山田祥平のWindows 7カウントダウン

タスクバーの本性を探る



 ショートカットは、Windows 95とともに登場した、いわばリンクの概念だ。そのショートカットの使われ方を、Windows 7は少しずつ軌道を修正しようとしているのではないか。新しいタスクバーは、ショートカットの代用として十分な機能を持っているのだろうか。いや、そもそも、それを期待することは正しいのかどうか。

●ショートカットの排除

 ショートカットは「近道」を意味する。目の前にあるショートカットオブジェクトを開けば、正規のパスを順にたどらなくても、その実体が開く。具体的には「.lnk」の拡張子を持つファイルで、その中に、実体のフルパス情報が格納されている。

 作成するためには、いくつかの方法がある。作成したい場所を右クリックし、ショートカットメニューから新規作成でショートカットを選び、ウィザードに従うか、ファイルやフォルダを右ドラッグしてショートカットを作成したい場所にドロップし、そのショートカットメニューから作成するなどだ。

 ショートカットファイルは、ユーザーが明示的に自分で作成する以外に、プログラムのインストールなどによって自動的に作成される。スタートメニューの「すべてのプログラム」に登録されるものなどは、プログラムのインストーラが自動的に作成したショートカットだ。

 新しくなったWindows 7のタスクバーには、このショートカットを置くことができない。ショートカットをドロップすることができないのだ。プログラムの実体をドロップすれば、そのプログラムは常にタスクバーに表示されるようになり、ショートカットのように使えるようになる。でも、それは「ショートカットのようなもの」であり、まるで、新しいタスクバーはショートカットをもう使うなといっているようにも感じる。

 タスクバーに、特定のプログラムに関連づけられたデータファイルをドロップした場合は、そのプログラムそのものが常にタスクバーに表示されるようになり、そのデータファイルは、そのジャンプリスト内に常に表示されるようになる。

 多くのユーザーは、デスクトップによく使うプログラムやフォルダ、データファイルなどのショートカットを置いてきた。いや、ショートカットのみならず、頻繁に使うファイルそのものをデスクトップに置くという使い方をしてきた。そのため、多くのユーザーのデスクトップは、これは何のファイルなのか、開いてみないとわからないようなアイコンで満杯だ。

 もちろん、Windows 7のデスクトップも、そういう使い方はできる。でも、どうも、Windows 7は、あまり、そうした使い方をお好みではないようだ。

 とにかくよく使うプログラムは、タスクバーにドロップしておいて、常に表示されるようにしておき、ワンクリックで起動できるようにしておく。ファイルに関してはジャンプリストに登録する。それを開くためにはプログラムのボタンの右クリックと、ファイルのクリックという2ステップが必要だ。フォルダに関してはエクスプローラ管轄ということで、エクスプローラのジャンプリストに常に表示されるようにする。この場合も、登録されたフォルダを開くには2ステップが必要だ。

 特定のタスクバーボタンのジャンプリストには、そのプログラムと関連づけられていないファイルも常に表示することができる。例えば、テキストファイルをタスクバーにドロップするとメモ帳がタスクバーボタンとして常に表示されるようになり、そのテキストファイルがジャンプリストに登録されるが、Microsoft Wordをタスクバーボタンとして常に表示されるようにしておいた上で、テキストファイルをそのWordのボタンにドロップすると、Wordのジャンプリストにそのテキストファイルが常に表示されるようになる。

ツールバーにテキストファイルをドロップすると、関連づけられているプログラムとして、メモ帳が常に表示されるようになり、そのファイルがジャンプリストにいつも表示されるようになる
テキストファイルを常に表示するように設定したMicrosoft Wordのボタンにドロップすると、Microsoft Wordのジャンプリストに、そのテキストファイルがいつも表示されるようになる

 これらの振る舞いは十分なようにも見えるが、1つできないことがある。例えば、テキストファイルをWordで開きたいときになすすべがないのだ。

 マイクロソフトのEngineering Windows 7ブログには、ベータからRCへの改変点の1つとして、Shiftキーを押しながらファイルをタスクバーボタンにドロップすれば、そのファイルをそのプログラムが開くようにするというエントリがあるが、実際にやってみてもRCではそのようになっていない。もしかしたら、RTMでは変更があるかもしれない。そうでなければ、任意のプログラムでファイルを開く方法をタスクバーがサポートできないことになってしまうからだ。タスクバーにショートカットを置けないばかりか、ショートカットへのファイルのドロップという古式ゆかしきWindows作法が失われるかどうかの瀬戸際だ。

 でも、それが本当の狙いだったとしたらどうだろう。

●タスクバーの本当の狙い

 実は、タスクバーにとっては、スタートボタンもタスクバーボタンの1つであると考えることもできる。そして、スタートボタンのクリックは、スタートボタンのジャンプリストの表示だ。

 スタートメニューは次の3つのペインに分けて考えることができる。

・左上ペイン - 常に表示されるリンク
・左下ペイン - 最近使ったリンク
・右側ペイン - メニューリンク

スタートメニューは3つのペインに分けて考えることができる。左上ペインの下に薄い区切り線があることがわかる。それより上がいつも表示されるものを登録するペインで、それより下が最近使ったものが自動的に登録されるペイン。スタートボタンに常に表示するようにするには、エクスプローラなどからファイルやフォルダ、ショートカットをスタートボタンにドロップすればいい

 左上ペインは、タスクバー同様にプログラムをドロップして常に表示するように設定することができる。タスクバーよりも制限がゆるやかで、フォルダやプログラムのショートカットを置くこともできる。ただし、そのショートカットに、特定のファイルをドロップすることはできない。ここで気がつくのは、これらはショートカットではなく、リンクと呼ばれている点だ。「ショートカットのようなもの」=「リンク」というわけだ。

 左下ペインには、最近使ったプログラムが順次登録されていく。

 また、左上、左下、両ペインともに、リンク項目にポインタを重ねると、右ペインが、そのジャンプリストに切り替わり、その項目についてのタスクや最近使ったファイルなどがリストとして表示される。

左側ペインの項目にポインタを重ねると、その項目に応じて右側ペインがジャンプリスト表示に切り替わる。

 このように、ユーザーは、自分がどのプログラムを使って作業したのかを覚えている限りは、Windows 7のタスクバーは実に効率的に作業を進めさせてくれる。でも、その背景には、プログラムとファイルとの1対1の関連づけが強く意識されている。「今日はどれで開こうか」という曖昧さを許したくないのかもしれない。

 もしそれが、Windows 7の基本的な考え方なのだとすれば、ユーザーは、これまでの作法を考え直した方がいいのかもしれない。だが、こうしたプログラム主導の振る舞いはタスクバー特有のものであり、Windows 7の随所には、データオリエンテッドな考え方が、見事にちりばめられているのだ。そこでは、プログラムのことなど、まったく意識することなく、データだけを追いかけていれば、プログラムがあとからついてくる見事な連携プレイを体験することができる。

 そういう意味では、Windows 7にとってのタスクバーは、目新しいランチャーとしてではなく、純粋に、タスクの切り替えを支援する環境であり、ジャンプリストはオマケ的な副産物と考えるべきなのかもしれない。つまり、タスクバーはシェルではないということだ。

【14:15追記】

 読者の方から、Shiftキーを押しながらタスクバーボタンにドロップすれば「~で開く」というツールチップが表示され、そのボタンのプログラムでファイルを開けるという指摘をいただいた。同じ環境で追試してみたが、この操作を受け付けるには条件があるようだ。

 たとえば、秀丸エディタとメモ帳をボタンとして登録した状態で、本来は秀丸エディタに関連づけられたテキストファイルをShiftキーを押しながらメモ帳のボタンにドロップすると、確かに「メモ帳で開く」というツールチップが表示される。

 ところが、Microsoft Wordのボタンにドロップしようとしてもそれができない。だが、そのテキストファイルを右クリックして、ショートカットメニューから「プログラムから開く」でWordを指定すれば、スンナリと開くことができる。

 追試をしていて、Wordのショートカットにはファイルをドロップできないことに気がついた。それが原因かもしれない。いつから、こういう仕様になっていたのかは不明だが、この件については、もう少し時間をいただき調べてみることにしたい。ご指摘ありがとうございました。

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(2009年 6月 10日)

[Text by 山田 祥平]