたアイコンやガジェット類が透けて見える。見るだけではなく、操作の必要があれば、タスクバー右端をクリックすれば、デスクトップがアクティブになる。

 たくさんのウィンドウを開いていても、人間がめんどうを見ることができるのは、たかだか2つか3つ程度だろう。だから、Windows 7は、2つのウィンドウを最適化するための方法を用意した。そして、さらにたくさんのウィンドウを開いたときの切り替えは、タスクバーボタンにポインタを重ねたときのサムネールと、そのサムネールにポインタを重ねたときのAeroプレビューがナビゲートする。

 マイクロソフトは、一時期、ウィンドウ内をペインに区切るGUIに熱心だったことがある。エクスプローラのナビゲーションペインやプレビューペインは、その代表例だ。そして、そのペインを異なるプログラムのウィンドウに拡張すると、タイルのイメージが強くなる。

1つのウィンドウをペインに区切るGUIは、今なお、いろいろなところで見かけることができる

 ちなみに、Windows 7では、ウィンドウを開いたときのメモリの使い方が変更されている。Vistaまでは、1つのウィンドウを開くと、その描画情報はシステムメモリとビデオメモリの両方に、そのコピーが格納されていたが、7では、ビデオメモリのみに置かれるようになった。そういう意味ではVistaは贅沢にリソースを使うOSだったわけだが、ウィンドウのレンダリングタイミングの競合が、さまざまな問題を引き起こしていた。7では、マルチコアプロセッサの特性を生かし、複数のウィンドウを同時に描画できるようになったということだ。

 こうして複数のウィンドウを開き、それらを行き来しながら作業を進めるのがWindowsだが、あるウィンドウ内のオブジェクトを、隠れて見えないウィンドウにドロップするための合理的な方法はWindows 7でも用意されなかった。

 任意のウィンドウ内のオブジェクトをマウスでつかみドラッグし、タスクバーの任意のボタンに重ねると、1つしかウィンドウが開いていない場合は、ほどなくそのウィンドウが開き、複数のウィンドウが開いている場合は、サムネールを経由してそのウィンドウが開き、ドロップ先を指定できる状態になる。この一連の流れは、Vistaの時代とさほど変わってはいない。そんなまどろっこしいことをするなら、コピー&ペーストで十分だと思うユーザーも少なくないはずだ。

 タスクバーサムネールとAeroプレビューにより、たくさんのウィンドウを開いていても、1つ1つのウィンドウの状態が把握しやすくなったこと。そして、多くのウィンドウを開いても、不安定になりにくくなったこと。さらには、ウィンドウのサイズを半自動で最適化するAero Snapのような機能。さらには、開いていても開いていなくてもボタンが表示される新しいタスクバー。これらの要素によって、Windows 7の時代は、プログラムは起動していても起動していなくても、それは、さほど重要な問題ではないというのがトレンドになりそうだ。

 起動したプログラムは基本的に終了させない。隠れていればそれでいい。メモリ? 有り余るほどあるが、それが何か? Windows 7時代のウィンドウ作法は、こういう感じなのかもしれない。

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(2009年 6月 17日)

[Text by 山田 祥平]