山田祥平のRe:config.sys

あーら奥さま、みんなで買えば半額ですってよ

 ID乗っ取りで世の中を騒がせているLINEだが、本格的にB2Cのeコマース市場に参入することが発表された。LINEコミュニティの繋がりをコンセプトにした新戦略とのことだが、バックグラウンドとなる考え方が結構興味深い。

まとめて買えば安くなる

 インターネットは壮大なワリカンであると言われることがある。プロバイダと契約し、そこまでの通信費を負担すれば、その上流への通信費を気にすることなく、世界と繋がった状態になれる。端っこにぶらさがれば一員になれるのだ。地球の裏側と通信したって余分な費用はかからない。その気になればプロバイダにもなれる。どんなに大きなサイトでも基本的にはその仕組みのもとに運用されている。

 一方、コンピュータによる不特定多数間のコミュニケーションは、情報民主主義と言われることがある。SNS全盛の今、それを実感することも多いが、情報は出す人ほど多くの情報を得られるというものだ。

 LINEが同社のLINE MALLで開始する新サービスは、「LINEグループ購入」「LINEギフト」など複数のサービスの組み合わせだ。その仕組みはワリカンでもあり、情報民主主義でもある。それらを意図的に組み合せてみようという試みでもある。

 LINEによれば、これまでのECは購買者が自分でモノを検索して購入に至るケースがほとんどだったという。言わば、検索ショッピングであり、これをLINEではPull Commerceと定義する。つまり、購入者が、なんらかのきっかけで商品を知り、それに関する情報をインターネットで自発的に集め、そして購入に至るプロセスだ。ロングテール的に商品を揃えておけば、いつか検索してもらえる。販売側にとっては受動的だが、その状況が続いてきたというのだ。主導権は購入者にあり、購入者は情報をプルして商品にたどりつく。

 その世界では、商品に出会うシーンはインターネットの外にあった。ここがミソである。だったら、検索が始まる前に注意を惹いて、商品に関心をもってもらえばいいんじゃないか。そこで何かできることがあるんじゃないかとLINEは考えた。そこで新たに発想されたのがPush Commerceだ。

 LINEでPushというと、毎日定期的になんらかのセールストークや電子的なDMが届くようなイメージを思い浮かべるかもしれないが、そうではないという。今のクラウドマーケティングは、さまざまなデジタルメディアに触れるエンドユーザーに、どうやって売る側がリーチするかが重要なテーマとなっている。でも、LINEはそうは考えなかった。

 リアルな日常生活の中では、特に動機がなくても何かに出会ってしまうことは少なくない。例えば、コンビニに立ち寄るときに、男性と女性では傾向が大きく違うという分析があるそうだ。例えば、男性はコーヒーが欲しいと思ったら、コンビニに入るやいなやコーヒーが並ぶ陳列棚に一直線だが、女性の場合、コーヒーを買いたいから入ったコンビニなのに、コーヒー棚に行き着く前にちょっと別の棚に立ち寄り、結果として、目的ではなかったものを買って帰るのだそうだ。

 ならば、ということで彼らが考えたのが「LINEグループ購入」だ。商品との出会いを促進するために、繋がってる友だちと一緒にまとめ買いをすることで、通常よりも商品が安く買えるというサービスだ。まとめて買っても配送は各ユーザーに個別に行なわれるし、もちろん決済も別だ。最大半額にまで値引きは達するという。

 その背景にあるのは「商品との出会いの最大化」だ。そこで繋がりを消費に変えていくことこそがLINEの狙いだ。

そうなんだ、こういうのが欲しいと思っていたんだ

 人がモノを買いたいと思うとき、そのきっかけがジブン発であるとは限らないとLINEは言う。人がモノに興味を持つのは気づきや発見を与えられたときであり、それらは社会的な繋がりから生まれてくるものだというのだ。これは、まさにLINEが目指してきたものであり、繋がりを活かしたショッピング体験の提供はLINEならではのものだといってもいい。

 こうした仕組みでよく知られているのはアフィリエイトだ。誰かが何かを紹介し、そのリンクをたどって第三者がモノを購入すれば、その利益の一部が紹介者に還元されるというものだ。日本語でいえば成功報酬型広告ということになる。

 ただ、アフィリエイトでトクをするのは紹介した側だけというケースが多い。だが、LINEグループ購入なら、頭数を集めれば集めるほど全員がトクをするという図式になる。実にわかりやすい。自分が能動的に欲しいと思ったものがあったとして、それを第三者に伝えることで、仲間が受動的に商品と出会うことができ、購入に至ればみんながトクをするという考え方だ。

既にある当たり前を機能として提供

 ちょっと面白いと思ったのは、グループ購入にしても、ギフトにしても、LINEのコミュニティの中ではとっくの昔にメンバーが実践していたことであることを、LINE側がちゃんと知っていたことだ。今回のチャレンジは、すでにLINEコミュニティの中で、当たり前のように行なわれていることを機能として提供したにすぎない。その購入先はアマゾンだったかもしれないし、楽天だったかもしれない。だが、そこに至るパスをLINEが提供していた。だったら、その購入先もLINEで引き受ければビジネスとして成功が見込める。そう考えるのは自然だ。

 インターネットがここまで普及する以前は、自分が得る情報について、きっかけの多くの部分を偶然が占めていた。紙のメディアしかり、TVやラジオしかりだ。

 今、情報はRSSで集め、訪れるサイトもブックマークになって固定され、偶然との出会いは著しく少なくなってしまった。検索を繰り返して何かを調べるにもスマートフォンでは限界がある。

 TVはTVで録画して見るのが当たり前になり、CMはスキップしてしまうものだから、新製品や新しいタレントの登場にも気がつかないことが少なくない。自分の興味は自分が一番分かっているという思い込みが、逆に自分自身の世界を狭くしかねなくなってしまっている。

 そこにちょっとした刺激を投入したのがSNSだ。自分だけでは知りうることがなかった話題やモノが何気なくタイムラインに流れてきて、何かをやってみよう、購入しようというきっかけになることがある。でも、そこからぼくらは検索を始めるのだ。それはどんなものなのか、それはいくらで買えるのか。それはどこで買えるのか。どこで買えば安いのかと。でも、スマートフォンの世界では、その傾向がちょっとだけ希薄だ。

 LINEモールは、誰かが誰かに気づきを与え、それをそれ以上詮索、いや検索せずに、そこで一緒に買うという選択肢のみに絞り込んでしまう。調べたらよそで買う方が安いからそっちで買うという言い訳がしにくいシチュエーションだ。いらないものまで見栄や酔狂で買ってしまうようなパターンも出てくるだろう。断りにくいからだ。あの人はちっとも参加してくれないから、もう誘うのはやめようといったケースも出てくるかもしれない。これはこれで論議を生むにちがいない。

 場合によってはマグロ1匹、あるいは1本をグループでまとめ買いしたら、柵になって各戸に届くような買い物もできる可能性もあるという今回のサービス、いろいろな意味で先が気になる。ロングテールもまとめれば太くなるということか。

(山田 祥平)