山田祥平のRe:config.sys
音楽三昧に潜む「ホーダイ」の罠
(2015/8/14 06:00)
日本でも定額制の音楽配信サービスがスタートし始めている。Apple Music、LINE Music、AWAといったサービスが注目を集めている。このまま普及して定着するのか、それとも一部の音楽ファンのみが使うものになるのか。今回は、こうしたサービスの特質について考えてみたい。
音楽の森を迷う
あいかわらず月に何度か街のリアル店舗に赴き、いつもの棚をいつもの順に眺めながら、巧みにレイアウト陳列されたお薦め新譜を試聴し、その場で購入することもあれば、とりあえずということで、Amazon.co.jpの欲しいものリストに入れたりする。まあ、ぼくにとってのリアル店舗は音楽との出会いの場としては、かなり有効に機能していると思う。
その一方で、普段視聴しているTV番組などでは、お気に入りのドラマの挿入歌や、スキップすることが多くなっているものの、それなりに目にする機会はあるTV CMなどで、気になる曲があれば、その場で検索し、アルバムが出ていればすぐにAmazon.co.jpで注文する。シングルを買うことはほとんどない。やはり、アルバムは1人のアーティストが、ある期間集中して仕事をした集大成でもあり、その人となりが凝縮されているように思うからだ。まだ、シングルしか出ていない楽曲の場合は、近所のレンタルショップで探し、見つかったらレンタルする。
こうして入手するのはCDだ。ただ、そのCDをオーディオ用のCDプレーヤーで再生することはほとんどなく、封を切った直後にPCを使ってリッピングし、楽曲をiTunesのライブラリに登録したら、それ以降は押し入れの中に眠らせることになる。もちろんレンタルの場合は返却する。
大雑把にいうと、
・リアル店舗では新譜を中心に偶然の出会いを楽しんでアルバムを買う
・Amazon.co.jpでは気に入った楽曲が含まれるアルバムを探して買う
・レンタルショップではシングルでしかない曲を借りる
という3つのパターンでぼくは音楽を手に入れてきた。
ちなみに2014年は26枚、2015年は半ばだが12枚のアルバムを購入している。使った金額としては1カ月平均5,000円といったところだ。少ない方ではないと思うが、決して多い枚数ではない。
差異化が難しいコンテンツサービス
月々一定額の支払で、数百万の楽曲が聴き放題となる音楽配信サービスだが、その月額料金は1,000円程度で、ぼくが音楽に費やしている金額の5分の1だ。圧倒的に安上がりとなるが、今のところ、どのサービスにも加入するつもりはない。なぜなら、これらのサービスはいわゆるサブスクリプションで、サービスに加入している間は膨大な楽曲を聴き放題となるが、サービスをやめれば、どんなに気に入っていた曲であっても聴くことができなくなる。購入したCDは、そのCDが物理的に破壊されない限りは永久に聞く権利を保持できるが、サービスの場合は解約した時点で一切の曲を聴く権利が喪失してしまう。
もし、これらのサービスが未来永劫なくならないと仮定でき、生涯プランを用意しているのだとしたら少しは考えるかもしれない。とにかく1つのサービスと心中するくらいのつもりにならなければ、コレクションの手段としてはなかなか手を出しにくい。
各サービスが配信する楽曲は、今後増え続けることは間違いない。今はない楽曲も、ちょっと先には揃うに違いない。こうして、楽曲数や種類についてはサービスごとの差異はなくなっていくだろう。マルチデバイス対応や、音質、オフライン再生などの便宜についても収束していくにちがいない。
となれば、サービスごとの差異化を決めるのは、いかに、自分の趣向に応じた楽曲をお薦めしてくれるかだ。そして、それをどのようなUXで提供してくるかに尽きる。
音楽購入のナビゲータとして配信サービスを考える
CDの生産が開始されたのは1982年だ。最初に生産されたのはBilly Joelの52nd Streetだったそうだが、実際にアナログLPとしてこのアルバムが発売されたのは1978年だった。個人的にCDにはとても興味があったが、自分の好みのアルバムはなかなかCD化されなかったため、CDプレーヤーを手に入れて、CDだけを買うようになのは2年くらいあとになってからだ。LPとCDを混在して購入するという時期はなかったように記憶している。
あれから30年以上が経過し、メディアとしてのCDは、そろそろ役割を終えそうな時期に来ているとも言われている。音質の点では、各サービスが配信するハイレゾ音源が有利だ。物理的なCDというメディアに愛着があるわけではない。LPからCDに移った時代と違い、同じ装置で再生ができるので、今後はそちらに移行してもいいようにも思っている。ただ、メイン環境のiTunesがFLACに対応していないことがネックとなってそれができないでいる。iTunesで音楽を買わないのも、音質がCDに劣るからだ。LPからCDへの移行は何度聞いても「スリ減らない」ことが、あらゆる欠点に目をつぶらせた。
音楽は、とにかく繰り返し聴くものだ。最初に買ったCDが何だったか、もう、iTunesのライブラリをひっくり返してもメタデータ不足でよく分からなくなっているのだが、とにかく好きな曲は何度でも聴く。
個人的には映画などの映像コンテンツは何度も見ることはない。見ても2度、3度といったところだろうか。だから映画に関してはレンタルで十分だと思うし、定額制のオンデマンドサービスも十分にリーズナブルだと思う。映画コンテンツを自分のコレクションとして手元に置きたいとはあまり思わない。映画好きの方からすればとんでもない話かもしれないが、趣味とはそういうものだと理解してほしい。
音楽は、いつどんな曲を聴きたくなるか分からない。せっかく何万曲という音楽を手のひらどころか、指先でつまめるようなメモリーカードに全部入れておくことができるようになったのだから、過去に自分が食指を動かして入手に至った曲、全部を手元に置いておきたいと思う。
定額制のオンデマンド音楽配信サービスは、いわばリアル店舗の出張サービスのようなもので、好みの楽曲を見つけるための手段として考えれば、それはそれで役にたつ。気に入った曲は別途調達するようにすればちゃんと永久に聞く権利とともに手元に残る。そういう意味では音楽に関するコストを下げるためのものではなく、追加投資と考えようと思う。近い将来、クラウド側の楽曲と、ローカル側の楽曲の相違による問題が解決するころに、もう1度再検討しようとも思っている。それまでは、もう少し、リアル店舗と付き合っていくしかなさそうだ。