山田祥平のRe:config.sys

丸裸のiPadは美しいけれど




 ガジェットにはアクセサリがつきものだ。本体保護の意味もあれば、おしゃれの意味もある。デバイスそのものの価格に比べると、ちょっと高すぎないかと思うものも少なくない。でも、その市場は、大きなエコシステムを築いている。

●百花繚乱のアクセサリ売り場

 東京・新宿の東口にビックカメラの新宿東口新店がオープンした。売り場面積15,000平方mというから圧巻だ。有楽町店を上回る店舗面積は同店としては最大規模となるそうだ。元は三越、この間までは大書店のジュンク堂が入っていたビルだが、それを追い出しての進出となる。まさに、時代を象徴しているといえる。

 新宿での打ち合わせの際に、通りすがりに時間が少しあったので、地下通路から同店に立ち寄ってみた。この地下通路は、メトロプロムナードと呼ばれ、地下鉄丸ノ内線の線路やホームの屋根部分が通路になっている。

 雨が降っていても濡れないこの階から、直接、同店に入ることができる。短いエスカレータでちょっと上の階がB1でスマートフォンや携帯電話の売り場、ちょっと下の階がB2でPCやタブレット端末の売り場になっている。さらにその下のB3はデジタルカメラなどのエリアになっている。

 売り場を見て感じたのは、あまりにも豊富なアクセサリ群だ。確実に本体デバイスよりも場所を多くとっている。個人的にもこの間新しいiPadを買ったばかりなので、いろいろ物色してみた。でも、税込み905ドル、日本円にして7万円ちょっとで購入した新しいiPadに、5,000円を超えるカバーをつけるってどうなのかと、ちょっと躊躇してしまった。なんらかの機能があるならともかく、本体の保護とおしゃれにどうなんだろうと思ってしまうのは、やっぱり貧乏性なんだろうか。

 ガジェット好きというのは「機能」についてはお金を惜しまないようなところがあって、ぼく自身もそうなのだが、最近は、どうも様相が違ってきているようだ。

●スリムカバーとキーボードを兼用

 結局、その日は、何も購入せずに帰ってきてしまった。まだ真新しいiPadなので、しばらくの間は大事にしてみようかと、100円ショップで購入したソフトケースに入れて持ち運んでいる。特にいやなのは、飛行機を利用する際のセキュリティチェック時のX線検査で、PCやタブレット類はカバンから出すことを求められる。その扱いが荒っぽい。日本の空港ではけっこう丁寧に扱われるのだが、海外の空港となると乱暴が当たり前で、本当にハラハラする。

 そんなときに、ロジクールからiPad用の新しいキーボードカバーを試してみないかという連絡があった。これは渡りに船だ。かくして、手元に新製品のキーボードカバー2点が届いた。

 1つは、すでに発売済みの「ウルトラスリムキーボードカバー(TK710)」(ロジクールオンラインストア価格9,980円)だ。Bluetoothキーボードではあるが、iPadの保護カバーとしても機能し、使用時にはスタンドにもなる。機能があればカネを出すというぼくにとっても、結構納得のいく内容となっている。

 ちょうど、iPad本体にかぶせるように装着すると、マグネットがちょうつがいのように働き本体をくわえ込むような状態になって液晶面を保護することができる。そして、iPadのシカケによって、磁力がiPadの液晶をオフにする。移動時にはこの状態で持ち運ぶようにすればいい。iPadを使う場合は、カバーをはずすと液晶がオンになる。そして、キーボードのスリットにiPadを立てかけると、まるでノートPCのような出で立ちでキー操作ができるようになるというわけだ。

 キーボード背面の質感はiPadとよく似ている。アルミニウム製で厚みは10mmだ。キータッチは薄い割には悪くない。設置する床面を選べば、けっこうな剛性を確保できる印象を持った。駆動は内蔵のリチウムイオン電池で、約2時間でフル充電、最大6カ月使い続けることができるという。

 ただ、重量が355gある。新しいiPadの重量はCellularモデルの場合、662gなので、本体の半分以上の重さだ。合計すればわずかとはいえ1kgを超えてしまう。話題のNEC LaVie Zといった軽いノートPCより重い。これはちょっと躊躇するなと思いながらも見かけ以上に悪くないキータッチに心が動いてもいる。

 ただ、カバーといいながら、iPad本体とはマグネットでくっついているだけだ。カバーとして機能しているときにはそれでいいのだが、たとえば、電車の中で立ったままカバンからiPadを取り出して使おうとすると、取り外したカバーの行き場がないことに気がつく。iPadを片手で支え、もう片方の手でタッチ操作をするわけだが、取り外したカバーはカバンの中にしまっておくくらいしかないわけだ。こうなると、ちょっと機動性に欠けるようにも思う。

●液晶面と背面の双方をカバーするフォリオキーボード

 今回試したもう1つの製品は、発表されたばかりの「ソーラーキーボードフォリオ(TK810CB)」(7月20日発売予定ロジクールオンラインストア価格15,800円)で、本体側とカバー側がつながっていて、行き場のないカバー部分を後ろに折り返すことができる機構になっている。

 なぜ製品名が「ソーラー」なのかというと、背面にソーラーパネルが装備されていて、キーボードの電源をそこから確保するようになっているのだ。ちょうどキーボードの裏面がソーラーパネルになっているため、使用時には充電ができないのだが、一般的な室内光で約6時間あればフル充電、そのままで暗闇になってしまっても、最大2年間は使い続けることができるというので、電源の心配はゼロと考えてよさそうだ。ただし、iPad本体を充電できるわけではない。

 フォリオという名前の通り、2つ折りの形状で、キーボードと反対側にiPadを収納でき、持ち運びの際には、キーボードとiPadを重ねるようにして2つ折りにする。

 使用時は、キーボード側に設けられた凹部にiPad側を固定するのだが、固定によってキーボードがON/OFFされるので、たとえば、裏に折り返すようにしたときに、キートップをさわって誤作動といったこともない。この機構はよく考えられている。

 立てかけるための凹部は上部に2カ所、下部に2カ所、計4カ所用意され、2つのポジショニングを可能にしている。「タイピングポジション」はキーボード上部左右の凹部を使ってiPad本体を固定することでノートPCライクな出で立ちになる。また、「メディアポジション」はキーボードを覆うようにして使う浅めの角度のポジションで、文字キーボードは使えなくなってしまうが、天井の光が映り込みにくい角度なので、動画コンテンツを楽しんだり、誰かにプレゼン資料を見せるような使い方をするときに便利だ。

 「メディアポジション」では、キーボード全体を覆わず、スペースキーとその左右の機能キーは露出したままだ。このポジションでは自動的に、これらのキーがメディアキーとして機能するようになり、メディアの再生をコントロールできるようになっている。

 キーボードとの通信はBluetoothで、iPadとのペアリングは特に認証の必要もなく、接続を設定するだけでOKだった。なお、重量はウルトラスリムキーボードカバーより、さらに重く460gとなっている。

 ウルトラスリムキーボードカバーも、ソーラーキーボードフォリオも、構造上、液晶面にキートップ面が接触することになる。外部からそれなりの圧力が加わったときに、液晶面にダメージを与えないかを気にする人はいるだろう。ただ、少し使った印象では、iPadの液晶ガラスはそこまでヤワではないようだ。また、ユーザーによっては、さらに液晶面に保護フィルムなどを貼り付けているだろう。それならより安心というものだ。

●パーソナライズの経済学

 ロジクールのみならず、こうしたアイディアデバイスは各社、さまざまな製品を取りそろえている。Androidデバイスとは違い、ハードウェアが唯一であるというiPadやiPhoneのモデル構造は、こうしたサードパーティのビジネスを加速する。総数ではAndroidデバイス用のアクセサリの方が多いかもしれないが、機種を選ぶということを考えると、選択の余地という点で、Appleデバイスの方が選択肢は多い。

 こうした光景を見ていると、かつて、日本のPC業界を牽引していたPC-9800シリーズを思い出す。まるでデジャブのようだ。

 1つのハードで豊富なアクセサリを選ぶのか、バリエーションに富んだハードで限られたアクセサリを選ぶのか。どちらもアリなんだと思う。技術者が1gでも軽くしようと努力した結果、少しでもおしゃれにしようとデザイナーががんばった結果。別のベクトルがそれらを台無しにもする。その台無しがパーソナライズということなのだろう。