■山田祥平のRe:config.sys■
Googleが「Nexus 7」の日本市場向け販売を開始した。10月2日からは量販店でも購入できるようになるという。また、ISP各社がセット販売などをスタートしている。その参入によって、いよいよホットになるタブレット市場だが、価格破壊の懸念もあり、本当にこれでいいのだろうかという心配もある。
●19,800円という価格7型タブレットは、どのスマートフォンより大きく、どのiPadよりも小さいという絶妙なサイズ感で、一定の評価を得ているデバイスだ。ぼく自身も初代の「GALAXY Tab」を常用していた頃から、その手頃さと実用度を重宝している。故Steve Jobs氏に言わせれば、7型というスクリーンサイズは手の延長としては大きすぎて、まともなスクリーンとしては小さすぎる中途半端な存在だったかもしれないが、俗人としては、こういうのもありだと思うのだ。いずれにしても、自分の使い方にマッチするデバイスがよりどりみどりというのがAndroidの最大のメリットでもある。
7型タブレットというと、NEC「MEDIAS TAB UL N-08D」がドコモから発売されたばかりだ。これは是非使ってみたいと思っている端末だ。7型で249gというのは340gのNexus 7よりも90gも軽い。そして、LTE/3Gデータ通信、通話機能、外側カメラと、Nexus 7にあったらいいなと思っている機能がすべて搭載されている。
本体重量はバッテリ容量との兼ね合いで、運用時間にも大きく影響を与えるので、実際に使ってみないと実用度がわからず微妙なところだが、その他の要素はモバイルデバイスとしてやっぱりうらやましい。でも、月々サポートなどがあるとはいえ、8万円を超える価格を考えるとちょっと躊躇してしまうのだ。
Nexus 7は19,800円だ。モバイルで使おうと思うと別途通信手段を確保する必要があるが、ポケットの中のスマートフォンでテザリングすればOKだ。外側カメラがないことだけは何ともしようがなく、バーコードを読み取ったり、OCRを使ったり、ミーティングのホワイトボードを撮影したりといったときに不自由する。でも、これらもクラウドを使えば、いつも携帯しているスマートフォンで代替できる。いろんな妥協が必要でも、この価格はかなりのインパクトだ。
●「第三の波」が第三のフェーズにNexus 7はGoogleのリードデバイスだ。GoogleがAndroidをどのようにユーザーに体験してほしいかを知るには最適のデバイスだといえる。通信事業者がラインアップするデバイスを購入すると、さまざまな大人の事情で、つぶしのきかない端末になってしまうことが少なくない。余分なアプリを削除したくともそれができず、使わないアプリが貴重なバッテリリソースを消費し続けたり、意図しない通信が発生したりもする。また、OSのバージョンアップも事業者の事情が優先される。
その点、iOSデバイスは、キャリアに依存する一部の機能を除き、こうしたことがないのでうらやましい。でも、リードデバイスであれば、こうしたしがらみが排除されている。実際、Nexus 7は、最新のAndroid OSとして、Jelly Beanを搭載し、今、最も新しいGoogleを体験できるデバイスだ。この7型サイズに、Googleが今考えている未来が詰まっているのだ。そして、おそらくは、次の未来も、保証されていると期待していいだろう。通信事業者経由のような手厚いサポートは期待できないかもしれないが、少なくとも、世界中のユーザーが、ほぼ同じ状態のデバイスを使っているというのは心強い。そのことは、IBM PCが世界標準になったときからわかっているはずなのに、どうしてこんなことになってしまっているのだろう。
Google会長のEric Schmidt氏は、モバイルテクノロジーは日本で発明されたとし、そのフェーズは、ハードウェアの時代から、ソフトウェアの時代に移り、今、第三のフェーズとしてネットワークの時代に入っているという。アルビン・トフラーが『第三の波』で脱産業社会化を定義し、情報革命の時代を紹介したのは1980年だが、その第三の波が、今、第三のフェーズに入っているというわけだ。
Schmidt氏は、そこではプラットフォームが重要であり、世の中ではもはや携帯電話とはいえない電話、すなわち、モバイルコンピュータが使われるようになっているとする。いうまでもなく、それがスマートフォンだ。自分の生活を、多くの人がこれらのデバイスから動かせるようになっているとし、テクノロジーは暮らしの役にたつものでなくてはならないともいう。今の段階では、シームレスさも不完全で、むしろ邪魔に感じられることもあるかもしれないとSchmidt氏。だからこそ、Googleは、こうしたデバイスを人の妨げにならないものにしておくことに取り組んでいるという。そしてそれは、あともう一歩のところにきてるのだそうだ。
●「もう一台」の説得力ぼくは日常、4.8型、5.3型、7型、9.7型、10.1型、12.1型、13.3型、15.6型という8つのスクリーンサイズを持つデバイスを、TPOにあわせて使い分け、そして、併用している。
4.8型は常にポケットの中にあるスマートフォンだし、12.1型以上はノートPCだ。この先、Windows 8タブレットがここに加わり、デバイスとそのスクリーンサイズのバリエーションはまだ増える可能性もあるが、TPOに応じて複数のデバイスを使い分けるというスタンスは変わらないと思う。日常、外出する場合には、4.8型スマートフォンは必須として、それ以外のデバイスから、1つ、または2つを選ぶことになる。
今の時代、クラウド連携がうまくできるというだけで、複数のデバイスを使い分け、併用することが著しく簡単になっているので、運用には全く負担を感じない。面倒だとすれば、出掛ける時にフル充電状態になっているように維持することだろうか。ちょっと前までは、自宅でサーバー的なコンピュータを稼働させ、外部からアクセスできるようにするなど、いろいろな知恵と工夫で乗り切るしかなかったし、実際そうしてきた。ただ、それがどんなに便利だといっても、現実的ではないといわれるばかりで、あまり熱心に話をきいてもらえることはなかった。
でも今は違う。ごくごく普通のユーザーが、新しいデバイスを手に入れて1時間後には、完全に自分のパーソナルデータと環境がそこに整ってしまう。2台のデバイスを同期できるのなら、それが3台になろうが、4台になろうが関係ない。手間は5分で、あとは同期を待つだけだ。
Nexus 7のような7型デバイスは、こうしたコンピューティングのスタイルを支える選択肢の1つにすぎないが、多くのユーザーに、「もう1台」という新たな境地を発見させるだけの説得力を持ったデバイスだ。少なくとも現時点で、価格に対する裏切られ感を味わうことはないだろう。ただ、ユーザーのサイフには優しいかもしれないが、既存のベンダーはたいへんだ。願わくば、通信の環境が、こうしたマルチデバイスの時代に、もっと柔軟に対応した時代がやってくればいいのにと思う。