山田祥平のRe:config.sys

クラウドが支援するATOK 2011のデバイス間連携




 「一太郎2011創」が発表された。2011年2月の発売に向けて開発が続いているという。これ以上やることがあったのかと、新製品には、大なり小なり毎年驚かされているのだが、今年はどうだろうか。今回は、その中枢ともいえる日本語入力システムATOK 2011について、そのクラウド連携に関して見ていくことにしよう。

●同期対象が拡充されたATOK Sync

 日本語入力システムが賢くなり、買ってきたままの状態でも、それほど不満を感じることなく使えるようになったため、以前ほど、自分の入力による学習結果などを気にすることはなくなった。昔は単語登録もせっせとしていたのだが、今や、それもしなくなった。まさに生臭だ。

 というのも、何台ものPCにATOKを入れ、さらに、Android端末からiPadなどでもATOKを使っていて、個々の学習状態はてんでばらばらだが、あまり不満を感じないほど、初期状態のATOKは賢くなったからだ。日本語入力システムもずいぶん成熟したのだなあと実感する。

 それでも、異なるデバイスでの日本語入力の学習状態が、自動的にシンクロするとしたら大歓迎だ。辞書ファイルのコピーを手動で行なう自炊の時代を考えれば夢のような話である。

 今回のATOKは、ついに「ATOK Sync アドバンス」を実装、異なるデバイスのATOKが同期できるようになったのだ。従来も、ATOK Syncはサービスとして提供されていたのだが、そこで同期できるのは、ユーザーが自ら登録した登録単語とお気に入り文書だけだった。なにしろ、ぼく自身は、自分では単語を登録しないという怠け者なので、このサービスの恩恵を受けることができなかったのだ。

 新しい「ATOK Sync アドバンス」では、従来の同期対象に加え、変換辞書の学習情報、確定履歴、環境設定状況なども同期できるようになるという。残念ながら、ベータ版ではこの機能がまだ実装されていないため、実際に試すことができないのだが、今回のATOKでもっとも楽しみにしている機能だ。

 今や、ブラウザの検索ボックスに入れたキーワードでさえ、異なるデバイスから履歴として参照できる時代だ。たとえば、Googleにログインした状態でのウェブブラウズの履歴は、複数のデバイスで簡単に参照できる。いつもとは異なるPCやその他のデバイスで検索しようとしたときに簡単にサイトが見つかるので、昨日見たあのページを、異なる環境で見たいといった場合に実に便利だ。

 文字の入力は、さまざまなデバイスを使って行なうため、それらの履歴がデバイスごとに引き継がれることは、文章の入力能率に大きく貢献してくれるはずだ。スタート時にはATOK 2011 for Windows間でのシンクに限定されるそうだが、将来的には、スマートフォンなどにも拡げてほしいと思う。

●サイトを巡回して自動的に推測変換候補を学習

 ぼくの場合、もっとも多くの文字を入力するのが、自室のデスクトップPCで、メシのタネとしての原稿の多くはここで書いている。その一方で、毎日持ち歩いているノートPCを使い、出先で原稿を書くこともある。また、メールに関しても同様だ。それぞれのデバイスで入力履歴を共有することができれば、推測変換がきわめて有効に働くようになるだろう。

 ATOKの従来の推測変換は、読みの入力後、Tabキーの打鍵で呼び出されていた。つまり、明示的にユーザーが推測を指示しなければならなかった。新しいATOKでもそれは同様だ。ただ、候補一覧の末尾に0番候補として推測候補が表示される。さらに、繰り返し0を打鍵することで、候補一覧を訂正候補、スペルチェック、日付形式、連想変換、カタカナ・漢字、辞書検索など、別カテゴリの一覧に切り替えられるのだ。

 推測変換の確定履歴は同期の対象となるので、任意のPCでの履歴がすべてのPCに反映されるのはとてもうれしい。

 さらに、推測変換の候補には定期学習結果も含まれる。これは、指定しておいたRSSフィードを定期的に調べ、そこに登場した単語を推測候補として表示するというものだ。PC WatchのRSSを指定すれば、見出しレベルで使われる単語は推測候補として含まれるようになる。PC WatchのRSSは見出しのみの配信だが、本文が含まれるフィードであれば、より多くの単語が学習されていくことになる。

 デフォルトでは、単語が3カ月間未使用だった場合は削除するようになっているが、削除はしないようにすることもできる。この機能を、もっとも長い時間インターネットに接続されているPCで稼働させておけば、他のデバイスはそこで同期された推測変換候補を使うことができる。自分がよく読むサイト、すなわち、興味のある分野で使われる単語が自動的に学習され、それがデバイス間で同期されていくというのは、まさにクラウド時代の日本語入力にふさわしい機能だと思う。

 おりしもATOKは、つい先日、Android用のトライアルが公開されたばかりだ。iOS用のATOKに引き続き、スマートフォンでもATOKが使える環境が整った。スマートフォンのような文字入力の不便な環境でこそ、自分自身の確定履歴を参照できれば、どんなに便利だろうか。最近のユーザーには、まともなキーボードよりもフリック入力や携帯入力の方が高速に入力できるという強者もいるそうだが、ぼく自身は、とてもそのレベルにない。だからこそ、早期の対応を望みたい。

●クラウドあってこそのデバイス

 自分が入力した文章の履歴などという、超個人情報を、果たしてクラウドに預けていいのかどうかというような議論も出てくるかもしれない。たとえば、住所、氏名、電話番号といった一連の文字列も確定履歴なのだ。これはもう、ジャストシステムという会社を信じるしかないわけで、Googleを信じなければ、クラウドが著しく不便になるのと同様に、得られるはずの便宜が得られなくなってしまう。もちろん、あえて便宜を得ないという選択肢もありだ。

 ぼく個人としては、クラウドを介したデバイス間連携は、今以上に充実してほしいと願っている。今は、Twitterひとつとっても、いろんなデバイスで読み書きするわけで、それぞれのデバイスがTwitterの既読位置を、きちんと同期してくれたら、どんなに便利かと思う。残念ながら、デバイスが異なれば、同じアプリであっても、それが行なわれていないのが現状だ。もし、そうしたTwitterクライアントをご存じなら、ぜひ、お知らせいただけないだろうか。

 いずれにしても、身の回りのデバイスは、もはやクラウド抜きには機能しないといってもいいほどクラウドに依存するようになった。次に必要なのは、それらのデバイスがいつでもどこでもクラウドと連携しあえる物理的な手段の確保だ。通信事業者は、こういう時代のニーズをもう少し真剣に考えてほしいと思う。少なくとも、他デバイスからの接続を拒むような通信機器は通信機として失格だ。