山田祥平のRe:config.sys

ホーダイ神話、ふたたび

 LINEが千葉・舞浜のイベント会場でLINE CONFERENCE TOKYO 2016を開催、その場において、この夏にMVNO事業に参入することを表明、LINE MOBILEサービスを開始することを明らかにした。そして、そのキーワードはUNLIMITED。つまり「放題」である。今回は、その背景について考えてみる。

LINEがMVNO事業に参入

 LINE CONFERENCE TOKYO 2016では、LINEのミッションとして、人と人の距離を縮めることが強調された。LINE CEOの出澤剛氏は「スマートフォンはパソコンと違って検索ではなくコミュニケーションオリエンテッド。だからこそ、人間中心に設計し直す必要がある」とし、コミュニケーションプラットフォームとしてのSMART PORTAL戦略を打ち出すことを表明した。」

 カンファレンスでは、ブラウンの妹にあたるという新キャラクター「チョコ」のデビューや、アニメーション風にダイナミックに動くスタンプ「ポップアップスタンプ」の導入などが発表されたのに加え、JCBとのパートナーシップによるプリペイドカードLINE Pay Cardの提供や、プラットフォームのオープン化による各社ウェブサービスとの連携戦略などが明らかになった。

 2011年の東日本大震災を機に企画され、その3カ月後にサービスインしたLINEは、震災同様今年で5周年を迎える。そして、そのカンファレンスの最後の最後で発表されたのが、MVNO事業への参入案件だった。

 その名も「LINE MOBILE」。月額500円〜の料金設定で契約できるMVNO事業だという。いわばワンコインMVNOだが、ただそれだけではない。

 その最たる特徴は、「UNLIMITED LINE」で、LINEのサービス利用についてはパケット料金無課金となる。つまり、LINE使い放題のプランだ。テキストメッセージや画像のみならず、音声や動画メッセージなども含まれる。

 それに加えて、LINEはTwitterとFacebookとパートナーシップを結び、これらのサービス利用も使い放題とする「UNLIMITED COMMUNICATION」も提供される。さすがにこちらは基本料金には含まれずオプション扱いとなるようだ。LINEでは、自サービスに加え、この2つのサービスが加われば日本人のコミュニケーションはほぼ網羅できるとしている。

 発表の場にはTwitterの味澤将宏氏(Director, East Asia Business Development)がゲストとして登壇、LINEの発表会の場にまさか登壇するとは思わなかったと苦笑しながら、新サービスの登場に喜びの言葉を贈った。

 さらに、LINE MOBILEでは、「UNLIMITED MUSIC」もオプションとして提供され、少なくともLINE MUSICのトラフィックもノーカウントで提供される予定だ。こちらは現在、パートナーとの最終調整に入っているとのことで、夏以降とされているサービス開始時には対象サービスが増えている可能性もある。

 つまり、LINE MOBILEは、

・500円〜の基本料金でLINEが使い放題
・オプションでTwitterとFacebookの主なサービスが使い放題
・オプションでLINE MUSICが使い放題(場合によっては他音楽サービスも)

と、従量制が当たり前のMVNOサービスに、再び「放題」を持ち込んだ。これなら「放題」枠内ですべてを完結するユーザーが出てきても不思議ではない。LINEでは、今、約半数がスマートフォンを使うようになった日本の状況の中で、残りの半分のガラケーユーザーのスマートフォンへの移行を促したいともしている。

先行するFREETELは懸念を払拭する展開へ

 LINEが使い放題というと、つい先日、同種のサービス提供開始を発表したプラスワン・マーケティングのFREETELのことを思いつく。LINEなどのメッセージングサービスの利用をノーカウントにするというもので、こちらは提携などではなく勝手サービスとして提供される。

 それについては、この連載でも取り上げた。内容的には、手放しで喜ぶのもいいが、自分の通信内容を事業者に把握されるということの意味を、少し重く受け止めた方がいいという論調で警鐘を鳴らしたつもりだった。

 今回のLINEのサービス内容についても、同様の懸念はある。

 LINE MOBILE側としては、LINE利用パケットが無料であることを分かって回線契約するはずなので、それでオプトインしたものとみなす。そのほかの放題サービスについても契約時に了承があったと考えていいと判断しているそうだ。また、個人情報保護の観点からは、このサービスのために得た情報に関しては、社内利用以外の用途では使わないとしている。

 プラスワン・マーケティングからも同社のPR代理店を通して当該コラムについてのコメントがあった。先方の許可を得たので同社の見解をそのまま引用しておこう。

 「ご指摘いただいた件、当社ではあくまで課金・非課金の対象となるデータ通信履歴の取得にすぎず、正当業務行為に該当すると理解しておりますが、ご指摘及び電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインを踏まえ、対処させて頂きます。

 具体的には、まずユーザー様よりご希望を頂いた場合には、対象アプリの利用に関する通信履歴を記録・保存しない措置をとり、その旨サイト上などで明記します。

 また追ってお申込み時及びMyPage上でお客様が選択できる仕組みを導入してまいります」。

ということだ。

 近日中に、同社からエンドユーザーに対して正式なアナウンスがされる予定なので、それまでは公にしないで欲しいという要望だったが、PR代理店のミスで一部のメディアにおいてこのことが報道されてしまったため、改めて許可をもらってここに掲載した。指摘した懸念に対して、きちんと対処する準備があるようで、とりあえず一安心だ。

将来の日本に影響はないか

 相次いで、こうしたサービスが出てきたわけだが、個人的な気持ちとしては、ついにOTTに近い事業者がMVNOサービスに参入したことに、やはりちょっとした懸念を感じざるを得ない。

 例えばGoogle、Apple、Amazon、Microsoftといった事業者がMVNO事業に参入し、同様のサービスを始めたらどうなるのか。あるいは、LINE MOBILEが日本のアマゾン用放題オプションを用意するといったことが起こればどうなるのか。楽天オプションならどうなるのか。Yahooオプションはないのだろうかと妄想に近いことを考えてしまう。

 また、その先には、ドコモがキャリアフリーのdサービスを提供しているのとどこが違うんだという論調もあるだろう。もし、ドコモがdサービスのトラフィックに関して、ドコモユーザーは無料といった方針を打ち出すようなことがあれば……。

 現在、ドコモはdマーケットにおいて、6種類の定額制サービスを提供していて、その契約は既に1,500万人を突破しているという。もし、ドコモがそれらのトラフィックを無料にするなら、こぞってMNPする動きが出てきてもおかしくない。そしてそれは、キャリアのシェア構造に少なからず影響を与えることになるだろう。

 かつて携帯電話のかけ放題サービスが家族間のみだったものが、同一キャリア内になり、ついにはキャリアを問わないものになっていったのと、ベクトルは逆方向だ。

 また、インターネットは世界中に散在するサービスを等しく平等に参照できる中立性の高いサービスとしてコマーシャルベースに乗ってきたわけだが、その原則にもちょっとした影響を与えることになるだろう。

 ユーザーによっては、LINEから一歩も出ずにスマートフォンを使う層も出てくるだろう。巷にはLINEアプリをスマホのシェルにするライフハックも流通するかもしれない。ウェブへのリンクがあっても、それをクリックするとコストが発生するから絶対にクリックしない。メールも読まないといった具合だ。

 大人はそれでもいいかもしれないが、若年層からは、得ることになるはずだった知識や興味を得るチャンスを奪ってしまう可能性はないだろうか。そして、それが将来の健全な日本の未来につながるのかどうか。

 端末と通信サービスの分離の動きは、世の中の状況にある程度の影響を与えた。その結果がMVNOサービスの台頭だ。そしてそこでは、こうして通信サービスとコミュニケーションサービスの融合が起こりつつある。この新たな競争についていけないMVNOも出てくるかもしれない。

 目先のコスト感覚でそれを許した社会が将来後悔することはないのだろうか。

 これは日本の文化にかかわるテーマでもある。手放しで価格破壊を喜ぶだけではなく、その影響を真剣に議論した方がよさそうだ。

(山田 祥平)