山田祥平のRe:config.sys

よいマウス、普通のマウス、悪いマウス

 ロジクールの新型ワイヤレスマウス MX Masterが発売された。同社のハイエンドマウスとしてはパフォーマンスマウスM950tの後継で、実に6年ぶりの刷新だ。今回は、それをしばらく使ってみてのインプレッションをお届けしたい。

慣れたくなるマウス

 誤解を怖れずに最初に書いておくと、このマウスは慣れるのに時間がかかる。この原稿を書いている時点で、使い始めて1週間になるが、まだぎこちない。というのも戻るボタンの位置に違和感があるのだ。

 ぼくは右手でマウスを使うが、MX Masterに自然に手のひらをかぶせると、親指は側面のサムホイールの位置にくる。その親指でこのホイールを回転させるのはたやすい。このホイールは、クリック感のないもので、デフォルトでは水平スクロールが割り当てられている。

 違和感を感じるのは、その後方、つまり、マウスを握る側から見て手前に「進む」ボタンと「戻る」ボタンが装備されているのだが、これらのボタンが押しにくい。先代のM950tも同様の問題を抱えていた。どうやらロジクールにとって、戻る操作は特別な意識を持つものだといわんばかりだ。だが、M950tには戻ると進むがボタンが並んだその下部にZoomボタンがあって、それが手をかぶせたときに親指で押すのにちょうどいい位置だったので、これに「戻る」を割り当てて6年間使い続けてきた。

 でも、ほぼ同じ位置にあるMX Masterのサムホイールはボタンではないためこの作戦は使えない。ホイールの回転操作に進む、戻るを割り当ててもいいのだが、それでは戻りすぎたり、進みすぎたりすることを考えると、これまたストレスになってしまう。

 M950tとMX Masterを並べて見ると、ボタンの位置関係がそんなに大きく違っているわけではないことが分かる。進むと戻るのボタンが二段重ねのような実装になったため、本当だったらよっこらしょと、親指を前方に意識的にずらさないと押せなかった進むボタンも押しやすくなるはずだ。ところが二段重ねになったことで、あまり深く考えずに押せていた戻るボタンが、指先で狙いを定めて押さなければならなくなってしまった。そこにストレスを感じるのだ。これは慣れるしかないのだと思う。

 ぼくはかなり「戻る」ボタンを多用する。ブラウザでリンクをクリックしてページ遷移をしたあとに元のページに戻ったり、エクスプローラでフォルダ内のサブフォルダに降りて、また元のフォルダに戻るためなど、日常的にかなりよく使う。だから、本当に小さなストレスなのだが、ここを克服しないと、PCを使う際のボトルネックにもなりかねない。

 3日目くらいにちょっとしたことに気がついた。今までは、過去のクセで戻るボタンを親指の脇腹で押そうとしてきたが、この考えを改めて、親指の第一関節内側あたりでボタンを跳ね上げるように操作するようにしてみた。これなら狙いを定めなくてもちゃんと戻ることができる。このあたりの操作感をああでもない、こうでもないと試しながら、とにかく早く慣れようと試行錯誤を繰り返している。

PCとの対話が長ければ長いほどマウス選びは慎重に

 すごく細かいことではある。でも、(仕事にせよ、遊びにせよ)握っている時間があまりにも長いために、そのほんの細かい事をいろいろな工夫で解決しないことには始まらない。ほぼノーマルな形状のマウスで、こうしたことを感じたことはあまりなかったので、ちょっと面食らってはいる。でも、その工夫をしたいと思わせるだけの魅力がこのマウスにはある。

 まず、手をかぶせてマウスを前後左右に動かそうとするわけだが、ボディのどこにも重心が感じられず、そのサイズ感が隠蔽されてしまう。それによって、まるで手のひらの延長のようにマウスが動かせるのだ。接地面との滑りもよく感じられ、摩擦係数が大きく軽減されているようにも感じる。間違いなく手首への負担は軽減されている。懸念だったのは、日本人にはなじみ深い畳の上での利用だが、多くのマウスを触ってきて完璧なものとはまだ出会ったことがないが、このマウスはまあ合格ラインにあると言える。

 添付されるレシーバは、いわゆるNanoサイズのものだ。ロジクールのマウスで使われているUnifyingレシーバーは、それより一回り小さなPicoレシーバーがあり、M545などに付属しているので、その同梱を期待したが、実際にはNanoレシーバーだった。でも、そんなことは大きな問題ではない。なんといっても、このマウス、3つの機器とのペアリング設定を記憶し、それをボタンで切り替えることができるからだ。

 相手の機器はUnifyingレシーバ(付属のものに限らない)またはBluetooth LE対応機となる。最新のPCでは問題がないが、ちょっと古めの機器ではBluetooth LEに非対応のものもあるので注意が必要だ。Bluetooth LEは、省電力通信の規格でBluetooth3.0以前とは互換性がないが、一般的な機器は双方に互換性を持つように実装されている。

 このマウスを1つ、カバンの中に入れっぱなしにしておき、その日の用事に応じて持ち出すPCが異なるというパターンに便利だ。でもそんな使い方はNanoなりPicoなりのレシーバーと一緒にしておけば済む話だ。

 でも、このマウスなら最も長い時間使うことになるデスクで日常的に使い、出かけるときに、マウス本体とノートPCを一緒に持ち出すといったことができる。レシーバはデスクのPCに装着したままでいい。出かけた先で、マウス底面のボタンを使って接続先を切り替えるだけで、モバイルノートPCにBluetooth LE接続して使うことができるのだ。

 Bluetoothマウスは、ペアリングし直すだけで他の機器と繋がるのだが、さて使おうというときにその作業をするのは面倒だ。それに、Bluetoothマウスはなぜかモバイル指向の強いものが多く、MX Masterのように、しっかりとした製品でBluetooth対応のものは意外に見つけるのが難しい。

MXの原点に回帰

 ホイールを回転させる速度によってスルスルとクリクリがオートで切り替わるクラッチ付きのマウスは2006年のMX Revolutionが最初だった。だが、その2年後の後継機MX-1100以降は、この機能が簡略化され手動でボタンを押して切り替える仕様になった。二度とクラッチ付きだなどという贅沢なマウスは出せないだろうと当時のロジクール関係者が言っていたのを思い出すが、その言葉通り、2008年から7年近く、自動クラッチつきのマウスが登場することはなかった。

 その自動クラッチをサポートしたのが今回のMX Masterであり、原点に立ち戻ったとも言える。MX Revolutionでは、アプリに応じてクリクリとスルスルが自動的に切り替わるといった機能も装備されていたが、今回のMX Masterではその機能は割愛されているようだ。

 さらにロジクールのマウス製品は、これまでSetpointと呼ばれるユーティリティで各種の設定をするようになっていた。だが、MX MasterではLogicool Optionsという新しいユーティリティが提供されるようになり、これを使って設定をする。Setpointとの共存は可能だが、SetPointからはMX Masterは認識されず、Logicool Masterからは従来のマウスは認識されない。

 Logicool Optionsは、おそらく、Unifyingレシーバー接続とBluetooth LE接続の双方をサポートするために用意されたのだろう。MX Masterは、このユーティリティを使って各種設定や、ボタンへの機能の割り当てをする。

 親指を降ろしたマウスのフロア部分にある隠しボタンは「ジェスチャーボタン」と呼ばれ、単にボタンとして各種の機能を割り当てられる以外に、このボタンを押しながら、マウスを前後左右に動かすジェスチャーで、さまざまな機能を実現できる。つまり、このボタンを装飾ボタンとして、前後左右に望みの機能を割り当てられるのだ。

 この機能をうまく使って、Windows 10の仮想デスクトップを使いやすいようにできないかと色々ろなことを画策しているのだが、なかなかベストの解が見つからない。ジェスチャーボタンを押しながらマウスを左右に振ってデスクトップの切り替えができるようにしたり、サムホイールも組み合わせて面白い使い方を考えたいのだが、どうも、Windows 10ではタスクビューの仕様がこれまでと変わるようで、今ひとつ動作がぎこちない。ジェスチャーキーを押しながらサムホイールを回転させたいところだが、それには親指の数が足りない。このあたりは、Windows 10の最終仕様が確定したところで、このユーティリティもバージョンアップされるだろうし、そのうち良い方法を見つけられると思う。その日を楽しみに、今は、指に変な動きを学習させないように、今のところはこれらのボタンはないものとして使っている。

 マウスの父、故・ダグラス・エンゲルバート氏(Douglas Carl Engelbart, 1925〜2013)の「自然なものなど存在しない。ただ慣れ親しんでいるだけ」という言葉は重い。でも、慣れたくなるか、慣れる気になれないかには、色々な要素が絡み合う。MX Masterのそれは前者だ。間違いなく良いマウスだ。ただ、他のマウスとの併用は難しいかもしれない。

(山田 祥平)