山田祥平のRe:config.sys

死角がなくなる地下鉄モバイル

 移動体事業者各社の首都圏の地下鉄におけるエリア化工事が完了に近づいている。これによって、年度内にはほぼ全路線のトンネル間でも通信が可能になり、窓の外を眺めることもできない退屈な時間を、今までよりもずっと有効に使えるようになる。これで日常生活のモバイル死角が、また1つ減るのはうれしい。

北京の地下鉄でトンネル間通信

 北京に行ってきた。移動のために地下鉄に乗ったら、プリペイドカードの残高が0元になってしまった。日本ならおサイフケータイのオートチャージで済むところだが、北京ではそういうわけにはいかない。チャージしようと思ったのだが、ふと思いついて、コンビニに立ち寄った。9月に行ったときに、ドラえもんの生誕前100周年を記念したICカードが売っていたのを見かけていたので、せっかくだから、それを入手しようとしたのだ。

 たぶん、限定商品だと思うが、案の定、売り切れることはなく、棚の奥にほこりをかぶって置いてあった。なにせ、残高0元のICカードが150元だ。日本円にして2,000円近い。あまりにも高すぎる。でも、それを買った。店員は、残高がゼロであることをもう一度確認したが、納得していることを伝えて150元を支払った。

 冒頭の写真がこのICカードだが、見ればわかるように、クレジットカードタイプではない。丸いバッジタイプで、スマートフォンの裏に貼り付けるような使い方もできない。本当ならスマートフォンのストラップのように使いたいところだが、あいにくぼくの使っているスマートフォンにはストラップホールがない。

 これを使って改札を抜けるのには問題がないが、チャージをしようとするとちょっとやっかいだ。というのも、ぼくが知る限り、北京市内の地下鉄駅に並んでいる自動チャージ機は、スリットにカードを挿入するタイプのものばかりなので、チャージするためには、有人窓口で依頼するしかないのだ。しかも、多くの場合長蛇の列なので、ちょっとつらい。

 ともあれ、無事に50元ほどチャージした。北京の地下鉄は2元均一なので、25回は乗れる計算だ。地下鉄に乗って気がついたのは、トンネル間でも3Gデータ通信ができるようになっていたことだ。とにかくこの街は、ちょっと来ないうちに、どんどん変わる。

 ぼくは、China Unicomという電話会社のSIMカードを、毎月36元の基本料金で維持している。年に数度の訪問だが、そのたびに営業所に行ってSIMを入手するのはめんどうなので、こうしている。電話やSMSは別料金だが、150MBのデータ通信が含まれている。それを超えるとKB単位での従量制になるが、0.0003元(約0.004円)/KBと、青天井というほどには高くない。また、100MBを10元、300MBを20元で別途確保できる料金システムだ。

 9月に行ったときは、ぼくがよく使う地下鉄路線では、ほとんど3G通信ができなかったのだが、今回は、駅間でも快適な通信ができるようになっていた。やっぱり、電車の中でいろいろと調べ物ができたりすると、見知らぬ土地では便利この上ない。

 北京の地下鉄の乗客は、街中にいるときと同様に、頓着せずに携帯電話で通話をする。各車両に、ずっと話している乗客が数人はいるんじゃないだろうか。殺人的とはいわないまでも、常時、相当の混雑している車内なのだが、周りを気にかける様子はない。

 社内での通話は日本ではマナー違反とされているが、個人的にはこれはこれでいいんじゃないかとも思う。携帯電話で大声になってしまうのは、電波の状態が悪いときだと聞いたことがある。安定した通信ができれば、大声にはならない。いたるところに圏外があった大昔ならともかく、今の時代は、このあたりのことを、少し見直してもいいんじゃないだろうか。

テザリングはBluetoothが便利

 地下鉄の走行中に安定した通信ができるようになったことで、いいことがたくさんある。たとえば、駅に到着するときに、圏外状態だった車内の端末がいっせいに基地局につなぎにいくことで起こるパケ詰まりのような状態が起こりにくくなる。電車が走行中も、いつものようにTwitterを読んで、気が向いたらすぐにTweetする。電車が駅に到着するのを待つ必要がないのだ。メールだってちゃんと走行中に届く。

 一方、各社のテザリングも解禁されはじめている。スマートフォンとタブレットなど、1人が複数の端末を当たり前のように持つようになり、現実問題としてコスト的に両方の端末に通信契約をするのはたいへんなので、多くのユーザーが待ち望んでいたことだと思う。個々の端末が、別々に通信できるのは理想だが、まあ、今の時点ではテザリングなんだろう。

 北京でも、スマートフォンとは別に、iPadにデータ通信専用のSIMを装着し、それをルータにして、スマートフォンのデータ通信をiPadにまかせていた。こちらは通話もできるカードと異なり、営業所に行くことなく、アマゾンで注文してホテルに配達してもらうといったことができるので簡単だ。

 バッテリが心強いiPadをルータにしてデータ通信を集約させれば、スマートフォンのバッテリも長持ちする。テザリングのおすすめは、Wi-Fiではなく、Bluetoothを使うことだ。その方が、圧倒的に消費電力が少なくてすむ。9月に北京に行ったとき、まだ、iOS 5のiPadはインターネット共有が使えなかったのだが、今回iOS 6の状態で試したらインターネット共有ができるようになっていた。iPad側でインターネット共有を有効にしておき、スマートフォンやパソコンからBluetoothペアリングして接続すれば、PANによるインターネット共有ができる。丸1日ずっとつなぎっぱなしにしていても、iPadのバッテリはほとんど減らない。さすがにiPadは重いので、同等のことができて、バッテリもそこそこ保つのなら、iPad miniに乗り換えたい。だから、正月の渡米時になんとかVerizon版を入手しようと企んでいる。

 これは、iPhoneでも事情は同じだ。iPhoneをテザリングの親機として使う場合も、Bluetoothを使うことでバッテリの消費を抑制することができる。残念ながら、日本国内で発売されているAndroidスマートフォンでは、Bluetoothテザリングができないものが多いので、このあたりはiPhoneがうらやましいところだ。

 ちなみに、Windows 8では、PCのベンダーごとに、Bluetoothスタックが異なり、DUNを使うものと、PANを使うものがあるようだ。PANの場合、PCがスリープから起きたときにすぐに再接続するので、まるで、本体が通信機能を持っているかのように使えるのはうれしい。だから、海外にでかけたときには、せっかく手数料を払ってSIMロックフリー化した日本で常用しているスマートフォンを使わずに、BluetoothでPANを使える別のスマートフォンを使うようにしている。

 かくして、モバイル圏外がどんどん少なくなっていく。例外は飛行機だが、これも時間の問題で、来年あたりは事情が大きく好転しているだろう。離着陸時でさえ解禁という動きもあるそうだ。そこまで通信にこだわってどうするのかと言われそうだが、昨年のような地震を体験すると、つながることの可能性は大事にしたいと、先日の、ちょっと大きな地震のときに思った。

 いくら末端の基地局がエリアを網羅しても、それをつなぐネットワークや電力が麻痺してしまえば、元も子もないのだが、可能性という点では心強い。ぼくの使っている私鉄は、ターミナル駅に着くちょっと前に地下に入るが、そこは相変わらず圏外で、つながるようになるというアナウンスもまだない。モバイル事業者各社には、とにかく、死角をなくすように努力を続けてほしいと思う。

(山田 祥平)